2018年11月 2日
#609 大島 佐利 『頭は冷静に体は熱く』
久々の公式戦への出場で、大島佐利選手には何か新しい発見があったのでしょうか。練習グラウンドで、スタンドで、そして試合のグラウンドで感じる今のサンゴリアスと自分自身を、久しぶりに語ってもらいました。(取材日:2018年10月23日)
◆永遠の...
――インタビューも久々ですが、試合出場も久々でしたね?
そうですね。ちょうど2年ぶりです。
――2年ぶりに出る時の気持ちはどうでしたか?
まずはメンバーに選ばれてベンチに入れた時は、嬉しさがありました。緊張とかはしませんでしたし、プレーでどういうことをやらなければいけないかという、自分がしっかりとやるべきことに集中していて、比較的落ち着いてグラウンドに入れたのは覚えています。
――落ち着いて入ってみて実際のパフォーマンスはどうでしたか?
実際は自分の悪かった部分も良かった部分も出たと思うんですけど、その中で自分が最低限にやらなければいけないことは見せることができたのかなと思います。
――具体的には?
僕の持ち味は仕事量とフィジカルの部分で、どれだけ相手に嫌な思いをさせられるかというところだと思うので、そういうボールタックルやボールキャリーで少しでも前に出るという部分は良く出せたのかなということがひとつ。
悪かったと言うか、これからもっとやっていかなければいけないと思う部分は、体を当てていく中での正確な判断。時間、場所、試合の流れを考えてチャレンジするところとしないところを、しっかりと使い分けられたら良かったかなと思います。
やることを明確にして頭の中もクリアでやれていた分、逆に少し動き過ぎてしまって、冷静に判断しなければいけないところでも自分の体が思った以上に動きました。良かったかなと思うんですけれど、そこはそこで判断して、きちんとしたプレーを選択すべきだったなとも思います。
――そこでコントロールする方が勝ってしまうと、必要な時に動かなかったりという結果に繋がる可能性もありますよね。そこのバランスは難しいですよね
そうですね。そこは僕の永遠の...(笑)。
――動かないより動いた方がいいのでは?
でもラグビーはチームプレーなので、僕一人が動けるからといって動き過ぎてしまっても、周りとのバランスだったり僕が元気な分、集中し過ぎて周りの声が聞こえなかったりというところは、改善しなければいけないポイントなのかなと思います。
――それは改善するのはなかなか大変ですね
そうですね。9年間言われ続けているので(笑)。
――改善が難しいと思うのは、そこが長所の裏返しだからですよね。長所を消さずにそれをやるという答えは見つかっているんですか?
答えとして見つかっているものというのは難しいですが、ラグビーはあれだけのコンタクトスポーツで、パチッとスイッチを入れる部分がなければいけないと思うんですけど、「頭は冷静に体は熱く」という部分を、もっともっと出さなければいけないなと思います。
――それが難しいし、ハートが熱くないとラグビーをやっていても面白くないのでは?
そうですね。やっぱり瞬時に切り替えられるということが大事かなと思います。
――長所を活かす方向を追求して、いきなり壁をぶち抜いてしまうことは?
フィットネスや仕事量は僕の武器だと思っているので、ピンチやチャンスになったら誰よりも速く駆けつけるとか、そういう部分ではもっと壁をぶち破って改善していかなければいけないと思っています。そういうところに一番最初に駆けつけられるような集中力を、もっともっと磨かなければと思っています。
◆冷静に考えてアタックしなければいけない
――2年振りに試合に出てみてラグビー力は上がった実感は?
そうですね、上がっていると思います。2年前の時よりも自分が何をしなければいけないか、チームとして何をしなければいけないかということを、冷静に考えられるようになったかなと思います。
――その2年間、自分としては何をやっていた期間と捉えていますか?
ひとつは怪我がありましたが、出ているメンバーのことを見ていました。西川がジャパンに選ばれた時も純粋に嬉しかったですし、同期なので全然まだまだやれるんだというのを思いました。逆に西川ができるんだからもっと考えて、さらにやらなければいけないことがたくさんあるんだなということを、改めて思った部分でもあります。嬉しかったのもありますし、勇気をもらってもっとプレーしたいという気持ちは強くなりました。
――西川選手が選ばれて見ている人は見ているんだと思いましたか?
やっとかと思いました。
――西川選手と共に9年目ですが、まだまだ成長途中という感じですか?
