SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2018年9月28日

#604 有賀 剛 『選手と共に学んでいます』

昨年はアシスタントコーチ、今年からバックスコーチとなった有賀剛コーチ。コーチ業について、そしてコーチ2年目の現在の心境を訊きました。(取材日:2018年9月17日)

①180531_8053.jpg

◆少しずつ楽しさが見えてきた

――コーチ2年目で、コーチ業も板についてきた気がしますが、自分ではどうですか

正直なところ、色々なことに対してだんだん慣れてきたという感じです。

――選手と最も違うところはどこですか?

自分でやるかやらないかです。そして選手とは全く別物で、チームがやるべきことに対してどう落とし込みをしようかとか、自分のことだけではなく、色々な選手がいるので色々なアプローチをしなければいけないというところは、難しさであり面白いところでもあります。

――それは選手をよく見ているということですか?

見ようとはしています。ただやっぱり僕たちはグラウンドにいる選手しか知らないので、実際の中身の部分で理解できないところは多々あると思うんですが、グラウンドに入って来たら100%で向き合うようにしています。

――慣れるのには時間がかかりますか?

昨年ヒューイ(ピーター・ヒューワット前バックスコーチ)がいなくなって途中からミーティングをリードするようになったんですが、その頃に比べたら徐々に理解してきたところはあります。最初は自信がないままやっていた部分がありましたし、スタッフミーティングではレビューをみんなの前で発表するんですが、ちゃんと準備をしていっても監督に違うと言われることがよくありました。そういう中で学ばせてもらっていた日々でした。

②180619_s1486.jpg

――最近はどうですか?

最近も違うと言われることはもちろんあります。ただ2年目になって、自分なりに敬介さん(沢木監督)に意見を言えるようになってきて、それに対して敬介さんが1人のコーチとして意見を聞いてくれるようになってきているので、そういう部分で昨年とは違うと思います。

――昨年の役割と今年は違いますね?

昨年はアシスタントコーチでした。要は色々なコーチをサポートしつつ、ラグビーを学ぶという1年でした。

――昨年1年で何を一番学んだと思いますか?

いちからのスタートだったので、パソコンの使い方、どうやって映像編集をするのか、ミーティングの組み立て、シーズンが始まるにあたっての1週間のコーチがやらなければいけないことなどを、1つ1つ覚えていった1年でした。

――それは大変でしたか?それとも楽しかったですか?

大変と言うか、正直、選手の時みたいに楽しさはなかったですよ。「うわぁとても楽しいな。コーチングって良いな」という感覚はありません。楽しいなという感覚はなかったんですが、いま少しずつ楽しさが見えてきたという段階です。

③180517_5599.jpg

◆選手に教えてもらうこともたくさんある

――いま少しずつ見えてきた楽しさというのは何でしょう?

自分が提案したことを実行したことによってチームが良くなったり、練習でしっかりと準備したことで選手が良いパフォーマンスを出してくれたりした時は、嬉しさを感じます。でもあくまでもベースは、監督が考えることをしっかりバックスの選手に落とし込むことで、それが僕の一番の仕事です。

――落とし込んだ時に選手によって理解度が違うと思いますが、そこはどうやって対応しているんですか?

そこはもちろんモチベーションが関係してくると思うんですが、正直やらせなければならない選手もいます。そういう選手もやろうとすればちゃんとできるんです。でも「やってこい」と言わなかったらやらなくなってしまう。

――やっぱり自らやる選手の方が優れていますか?

それはもちろんだと思います。分析のレベルも上がっていますし、自分の中でクリアになっていることの方が多かったら、絶対にパフォーマンスに繋がると思います。

――自分自身は自らやる方だったと思いますが、やらない人のことも理解もできますか?

パフォーマンスが出ていればやらなくても良いと思います。極端な話、監督の言ったことを1回で理解できたり、それをすぐ次の練習で実行できたり、前回出た課題を次回に活かせたり、そういうことが見えたらその選手に対しては言いません。

――そういう選手は少ないのでは?

でも、しっかり考える選手は言われたことを忘れないですよね。

④180531_8123.jpg

――沢木監督になって考える度合いが高まったと選手から聞きますが、コーチから見てどうですか?

本当に高まっていると思います。でも、そこに対しての差は絶対にあると思います。できていない選手には違ったアプローチをしなければいけませんし、やらないのであればやらせなければいけない。

一方でサントリーのバックスにはタレントがとても多いですし、優れたリーダーもたくさんいるので、僕自身はもの凄く助けられています。選手に教えてもらうこともたくさんありますし、まだまだ知らないと思うこともあります。それにずっとアウトサイドバックスしかやってこなかったので、バックスの中でも分からないことはたくさんあります。

――バックスには比較的大人しい選手が多い様に見えます

ミーティングをしても静かですね。いつも話す人が一緒なので、そこをどうやったら変わるのかということなんですが、ミーティング枠が15~20分くらいしかないので、色々なことを考えていて本末転倒になったら意味がありません。一番はやるべきことをしっかり落とし込んで、「何が良くなかったか」をしっかりレビューすることがミーティングでは大切なので、ここはもっと自分の中に引き出しがあれば良いと思います。これからいろいろ勉強したいです。

――その勉強はどうやってやるんですか?

他の競技の人と話しをしたり、話を聞きに行ったりすることが僕はとても好きで興味があって、時間があればそういうこともしています。

――例えばどんな種目ですか?

