2019年1月25日
#620 松島 幸太朗 『このチームでやっている時は特に楽しい』
静かにしっかりとした口調でインタビューに答えてくれた松島幸太朗選手。今回のインタビューでは、松島選手のポジティブさが光ります。(取材日:2019年1月15日)
◆苦しい状況の中で何をするか
――昨シーズンはMVPを獲り表彰式の時に「とても成長したシーズンだった」とコメントをしていましたが、今シーズンはどうですか?
今シーズンはプレッシャーの中で戦う場面が多かったので、精神的に苦しい状況の中で何をするかという考え方が成長したと思います。
――精神的に苦しいと思う時とはどんな時ですか?
基本的に僅差の試合ばかりだったので、僅差で負けている時にどういうプレーをするのか、僅差で勝っている時にどのようにボールを持って、いかに簡単に相手に渡さないか、どのようにそのオプションを考えるかです。
――僅差の試合が多かったので 、ずっとプレッシャーがあったということですね
3連覇に向けたシーズンということで、全チームからターゲットにされるのは当たり前なんですが、下位チームであっても僕たちに対する気迫は、他のチームと戦っている時より間違いなくアップしていて、僕たちに全力で来る感じがありました。
――2連覇した昨シーズンもそれなりにプレッシャーがあったと思いますが、3連覇がかかったシーズンは全然違いましたか?
そうですね。初戦からとても難しかったと思います。いつも最初の方は難しいんですけど、今シーズンは最初から最後までずっと難しかったです。自分たちのやりたいことを最初から最後までできたという試合の印象は、あまりないかもしれないです。
――それは選手としてストレスになるんですか?
ストレスにはなりません。僕自身、個人的にはプレッシャーがかかるのは当たり前という考えでいます。相手がいつも以上にインテンシティーが高くなっているのは、ストレスと言うよりは予想できる範囲内でした。
――そうすると、それに対応できたシーズンだったということで、自分の成長はそこにあるのではないかということですか?
そうですね。
――そのプレッシャーは楽しめたという感じですか?
最初の段階では楽しめることもありましたが、後半は相手も強くなってきて、もちろん楽しみましたけど苦しいという方が多かったですね。
――苦しいラグビーは初めてでしたか?
全試合が僅差なので、苦しいシーズンだったかなという感じです。
◆他に何ができるか
――プレーでの成長という部分ではどうですか?
ボールが外まで回るということが今シーズンは少なかったかなという感じがあるので、燃え尽きたかと言われると、個人的にはそうではないです。
――いま考えてみてどのようにやれば良かったということはありますか?
練習では外に回ってくることが多いんですけど、もちろん外のランナーまで回すことで勢いがつくということを相手も考えると思うので、中盤でプレッシャーをかけられて、なかなか外まで持っていけなかったのかなと思います。プレッシャーを超えられることが少なかったと思います。
――それでもボールを持った時にゲインする回数は、かなり多かったですよね?
そうですね。ボールを持った時はチームに勢いを与えることができるんですが、それができない時に、他に何ができるかを探すことが今シーズンは多かったです。
――15番はチーム全体を見てプレーするという役割があると思うんですが、そこに関して上手くできたところはどこですか?
プレッシャーが僕たちにかかってくるということは、相手の後ろにスペースが空いてくると思うので、裏に蹴るというオプションはもちろんあるんですけど、僅差であったり負けていたりする状況が多かったので、蹴るという判断に自信が湧いてこなかったです。
――蹴るということでは良いキックが結構あったと思うんですが、自分ではどうですか?
良いキックももちろんありましたけど、スペースをもっと有効に使えたかなと思います。
◆全員一緒が大事
――今シーズンを振り返って、更に良くしたいたいところはどこですか?
やっぱりスペースの見極めを、より速くすることです。
――そのためには何に気をつけますか?
しっかり前を見ることと、ボールばかりを見ないこと。外の選手は内の選手より考える時間があって、見極めたことを速く内に伝えないといけません。内の選手は時間がないので、内の選手の限られた時間の中で伝えていかなければいけません。そこの伝達です。
――見極めを速くしないと速く伝達できないですよね。見極めたつもりが違ったりすることもあるんですか?
