2018年8月10日
#597 『チームワーク』
畠山健介 × 金井健雄 × 長友泰憲 第1回
畠山健介・金井健雄・長友泰憲選手。この3人の共通点は?
そうです、同期でみんな日本人最年長となりました。この同期のトリオに、今回対話してもらうことになりました。発案者は畠山選手。さてどんな鼎談になりますか?2回にわたりお届けします。(取材日:2018年7月23日)
◆あの時はこうだった
――3人とも個性的で同期という雰囲気があまりありませんが、何か一緒にすることはありますか?
畠山:全くないですね。
金井:全くではないんじゃない(笑)。
畠山:3人でLINEのグループがあるかと言ったらないし、3人でどこかに行こうということもないし...。昨年は僕とヤス(長友)だけだったので、網走の打ち上げでも2人で街に行くこともなく。今年は金井が戻って来たので、3人でなら行くと思います。
金井:行くでしょ!
――もともと同期は何人いたんですか?
畠山:もう1人、小田龍司という金井の慶應の同期です。
――4分の3が残っているのは優秀ですね
金井:気がついたら残っているという感じです。僕は残っているという感じではないですけれど(笑)。
畠山:そうですね。あとは、今の外国人選手で言うと、ジョーディー(ジョーダン・スマイラー)は、同い歳です。
――今年から日本人最年長ですが、感覚はどうですか?
金井:昨年まで2歳上に黄金世代がいたんですが、一気にいなくなって、不思議な感じと言えば不思議な感じなんです。
畠山:ヤスは昨年からバックスで最年長でした。僕とか金井もそうですけれど、最年長と言われても、そんなに意識してないです。
――同期という意識も、最年長という意識もないという感じですか?
畠山:そういう意味で言うと、同期という意識の方が僕はあります。
金井:ベテランという意識はそんなにないですね。
――同期の意識とは?
畠山:世代が入れ替わってきて、「あの時はこうだったよね」という話ができる人も限られてくるので、そういうところかなと僕は思います。
◆監督の数だけやり方がある
――畠山選手と長友選手はサントリーで5人の監督のもとでプレーして来て、金井選手も5人ですか?
金井:そうですね。敬介さん(沢木監督)の1、2年目を経験しなかっただけです。
――さらに金井選手は神戸製鋼でも1人、畠山選手も海外で1人ですよね
畠山:僕はイングランドで1人ですね。
――みんないろいろな経験をしていると思いますが、ラグビーはやはり監督によって変わりますか?
畠山:変わります。
金井:ぜんぜん違いますね。
――チームがガラッと変わることは多いんですか?
畠山:ガラッと変える監督もいれば、継承しつつ色を出す監督もいます。
金井:やる内容は表面的に見たら似ていたりはするんですけれど、こだわっているポイントや意識する点は違います。結果、やっている僕らとしては、「ほぼ別」みたいなラグビーになったりするよね。
――ということは、監督の数だけラグビーのスタイルがあるということですか?
金井:スタイルという程、デカいものではないと思います。
畠山:あとは、監督が「こうしたい」と突き進める自分でいろいろやっていくタイプなのか、あるいは選手を見て「こういうふうにしていこう」というタイプか、または両方できるハイブリットか、結構分かれると思います。
エディー(ジョーンズ/元監督)は、人を見て、ここのチームにはどういう選手がいて、自分はこのラグビーをやりたいから選手をどう育てていくか、というアプローチでした。そのアプローチの段階で、かなり言う必要がある選手がいたり、こっちの選手には同じ様に言う必要はないとか、選手を見極めながらやっていました。
その他には一律で「こうだ」という監督もいますし、一律で言葉をそんなにかけない監督もいます。そういう意味で言うと、監督の数だけやり方があります。ラグビーのスタイル自体はそんなに多くないと思いますけれど、やり方はあります。でも、必ずしもそのやり方がぜんぶのチームにフィットするわけではないです。
◆勝つためのハードワークをするチーム
――やり方は違うけれどサントリーのラグビースタイルは一緒だとすると、一言でサントリーのラグビーとは何ですか?
畠山:「勝つためのハードワークをするチーム」だと思います。
金井:「チームワーク」ですね。相手としてサントリーと試合をして、個々で頭抜けた感じのプレーはあるんですけれど、それに頼りきらない感じで、常にみんながサポートプレーや反応するリアクションプレーをしています。相手や仲間が仕掛けたことに対してどう反応するかを、みんながしっかりアンテナを張って反応できる感じがあります。そこは外に出てみて感じました。
――それはいる時よりも出てから感じたんですか?