そうですね。フィジカル面で筋力がどれだけ上がったとか、体重が何キロ増えてそれでもこれだけのスピードで走れるという部分は、ルーキーで入った時よりは成長の比重は小さくなってしまったかもしれません。
でもまだまだフィジカルの部分で、成長できる部分はあると思いました。もっといろいろと体の使い方を勉強して、今はコーチもスピードやパワーのトレーニングを入れてくれているので刺激になりますし、成長できる部分だなと思いますし、自分は意外とこういう部分ができていないんだなとも感じます。でも、やっぱり9年目で一番成長できるなと思う部分はラグビーナレッジの部分で、そこはもっと成長できるなと思います。
――今やっていてどこに楽しさを感じますか?
僕が入った時と今とでは、やっているラグビーや周りのチームのラグビーも変わってきた中で、アタックでも冷静に考えてアタックしなければいけないという部分が面白さではあります。
あとは、サントリーはブレイクダウンのスペシャリストがずっと長くいたチームなので、そういう方々が言っていたことを自分でも噛み砕いて理解して、グラウンドでやっとその形が出せるようになってきました。
――例えばどんなことを言っていたんですか?
タックルして起き上がる速度、起き上がりやすい体勢、こういう時にはこういう判断をするべきだ、こういう体勢でタックルに入ったら次のディフェンスに備えた方が良いのか、ジャッカルしに行った方が良いのか、そういう判断の部分などですが、昔はただがむしゃらにやってしまっていた部分が多いので勉強になります。
逆にスペシャリストたちがこうやっていたけれど、自分がやったらしっくりこないと思った時に、みんなと話し合いながら「こうした方が良いんじゃないか」「僕ら日本人にはこういうところの方が合っているんじゃないか」とみんなで話して試して、分かりやすくやれるようになってきました。
――日本人の中でも体型や体力などいろいろなことがそれぞれ違いますよね
でも、今のサントリーの日本人バックローは身長180cmくらいで、体重もそんなに変わらないくらいという状況です。全体練習が終わった後に2~3分「ジャッカルの後はどうしている?」とか「ちょっとこういう練習したいから一緒にやろうよ」と言ってやっています。
「俺はいつもこうやっているよ」とかそういう話をしていて、理解も今まで以上に増えましたし、今まで自分がこうやってきてできていなかったのはこうやってみたらどうなんだろうというところで、みんなで話して楽しんでやれるようになってきたと思います。
◆歯車がどう噛み合うか
――2年間、外から見ていて実際に試合に入りました。見ていた時、入ってみての時、どう感じましたか?
外から見ていてチームが上手くいっていないとは感じていましたけれど、手を抜いている人がいるかと言ったらそうではなく、みんな頑張っていると思っています。ただチームを良くするためにみんながこうしたいという思いが強い中で、少し歯車が噛み合っていなかったのかなと思います。みんな「優勝したい」「3連覇したい」と思っていることは一緒なので、その歯車がどう噛み合うかという部分かなと思います。
――噛み合わせるためにはどんなことが大切ですか?
やっぱり練習しかないと思います。先日の日野戦は僕も含めて普段出ていない選手が出た中で、練習でやろうとしたことをある程度見せることができた部分もあるのかなと思います。これからは負けたら終わりのトーナメントになってしまいますけれど、1試合1試合「これができた!」という何かを発見して、ちょっとでも良くなった試合を積み重ねていって、決勝で勝てればと思います。
――日野戦と言えば、佐々木隆道選手(前サントリー)が出ていましたが、どうでしたか?
僕が入った時にスクラムだったんですけど、隆道さんが僕の対面で「ういー」って(笑)。試合という中でもリラックスして、冷静に出来た部分でもあったかなと思いました。相変わらず隆道さんはブレイクダウンとかラグビーナレッジという部分で勉強になるなと思ったり、相手にしたら厄介な人だなと思ったり、そこは楽しめました。
――いま以前の大島選手と同じように15人制と7人制の両方を頑張ろうとしている松井選手がいますが、どんなアドバイスをしていますか?
ポジションが違うというのはありますけれど、僕自身がセブンズでやってきて、プレーの幅や成長にはとても繋がりましたし、あの経験をさせてもらえたことは良かったと思います。松井は若いですし、いま一番自分が成長できると思うところがセブンズだったり、やりたいと思うことだったりと、絶対に繋がる部分や成長できる部分があると思うので、「頑張ってくれ」としか思っていないです。
――両方やることの難しさはありますか?
