SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2019年2月15日

#623 尾﨑 晟也 『もっと進化したい』

今回インタビューを始めてすぐ、ある変化に気づきました。入団時のイケイケの雰囲気から、静かな謙虚な姿勢にすっかりと変わった尾﨑晟也選手。姿勢が表わすその成長の内面を訊いてみました。(取材日:2019年1月下旬)

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◆ボールのもらい方

――社会人1年目のシーズン、出来はどうでしたか?

シーズン全体を振り返ると、シーズン初めの方は自分の中で納得のいくプレーは少なかったんですが、敬介さん(沢木監督)が使い続けてくださったというのもあって、終盤にかけては身体のコンディションも良くなって、プレーの質も良くなったと感じたシーズンでした。

――終盤にかけて良くなったというのは社会人として1年間やっていくペースを作れたからですか?

そうですね。ペースもありますし、最初の方はずっとウイングをやっていて、どうボールを貰ったら良いか、サントリーのラグビーで自分がどう一番活きることができるのか模索していました。シーズン前半の方では、ボールの貰い方という部分で上手くいっていないことがありました。例えば第2節のNTTコミュニケーションズ戦は80分出ていてボールタッチが2回だけだったり、あるいは全然ボールが貰えなかったり、あまり納得のいくプレーはできませんでした

シーズンの途中で15番をやらせていただくようになって、ボールを貰う機会が増えていって、徐々にラインに入っていく感覚だったり、ギッツ(マット・ギタウ)の周りで内外でボールを貰ったり、そういう機会が増えてきました。そうしてだんだん自分の感覚が良くなっていって、シーズン最後の方はウイングとしてもボールを多く貰えました。

――フルバックをやったことがウイングでの課題の解決にもなったということですか?

そうですね。僕自身はそう感じました。

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――どこが違ったんですか?

フルバックで出場する前は、ボールを待っていてしまっていて、なかなかボールが貰えませんでした。今のトップリーグのディフェンスの傾向として、外側を埋めるディフェンスをすることが多く、外までボールを回させないようにされていたので、それでただ待っているだけになっていました。フルバックに入ることによっていろいろなオプションが増えて、それをウイングでもできる感覚が途中で身に付きました。

――そこでぐっと成長したんですね

そうですね。自分自身とても悩みましたが、そこから急に持ち味が出せるようになりましたし、サントリーのラグビーも楽しくなっていきました。

――トライもかなり獲りましたよね

前半は全然トライを獲れなかったんですが、日本選手権でもカップ戦のプレーオフでも終盤にかけてはトライを獲れて、仕事はしっかりできたかなと思います。

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◆一発で仕留めきるスキルとパワー

――シーズン前にイメージしていたことはできましたか?

そうですね。アタックの部分は結構自信があって、大学を終えてトップリーグに乗り込んできての最初の練習試合や、ブランビーズ戦の時は結構良い感触はあったんですけど、シーズン前半はあまり手応えを感じられませんでした。でも、フルバックをやってからは、1年目にしては良い手応えを掴めたかなと思います。

――最初にインタビューした時よりも謙虚になった気がします(笑)

そうですか(笑)?

――あの時はイケイケという感じで、レギュラーを獲って当然という雰囲気がありました

大学上がりというのもありましたし、大学4年間は上手くいったという自信もあったと思いますが、レギュラーを獲るという気持ちは今も変わらずずっと持っています。でも秋の日本代表にルーキー2人(堀越、梶村)は呼ばれて僕は呼ばれなかったり、今回もそうだったりして、自分を振り返る時間が増えました。そういう部分で謙虚さというか、分析ができるようになりました。

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――自分を客観視できるのは前からですか?

上手くいかなかった時は客観視というか、何がダメかということを振り返るようにしたり、他の人の意見をいろいろ聞いたりもします。

――避けて通らずにあえて全面的に向かって行くということですか?