違っていることは仕方がないんですが、間違っていても良いので、速く伝達して全員が一緒のことをしているということが大事です。間違っていても次に集中すれば良いと思います。
――最近より体が大きくなったと思いますが、そこはかなり意識していますか?
そうですね。トップリーグでもフィジカルという面では、たくさん外国人選手も入ってきていますし、そういう面でだんだん簡単ではなくなって来ていると思うので、意図的に体は大きくしようと思っています。
――もっと大きくしますか?
そうですね。自分の持ち味が出せるところくらいでストップしたいです。
――そのリミットは見極められていますか?
まだ分からないです。トライしてみてですね。
――今は何kgですか?
86kgくらいです。シーズン中は83~84kgくらいまで落ちたので、それをキープするかどうかという感じです。
――今シーズンの状況だとスピードには問題ありませんでしたか?
スピードは問題なかったです。
――では、もう少し体を大きくしてみようという感じですか?
そうですね。
――筋肉をつけたことによって足が速くなることはあるんですか?
トレーニングの仕方だと思います。スピードトレーニングをすれば必ず速くなるわけではないと思いますが、走りが安定して、後半で疲れた時でも今までの力が出せるかになると思います。
◆体を大きくする期間
――いよいよワールドカップイヤーですが、ワールドカップに向けての今の気持ちは?
年明けくらいからワールドカップイヤーだという感覚が出てきました。トップリーグの決勝が終わってから10日間休んで、それ以降はウエイトトレーニングとチーム練習に入れる時は入るようにしています。日本代表の合宿でも良いスタートダッシュを切りたいと思っているので、ちゃんと準備していきたいと思います。
――体を大きくしてみて海外の選手に対して負けない自信は出てきていますか?
そうですね。一歩ずらして前に出られるのが一番良いのですが、83kgだとずらせることはずらせますけど前に出るのが難しくなってくると思います。そこは今のウエイトトレーニングで筋肉量を増やしてみて、どう出るかという感じです。
――それはどのあたりまでに見極める予定ですか?
ゴールは特にないですが、ウエイトができる時にしっかりとやっていきたいです。2月から合宿が始まれば走る量も多くなってくると思うので、今はとりあえず体を大きくする期間だと思っています。
――ワールドカップイヤーになって今の楽しみは何ですか?
今の日本代表のチームがどのくらい成長できるかが楽しみですけど、どのくらい通用するのかという不安もあります。その不安をあと7ヶ月くらいで、どのくらい変えることができるのかというところですね。
――前回のワールドカップの時にもその不安はありましたか?
前回は直前に不安があって、南アフリカ戦が始まる時までありました。キツいことをやってきたという自信はありましたけど、それがどう出るかは全く分かりませんでした。
――今回は不安をかなり早めに感じているというのは良いことなんですか?それも1つの成長ですか?
サンウルブズとチームは分けてやっているので、そこがどうか初めての試みですし、それが上手くいっているのかは分からないですね。
――上手くピークに持っていく自信は?
最近は考えながらやっているので、前回に比べると大人の考えになってきているのかなと思います。
オフの期間にスケジュールをどうやって組むかとか、前だったらバカンスに行ったりしていたんですけど、今回は日本でやる大会ですし、自分の体を自分でしっかり知らないといけないので、そういう組み立てはできてきたのかなと思います。
――今のラグビーの面白さは何ですか?
負けてしまいましたけど、それでもチームというのはお互いを信じ合ってやってきているので、上手くいかないからといってすぐに投げ出すのでなく、お互いをリスペクトし合いながらやれていることです。
カップ戦の準決勝もとても良い勝ち方していますし、トップリーグの決勝で負けたから「もういいや」という姿勢は全然ないし、サントリーというチームはとても向上心があります。トップリーグで出られなかった選手がカップ戦で出て、そのポテンシャルの高さを準決勝でも出していて、とても良いチームだと感じています。そういう意味でこのチームでやっている時は、特に楽しいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]