金井:そうですね。神戸でやっている時に「これはサントリーだったら反応するんだろうな」ということもあったし、逆に自分たちのフィジカルを全面に出してやるということもあったので、そういう意味ではそれがサントリーの風土かなと思います。
――ハードワークと言うのは、例えばイングランドでやってみても明らかにハードワークだなという感じですか?
畠山:そうですね。積み重ねという意味で言うと、グラウンドでのトレーニングもそうですし、グラウンドを出た後の相手を分析することや次のトレーニングに向けてリカバリーをすること等、グラウンドだけではなくてグラウンドの外での行いに関しても徹底しているようなイメージです。
イングランドのニューカッスルがしていないかと言われたら、そういうわけではないです。向こうはリーグ自体が長いですし、1試合1試合の疲労度もかなり高いので、毎回毎回同じ準備をしていたら疲れてしまうと思います。なのでリーグやチームで、やり方が異なるのかなと思いました。僕もイングランドに行って他のチームを体験することで、サントリーとの違いや良さを感じられたので、とても良い経験をしたと思います。
――「出る」ということは良いことなんですかね?
畠山:悪いことではないと思います。ずっといることも素晴らしいことだと思うんですけれど、やっぱり客観視できると思います。「なんでこのチームは良いんだろう?」と思った時に、他のことを知らないと比べようがないと思います。僕はありがたいことに、サントリーにいながらそれを実現できました。
◆細かいことまで意識する
――サントリーの歴代継がれてきたスタイルとそれぞれの監督のやり方の違いがあって、今は一番強い時代のひとつだと思いますが、いま何が良いのでしょう?
金井:練習で細かいことまで意識するところですね。イメージとして普通のチームだと戦術的にこういう感じができていて、こういう流れでという感じができれば、とりあえず成功という感じだったんですけれど、サントリーは細かいところまでできていないと、それが練習のための練習になってしまうという位置づけになります。
サポートが相手のディフェンダーより早く行けるか等のちょっとした細かいところまで意識して、それができている、できていないというところまでこだわって、ちゃんと意識づけする。そういうポイントを指摘されていれば、常に意識づけできているので、試合中にも自然とできます。そんな細かいところまで、ちゃんとみんなが意識づけられているかどうか。それを練習中からできることが大きいと思います。
――これは沢木監督のやり方なんですか?
畠山:敬介さんもいろいろ勉強されて、いろいろな要素を取り入れてやっていると思うので、敬介さんのやり方だと思います。僕は戦術と実行力の部分のバランスが、とても取れているのではないかと思います。監督とスタッフが主に戦術をプランニングして、それを選手に落とし込みをして、実行に移すというバランス。戦術もしっかりしているし、それに対しての選手の実行力という部分で遂行できていることが、今の強みだと思います。
昔は選手の実行力が優れていて戦術がという時もあったし、戦術は凄いけれど実行力が伴っていない時もあったし、今はそのバランスが高いところで保たれているから強いのだと思います。
――それが保たれている要因はなんですか?
金井:選手の意識レベルが高いこと。1回1回の練習でフィードバックして自分で練習のビデオを見たり、逆にそういうフィードバックができない選手や休み中にしっかりとリカバリーできない選手はどんどん淘汰されていくという中でのプレッシャーがあります。そういうことがしっかりとできる選手が今残っていて、しっかりとプレーしている人が多いと思います。
――できる選手が多いからチームとしてできているということですね
金井:その土台もみんなで助け合うし、コーチから言われる人もいれば、仲間から「一緒にやろう」と言われる人もいます。
――それがさっき言っていたチームワークということですか?
金井:それも含めてあります。
◆自分たち発信のアイデア
――強いチームの秘訣がここにある気がしますね
畠山:あとは、選手の中にしっかりとリーダーシップをとる人、バックスで言えばコス(小野)とギッツ(ギタウ)がいるのは大きいですし、剛さん(有賀バックスコーチ)が選手からコーチになってやっていることもとても良いなと僕は思います。
フォワードに関しては特別優れたリーダーがグングン引っ張って行くというより、スクラムやラインアウトがある分、みんなで意見を出し合わないと成立しないので、その中でジョー(ウィーラー)がラインアウトでしっかりとコントロールして、コバ(小林)、テラ(寺田)、飯野、そこに今年は加藤も加わって組み立てていますし、スクラムに関してもフッカー中心になるべく組み立てて、そこに今年はアオさん(青木スクラムコーチ)がスタッフになって加わっていて、そういう要所要所でリーダーになる選手やコーチがいてくれているというのも、その選手のナレッジや実行力の部分を高めるための良い環境だと思います。
――良い要素が集まっていますが、足りていないものはありますか?
