SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2018年10月 4日

#605 小野 晃征 『いっぱいミスして、いっぱいタックルして、いっぱいパスして、いっぱいキックしたい』

復帰間近の小野晃征選手。今シーズン初登場を前に、現在のサンゴリアスをどう見ているか、そして今シーズンへの思いを訊きました。(取材日:2018年9月25日)

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◆エネルギーと自信をどこで生み出すか

――今のサントリーの試合をスタンドから見ていてどうですか?

新しいことに取り組んでいて、それにチャレンジしている段階だと思います。

――多くの試合が接戦で思い通りの試合になっていないと思うのですが、そこは新しいことに取り組んでいる難しさですか?

そういうところもあると思います。あとは良い時間、トヨタ戦も良いところはいっぱいあったと思うし、NTTコミュニケーションズ戦も最初にトライを獲りましたし、NEC戦も前半20分良い時間がありましたが、悪い流れの時間が少し長い気がします。メンタル的にすぐそこで切り替えられないところがあるのかなと思います。

――そこはどうすると解決できると思いますか?

自分がグラウンドに出られているわけではないので、どういうコミュニケーションをとれているのか分かりませんが、15人が15通りの違うことを考えていたら良くありませんし、どういうコミュニケーションをとって、1つに絞って「やろう」という気持ちに切り替えているのかというところだと思います。

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――昨シーズンと比べて良くなっているところはどこですか?

昨シーズンも似たシーズンだったと思いますよ。前半節はパナソニックにも負けましたし、自分たちのスタイルに新しいことを取り入れて悩んでいたシーズンだったと思います。でも誤解を恐れずに言えば、プレーオフトーナメントで3試合良い試合をしたら優勝できるんですよね。もちろんプレーオフトーナメントに残ることが大事なんですけど、今シーズンは3試合連続良い試合をしたら優勝できるんです。

シーズンを通してずっと優勝するスタイルでエネルギーや意識を持ち続けたら1シーズン持たないので、どうやってピークを12月に持って行くかということが大事なんだと思います。昨シーズンもウインドウマンスの前に1試合負けて、神戸、東芝、準決勝ヤマハ、決勝パナソニックという4試合で波に乗った気がするんです。どこかできっかけがあったと思うし、そのエネルギーと自信をどこで生み出すかだと思います。

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◆どこでモチベーションを満たすか

――昨シーズン、エネルギーと自信が生まれたきっかけは?

1つはギッツ(マット・ギタウ)が10番に入ったことでチームのマインドセットも変わって、違うテンポでアタックする勢いがありました。同時にショーン(マクマーン)が加わり、アグレッシブ・アタッキングする彼が入って来たことによってフォワードもその勢いに乗って、周りの選手のレベルが5~10%上がった気がします。

――今シーズンもそのきっかけは人ですか?

それは人か、どこかで自信に繋がるパフォーマンスをするか。決して大きくメンバーが変わっている訳ではないので、あとはどこで自分たちのモチベーションを満たすかというところかなと思います。

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――心配はしていないという感じですか?

今だけを見ると心配しやすいですよね。ゴールはまだ2ヶ月後だし、そこにどれだけ1歩ずつ近づいていけるかだと思います。決して負けているわけではないんですが、自分たちが求めているパフォーマンスをしている時もあればしていない時もあります。いま3勝1敗ですから今シーズンが悪いシーズンとは言えませんが、サントリーが目指しているのは常に勝つというところですし、お互いに自分たちに厳しいというのがこのチームです。

――昨シーズンは最終的には到達したんですね?

サントリーのテーマはアグレッシブ・アタッキング・ラグビーなので、特に最後の方はとてもそれが見えたかなと思いますし、準決勝と決勝では負けたら次はないという気持ちも含めて、そういう意識になっていくところはあったのかなと思います。

――今シーズンは他のチームがサントリーをターゲットにしてくる度合いやチーム力のアップを感じますか?

春夏シーズンからありますね。相手チームから見て自分たちの実力を試す相手がチャンピオンチームなのは当然だと思うので、どのチームも春も夏もベストメンバーで来ていました。少しも手を抜けないという気持ちを、常に持っていなければいけません。

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◆たくさんは変えられない

――試合中にいろいろな選手と話していますが、どんなことを話しているんですか?

次のプレーをどうするかを話します。周りを動かすポジションにいるので、もっとこうやってプレーして欲しいとか、こう意識して欲しいとか。たくさんは変えられないと思うので、1~2つに絞ってチームに落とし込むようにしています。

――スタンドで見ている時はどうですか?

自分とポジションの近い選手と一緒に座って見るようにはしています。チームのボールの動かしや相手のディフェンスがどうしているかについて常に話しています。

――チームの外国人選手と日本人選手の間に入って繋ぐ役もあると思いますが、外国人に対しては何を意識していますか?

外国人は基本みんなキーポジションにいるので、そこに対して思うこと、自分が見ていてもっとできるだろうと思うことがあったら、それについて聞いたり相談したりしています。

――ギタウ選手は深いですか?

そうですね。深いというか細かいところがありますね。「35分くらいの左スクラムでこういうことが起きたんだけれど」と話したとすると、ギッツはすぐに「そうだね」と。「その時はこう思っていた」とすぐに言ってくれますし、ギッツは試合を頭にインプットするのが速いです。

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――そういう選手はあまりいないのですか?

