2019年3月 1日
#625 村田 大志 『心からチャレンジする』
徐々にベテランの域に入って来た村田大志選手。本人もそれを自覚し、次の選手たちに伝えるべきものをいろいろと考えているようです。もちろん、まだまだレギュラーとしてのチャレンジもある中、ワールドカップイヤーに臨む今の気持ちを訊きました。(取材日:2019年1月下旬)
◆チャレンジャーに戻った
――シーズンオフになりましたが、リラックスしていそうですね
だいぶリラックスしています(笑)。でも、もちろん勝てなかったということは忘れていませんが、またチャレンジャーに戻ったので、次のシーズンが楽しみだなという想いの方が強くなってきています。
――チャレンジされる側の2年間、3連覇が一番難しいと言われていますが、実感としてはどうですか?
3連覇とかではなく勝てば勝つほど、勝つのは難しくなるし、単純に1つの要素だけで難しくなっている訳ではないと思います。でも、やっぱり今までの2回の優勝の時よりは、明らかに難しかったですね。
――難しいというのは苦しさに繋がるんですか?
上手くいっていないという感覚が続くと、やっぱりチームの雰囲気も少しどんよりしますし、なんとなく苦しい感じはあります。
――いま思い返して、やってみてこうやったらもっと良かった、苦しさを打破できた、という思いはありますか?
みんな全力で頑張っていたし努力が足りなかったというような問題ではないんですけど、怪我人が少なかったらとか、チーム作りを春からみんなでできたら、といういっぱい「たられば」の要素はあります。けど、強くになるにつれて代表の選手も増えますし、怪我が多い年もありますし、自分自身のコンディションが整わない年もあります。もちろんモチベーションの問題もありますし、2018-2019シーズンに関して言えば勝つのは難しかったんじゃないかと思います。神戸製鋼がいろんな面でプラスに働いて、あのような強いチームが出来上がって、そういう勢いのある本当にハングリーにやっているチームに、サントリーが3連覇を目指すだけのモチベーションでは届かなかったということですかね。
――来シーズンはチャレンジャーになったことで、また思いも違うんですか?
チャレンジャーになりましたが、来シーズンに関して言えば、カップ戦はありますけど、チャレンジする場所がありません。でも、サントリー全体を見れば2018-2019シーズンのカップ戦で新しい選手たちが少し自信をつけたと思いますし、そういう選手がもう一度カップ戦に向けて自分を表現する場と考えればとても良いと思います。サントリーは代表候補が多いので、そういう意味で残った選手のレベルアップがとても大事です。新しい選手にとってはチャンスの多い1年になると思いますけど、2019年はトップリーグがないのでその辺のモチベーションをどうしていくかは、まだ分からないですね。
◆サンゴリアスを繋げていきたい
――今の話を聞いていると、チーム全体を見渡す目が年ごとに広がってきている、強くなってきているように感じますが、自分ではどうですか?
さすがに入社した当時と一緒の目線でやっていたら「お前なにしているんだよ」と言われます(笑)。どちらかと言うと、次に繋ぐ世代になっていると思っているので、良い形で次の世代にサントリーサンゴリアスを繋げていきたいと思いますし、そのためにどうしたら良いか、そのためにチームに何ができるか、ということはいつも考えています。
――一番繋ぐべきものは何ですか?
チームスピリットはたぶん今後も変わらないし、それを本当に体現するためには全員でハードワークすることが必要です。今はしっかりその文化はあるので、それだけをベースの部分として続けていけば、ある程度強いチームで在り続けられるのかなと思います。仲間に対しても自分に対しても甘いチームは、強い時はあってもきっといつか弱くなると思います。勝つことよりも勝ち続けることの方が難しいですし、そういう意味でサントリーが一度9位になりましたけど強いチームで在り続けているのは、その文化があるからだと本当に思います。
――そのスピリットや文化のベースは?