金井:そういう意味では監督やコーチのアドバイスでぜんぶ成り立っている部分があるので、個人の想像力ややってみたいことに関しては、選手がもっと発信して行った方が良いと思う部分はあります。ついていけば勝てるという部分があると思うので、考えなくなる選手も多くなるのかなと思います。
監督やコーチの意図を読み取るということばかりになってしまって、「こういうラグビーをしたら、サントリーがもっと良くなるんじゃないか」という自分たち発信のアイデアは、もっとあっても良いと思います。
――それを形にしていくためには成功体験を積み重ねていくということですか?
金井:それを話していくこともそうだし、練習の中で自分で少しずつ試していくということも良いかもしれないです。自分自身、そこに向けてやれることがあればやっていきたいと思っています。
畠山:僕はプロなのでグラウンドでのパフォーマンスが第一ですし、それ以外の態度の部分でとても求められるんですけれど、社員選手は仕事をしながら限られた時間でラグビーをして、家庭がある人もいます。社員選手の方がタフなシチュエーションだし、僕らも僕らでタフなので、状況が違うかなと思います。
――その状況がサントリーのプライドでもありますね
畠山:そうですね。
――そうすると「自分で何かをやってやろう」というのはプロの方がやりやすいということですか?
畠山:プロや社員関係なく、自分でいかにそこにコミットできるかだと思います。とても高い次元の話を求められているので、そこに「僕は社員だからついて行けません」とか「僕はプロだけど...」と言っているようでは強いチームにはなれないと思います。いかに自分でモチベーションを持っていくかは周りからのサポートももちろんあると思うんですけれど、やっぱり一番に自分がどう体と心をコントロールするかだと思うので、そこもタフさが求められていると思います。
◆サンゴリアスに入る感覚
――2人とも最初は社員ですか?
畠山:社員です。
――社員の時はどうでしたか?
畠山:今だから思いますけれど、僕はどちらかと言うとサントリーサンゴリアスに入る感覚の方が強かったです。いま思えば社会人として凄く甘い考え方なんですけれど、サントリーという会社に入社するというよりは、サントリーサンゴリアスに入部するという感覚の方が僕の中では強かったです。
金井:それはそれでハタケは最初からプロ意識があって、ちゃんと自分の優先順位を分かっている感じで良いと思います。逆に結構のまれてしまう選手は、「仕事もラグビーも頑張らなきゃ」と二足のわらじを無理矢理履いて頑張っているんだけれど、結局どっちつかずになるパターンが多いので、それだったら今しかできないラグビー中心に時間の配分を組み立てて行った方が、間違いなく良いと思います。
畠山:そういう意味で金井はバランスが良い方だったよね。
金井:仕事が上手くいかない時はラグビーに引っ張られることも多いので、そういう意味でキツい時はありましたけれど、基本は僕もラグビー中心で組み立てていたので、良かったと思います。
――結果オーライという感じですか?
金井:そうですね。時間がもっとあったらもっとやれることはあったかなとは思いますけれど、そんなことを言い出したら初めの土台の部分から変わってきてしまうので、そこは言い訳せずにやるのが社員選手の務めかなと思います。
――プロになって良かったと思うのはどこですか?
畠山:自分にラグビー選手としての投資ができること。可能性も広がります。
――もともとプロっぽい社員選手だったけれど、「やっぱりプロだ」と思ったきっかけはありますか?
畠山:単純に「もっとラグビーをやりたい」と思っただけです。
――それは何年やってみて思ったんですか?