そうですね。特に1年目の今シーズンはアタックだけではなくて、ディフェンスの部分が敬介さんにも課題だと言われていて、僕自身もそこが一番代表に呼ばれない理由かなと感じでいます。ディフェンスの部分でも連携の部分であったり、1対1のタックルのスキルの部分であったり、そういったものを逃げないでしっかり1年間やってきたと思いますし、その成果もだいぶ出てきていると思います。

試合のスタッツを見てもシーズン最初の方はバックスのタックル成功率が悪くて、自分自身もその数値を下げている選手だったんですけど、終盤にかけては100%の数字も増えてきました。ヤスさん(長友)にタックル練習を付き合ってもらったり、ビデオで一緒に振り返ってもらったり、バックス陣でディフェンスの連携の練習を振り返ったり、そういうことがシーズン中盤や終盤に増えました。そういう面で客観視もそうですし、周りの方々からの意見も聞いてやっていきました。

――そうして成長しつつも、今のディフェンスの課題は?

1対1のタックルがまだまだ課題で、敬介さんにもずっと言われています。大きな外国人相手に、一発で仕留めきるスキルとパワーを身につけていかなければいけないと感じています。

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◆みんなのトライ

――良いところへの意識と良くないところへの意識のバランスは?

良いところはあまり意識していないというか、あまり良いと思い過ぎずに、少し悪くても普通だなという感覚です。

――どうしてそういう感覚になったんですか?

大学の時もアタックで抜けたり良かったりした試合は、もちろん良いんですけど、そこを見るよりは、自分で「これダメだな」と思うプレーの方をよく見ます。抜けたのはラッキーという部分もあったりするので、あまり「良かった」と思い過ぎないようにずっとしていました。トライを獲った後にベタですが、「みんなのトライ」とよく言っています。でも、これを言うと「絶対に嘘だ」とプロップやフォワードからクレームが出ます(笑)。

僕自身は本当に良い繋ぎがあって、最後に良い形で貰えるからこそ自分の武器が出てトライに繋がっているだけだと思っているんです。「みんなで獲ったトライ」という言葉があるように、本当にその通りだと思っています。自分のアタックは強みですが、そういう良いプレーをあまり「ナイスプレー」「良くやった」と、自分自身で思い過ぎないようにしています。

――一番それが上手くいってできたという試合と、全然できなかったという試合は?

日本選手権準決勝ヤマハ戦では、3トライ獲れてトップリーグで初のハットトリックもできました。あの試合は全部良い形でボールが繋がって貰えて、最後に自分の強みが出せたので、自分の中では良いプレーをした試合かなと思います。逆に第2節のNTTコミュニケーションズ戦はボールタッチが2回で、全然ボールも貰えませんでした。

その原因としてはコミュニケーションが上手く取れなかったことや、自分で積極的にアタックのオプションに入って行けなかったということだと自分では分析しています。それこそシーズン序盤が全体を通して悪かったのと、フルバックを経験してからシーズン後半には良くなっていったので、2つの試合にはその差が出ているのかなと思います。

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◆どこでも出られたら良い

――フルバックで勝負したいですか?

そうですね。今はもちろん試合に出るのが一番で、どこでも出られたら良いなということを思っています。こだわりを持った方が良いのかもしれませんが、僕はどちらもベストな選手になりたいです。監督がフルバックで使ってくださるならばフルバックでベストな選手でいたいですし、ウイングで使われればウイングでベストな選手でいたいので、両方トップレベルに持っていきたいというのが自分の考えではあります。

――目指す選手像は?

完璧に誰かになりたいというのはありません。僕自身は特別に足が速い選手でもないですし、体がとても大きいわけでもないので、自分は自分の色を出したいという思いがあります。今までも同じポジションで良い選手の良いところだけをいろいろ見て「これやりたい」と思って、自分でアレンジをしてという形で盗んできたので、好きな選手はいますけどそういう意味で誰になりたいとかはないですね。

――好きな選手は?

