2018年8月31日
#600 流 大 『常に破壊して、超えて、ぶち壊して、勝負していきたい』
3連覇に挑むサントリーサンゴリアスのキャプテン流大選手。サンウルブズや日本代表での経験も積み重ね、リーダーとしてより強いサントリーを目指すその意気込みを訊きました。(取材日:2018年7月23日)
◆チャレンジすることがクラブの文化
――キャプテンになってから2連覇をしてまだ1敗。毎年勝つことに対するモチベーションやチームみんなで力を合わせることが大変になってくると思いますが、そこは3年目のキャプテンとして最大に意識するところですか?
今シーズンは春から長いことサントリーにいなかったので、映像でチェックをしたりクラブハウスへ来た時に練習を見たりして感じることはありました。3年目ということでテーマも"Are you BREAKING THE LIMITS ?"という疑問形になっているんですが、それをいつも自分に問いただしてチームにも問いただしています。やっぱり新しいことをどんどんやることが大事だと思っています。サントリーのスタンダードもありますが、それを1回ぶち壊していかないと勝っていけないと思います。
今シーズンは本当に短いですし、毎年そうですが落せる試合はありません。開幕から全開で行かなければいけないと思っています。夏合宿から合流するので、もう1回サントリーのスタンダードを自分で感じて、みんなにも壁を壊して全開で行くことを求めていきたいと思っています。
――ぶち壊すことや新しいものを作ることに対して、怖さはありませんか?
怖さはないです。チャレンジすることがこのクラブの文化ですし、会社自体にも「やってみなはれ」という言葉があるように、新しいことにチャレンジしていかないと衰退だけなので、新しいことを求めて常に一歩でも成長しよう、強くなろうという思いを持ちながらやっていかないといけないと思います。
――それは3連覇だからという訳ではなく、毎年意識しているんですか?
もちろんです。勝ち続けるのは本当に難しくて、相手は僕らにターゲットを絞ってやってくるのと、自分たちが勝っているという自信はもちろんありますが、どこかで「このくらいやれば勝てる」と思ってしまうところに怖さがあると思うので、常に限界を超えていかなければいけないという意味で、今シーズンはこのテーマだと思っています。昨シーズンまでやって来たことで今シーズンも勝てるかと言われたら、それはまた違うことなので、常にレベルを上げていかなければいけません。
――簡単には勝てないライバルが重要なんですね
そうですね。大事だと思います。本当に今は簡単に勝てるチームはないので一概には言えないですけれど、例えば開幕戦のトヨタ自動車も豊田スタジアムでのホームゲームですから、僕らに勝ったらシーズンで勢いに乗っていけるという想いを持って開幕戦に全てをぶつけてくると思います。僕の中で開幕戦はキーポイントになるので、トヨタ自動車戦は大事だと思います。そして2年連続でパナソニックと決勝をやっているので、やっぱりパナソニックは僕の中では意識するチームではあります。
――意識とは?
やっぱり試合をしていて楽しいです。本当に強いので2年連続、一瞬の判断、一瞬のプレーで勝敗が決まるファイナルだったと思います。パナソニックとやると難しい試合にはなりますけれど、「楽しい」「ラグビーをやっているな」という実感する相手ではあります。ポジション的にも、ジャパンでライバルのフミさん(田中史朗)がいたり、他にもジャパンの選手がたくさんいたりして、楽しさやラグビーをやっていることをいちばん実感するのは、パナソニックとの試合の時です。
――力を引き出される感じなんですか?
簡単な判断や単純なプレーではなかなかディフェンスが崩れないので、それをどうやって崩していくかを考えるのはとても楽しいです。
◆思い切ってやる
――今、自分が「ラグビーを楽しい」と感じるタイミングにいると思いますか?
来ていると思います。今までのラグビー人生で、まず心身ともに一番良い状態になっているので、今年のトップリーグのシーズンも楽しみです。
――心と身体のどの辺が充実してきているのですか?
サンウルブズもジャパンも経験して、プレッシャーの中での判断も磨かれたので、自分の心の中の余裕と、試合に対するメンタルの持っていき方も勉強になりましたし、これだけゲームを重ねて強度の高い中で試合もしてきたので、身体もとても良い状態にありますし、3連覇するというモチベーションもとても高いので、良い状態だと思います。
――例えば海外のチームと戦って、今までないプレッシャーや今までの判断ではできない時に、次にやれる秘訣は何ですか?
できない時はプレッシャーに負けている時ですね。ラグビー的なプレッシャーもそうですし、点差などの状況もそうですし、自分の中でちょっと負けてしまった時は、なかなか良い判断ができていないですし、スキルのミスにも繋がっていると感じます。ただそのミスを恐れずに、自分の頭の中で思い切ってやるということと速い判断ができている時は、プレーだけに集中できているので、良い判断ができて良いスキルを使えていると思います。
――速い判断をするための秘訣は掴みましたか?