フィットネスの種類や体重管理は、難しい部分かなと思います。僕もセブンズをずっとやっていた時は、今よりも8kgくらい軽かったと思いますし、そういう部分は難しいと思います。あとはシステムが違うと、見る景色も全然違います。
――一言で7人制はどう見えて、15人制はどう見えるんですか?
例えるのは難しいですけれど、15人の方がごちゃごちゃしています。7人はスペースが大きくある中で、ただ単に空いているスペースに走るだけだったらそのスペースは簡単に埋まってしまいます。15人に繋がるところではあるんですけど、こっち側から空いているスペースにボールを持って行くとしたら、ここが空いてくるんじゃないかという考え方は、7人でも15人でも一緒だと思います。ただそれが広かったり、そのスペースが出来上がる速度が違ったりというところかなと思います。
――見えるシーンとしてどちらが好きですか?
若い頃の僕だったらセブンズと言っていたんですけれど、今は15人です。
――その心は?
あの頃はフィジカルの部分でも好き勝手で、空いているスペースを見つければそこに走ってやろうと思っていたんですけれど、いろいろとナレッジを積んできた中で、空いていても空いていなくても、自分が攻めることで広がったり味方がアタックできるようになったりすることが分かってきました。いろいろと勉強してきて、15人は楽しいと思います。
◆感謝を伝えていく
――またここから出続けるということは大変だと思うんですけれど、ポイントは何だと思いますか?
ずっと僕が思っているのは、ナレッジを上げるところとベストなパフォーマンスを出し続けるところの2つです。良い準備をして、試合が始まる前の時点で頭の中をきちんと整理して、やることを明確にして、体の面ではいつでもベストなパフォーマンスを出せるような準備をして、グラウンドでは頭に入っていることをやる。
――体の方は自信あるんじゃないですか?
そうですね。そこを売りにしてきたので。
――先程の話に戻りますが、「頭は冷静に体は熱く」というシンプルなワードがテーマですか?
一番は準備だと思います。試合に出られていない時に準備していなかったわけではないですけれど、試合前にどれだけ準備して、自分が実際にプレーするとなった時に、チームの戦術について不安がない中でやった方が、自分のプレーの質も上がると感じているところでもあるので。
――準備の中の頭を使うところが相当あるということですね?
そうですね。もっともっとやっていかなければいけないと思います。
――それも好きなんですね
その楽しさや難しさも少しずつ分かってきました。「もっと早く気づけよ」というところはあると思うんですけど、そういう部分は楽しみです。
――あと3勝すれば優勝ですが、ここに向けてのチームの課題は何ですか?
今シーズンは3連覇がかかっていて、当然他チームがサントリーを倒そうとしてくる中で、サントリーと試合をするとなったら、良い準備をしてくると思うので、それに負けない準備をしなければいけないですし、気持ちも作らないといけないです。いかにそういう準備を積み重ねていけるか。トーナメントなので、1ポイントでも上回っていれば良いので、そうできるように準備することです。
――みんながターゲットにしているというのは相当やりがいになりますね
そうですね。なると思います。やりがいというか、それに打ち勝たないと試合には勝てないので、やらなければいけないという思いです。
――3連覇という目標があると思いますが、もう少し先を見ての個人の目標はありますか?
年齢も年齢なので、あとはどれだけチームに貢献できるか。自分がこの大好きなラグビーを本当にどれだけできるか、どうやって感謝を伝えていくか。その方法はやっぱりプレーでしかないと思うので、先のことはあまり考えないで、目の前にあるものを楽しんで、自分のベストパフォーマンスを出し続けて、少しでも長くグラウンドに立てるようにしたいという思いしかないです。
――選手同士で話すことが面白いということは、レフリングについても話し合っているんですね?
そうですね。レフリーがルールの部分をどう捉えているか、どういうプレーをするとOKなのか、自分がこうしたら反則を取られたとか、逆にこうしたら取られなかったということを選手間で話すようになりました。そのケースにはこうやってみた方が良いね、という試行錯誤は楽しみですし、それが面白くなりましたね。そうやって練習を重ねて、誰がどう見ても良いプレーだと言ってもらえるような答えを探していくことが大切なんだと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]