ボールを動かす選手だったら、意外といますよ。けど、逆に僕は「35分のスクラム...」と言われてもスクラムがどうだったか、押したのか押されたのかも全然分からないです(笑)。

――反省は試合が終わった瞬間にしますか?

次の日がオフだったら結構考えます。次の試合まで5~6日間はありますが、そんなに大きくたくさんは変えられません。だから、何が必要かを自分の中で1つ、多くても2つ、今週意識するということを決めています。次の相手によってこれだけは1つやりたいというのと、前の週から1つ直したいというのと、その2つくらいですかね。

――それを1週間で達成させるわけですね

達成しないと伸びないと思っています。

――1つ2つに絞るというのは難しいと思いますが、それはキャリアを積んで来てできるようになったのですか?

その1つが正解か分からないのでそれも周りと相談しながらですが、自分一人がやりたいことをやっていてもチームは成長していかないと思います。でも、最近は試合に出ていないので、逆に聞くようにしています。周りに聞くとみんな目線が違うなと思います。今までは自分がたくさん試合に出ていたので、自分がこう変えたらこうというコミュニケーションの仕方だったんですけれど、今は試合に出ていないので当然言えないから聞くと、みんな全然違うこと考えているんだなと。

それは自分が出ていないから考えが違うのかもしれないです。試合に出ていたら全然違うコミュニケーションをとって、周りと同じ考えになっていたかもしれないので、面白いなと思いますし勉強になっています。ラグビーって英語で flowed (流れる、自由に動く、循環する)と表現することがありますが、常に動いていていろいろなことがあるので面白いですね。

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◆ふつうに楽しく

――試合に出ていないことに対する焦りはないですか?

焦ったら疲れます(笑)。無駄だと思います。もちろん出たいけど、出るために焦ることが必要なのか、冷静に治してしっかりプランニングをしてリハビリをして、この試合に復帰するというゴールを明確にしてそれに向かっていけば良い話です。

――ゴールはどこですか?

そろそろゴールだと思います。

――楽しみですか?

そうですね。10ヶ月ぶりの試合なので、楽しみです。いっぱいミスして、いっぱいタックルして、いっぱいパスして、いっぱいキックしたいです。全部やりたいです。というのは良くないかもしれないから、ふつうに楽しくやりたいです。

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復帰した上でギッツが今10番で出ているので、ギッツとコンペティションする必要もないなと思っています。自分もいろいろなラグビーを経験させてもらっているけど、ギッツは100キャップ以上持っている選手で、左足のキックがめちゃくちゃ上手い、スピードがあるという1つ1つを比べるつもりもないですし、もちろん煕(田村)もいます。

自分が復帰して10番が3人になって、メンバーを選ぶのは僕ではなくて監督なので、そこで自分に何ができるかと言ったら、良いコンペティションをして監督の判断を難しくさせることだけです。そこで「今週どうしよう」と思わせられないのであれば、自分の役割ができていないんだと思います。それだけにフォーカスすれば、全然焦らなくても良いと思います。

――優秀な新人が入っていますが、スタンドから見ていてどのように見えますか?

めちゃくちゃエネルギーがあって、開幕戦でデビューした選手がチームを引っ張ってくれました。それを1シーズン通して優勝するためには、そのエネルギーだけではなく経験のある選手も含めて良いバランスが取れないとダメだと思うので、開幕で勝ったエネルギーだけではなく、それを1シーズンどうやってチームが持ち続けるかということになると思います。

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◆悔しさをエネルギーに

――改めて自分の役割はどうですか?

もちろん優勝することがゴールなので、そこで試合に出たいという気持ちはあります。

――今シーズンの新しい小野選手の売り物は何ですか?

怪我をした悔しさ、リハビリの悔しさを全てエネルギーに換えて、気持ちで見せたいと思います。

――普段は悔しさを抑えているんですか?

そう見えますか?頑張ってバランスはとろうと思っていますけれど。

――余裕があるように見えますよね

このチームで余裕はないですよ。自分は基本的にみんなと喋るので、喋らなかった時はすぐに分かると思います。悔しくてもなるべくコミュニケーションを取るようにしているし、怪我をしていてもチームに貢献できることがたくさんあると思うし、プロとしてお金を貰ってやっているので、絶対にいろいろと貢献したいと思ってやっています。

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――怪我した時の貢献とは例えば?

コミュニケーションです。話を聞くことであったり、アドバイスをしたりするところです。頑張ってみんなの話を聞くようにしています。

――悩みを聞くとかなり分かりますか?

分かっても分からなくても、選手は誰かに話したいと思っていると思います。話してもらって僕が何かをできる訳ではないですけれど、聞いてあげるだけで楽になったら良いかなと。

――自分の時はどうするんですか?

何人か話す人はいます。そしてみんなとコミュニケーションを取るタイプなので、当然言ってしまうと思います。でも、なかなか話さない選手もいるので、そういう選手に一歩でも近づきます。あとはグラウンド外でも話すようにしています。どこかにご飯を食べに行ったり。

――復帰戦で期待していいのは?

元気でプレーしている姿です。自分が想像している、このキックやパスというより、また試合に出てサントリーのファーストジャージを着て、プライドを持って戦っている姿です。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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