SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2018年6月29日

#591 田村 煕 『ミスしても良いから、とりあえずやってみる』

入部から1年余りが経過し、チームの中心選手としていよいよ出番が増えて来そうな田村煕選手。ブランビーズ戦を挟んでその前と後の2回、ブランビーズ戦そして今シーズンにかける意気込みを訊きました。(取材日:2018年6月上旬、下旬)

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◆ブランビーズ戦前(6月上旬)

――春のオーストラリア留学はどうでしたか?

初めて海外でラグビーをやったので新鮮でした。1ヶ月間、キャンベラでブランビーズに帯同しながらクラブのチームで試合に出て、試合観戦して、またブランビーズの練習に入っていました。ゲーム期というのもあったんですけれど、ちょっと流しめで調整という感じで、練習のプレッシャーはサンゴリアスの方が高いと思いました。でも、コンタクトは強かったです。

――そこで一番得たことは?

まずは英語が喋れないのは痛い、ということを一番に実感しました。喋れないとなって、次に喋れないからやらないだと本当に何もできません。言葉はラグビーになったらあまり関係ないですが、最初の1週間はどうしてもお客さんになってしまうところがありました。ずっと15番に入れられていたんですが、10番に入ったら上手く出来たので、積極性とコミュニケーションの大切さは日本でも海外でも変わらないなと思いました。

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――一番面白かったことは?

日を重ねて練習で少し良いプレーをすると外国人ははっきりしていて、話しかけてこなかった人が話しかけてくるようになるんです。それが面白かったです。最初はどうしてもお客さま感覚で「1ヶ月間よろしく」という感じなんです。しばらくはどの程度の選手なのか全く想像せず接してくるので、自分がどうプレーするかで見方が少し変わってくると感じました。

――帯同したことによって得たことはありますか?

今は調子が上がってきていますが、僕がいた時はホーム試合が4~5試合くらいあって、1つレッズに勝っただけで後は全部負けていました。ブランビーズはそんなに負け続けるようなチームではないと思うので、勝てないチームが負けた時の雰囲気。伝統があって強いチームが上手くいかない時は、どこの国でも結構立て直すのが難しいんだなと思いました。

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――情報を集めてくるという意味ではどうでしたか?

ヒューイ(ピーター・ヒューワット/前バックスコーチ)が向こうに行っていて、ヒューイはサントリーでやっていたことをブランビーズに落とし込もうという雰囲気があったこともあり、あまり違和感はありませんでした。でも、特にフォワードのコンタクトは強いです。サントリーのフォワードの方がより動きますが、1つ1つのコンタクトが強いので、シンプルなアタックでもトライまでいってしまいます。そこは真似できないですが勉強になりました。今回の留学は1人で行きましたが、また行きたいです。

――さて、ブランビーズ戦のターゲットはなんですか?

絶対勝つことです。

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――自分のプレーは?

アタックで崩しに行きまくることです。相手がどういうディフェンスをしてくるか、どんな選手がいるか、どんなことが苦手か、どんなことが得意か、大体分かるので、まずサントリーはアタックし続けるしかないと思います。ブランビーズがキツくて動けなくなるくらい、嫌なところをどんどん突いていくことがポイントだと思います。

――それはチームにも共有しているんですか?

敬介さん(沢木監督)も自信をつけさせるために「昨年のワラタスより強いと思うけれど、勝てるし、勝たなければいけない」と言われています。どうしても強度は想像しにくいと思うんですが、ジョーディー(ジョーダン・スマイラー)は元ブランビーズだし、ギッツ(ギタウ)やショーン(マクマーン)はスーパーラグビーを経験しているし、やっぱりサントリーはもっと自信を持って良いと思います。「日本人は謙虚ですがもっともっと自信を持って相手のコンタクトに恐れないで行けば絶対に通用する」と外国人選手たちも言っています。それをみんな信じて、試合で出すだけだと思います。

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◆ブランビーズ戦後(6月下旬)

――実際にブランビーズと試合をしてみてどうでしたか?