感覚的なものなので言葉で説明するのは難しいですけれど、速い判断をするために自分自身が視野を広く持つこともそうですし、周りの情報を聞くこともそうなので、一概には言えないですけれど、勉強にはなったと思います。
――自分の中の迷いや余計なことを考えるという負の要素を無くすと判断は速くなりますか?
なります。試合になったら思い切って、ミスを恐れずにやるということしかないです。チャレンジすることに尽きると思います。それが絶対に良い判断に繋がると思います。敬介さん(沢木監督)も「自信を持ってプレーすれば良い判断に繋がる」といつも言っています。
――「良い判断ができるから自信に繋がる」ということもありますよね
最初はチャレンジするということだと思います。それが後に良くない判断だったとしても、良い振り返りや良いレビューができます。逆にチャレンジせずにミスをしたり、チャレンジせずに例え成功したりしても、得られるものはあまりないと思っていているので、チャレンジすることがまずは一番優先だと思っています。
――自分でチャレンジしにくい心境になる状況を把握していますか?
あります。僕の中ではチャレンジしていると思っていても、実際に1回振返ってみると消極的だとか守っていたなと思うこともあります。逆に勝っている時はチャレンジが出来ていない訳ではないですが、そのままのスコアで終わらせたいと思うこともありますが、そこでも常にチャレンジしてきたいというのはあります。パナソニックとの決勝は常に攻める気持ち、チャレンジする気持ちでできていたので、あのようなマインドを常に持っていないといけないと思います。
◆コントロールすることもプロ意識
――今回、日本代表とサンウルブズがあって休みなしのフルシーズンは初めてだと思いますが、どうですか?
とても充実していました。今しか出来ないので。ただその中でも2週間、どのタイミングでオフを入れているかなどをプログラミングしてもらっていたので、体としては良い状態でシーズンを終えることが出来ました。自分自身でメンテナンスをして、食事や睡眠や水分補給をしっかりとることが常に出来ていたので、怪我なく終わることも出来ました。ラグビーを成長できたという実感もありますし、試合に向かう準備やメンタルの作り方についても勉強できたシーズンだったので、今後に活かせると思います。
――もともと怪我は少ない方なんですか?
そうですね。そんなに多くはないです。自分で攻める時と守る時の判断が出来ているからだと思います。自分の中でやらなければいけないと思っていることがあります。フィットネスでもウエイトでも、体を追い込まなければいけないというのが常に持っているマインドなんですけれど、ただ自分の体にちょっとでも異変を感じたり、このままやると怪我をするリスクがあると思った時は、ちゃんとトレーナーに相談して、S&Cコーチに相談します。
自分の思っていることを伝えて、どうやって行きたいかを話して、少し練習量をコントロールしてもらったり、練習前に治療をしてもらって筋肉を温めて練習に向かったり、その辺はサントリーに来てできるようになりました。攻めないといけない時は絶対に攻めないといけないんですけれど、コントロールすることも自分のプロ意識だと思っています。そこにも勇気がいるので、大事なことだと僕は思っています。
――体に関しての興味がたくさんあって勉強しているんですか?
あります。勉強というか、いろいろな人の話を聞こうとはしています。トレーナーによっても違いますし、選手によって準備の仕方や体のほぐし方や食事の摂り方がいろいろと違うので、ある程度自分にあったものを見つけたいと思っています。今回のサンウルブズで、今まで僕はルーティンがなくて、今もそんなにルーティンという程ないんですけれど、どうやったら試合にベストに持って行けるかを、いろいろな人の話を聞いて実践してみて、ある程度固まってきました。
――ルーティンを持っていないということは何かあるんですか?
毎回の試合の日や前日に感じる体の重さやフィーリンングが僕は違うので、その時に合ったことをしたいというのが僕の考えなんです。なので、試合の日に食べるものもその時に自分が感じた必要だと思うものを食べたり飲んだりしますし、柔軟に自分のその時のベストな判断をしながら、体にも問いかけるということを僕はやっています。
――自分の体を分かっているということですね
そうですね。気を遣っています。そこはある程度敏感にはしていますけれど、行動としては柔軟に対応します。例えばナイトゲームの試合の日に少し眠りが浅かったりすると、お昼ごはんを食べた後にちょっと睡眠の時間を入れることもあります。逆にすっきりした状態だったら、そこでコーヒーを飲みに行ってリラックスすることもあります。自分の体がどう感じているかに敏感になって、それに対応するようにしています。
――普通の人はいつもと同じことをやっていて違いを発見するけれど、それをやる前に分かっているんですね
ルーティンの良いところも今言われた通り、いつも同じことをやって違いを感じるということは大事なことだと思うんですけれど、僕は自分のやり方の方が合っていると感じたので、そっちを選んでいます。
◆勝てる保証はない
――サンウルブズでもキャプテンをやりましたが、この役割はどうですか?
