2018年5月11日
#584 尾﨑 晟也 『どうなったら楽しくなるか考えながらやる』
チーム内にライバルがひしめくフルバックというポジションに挑む新人 尾﨑晟也選手。大学時代の日本代表キャップ3というキャリアをベースに、サンゴリアスのレギュラー、そして日本代表に向けての意気込みを訊きました。(取材日:2018年4月30日)
◆自分の持ち味を出せた
――一昨日までの遠征は?
NDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)という、サンウルブズでニュージーランドに行かないメンバーも合わせて、代表の共通理解やサンウルブズのアタックの理解、一貫した強化トレーニングをして、そのままニュージーランド遠征に行きました。
――手応えはどうでしたか?
3戦ありましたが、2試合しか出場できませんでした。ただ外国人と戦える機会は少ないですし、そういうところではとても良い経験になりました。まだまだ自分には足りない課題も見つかった遠征だったので、結果的には凄く良かったと思います。
――初めての参加ですか?
2017年にもNDSのキャンプに行き、去年はアジアのチャンピオンシップに、日本代表として行っていました。
――どんなチームと対戦したんですか?
ハイランダーズA、ブルーズA、ハリケーンズデベロップメントと3試合行いました。
――2試合出て、課題は見つかりましたか?
ディフェンスやコンタクトの部分はもっとレベルを上げなければと感じました。大きい選手に対してのタックルの強さやそういう相手に対して前へ出ることはまだまだ課題だと感じました。
――社会人として国内でやっていく上でも課題ですか?
同じです。
――良かったところはどこですか?
細かいハンドリングのスキルや、相手をずらすというところで言えば、通用する部分もありました。そこは凄く良かったと思います。
――自信は?
自分の持ち味はそこなので、それを出せたということは凄く自信になりましたし、トップリーグでも、次に呼ばれた時でも、どんどん出していきたいと思っています。
◆追い込んでいくディフェンス
――がっしりしていますが、昔からフルバックですか?
高校1年~2年生の時はウイングでした。3年生になって初めてフルバックをして、大学1年~2年生もウイングで、3年生からフルバックをしました。サンゴリアスでもウイングでプレーする可能性はあると思いますが、バックスリーは全体的にライバルが多いです。
――自分ではどっちが良かったんですか?
高校の頃は学年が1つ上にフルバックの上手い選手がいて、その選手が卒業で抜けたので、「やってみろ」という感じでフルバックをやり始めました。ウイングは自分でボールを持って走る場面が多いですが、フルバックは上手く味方を活かさなければいけないという違いがあって、最初の頃は悩みました。プレーをしていても上手くいかない時期が長かったんですけれど、大学3年生の時はボールを持つ機会が増えて、自分の強みであるランニングの部分では良かったと思います。
――そうすると、ウイングも良いのではないですか?
今ウイングをやるとなると3年のブランクがあるので、感覚の部分でどうかなというところはあります。
――フルバックの面白さは?
自分でボールを動かしながら味方を活かすことは、フルバックをしていて楽しいと感じるところです。あと、ディフェンスのところで一番目立つところだと思うので、それをしっかり止めた時は自分の中では嬉しいです。
――ディフェンスが課題とのことですが、良いところで止められる確率は?
チームによってディフェンスのシステムも違って色々あると思うんですけれど、大学時代の最後の方は結構止められていたと思うので、確率的には高いと思います。それがトップリーグや世界となってくると個々の強さは違うと思うので、タックルポイントまで行けるんですけれど、一発で仕留めきるという確率を今後の課題にしていきたいと思います。
――一発目で仕留めるためのコツは?
間合いの詰め方がフルバックは大事だと思います。少しでも遅れると、足の速い選手やステップの上手い選手に動かされるので、いかに相手の間合いを潰しながら自分でタックルの前に入れるかを大事にしていきたいと思います。シチュエーションによっても変わってきますし、瞬時に自分の一番良いディフェンスのポジションをとることが大事だと思います。
――獲物を捕まえる感じですか?
そうですね。イメージ的に言うと、タッチラインを上手く使いながらディフェンスをする点が大事だと思うので、そこにどんどん追い込んでいくディフェンスはできたら良いと思います。
――「人を使いながら、自分でもやる」、どっちが面白いですか?
僕は両方楽しいです。大学1年~2年生の頃はウイングというポジションだったので、トライを取るという気持ちが強くて自分でガンガン行っていました。ですが、3年からフルバックに転向して、自分が仕掛けて味方がトライというのも嬉しいという気持ちも、どんどん強くなりました。
自分が崩しながら味方がトライしてくれて、自分でも空いたら行けるという楽しさはあります。どっちもできるということは凄く良いことだと思うので、両方チャンスがあれば、どっちもチャレンジしていきたいです。
◆バスケだったら
――どこ生まれですか?
