2018年5月25日
#586 加藤 広人 『自分の体よりもチームのために』
今年の新人連続インタビューの最後は、早稲田大学から入部した加藤広人選手。落ち着いた優しさと共に、キャプテンを経験したバランス感覚、その中にも熱い闘志を感じさせてくれるインタビューとなりました。(取材日:2018年5月3日)
◆結果を出せなかった4年間を証明できたら
――昨年は早稲田大学の100代目キャプテンというプレッシャーはありましたか?
100代目というプレッシャーは特になかったんですけれど、今年度のチームが100周年なのでそこに弾みをつけるために、というプレッシャーはありました。そして、そういうことに関係なく、自分自身が一番パフォーマンスを高くして、チームを引っ張らなければいけないというプレッシャーがありました。それが一番大きかったと思います。
――100代目に選ばれた理由は何だと思いますか?
1年生の頃から公式戦に出場させていただいていて、4年生の同期の中では試合に一番出場していましたし、国際大会にも代表で呼ばれて出ていたので、経験という部分で僕が一番あったと思います。経験があったり、自分で言うのもおこがましいんですけれど、実際に試合に出て活躍している選手が言う言葉には重みがあると思うので、そういう意味では僕しかいないと思いました。
――キャプテンとして自然に入っていった感じですか?
一応監督から指名をいただいたんですけれど、僕らの中でも僕と九州電力に進んだ黒木という副将がいて、この2人が下級生の頃から試合にずっと出ていたので、自ずと僕か黒木かでした。僕になった訳ですが、自然に違和感なくいけました。
――やってみてどうでしたか?
僕自身、それまでキャプテンの経験もありませんし、それこそ早稲田のキャプテンや4年生というのも自分自身初めての経験なので、分からないことばかりでした。先輩によく話を伺ったり、逆に心配されて声をかけていただいたり、いろいろ支えてもらいながら過ごしました。
――やりきった感じですか?
結果だけ見ると非常に悔いが残る結果ではあるんですけれど、僕自身4年間やってきたことで後悔することはありません。4年間で結果を出せなかった部分を、これからサントリーでトップリーグの試合に出て活躍して、大学時代の4年間を証明できたらと考えています。
――キャプテンの経験で得たことは?
周りを見ることができるようになりました。2年生くらいまでは自分のことで精一杯だったんですけれど、3~4年でリーダーに指名されるようになってからは、周りに気を配りました。例えば、いつもと様子が違う選手がいたら声をかけたり、パフォーマンスが落ちていたら声をかけたり、一緒に練習をしたりしました。周りに気を遣えるようになりました。
――優しい感じがしますよね
自分で言うのも何ですが、後輩とも仲良くしていて、面倒見がいいとよく言われます。
◆大役を任されるような選手になりたい
――サントリーのチームの雰囲気はどうですか?
日本一のチームだと、改めて実感しました。僕自身も日本一を目指していたんですけれど、実際は日本一とは遠い位置でプレーしていました。日本一は狙っていたものの、日本一には届かないところで毎年シーズンが終了してしまっていました。
大学では決まった人しか喋れていなかったのですが、サントリーは全員がよく喋っていて、そういうところを含め、改めて日本一のチームに来ることができてとても幸せだと感じています。
――早稲田大学出身で元サントリーの山下大悟さん、佐々木隆道選手は、2人とも早稲田でもサンゴリアスでもキャプテンを経験していますが、将来同じようにリーダーシップを取らなければいけないと感じることはありますか?
このチームに来た以上は全員がそうならなければいけないと思いますし、僕自身も受け身になっていたら絶対に試合には出られませんし、活躍もできないと思っています。どんどんリーダーシップを発揮して、それくらいの大役を任せられるような選手になりたいと考えています。
――サントリーの練習に参加してからどれくらいですか?
2週間です。
――手応えはどうですか?
今は右も左も分からない状態なので、チームに慣れることに精一杯な部分もたくさんあるんですけれど、その中でも少しずつ分かることが増えてきました。自分から発信したり、積極的にコミュニケーションが取れたりできてきています。これから菅平合宿が始まるので、そこでチームにいち早くフィットして、戦力になれるようになりたいと思っています。
――戦力になるために、自分が考える一番良いところはどこだと思いますか?
ラインアウトの空中戦の部分と、ハイパントやキックオフの空中戦のハイボールの競り合いが得意です。
――何が良くて得意なんですか?
身長がそれなりに高いということと、大学2年間はその戦術で起用していただいていたので、思いきりが良いというか、「ここで跳んだら取れる」という感覚がなんとなく分かります。
――高いボールを取る時は無防備な状態になりやすいので恐さもあると思いますが、どのように克服していますか?
最初、「競ってほしい」と言われた時は正直恐かったんですけれど、実際に僕自身が中途半端に競りに行って、相手に取られてしまってピンチになる方がもっと恐いと、少しずつ思うようになりました。自分の体よりもチームのために、という部分が大きいです。
――それは実際にやってみてどうやって克服していったんですか?