サンウルブズでは今回共同キャプテンで、2人キャプテンがいるという形でやりました。代表でもリーダーグループに入って常にキャプテンやコーチ陣とコミュニケーションをとっていて、いろいろなリーダーシップがあるということが発見でした。
――サントリーとの違いはありますか?
大枠は変わらないです。自分がハードにトレーニングをして、言うべきことを言って、自分がブレずにやるということは基本的には変わりないんですけれど、サンウルブズの時の方がもう1人キャプテンがいますし、ちょっと遠目で介入し過ぎないことの方が多かったかもしれません。サントリーにいる時の方がどちらかと言えば、しっかりとリーダーシップをとります。
――キャプテンが2人というのはどうなんですか?
難しいこともありますし、良いこともあります。難しいのはお互いの出番を見極めなければいけないこと。でも、そんなに問題はありませんでした。良かったのはゲームタイムをコントロールするという点で、スターティングの時もあればゲームメンバーではない時もあるので、その時に任せられるという形で、協力し合いながらできたので良かったです。
――大学時代もサントリーでもキャプテンをやっていて、自分に勝つカルチャーがあると意識していますか?
もちろん。今も2連覇していますし、大学時代は6連覇達成を経験して、どうやったら勝てるというのがある程度分かっていますけれど、さっき言ったように分かったつもりでそのレベルのことをやっていたら絶対に負けるので、常にどうやったら勝てるかを模索しながらやっていかないといけないし、新しいことをやることが大切だと思います。
勝てる保証は絶対にないので、常に勝ちを求めて、意思を持ってトレーニングをするしか方法はないと思っているので、監督が示すスタンダードに僕がみんなをしっかりと引き上げていくことが、とても大事だと思います。なので、これくらいやれば勝てるとは思わないですね。
――勝ってきたのにこれだけやって勝てる保証はないというのはなぜ?
パナソニック戦も最後は紙一重でしたし、ただハードな練習をしてきたという自信と、最後にゴールラインを絶対に割らせたくないという意志が、最後のモールでの相手のノックオンに繋がったと思います。練習で自分たちの自信をつけるしかないです。本当に紙一重のところでの勝負になっているので、もしかしたらディフェンスが入るタイミングをミスしてトライに繋がっていたかもしれないですし、本当に保証はないんですけれど、どれだけ練習をして自信をつけられるかだけだと思います。
◆タックルに行く
――負ける怖さはありますか?
あります。
――それはなぜですか?
勝っているからです。いつも試合の時は「絶対に勝てる」という自信を持って臨むんですけれど、ふとした時に「負けたらどうしよう」と思うこともないとは言えないです。逆にその不安が良い方向に働くことの方が僕は多いので、自信満々に行く時もありますけれど、ちょっと不安に思っていろいろなことを考えて、最終的にプレーに集中しようという思いになります。昨シーズンはリーグ戦でパナソニックに負けたことが、チームにとって最終的には大事なことだったと思います。
――負けの経験は高校ですか?
大学の時も僕の代では最後に東芝に負けたこと(第52回日本選手権2回戦)はとても悔しい経験でしたし、高校で花園で負けたこともそうですし、負けは僕自身をとても強くしてくれたと思っていますけれど、僕は勝利からくるエネルギーの方が、僕にとっては大きいと思っています。悔しさや敗戦からくるエネルギーも相当なものはあるんですけれど、勝利の喜びをまた味わいたいと思う方が僕は大きいです。
――今シーズンの最大の目標は?
3連覇です。そこにコミットする。テーマに対してどれだけ自分たちが壁を越えて行けるかが勝負なので、自分のリミッター、チームのリミッターを常に破壊して、超えて、ぶち壊して行けたら3連覇はあると思うので、毎日毎日勝負していきたいです。
――ポイントはぶち壊すところですか?
昨シーズンまでだったら「良い練習だった」と思ったところでも、今シーズンはもっと求めていかなければいけないと思っているので、そこを引っ張っていきたいです。
――プレーではどこが良くなっていきたいですか?
特にディフェンスのところで、自分自身がタックルに行くことと、チームを動かすところはもっとできると思っているので、そこを一番引っ張りたいです。アタックはいろいろな選手とコミュニケーションをとれていけば良いプレーができていくので、ディフェンスのところを1つ課題にしてやっていきたいと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]