強くて面白かったです。向こうに行っていた時にお世話になった人や一緒にやった仲間と試合が出来た楽しさと、普通にやり合えたということが楽しかったです。

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――勝ちましたけれど、個人としてもチームとしても通用するという感覚は?

ゲームの入りからそれは感じていました。

――それは実際に行っていた時の感覚と同じでしたか?

僕が行っていた時、ブランビーズは連敗していて、勝ったのは1回だけであまり良くなかったんですが、ワラビーズ(オーストラリア代表)にも何人か行っていて能力の高いチームであり、チームのカルチャーもあってとても良いチームだと思っていました。僕が日本に帰って来てから、ちょっとずつ勝ち始めて勢いに乗っていて、ワラビーズのためにメンバーが何人か抜けたままでやりながら自信を持って来ていたと思うので、どんなものかなと思っていました。サントリーも良い準備が出来ていたので、良い試合が出来ました。

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――どこが通用すると感じましたか?

最初のキックオフがレシーブでしたが、アタックすると決めていたのでフォワードは練習通りのアタックをしてボールを動かしたところ、ゲームプラン通り、狙ったところでしっかりとゲイン出来たり、反則を貰えたりして、相手にプレッシャーがかかっていることが分かりました。そういうところで、入りの部分で「いけるな」と思いました。

――沢木監督が「いろいろな戦い方をしたい」と言っていましたが、そういう意味ではブランビーズ用の戦い方をしたんですか?

そうですね。前半の最初の方と後半の最後にギッツ(ギタウ)が入った場面では、基本の大枠は一緒ですが全く戦い方が違っていました。いろいろな戦い方は出来ていたと思います。

――どのように違っていましたか?

点差もあると思うんですが、最初はサントリーがしっかりトレーニングをして来た「走ること」「ボールを動かすこと」を露骨に相手に出して、相手はそれを分かって明らかに嫌がっていました。逆に後半は点数が取り合いにならずに落ち着いて、サントリーがリードしている時は、セットピースからアタックをしました。最後は2点差で相手も取れると思っていたんですが、ゴール前にいてもサントリーが我慢して、少しずつサントリーが陣地を戻して、ブランビーズが攻められている間に74~75分くらいになっていました。彼らがボールを取り返してアタックした時にはもう遅かったと思うので、流れ的には良かったと思います。

――個人的にはどこが良かったですか?

動かして相手の嫌なところを攻め続けるというサントリーのラグビーを、前半の入りから出来たことです。ゲームプランをしっかりと理解して、ゲームに臨めたことが良かったところです。

――個人的には自信になりましたか?

やることが「攻める」とはっきりしていたので自信にはなりました。

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――チームとして勝ったことはどうですか?

大きいと思います。試合が終わった後にも話したんですが、晟也(尾﨑)もカジ(梶村)、他の選手もそうですが、たぶん口ではいつも通りと言っていたものの、アップ中も結構堅くて雰囲気も緊張していました。お客さんが超満員とまでは行かない中、自分たちがやってきたことを頭の中で整理しつつ、相手がどうしてくるか、どのくらいの強度なのかというイメージが出来ていなかったりしたんだと思います。

しょうがないことなんですが、アップの時はガチガチで、晟也も前半の最初にキックを蹴り出した時も思いっきり22mラインを踏んでいた(笑)ので、硬くなってるなと思っていました。ですので、次のキヤノン戦でも相手の強度に合わせてやってしまうのではなく、ブランビーズ戦でのとても良いスタンダード、強度も緊張感もスキルも含めたスタンダードを落とさないでやることが、次の試合、これからの試合では大事だと思います。

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――いよいよサントリーでのシーズンを迎えつつありますが、今の心境はどうですか?

