2019年3月 8日
#626 加藤 広人 『痛いプレー、泥臭いプレーを何回も何回も繰り返す』
大人しさの中にも芯の強さが感じられる加藤広人選手。初めてのことばかりだった1年を振り返って、これからの目標をどこに置いているのか、オフのクラブハウスでゆっくりと話を訊きました。(取材日:2019年2月上旬)
◆強みはワークレートの高さ
――新人として1シーズン終わってどうですか?
挑戦的な部分もありましたし、苦労した部分もありましたし、なかなか上手くいかない部分が多いシーズンでした。チームとしても、個人としても、上手くいかないことが多いシーズンだったと思います。
――個人として上手くいかなかったところは?
新人4人に共通していることなんですが、大学時代は低学年の頃から試合に出ることが当たり前のような選手でした。そしてトップ選手が集まる環境に飛び込んできてみると、実際にあまり試合に出られない時期が続きました。社会人として仕事も始まっていろいろと上手くいかない部分が多くて、そういう意味で苦労したのかなと思います。
――ラグビー人生の中で、試合に出られないという初めて経験はどんなものでしたか?
自分に力が足りないのは分かっていましたし、改めて現実を突き付けられ、自分はまだまだ足りないし、レベルが低いということを実感しました。
――足りないのはどの部分でしたか?
ラグビー理解度の部分も、フィジカルの部分も、技術の部分もそうです。試合に出ているメンバーと比較すると、逆に自分が勝っている部分はどこなんだろう?と考えるくらい、全体的に劣っています。
――勝っている部分はありましたか?
そこをいろいろ模索しながら1年間過ごしてきて、自分自身の強みはワークレートの高さで、そこは自信を持って言えるということが分かったので、しっかりそこを強みにして、その中でもさらに質を上げていきたいと思っています。
――ワークレートを強みにしたプレーとは、具体的にどういうプレーですか?
タックルもそうですし、サポートもそうですし、俗に言う"痛いプレー"、そして"泥臭いプレー"を、何回も何回も繰り返していけるのが僕の強みです。そこが今はただ回数が多いだけの状態なので、試合に出ているメンバーと変わらない又はそれ以上まで質をしっかりと上げて、高いワークレートを出したいと思っています。
◆自分にベクトルを向けて日々挑戦する
――新人4人の中ではなかなか試合に出られなかった方でしたが、同期へ意識は?
入る前から僕以外の3人が能力的に高いことは分かっていましたし、その中で僕が劣っているのも分かっているつもりでしたが、やっぱりもどかしいというか悔しいというか、いろいろな感情がありました。最初の方は気持ち的にも下がっていた部分はあったんですが、途中で「そこで下がっていても意味がないし、自分が今できることをしっかり100%やりきって、自分にベクトルを向けて日々挑戦することが大事だ」と改めて気づけたので、そういう意味では良い刺激を貰えたなと思っています。
――そこへたどり着くまで時間がかかりましたか?
そうですね。1人で悩んでいた時期もあって、自分の感覚的には時間がかかったかなと思います。
――それによって改めて自分の負けず嫌いを感じましたか?
そうですね。やっぱり同期が出ていることやチームが試合に勝つことは嬉しい反面、自分だったらこうできた、自分だったらどうなっていたんだろうと考えてしまうので、なんだかんだで負けず嫌いなのかなと思いました。
――悔しい想いをしつつシーズンが後半になるにつれて試合に出るチャンスが出てきましたが、出る時はどんな気持ちでグラウンドに入りましたか?
試合のメンバーに入った時はいろいろな気持ちがありましたが、実際に試合に出た時にはそれを考える余裕もありませんでした。ただ自分の今やれることをやりきろう、ということしか考えていなかったです。
――実際にトップリーグに出た手応えはどうでしたか?
練習でできていることが全てなので、練習でできていないことはできないですし、練習でできていることはできる、ということを改めて感じました。公式戦の観客やスタンド等、特殊なところでどれだけ普段通りのパフォーマンスが出せるかが、どれだけ難しいかを改めて実感しました。
――そうすると普段通りの力が出せなかったということですか?
自分の中ではやっていたつもりだったんですが、改めてビデオで見たら「もうちょっとこうできたな」と思う部分はありました。
――試合に出場するにつれてトップリーグに慣れてきたり、自信が持てたりしたことはありましたか?
一定の慣れというかチームの戦略が浸透してくると、「自分だったらこうする」という独自の考えが出てきます。サンゴリアスについてはそこが0からのスタートだったので、慣れるのにとても時間がかかってしまったのかなと思います。
◆できることは少しずつ増えている
――先程仕事の話がありましたが、会社で働くという初めてのことの、どこが大変でしたか?
サントリーでのラグビーも初めてのことばかりで、仕事の方でも初めてのことばかりで、一度にたくさんの情報が入りすぎて何が何だか分からなくなったり、これで合っているのか不安になったり、いろいろな感情がありました。
――それはどのように乗り越えましたか?
メモをノートに取ることと、合っていても合っていなくても分からなかったら、とりあえず先輩に聞いて徹底的に自信をつけるようにしました。
――自信はつきましたか?
まだ分からないことはいっぱいあります。でも、自分でできることは少しずつ増えていると思います。
――仕事の理解度とラグビーの理解度だったら、今はどちらの方が高いですか?