思いきって跳んだ方が絶対に強いですし、取れるんです。逆にビビって躊躇した方が競り合いに負けると思っているので、思いきりよく行けば恐くありません。
◆毎回勝負にこだわってやっていく
――今の時点での課題は?
コンタクトの部分とコミュニケーションの部分です。コンタクトは大学時代からの課題でもあって、少しずつ慣れてきて通用してくる部分もありました。トップリーグになると更にもう一回り二回りレベルが違うので、まずは早く体を大きく作って、体にフィットさせて、トップリーグレベルに馴染ませていきたいと思っています。
あと、コミュニケーションの部分です。大学とトップリーグのレベルでは、コミュニケーションの量も、人それぞれのリーダーシップも全然違いますし、しっかりと周りをよく見て、自分が思ったことや他人が気づけないことに気づいて発信できたらと思います。
――喋るのは得意ですか?
人前で話すのはあまり得意ではないです。
――コンタクトという部分とは、具体的に言うとどういうところになりますか?
どちらかというとボールキャリーです。帝京大学や明治大学などとのトップレベルの試合になると、僕自身がボールキャリーをしてもゲインすることがあまりできませんでしたし、逆に押し返されてしまった場面もあるので、課題だとずっと思っています。
――それを強化するのは、どこがポイントだと思いますか?
日々のウエイトトレーニングやS&C(ストレングス&コンディショニング)でグラウンドに結びつくスキルを取り入れてもらっているので、そこで自分なりに良い感覚をしっかりと早く掴むことと、体を大きくしていくことです。負けず嫌いなので日々の練習で毎回勝負にこだわって、徹底的にやっていくしかないと思っています。
――今は新しいことをやっている感じですか?
そうですね。自分自身はウエイトトレーニングもしていましたし、グラウンドでも使うところもあったんですけれど、サントリーと早稲田では結構違うので、こういう練習もあるんだと、いろいろと説明を聞きながら、自分でも噛み砕いて吸収している感じです。
――コンタクトの部分で、海外の選手とやったことがあると思いますが、その辺はどうでしたか?
僕自身の感覚では、全く歯が立たないという感じでした。止めることやボールを自分が持ち込んだら、出すことに精一杯ということが多かったと思います。
◆なんか楽しい
――お母さんの薦めでラグビーを初めたと聞きましたが、どのような経緯でしたか?
僕の小学校が1学年40人くらいの小さい小学校で、僕の代は39人で男の子が25人くらいいました。そのうちの10人くらいが、小学校1~2年生から地元のスクールでラグビーをしていました。友達のほとんどがラグビーをやっている環境の中で、小学校2年生に上がった段階で、母親に「そろそろスポーツを始めてみる?」という話をもらって、友達も多いしラグビーに行ってみよう思って、見学して体験してそのまま始めました。
――当時から体が大きかったんですか?
大きい方でした。でも、僕よりも大きい人がたくさんいたので、あまり目立ちはしませんでした。
――やってみてどうでしたか?
なんか楽しいという感じでした(笑)。友達も多いし、前にパスをしてはいけないという不思議なスポーツだし、覚えることもいっぱいあるけれど楽しくて、気がついたらずっとやっていました。
――他のスポーツに行きたい気持ちはなかったんですか?
小学校4年生の時に、野球部の友達に「野球って面白い?」という話をしたら、「面白いし、今ちょうど8人で、ちょっと練習したら出られるよ」と言われたんです。お母さんに相談したら「週1回だし、ラグビーを優先してやるんだったら良いんじゃない」と許してもらって、野球とラグビーの両方をやっていました。
――野球ではどこをやっていたんですか?
外野手です。打つ方も、わりと打てました。
――でも野球の方には進まなかったんですね
そうですね。これを言うと弱気に聞こえるんですけれど、野球はラグビーよりグラウンドに出ている選手が少ないのに、競技人口は多い。でも、ラグビーはグラウンドに出ている選手は多いのに競技人口は野球より少ないので、ラグビーの方が試合に出られそうだし、ラグビーをずっと続けてきていて、好きだという理由でラグビーを選びました。
――中学校でラグビーを選んだということですね
そうですね。中学校から部活でした。
――いつからずっと本格的にやろうと思いましたか?
大学2年生くらいです。
――大学に入る時はラグビーをやろうと決めて入ったんですか?
推薦で声をかけていただきました。当時は早稲田大学という名前があったら就職でも有利かなという軽い気持ちで入りました。でも、大学2年生からU20日本代表に呼ばれて、周りの帝京や明治の同期の堀越、尾﨑、梶村たちが、第一線で活躍しつつ将来の話をしていて、自分もトップリーグで続けたいと思うようになりました。
――大学でラグビーをやっていた時の面白さはなんですか?
勝った時です。体を大きくして走れなくなっているのに「もっと走れ」と言われたりする理不尽なスポーツで、キツくて、痛くて、辞めたいと思ったことは何回もあるんですけれど、勝った時はやっぱり気持ちが良いですし、楽しいですし、報われた感じがして、それがとても好きです。
――理不尽についての面白さとは?