ブランビーズ戦にはショーン(マクマーン)、ジョー(ウィーラー)、ヘンディー(ツイ ヘンドリック)の外国人選手が入って、一緒に試合をしたことが初めてでした。勢いに乗ったらとても良いし、逆に昨シーズンのリーグ戦のパナソニック戦みたいに負ける試合もあったり、誰かが怪我をしたり、いろいろなことがあると思うので、個人として自信を持ってやることが大事だと思っています。何よりもいろいろな試合を見たり、自分が出て経験したりしてイメージをしながら、しっかりと準備をしなければいけないと思います。

――昨シーズン、優勝メンバーの相手として練習してきたことが活きて来ますか?

昨シーズン、僕のポジションだったら最初はコスさん(小野晃征)が入っていて、最後はギッツ(マット・ギタウ)が入っていたんですが、2人とも持ち味が違いますが、ゲームをしっかり組み立てています。ギッツはNEC戦などチームとしてあまり出来が良くなかった試合、コスさんはヤマハ戦で最後にトライしていますが、ゲーム内容で負けていたという試合がある中で、それでも負けないというところがやっぱりあの2人の素晴らしいところだと思います。

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――自分自身は考えるプレーヤーだと思いますか?

考えるようにはしています。コスさんもギッツも相当考えていると思いますが、最後は絶対にシンプルで「行く時は行く、行かなかったらパスをする」くらいの判断です。そこに至るまではいろいろと考えていた上で、相手の位置によっての判断なんですが、僕は事前に相手がいる、いないというビジョンが足りていないと思います。パスした、まだしていない、ということの手前の段階で、まだ見渡すことが出来ていない部分があると思います。その後のスキルの部分は練習しているので、そこの状況判断の部分が2人にはあって、僕にはまだないものかなと思います。

――状況判断は練習できるんですか?

一番難しいです。結果に表れにくいとうか、自分の中で自信をつけてやっていくしかないので、出来ないとなってくるとどんどん見えなくなってくるんですが、練習中にプレッシャーを与えられたシーンの中で少し出来ると、あまり上手くいっていなくても出来たと思えるので、自信がついていきます。だから、どんどんチャレンジしていくことが大事だと思います。

本当に難しいので、気を許すと怠けてしまいがちです。やらないのは簡単なのですが、ミスしても良いからとりあえずやってみる。とりあえずやってみて、感覚としてこういう時は行けるんだというマインドになれれば、少しずつ分かってくるかなというのが自分の考えです。

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――調子が悪い時は気持ちが落ちている時なんですね

そうですね。考えなくて良いことを変に考えて、上手くいっていない時も結構あります。

――それはどうやって気がつくんですか?

1試合通してパフォーマンスが良くない時は本当に見えていない。自分でも何か考え過ぎていて、変に考え過ぎて全然体が動いていない時がたまにあります。

――普段からマインドセットには気をつけていますか?

ビデオでレビューする時にまず1人で見たいです。1回自分の中で噛み砕いてからディスカッションしたい。一番最初にみんなで見ると、みんないろいろ言いますが、それが嫌というか自分の中で整理できていない状態ではなく、まず自分のプレーを見てから周りと話すという流れが良いです。

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――開幕戦への目標は?

まずは試合にスタメンで出ることです。そうでなくても、どのポジションでも、どのタイミングでも試合に出た時には、しっかりとスタンダードの高いことができるようになることです。

――いよいよ出るぞという気持ちはありますか?

あまりないですね。いよいよというか、その時になったら思うかもしれませんが、今のところは出られるようにとりあえず1試合1試合やっていくしかないと思っています。

――順調に来ているということですね

そうですね。たぶん溜めていてバッと出せるほど開幕戦含めトップリーグは甘くないと思いますし、いつも通りやるしかないと思います。そのための準備をする試合が、今シーズンは開幕戦まで6~7試合あると思うので、怪我をしないで良いパフォーマンスを出すことを積み重ねたら、開幕には良い状態になっていると思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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