サッカーのコーチと話したこともありますし、前はフットサル日本代表の監督の話を聞きに行ったこともあります。その人は以前ベトナム代表を率いていて、ベトナムはアジアでも弱かったんですが、アジア選手権でトップ4になって日本に勝ったんです。その手腕が買われて日本代表の監督になったんですが、どういうことをベトナムでやったかという具体的な話は聞けなかったので、そういうことにも興味がありますし、何かとんでもないことをしたんだろうなというニュアンスだけは伝わって来たんです。

個人スポーツ、チームスポーツ関係なしに、色々な方に色々な話を聞くことが好きです。ただ経営など他の分野の話には、あまり興味を持てないんですよ。スポーツ関係の話がとてもためになるし楽しいです。

⑤180801_8327.jpg

◆自分たちの準備をしてゲームに臨ませる

――今年は最初から新人が出ていて、特にバックスが活躍していますが、どうですか?

今日発表がありましたけれど、ルーキーの中で梶村と堀越はジャパンに入りました。ただ、試合に出ている以上は1年生扱いをしてはいけないと思います。

――自分自身の時もそうでしたか?

そうですね、本人たちもそういう認識はないと思いますよ。ルーキーとか気にしているようでは、試合には出られないでしょう。良いメンタリティや良いポテンシャルを持っている選手が、入ってきてくれたなという印象はあります。

――どのチームもサントリーをターゲットにしてきている今シーズンはどうですか?

見ての通り、今シーズンはサントリーに限らず接戦が多いですよね。やっぱり外国人枠も増えましたし、7試合という短期決戦なので1試合に懸ける思いも全然違うと思います。そんな中で神戸製鋼がちゃんと研究してきて、やりたいことをやらせてもらえなかったという印象ですね。

――その前の2試合も2点差だったので、相当迫られていますよね

ターゲットにされているということですね。でも、そういうことはあまり意識していなくて、いつも通り自分たちの準備をしてゲームに臨ませることが一番の仕事です。

⑥180901_6372.jpg

――神戸製鋼戦の負けで選手たちはどのような感じですか?

「うわぁやられたな」という印象はありませんが、ただ今の自分たちの力だったらもう1回やっても勝てないと思います。そこに対してのチャレンジをしていかなければいけないと思います。選手たちも、そう思っていると思います。

――有賀コーチとしての課題は何ですか?

簡単に言うと和製バックスで、もちろんギッツ(マット・ギタウ)もいますけど、日本人が多いバックスなので、和製であっても一番であるというスキルを磨いていきたいですし、最後は崩してトライを獲ることを求めていきたいです。

――選手として色々な外国人選手と一緒にプレーをしてきましたが、ギタウ選手はどうですか?

相当レベルが高いです。凄いです。負けん気も強いですし、一番はパスもキックも仕掛けるコースにしても、持っているポテンシャルが凄いです。そして人間性。思ったことがあったらちゃんと言ってくれるので、僕はその部分に助けられています。「先週はこれが良くなかったんじゃないか?もっとこういうことをしなければいけないんじゃないか?」とギッツから言ってくれることもあるので、それは僕にとって有難いです。

コーチがこの準備で大丈夫だろうと思っていても、実は選手がそうじゃないことはあるんだなと。日本人はこういうことは言ってはきません。彼は「もっとこういうことに時間を費やすべきだ」とアドバイスをくれたり、できるできないは関係なしに言ってくれるので、学ぶことは多いです。

⑦180531_s9424.jpg

◆良いパフォーマンスが出るようにアプローチ

――もともとコーチになりたいと思ったきっかけはなんですか?

教えることに対してチャレンジしかったからです。

――それはなぜですか?

父親を見ていたからです。父親は高校の監督です。僕は厳しいことも結構言うので、もの凄くストレスに感じている選手もいると思うんですが、自分の中で曲げたくないところもたくさんあるので、そこはとても難しいところです。それに対して自分はどこまで言うべきなのか、どういったアプローチをするべきなのかにいつも葛藤あります。

でも基本的に根底には「チームを良くしたい」ということが先ずあるので、優しい声ばかりかけるのは違うと思っています。良くなかったことに対しては厳しくも言いますし、フィードバックもしますし、良かったことに対してもしっかりフィードバックすることを心掛けています。選手が全員プロだったら、コーチは「知らない」と言うことも出来るかもしれませんが、そうではないので底上げをしていかないと良い練習もできませんし、チームのレベルアップも図れないので、そこの難しさはあると思います。

⑧180802_0235.jpg

「自分がどうなりたいのか?」「自分を良くしたい」という選手の手助けをしたいと思っていますが、本人がそんなに思っていなかったら、そんなのやる必要ない、といつも言っています。やりたくなかったらやらなくていいし、自分がどうなりたいかだけの話です。意欲がある選手に対しては100%コミットしたいですし、僕もそこに対しては100%の意欲があります。

――サントリーのバックスは色んな選手がどんどん出てきますね

競争があって良いことだと思います。一番はパフォーマンスが良い選手を使いたいということなので、良いパフォーマンスが出るように、それぞれにアプローチをしています。

――今シーズンのサントリーは、これからどうでしょうか?

勝てます。これからです。負けてからのこれからにかかっています。みんな悔しい顔をしていましたし、これで普通に終わるチームではないので、選手と一緒にやっていきたいと思います。だから思うんですが、コーチも選手も一緒にやっていこうという考えがなかったらダメだと思います。コーチになって、自分なりにしっかり試合を見て、練習を見て、何が問題かを積み上げていく毎日で、選手と共に学んでいます。

選手で言えば、特に流選手のキャプテンシーは素晴らしいと思います。生粋のリーダーと言うか、しっかり行動でも先頭に立っていますし、コーチと選手の間に入っていろいろ繋げてくれている部分もあるので、立派なキャプテンであると思います。あとバックスにはギッツもいて、小野晃征もいて、大志(村田)もマツ(松島)もいて、リーダーになれる選手がとても多いので、僕自身は彼らに助けられています。楽しみにしていてください。

⑨180531_8566.jpg

(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

一覧へ