体重を増やしているのに「走れ」と言われて、これは普通と逆のことをしているじゃないですか。例えば、アメリカンフットボールだったらコンタクトが強いとか、足が速いとか、ポジションにあったスキルを伸ばしていくと思いますが、ラグビーは全部をやらなければいけないので、普通ではあり得ないところが理不尽だと思います。でも、全員がストイックに追い求めている姿が魅力的だと思います。
◆小学校の卒業文集
――サントリーを選んだ理由は何ですか?
憧れ、夢でした。小学校の卒業文集にも「ラグビーの強豪校に入って、花園予選を勝ち抜いて花園に出場して活躍することと、サントリーサンゴリアスに入団して、日本代表になることが僕の夢です」と書いていました。サントリーOBの村井成人さんが小学校のスクールのコーチということもあって、ずっとこのサンゴリアスのマークとアディダスに馴染みがありましたし、ちょうどとっても強かったのでずっと憧れていました。その憧れは今も変わりません。
――小学校時代のサンゴリアスの魅力はなんですか?
小さかったのであまり覚えていないですけれど、昔から自陣でもずっとボールを回していて、そういうアグレッシブにアタックしているところが、かっこいいというイメージでした。
――小学生の時の夢を達成していますが、実際に入ってみてどうですか?
お話をいただいて一回練習に参加してもらってから決めたいと言われて、練習へ参加し、練習が終わった次の日に電話で「採用することが決まったから」と連絡をいただきました。そのあとすぐに母親に電話して、いつもは母親が先に泣くんですけれど、今回は感極まって僕が最初に泣いてしまいました。
達成感がないわけではないですけれど、ここが到達したいところではないですし、この先に自分自身が選手として目指すところがあると思うので、これからまた改めて頑張らなければいけないという気持ちです。
――大学時代に参加したサンゴリアスの練習は、かなり緊張しましたか?
そうですね。僕自身、3年生の春シーズンは怪我をしがちでパフォーマンスも上がらない中だったので、そういう不安や、人生がかかっているというか、自分の進路がかかっていたので、いつも以上に頑張るつもりでいたんですけれど、あまりパフォーマンスは良くなかったと思います。
――それでも通ったということは、「いざという時は強い」という自信になりましたか?
そうですね。何かしらは評価していただけたのかなと思っていたので、しっかりと自分自身を見つめて、これからもっと成長できるようにしていきたいと思いました。
――お母さんがいつも泣くというのは、節目などで頑張った時に泣く感じですか?
結構いろいろなところで泣きます。例えば、母の日にお花を送ったら、妹から「お母さん泣いてたよ」と連絡がきたり、誕生日プレゼントを送ってもそうです。
――お母さんとしても、まさかサンゴリアスでラグビーをやるとは思っていなかったんでしょうね
小学校の卒業文集を見て「スポーツで食べていける人間は本当に一握りだから、ちゃんと考えなさいよ」と言われていました。なので、僕自身も思い描いてはいましたが、ずっとラグビーでここまで来るとは思っていなかったです。
◆いつも以上に強気で
――ラグビーに対する覚悟は?
レギュラー争いや日本代表になる、そして日本代表での競争やプレッシャーの中で結果を出す、そういう部分を求めています。しっかりとその求めてきているものに負けないで、自分自身と向き合って成長して、まずはサンゴリアスで試合に出て、結果を出して代表に呼ばれるくらいの選手になりたいです。
――プレッシャーに勝つ秘訣はありますか?
僕自身はあまり自信がない方なので、表面に出すタイプではないんですけれど、始まってしまったらさっきのハイボールと同じで、もうやるしかないと思いきってやります。
――では、始まるまではかなり緊張しているんですか?
そうですね。早明戦の時はかなり緊張して、校歌斉唱の時に膝が震えていたりしました。
――でも、緊張があるけれど始まったらやるしかないという開き直りができるとすると、ゾーン(超集中状態)に入りませんか?
そうですね。観客の声も全然聞こえなくなります。一回も気になったことがありません。試合が始まったら何も気にしないという感じです。やっている時はゾーンに入った感じはしないですけれど、終わってみたら「そうなのかな」と感じます。やっている時は本当に始まったら何も考えない、いつも通りの自分で、逆にいつも以上に強気でやっています。
――いざ試合になったらそうなれるというのは自分の強みだと思いますか?
強みだとは思ったことありません。それが僕には当たり前で、他の人もそうなのかなと思っています。
――直近の目標は?
早くチームに慣れることと、慣れた中で自分の強みや自分の足りないところをしっかりと突き詰めて、まずは試合に出ることです。
――チームにはどの辺で慣れることができそうですか?
菅平合宿で戦術の落とし込みも入ってきて、一気に先輩たちとの距離も縮んでくると思うので、コミュニケーションが取りやすくなりますし、そこがターニングポイントになると思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]