畠山:1年くらいです。赤坂にあるサントリーの支店に行って、当時GMだった土田さん(雅人/現サントリービバレッジソリューション代表取締役社長)と面談させてもらって、「1年目で何を言っているんだ」と言われたのを今でも覚えています。「もう1年頑張ってから考えてやる」と言われて、1年頑張って「プロでも良いけれど、しっかりと結果を出せ」と言われました。それはそうですよね。
ですから最初の意識が「サントリーサンゴリアスに入部する」という感覚の方が強かったのが要因です。仕事がきついとか下手とか嫌いというわけではなくて、単純に「サンゴリアスに入っている」という感覚の方が強かったです。大学もそうです。金井は受験組で慶應に入ってしっかりと行事にも参加していると思うんですけれど、僕は推薦で早稲田に入ったのでラグビー部に入っている感覚の方が強かったです。だから、ずっとラグビーを主軸に人生が構築されています。
――根っからのプロなんですね
畠山:どうなんですかね。もともと「プロフェッショナル」は「専門」という意味だと思うので、ラグビー専門でやってきた人間として、そのマインドだけはずっとありました。
<※ここで長友選手登場>
◆2つのプレッシャー
畠山:完全な社員が来ました(笑)。
――今2人から社員からプロになった話を聞いていましたが、ずっと社員でいる長友選手はどうですか?
長友:ラグビーと仕事の両立は難しいですよね。2つのストレスがあるし、プレッシャーもかかります。会社の方には一応ラグビー選手という話はしてもらっていますけれど、部署ごとで対応が違うのでストレスはとてもあります。
金井:ラグビーしていることを関係ないと思っている人は、本当に関係ないからね。得意先も関係ないですし。
長友:得意先はやっぱりぜんぜん関係ないので、ちょっと疎かにしているとめっちゃ怒られます。「そっちはラグビーしていれば良いかもしれないけれど、こっちは関係ない」という人もいるので、そこはちゃんとやっていかないとです。電話でコミュニケーションをとったり、行ける時は会いに行ってコミュニケーションをとったり、事前に行かれない日を伝えたりしています。
――プロになりたいと思ったことはありますか?
長友:あります。2年目くらいですね。プロになろうかと思ったんですけれど、辞めてその先に何があるか考えた時に何もなかったので、とりあえずやりたいことが見つかるまでは社員でいようという感じでした。
――二足のわらじということですね
長友:やりたいことが出て来たら、そっちに行くというのも良いかなと思っています。
畠山:ニュージーランドでも現役中から辞めた後のキャリアを考えて、既にプログラムをしていたり、そういうサポートをしてくれるマネージャーもいます。別にプロだから辞めた後のことを考えていないというわけではなく、これはこれで本場のニュージーランドでもやっているようなキャリア形成をヤスはできているし、できている選手が多いと思います。
後はそこに対してのプロフェッショナルなマインドを、ラグビーのグラウンド上と仕事でどれだけ持てるか。問題なのはラグビーには持てるんだけれど、仕事でそのマインドが持てないと、辞めた後にマインドがないまま続けても苦しいだけになってしまいます。いかにそこで切り替えを上手くできるかが、そういうタイプの選手や社員選手に求められるのかなと思います。
――プロになってみて良かったですか?
金井:今のところ後悔はしていないです。もともといつでも仕事を辞めて良いと思って仕事をしていましたし、ラグビーもクビになったらなったで選択肢を持っていました。そういう意味で可能性のあることはすべて考えていたので、何が起きても動揺しないようにはなっていました。
――そこで自ら動きましたが、どう考えて動いたんですか?
金井:ラグビー人生の終わりが見えて、このまま二足のわらじで居続けて1つのことをやり続けられるかを考えた時に、「まずは一足にしてやれるだけやってみよう」と思ったという感じです。
――その辺で選択肢が違ってくるということですよね?
金井:そうですね。でも、ヤスもそういう意味では仕事を上手くやりくりしてラグビーを重点的にやっていたと思うので、そういう意味でしっかりできていたのかなと思います。
長友:やるべきことはやりながらも極力ラグビーの方に集中しようという感じでした。
畠山:それが凄いよね。俺はできない。
金井:逆にそれができたから、この3人はまだ残っているのかな(笑)。
畠山:あとは小田がいたので、小田は結構早めに言われてラグビーに区切りをつけて今は社業をしっかりとやっています。
長友:今は会社で結果も出しています。
畠山:人はこれを読んだ時にどれが正しいとか、どれが一番良いとか決めると思うんですけれど、自分にどのタイプが合っているのかを選べることがポイントだと思います。金井みたいに終盤になってプロになってやりきりたいという人もいれば、小田みたいに辞めた後に仕事で頑張る人もいれば、僕みたいに早めにプロにやる人もいれば、ヤスみたいに社員として上手くやりながらプロのマインドを持ってラグビーに臨む人もいて、どれが自分に合うのかを選択することだと思います。
(続く)
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]