同じポジションだとベン・スミス(ニュージーランド)。フルバックとしてハイボールのキャッチやボールの貰い方など、参考になる選手でとても好きですが、誰になりたいというこだわりはありません。

――今は自分の理想からすると何%くらいですか?

まだまだ半分くらいじゃないですかね。完成は想像つかないですし、どこが完成なのか分かりません。向上心を持ち続けてもっと進化したいといつも思っているので、それこそ引退の時は100%でいたいです。

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◆全然諦めていない

――初めてのシーズン、チーム全体としてはどうでしたか?

僕が昨シーズンまで見ていたサントリーはシーズン通して圧勝する試合が多くて強いなと思う試合運びをしていましたが、今シーズンはトップリーグ初戦から厳しい試合が多かったと思います。実際に1年間通してやってみると、チームの中では3連覇というプレッシャーが相当あったと思いますし、本当にちょっとしたことで上手くいかなかったりということがとても多かったと思います。

それをチームで改善しようとしたんですが、なかなか上手くいかなかったり、対戦相手からサントリーを絶対に倒すというプレッシャーを受けたというのも正直あったと思うので、そういう意味で1年間苦しいシーズンだったなと思います。

――2連覇したシーズンを経験していなくても苦しいと感じましたか?

そうですね。トップリーグ1年目ですから、相手の強さの感覚はこの1年しか経験していないのでなんとも言えないんですけど、やっぱり必死と言うか「絶対にサントリーに勝つ」というプレッシャーはどのチームと戦っても感じました。

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――チーム内の雰囲気は?

上手くいかない時でも決して沈むことはなかったですし、次に何を変えようという話は常にチームの中で出ていました。神戸製鋼にリーグ戦でも負けてしまいましたが、その時も次はどうしようかという話がありました。最終的にはトップリーグでは神戸製鋼以外には負けなかったので、それは良かったかなと思います。敬介さんもおっしゃっていたんですけど、チームの中で自発的に考えたり、「これをしよう」という案をリーダー陣を中心にしていろいろ出してくれていたので、そういう意味で精神的には負けてはいなかったですし、ボロボロになったわけでは全然なかったです。

――サントリーに入ってみて、ここが楽しいと思えたところはどこですか?

チームの雰囲気もめちゃくちゃ好きですし、この1年で先輩方も良くしてくれて可愛がってくださいました。チームの仲の良さが本当に好きですし、グラウンドに入ったらスイッチがオンになって、ラグビーに対する姿勢は本当にリスペクトできます。選手としてもチームとしてもプレッシャーがあった中で、先輩方も苦しかったと思いますが、絶対に誰も弱音を吐かないですし、次をどうしよう、進化させていこうという考え方を全員が持っているので、それは本当にサントリーの強さだと思いますし、ここに入って良かったととても感じます。

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――いよいよワールドカップイヤーになりましたが、目標は?

スコッドの最終発表は6月ですから、そこまで全然諦めていません。サントリーはオフシーズンに入っていますが、いつ怪我人が出るか分からないので、呼ばれた時にすぐに入っていけるよう準備します。この時期は会社の仕事がメインにはなるんですけど、準備はしっかりと怠らずにやりたいと思っているので、2019年のワールドカップに出るという気持ちはまだまだ変わらずあります。

――今シーズンの新人は入った時から「俺たちやるぞ」という感じでしたし本当にやりましたね

でも、新人賞も岡田(優輝/トヨタ自動車)に獲られてしまったり、他チームでも新人が試合に出ていたり、そう言った面では自分も負けられないという良い刺激を結構受けました。

――2019年の年末にはどうなっていたら嬉しいですか?

ワールドカップの試合に出て活躍するということ、ワールドカップで日本代表としても結果を出してラグビー自体が盛り上がることが理想です。次のトップリーグはワールドカップ後に始まるので次のシーズンが盛り上がって人気が出て、ラグビーの全体の人気が上がっていれば素晴らしいことだなと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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