どっこいどっこいですね(笑)。どちらかと言うとラグビーです。
――その中でも仕事で面白いと思ったところはどこですか?
自分が得意先に提案したことが通って、それが実現できた時が面白いと思いました。
――ラグビーでここは面白いと思ったところはどこですか?
やったらやるだけ成果が出てくるので、毎日を100%でやって、映像をしっかり見て自分なりにレビューをすることは当たり前と言えば当たり前なんですけど、それを徹底してこれまで以上にラグビーに割く時間を増やしたら、結果も出てきて試合でも自信を持ってプレーできるようになりました。今まではあやふやで「これで良いのかな」という気持ちで自信がないままやっていて、あまり思い切ったプレーができていなかったのですが、そういう部分では少し良くなったのかなと思います。
――今はラグビーの面での不安感はなくなってきていますか?
そうですね。でも試合前は緊張します。まだ上手くいかなかい時のイメージが多くあるので、入念に確認するようにしています。メモを見て、ノートを見返して、先輩にも聞いて、徹底的にやっています。
――ということは1年目としてやれることは100%やったという感じですか?
まだまだ足りない部分もあったと思いますし、結果論ですけど、試合に出られない時の方が多かったので、まだまだやれることはたくさんあったんだと思います。やっていたけど、その内容が良くなかったのかな、もっと改善できるところがあったのかなと思います。
◆体を大きくしたい
――そういうことも含めて改めて課題は何ですか?シーズンオフはどんなことをテーマにトレーニングしていますか?
まだ新シーズンまで時間が結構あるので、今は仕事で遅くなることもあったり、普段会えない友達から連絡をもらって会ったりしています。今はどちらかと言うと「時間があったらクラブハウスに行こう」という感じにしていて、トレーニングする時は「こういうことがしたいな」と漠然としたイメージの中でやっています。これから徐々にシーズンが近づいてくるので、もっと具体的にトレーニングしていこうと思っています。
――そこのトレーニングのテーマは?
まだぼんやりしているんですけど、今の時期はシーズンと違って走る量は少ないので、少し体を大きくしたいと思っています。その中でいきなり体重を増やし過ぎると走れなくなるので、少しずつバイクやウエイトトレーニングをして、体を慣らしながら大きくしたいと思っています。
――「こういうプレーがしたい」という理想のイメージは?
流れを変えられるようなプレー。そう思っていたんですが、僕の持ち味としてはそういうタイプではないので、今はどこにいても、どの状況でも、プレーに参加しているというプレーを目指します。タックルもそうですし、サポートもそうですし、ずっと動き続けたいです。
――前回のインタビューではお母さんの話が印象的でしたが、お母さんは出場した試合を見に来られましたか?
デビュー戦(第7節日野戦)に来てくれました。本当は来る予定ではなかったんですが、「来てほしい」と言ったら、予定を変えて応援に来てくれました。感想は「良かったね」くらいでしたけどね。その後も地元・秋田でのカップ戦を見に来てくれました。あとそれより前に6月のブランビーズ戦も来てくれていました。
――息子から見ると喜んでいる感じでしたか?
そうですね。結構親バカだと思うので、僕もそうですし兄弟にも少しでも良いことがあると、とても喜びます。
――ラグビーには大人しくない人がたくさんいて、そういう中での大人しさを売り物にしていくのか、変えていくのか、今のところどちらですか?
ラグビー中では大人しすぎたり優しすぎたりすると、いけるところもいけないということがあると思います。それがコミュニケーションの部分やプレーの激しさに直結してくるので、ラグビー中はもっとうるさくいきたいと思っています。ずっと"コミュニケーション"の部分を指摘されているんですが、普段からあまり喋らない方なので、それがプレーにも出てしまっていて、「全然喋れていない」とよく言われます。
――そこはどうするんですか?
自分なりに「発信しているつもり」では意味がなくて、伝わっていなければ意味がないと改めて分かったので、どう伝えられるのかしっかり自分で考えながら、顔や体の向きを意識していければと思っています。
そしてコミュニケーションをとるためにも、ラグビーの理解度は絶対に必要になってくるので、僕自身はまだまだそこの部分も足りていないので、もっとラグビーを見て勉強したいと思います。
◆ラグビーの理解度とコミュニケーション
――今年ワールドカップイヤーですが、改めて今の目標は?
今年はトップリーグがありませんが、カップ戦で絶対にチャンスが巡ってくると思っているので、代表がいない中でしっかりとアピールをして、信頼を勝ち取りたいと思います。
――自分が思い描いている理想のラグビー選手という観点からすると、いまはどのあたりまで来ていますか?
足元にも及ばないです。
――具体的にはどんなイメージですか?
試合に出られていないので、しっかり試合に出続けて自信をつけるところ、結果を出していくところからスタートするのかなと思います。出続けるために至らない部分が多くて、その中でもラグビーの理解度とコミュニケーションのところを大事にしたいと思います。
――そのベースができたら次は何ですか?
フィジカルとワークレートの質です。
――2年目、ファンの方に期待してほしいところは?
プレーに派手さはないので、見ていてもあまり伝わらないところが多いと思いますが、まずはフィールドに立ちたいと思っています。そのために毎日の練習を自分なりにしっかりとやりきって、グラウンドに立っている姿を見せることができたらと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]