京都の宇治です。
――3歳からラグビーを始めたそうですが、その頃の記憶は?
そうですね。記憶があるとすると、最初はラグビーが嫌でした。
――それはお父さんに無理矢理連れて行かれたということですか?
父の影響でラグビーを始めたということもあって、漫画みたいに気がついたらボールを触っていました。父が社会人ラグビーをしていたので、気がついたらグラウンドにも行っていました。
――どこでやっていたんですか?
ユニチカという関西のチームにいました。試合は結構見に行きました。
――長男ですか?
長男ですけれど、姉が2人います。
――お父さんのプレーは覚えていますか?
あまり記憶はないです。ビデオで少し見たくらいです。
――ラグビーの何が嫌だったんですか?
ラグビーという競技を全く知らないわけで、最初の頃は記憶もないですしボールに戯れている程度だったんですけれど、小学生くらいになると仲の良い友達が野球やサッカーを始めて、ラグビーをやっている子は周りには少なくて、そっちに行きたくなったという気持ちが正直ありました(笑)。
――そこはどうやって乗り越えたんですか?
一度、父に「野球をしながらラグビーをしたい」と言ったら、怒られて諦めました(笑)。
――どう怒られましたか?
「アホか」という感じで終わりました(笑)。その後、小学5年生の時にバスケットボールを習いました。姉2人がバスケットをしていたのと、ラグビースクールが週に1回だったので、土曜日は暇でよく見に行っていたら「バスケットだったらやっていい」と言われました(笑)。バスケットをやってみて、少しラグビーと似ている部分があり、ハンドリングの部分やステップはたぶんそこから来ているのではないかと思うので、やっておいて良かったです。
――ラグビーが面白いと思い始めたのはいつですか?
小学3年生の頃に1個上の学年で試合に出始めてから楽しくなりました。自分で抜けて行けることが増えたので、そこから楽しさがありました。
――お父さんのポジションはどこでしたか?
ナンバーエイトとロックでした。
――でも、バックスを選んだんですね
そうですね。ラグビーを始めた当時は華奢でした。
◆1年生から絶対にレギュラーを取る
――中学生になったら部活の問題があると思いますが、どうしましたか?
ラグビースクールでやるか、中学校に行ってラグビーをするか、迷いました。ラグビースクールでは週に2回しかボールを触る機会がなかったので、中学校の部活として入った方が良いと思い、中学でラグビー部に入りました。
――中学校では自然にラグビーをやるということだったんですね
そうですね。小学校高学年からは、これからもラグビーをやっていきたいと思っていました。
――中学校の部活は面白かったですか?
そうですね。中学でラグビー部に入ったことで、小学生の頃とはまた違う楽しさを教わりました。
――ポジションは?
スタンドオフ、センターです。
――そこでパスワークを身につけたんですね
そうですね。タッチフットみたいな練習が多くて、個人の力がそこで磨かれたと思います。当時はそんなに強くはないラグビー部だったんですが、僕が卒業してから強くなりました。
――高校(伏見工業高校)で本格的なところに入ってみてどうでしたか?
京都の中学校では周りの学校とも仲良かったので、入ってみると知っている先輩もたくさんいました。上下関係は一応ありましたけれど厳しくもなく、ラグビーのしやすい環境でした。レベルも高いですし、「1年生から絶対にレギュラーを取る」という気持ちで入ったので、そこでがむしゃらにやりました。
――「1年生からレギュラーを取る」という気持ちはどこから生まれているんですか?
中学3年生の頃に選抜に選ばれたこともあって、その時から意識していました。やっぱり、やるからには試合に出ることが一番だと思っていました。
――試合に出ない時もあったんですか?
基本的には使ってもらえて、ずっと出続けていました。
――やるからには出るというのは、お父さんからのプレッシャーですか?
全然違います。それは自分です。
――やり始めたらお父さんは何も言わなかったんですか?
そうですね。自分の性格上、負けず嫌いということもあったので、それは出していました。
――自分の性格はどういうタイプですか?
ヤンチャでもなかったですけれど、あまり優等生ではないですね。小学生の頃も、中学生の頃も、キャプテンをしていました。高校もそうです。
◆自分だったらどうしよう
――大学の時は?
堀越康介がキャプテンで、僕はバイスキャプテンをやっていました。キャプテンは責任感が違うと思うので、そういうところでチームを引っ張るということは中学校でも高校でもやってきました。でも、大学は全然違いました。キャプテンと言っても、もっとレベルの高いキャプテンシップを発揮しなければいけないと思いますし、そういうところは大学で学びました。
――今までなぜキャプテン、バイスキャプテンに選ばれてきたと思いますか?