アグレッシブアタッキングラグビーと、会社の「やってみなはれ」です。どちらもチャレンジ精神の表れだと思います。サントリーは守りに入ったら弱いですから、チャレンジしている時はみんながいきいきしているし、ゲームに対して前のめりになっている時の方が、ゲームを見ていても雰囲気が違うし良いプレーをしています。カップ戦の若いメンバーもそうだったんではないですかね。チャレンジ精神やハングリー精神に溢れていたし、あれを見て「俺らがこういうゲームをしなければいけないな」と改めて思いました。
――サントリーは攻撃が最大の防御ということですか?
そうですね。チャレンジすることを恐れないというのは本当に大事だと思います。
――「チャレンジすることを恐れない」の裏側に「失敗することを恐れない」がありますよね
それも裏返しでもちろんあると思います。失敗は100%の準備の中でチャレンジしたものと、とりあえずチャレンジしたものでは全く違うと思うので、サントリーとしてはもちろんしっかりと準備した上でのチャレンジが大前提にあって、その中でのミスは全然問題ないと思います。ただ相手のプレッシャーに負けたとか、何も考えずにとりあえずやってみたとか、そういうチャレンジのミスは許してはいけないかなと思います。
◆もう1回チャレンジ
――来シーズンはターゲットが絞りにくいと思いますが、どういったターゲットになりそうですか?
敬介さん(沢木前監督)は「インターナショナルスタンダード」を掲げて、ワラタスとブランビーズと戦ってブランビーズに勝って、自分たち自身にもスーパーラグビーのチームに対してもチームとして通用するという自信をつけさせてくれました。引き続きインターナショナルスタンダードはやっていくべきだと思います。さっきも言いましたけど、強く在り続けるためには「勝った、負けた」だけで見ていくのではなく、そういう高い目標を掲げ続けないと、モチベーションに差が出てきてしまいます。そうやってどこに基準を置くかは、今後も大事になってくると思います。
――そうすると、全員日本人で臨んだカップ戦の決勝はインターナショナルスタンダードで言えば勝ちたかったですよね
もちろん、そうですね。勝ちたかったんですけど、敬介さんも言っていましたが、「日本人全員でやったから偉い」とかはそういうことは全くないと思いますし、サントリーのチーム方針がただそうだっただけで、外国人選手の有無などは全く関係ありません。本当にサントリーというチーム対トヨタというチームとの対戦で、最後に勝ちきれなかったところが大きかったんじゃないかと思います。全員日本人選手だから負けても仕方ないという気持ちは、やっている選手には全くありませんでした。ただ、サントリーとして優勝したかったというのは強くあります。
――個人として振り返るとどうですか?
身体のコンディショニングが上手くいかなかったです。今までの勝ってきた2年間は春シーズンに自分の体にフォーカスする時間が長かったんですが、2018-2019シーズンは初めて代表やサンウルブズに行かせてもらって、その中で小さな怪我を繰り返しながら疲労も蓄積していて、あまり調子が良くないという気持ちを持ったまま夏秋冬を過ごしました。スッキリとプレーができないというもどかしさがシーズンを通してずっとありました。
――自身がトライを獲ることをあまり意識していないかと思いますが、前年のシーズンは8トライに対して、2018-2019シーズンは2トライ、そういうことにも表れていますか?
もちろんチームの状態が良いから自分がトライしていたというのもあるし、自分の状態が悪かったというのはトライ数に顕著に出ているのかなと正直思います。でも、トライを獲る人はいっぱいいるのでそこはあまり気にしてはいないですけど、シーズン通してトライに繋がる動きは、かなり少なかったと思います。
――そこは反省ですか?
反省と言うか、来シーズンは増やしたいと思います。
――今シーズンで得たものは何ですか?
さっきも言った通り、心からチャレンジすることは大事ですね。口でチャレンジしようと言ってもなかなかみんな体が動かなかったので、本当の意味でチャレンジする姿勢を、自分自身も来シーズンもっと持ってやろうかなと思っています。
――本当の意味でのチャレンジとは?