小学校の時はプレーで選ばれていたと思います。中学ではプレーにプラスして、コミュニケーションの部分で、試合中や練習中に色々と発言していたので、そういうところを見ていただいたと思います。
――コミュニケーションができるというのは持って生まれたものですか?それとも、考えたんですか?
考えたと思います。基本的に人見知りで、最初に様子を見てしまうタイプですが、ラグビーに関しては言おうと考えて言っていました。
――「自分で考えてやる」というそのもとは何ですか?
中学校の頃も他人のプレーを見て「自分だったらどうしよう」ということを練習中からずっと考えたりしていたので、それがラグビー中は染みついてきているのかなと思います。
――他人のプレーを見て考える時は、他人側に立って考えるんですか?
そうですね。自分がその人の視点に入って、「自分だったらこうパスをもらうかな」と考えます。練習中に待っている時に、先輩の上手いプレーを見ていました。
――それを見て良いと思って、次にやってみると自分もできる感じですか?
そうですね。色々なものを盗んでいました。
――そこは面白いところですか?
そうですね。楽しいです。
◆勝つこともそこまでも過程も楽しい
――高校生の頃にはラグビーをずっとやるという決意はしていたんですか?
そうですね。思っていました。小学校の卒業式で将来の目標を言う時に、「高校代表に選ばれて、外国人の選手と対戦します」みたいなことを言っていました。
――達成していますね
そうですね。最初は嫌いでしたが、ラグビーがだんだん面白くなってきてからは、自分にはラグビーしかないと思っていました。
――お父さんの作戦勝ちですね
そうですね。見事に(笑)。
――現時点でラグビーの面白いところはどこですか?
一番は勝つことだと思います。それから、ラグビーは試合中の一瞬の判断など、考えてプレーすることが楽しいと思います。いま自分の中でどうやったら楽しくなるか考えながらやることが、ラグビーの楽しさです。
――「勝つこと」は何が楽しいですか?
試合に勝つということは楽しいですけれど、練習でその試合に対して個人やチームで色々と準備をしたことが上手くいって、試合に勝つことが一番楽しいです。結果としても楽しいですし、そこに行くまでの過程も楽しいと思います。こういう考えになったのは、大学からだと思います。帝京大学で監督から教わり、心理やチームで考え方を共有してそこに向かう楽しさは、大学の中で学びました。それがいまの自分の考えになっていると思います。
◆もっと笑おう
――サントリーの練習に初参加してみてどうでしたか?
練習時間が短い中にも高強度で、全員がしっかりとコミュニケーションを取りながらやっていることが、やっぱり楽しかったです。もっと早く、自分をどんどん出しながらやっていきたいと思いました。
――いまのターゲットはどこですか?
今シーズンの目標はサンゴリアスのレギュラーとして日本一になって、3連覇に貢献することです。あと、個人的には日本代表に呼ばれて、2019年を目指すということが、今の目標です。
――レギュラーになるという具体的なイメージは?
このチームを選んだ時に代表レベルで活躍するバックスリーの選手が、多いことが選んだ理由のひとつでもあります。そこで色々な競争があって、それを勝ち取ることが日本代表に近づくと思って選びました。
具体的には、自分より上手いところを持っている選手はたくさんいると思うので、練習中でもそういうところを見て吸収しながら、自分の成長に繋げていきたいです。弱気になるのではなく、積極的に色々なところに勝負していきたいです。
――弱気になる癖はあるんですか?
あまり弱気になることはないです。ラグビーに関しては強気です。生意気と言われます。
――あまり生意気には見えませんが、どういうところでですか?
普段、仲の良い先輩をおちょくったりするタイプなので。そういうところは見えないと思いますが、上手く隠してやっています(笑)。
――チームメイトに同じ匂い、感覚というのは感じますか?
そうですね。サントリーのチームの雰囲気は凄く良いなと感じます。社会人になるとどこもそうだと思いますが、先輩とのコミュニケーションがガチガチしていないというところが良いですし、でも言うところはしっかり言っているところで、オンとオフの切り替えは、サントリーは凄いと思います。
――グラウンドの中で笑顔になることはありますか?
試合中に感情を出すことはあまりないです。でも、良いプレーがあったらちょっと笑っていると思います。僕は喋ったら普通に喋って笑いますけれど、大学の時にファンの方から「喋りかけにくい雰囲気あるよね」と言われたことあります。そこからもっと笑おうかなと思っています(笑)。
――無理矢理連れて行ってくれたお父さんへの気持ちは?
いまはラグビーを薦めてくれて本当に感謝しています。小学生や中学生の頃は厳しいアドバイスもありましたけれど、今はわざわざ東京まで来て応援してくれています。ラグビーで僕が結果を出すことが父にとっても嬉しいことだと思うので、サントリーでも応援してもらえるように頑張ります。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]