チームの状況も、もはやチャンピオンではありません。真の意味でのチャレンジャーになったので、チャレンジすることは自ずとできると思うんです。もちろん準備はしっかりとして、グラウンドで本当に自分たちが正しいと思った判断を、みんなでチャレンジすれば良いと思います。
――そうすると課題はチャレンジということですか?
そうですね。来シーズンはもう1回チャレンジですかね。子どもを見ていて、子どもは毎日成長するじゃないですか。僕はこのまま反比例で生きていて良いのかなと、いつも思うんです。昨年30歳という節目を迎えて、なんとなく調子が良くないと、ふと年のせいにしている自分がいて、そんな姿はカッコ悪いし、これをやっていたら簡単に下手くそになるなと感じています。実際にメンテナスしなければいけなくて、仕方のない部分もあったんですけど、マインドのところからもう1回若手に負けずにやろうかなと思っています。
◆日本人が活躍することが大事
――いよいよワールドカップイヤーですが、ワールドカップへ向けての気持ちは?
日本を心から応援しています。
――サンウルブズに呼ばれたということは1つのチャンスではあったということですか?
どうなんですかね。帯同していてチャンスだと感じた瞬間はなかったです。
――ここで最高にラグビーが盛り上がって欲しいですよね
選手ができることはグラウンドでパフォーマンスを出すことだし、結果が全てということを前回大会で証明したんですけど、それ以外の部分ではもっと頑張る人が頑張るべきなんじゃないかとは思います。その辺は僕もよくわからないので、成功してほしいという気持ちは本当に心からありますし、ラグビーをやっている人間として自国でワールドカップが開催されることはとても光栄なことだと思います。その大会を見て子どもたちがラグビーをやりたいと思ってくれれば良いと思いますし、子どもたちがラグビーを始めたいと思うためにも、日本人選手が活躍することは非常に大事だと思います。
――日本代表の実力アップはトップリーグに反映されて、トップリーグの実力アップは日本代表に反映されると思いますが、2015年の前後と比べて今、トップリーグでやっていて日本のラグビーはどうですか?
トップリーグ自体のレベルは、めちゃくちゃ上がっていると思います。来日している外国人選手のレベルも上がっていますし、いろいろなチームに良い選手がいて、ラグビー自体も変わって来ているので、そういう意味でラグビー全体が変わってきていると思います。
――トップリーグが変わってきたというのはどの辺ですか?
コンタクトの強化、この部分は間違いなく上がっていますね。たぶん大学ラグビーのレベルがめちゃくちゃ上がっているので、新人も即戦力として出られています。そういう意味で下からの突き上げは上手くいっているし、大物外国人も増えて、バランス的には良く回っていると思います。
◆軸を持ちながら変化し続ける
――そういうことを含めて、いま改めて感じているラグビーの面白さは?
チームにはスタイルがあって、一般的にみなさんが思っているサントリーのスタイルは「ボールを保持して、パス数が多くて、キックが少ない」という感じではないかなと思います。実際には結構キックを使っているんですけど、キックの蹴り方はしっかり準備をして蹴っています。ラグビーのトレンドに合わせて改良を加えながら、チームとしての軸はぶらさずにやる難しさはもちろんあるんですけど、それが面白いなと思います。一時期のサントリーも、自分たちのスタイルというと「こういうものだ」みたいな感じで、相手にとっても分かりやすくて対策が練りやすかったと思うんですが、沢木さんが来て「軸を持ちながら変化し続けることの大事さ」を植え付けてくれたので、そういう意味でサントリーが今後どう変化していくかが楽しみです。
――そこでの自分の役割は?
変化していく中でもサントリーの軸をぶらさないことが役割だと思います。サントリーが大事にしている部分を、変化する中でみんなが忘れないようにしていきたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]