SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2018年4月27日

#582 金井 健雄 『好奇心と恩返し』

海外と国内の別のチームを経験して、2シーズン振りにサンゴリアスにカムバックした金井健雄選手。2年間の思い、そして今シーズンに賭ける意気込みを訊きました。(取材日:2018年4月17日)

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◆魂

――チームに帰って来て、クラブハウスに来て、どんな感じでしたか?

懐かしい感じはありましたけれど、変わったところや変わらないところを感じました。でも、まだ1日目です(笑)。すでに感慨深いものがあります。

――特に感じるところはどこですか?

変わっているところはメンバーです。サンゴリアスに入ることを決めてから、昔の自分が出ていた試合の映像や2連覇している映像を見ました。やっているラグビーは似ていても、人も違うし、コミュニケーションも違うだろうというところで、全く別とは言わないですけれど、ほぼ別のチームとして自分がそこに入って挑戦していくという気持ちです。

――その中で以前と共通しているものはありますか?

一人一人が努力することと、組織で支え合っていくというところは感じます。昨日の練習を見ていても、お互いがお互いを鼓舞し合っていることや、ウエイトに関しても限界に挑戦していることをみんなやっていて、魂だと思いました。

監督やスタッフ陣を含めてチームの雰囲気は変わっていくと思うので、その辺に関しては8年間いていろいろ感じたんですけれど、その中でも今の雰囲気は良いと思います。

◆どこに行ったとしても通用する実力

――なぜサントリーを出たんですか?

サントリーで勝ちも負けも両方経験して、そこから先に進んで行くには組織力ももちろんあると思うんですけれど、個人としてどこに行ったとしても、即戦力として通用するような実力をつけなければいけないと思いました。自分のラグビーの終わりが見えた時に、チームが良い時は良い、チームが悪い時は悪いだけではなく、自分で何かを作れる部分がないのかなと考えました。もうちょっと自分の実力があればやれることも増えるだろうと思い、海外に行くなり、違うチームでやるなりして、やってみたいなと思いました。

――挑戦がないと成長がないという感じだったのですか?

一度離れるまで8年間いて、自分の中でこのチームでやっていく青写真みたいなものは1年1年変わっていたんですけれど、変わる中でも予想できてしまうところが出てきました。優勝する可能性はこういう感じだろう、負ける時はこういう感じだろうということを、ある程度このチームの中で掴むことができて、そういう中で変に予想してしまうことが自分の中で面白くなかったんです。

――その予想は当たっていましたか?

あまりはずれないです(笑)。そもそも日本で勝ち続けられるチームがいくつあるのか、という話もありますけれど。

――勝敗の分かれ目は何なのか、それを掴んでいる部分はありますか?

選手の質やレベルは、僕の中ではみんな変わらないと思っています。でもやる内容や準備する内容によって、その人の成長は変わってくると思っています。その中でも、体の機能や心の準備や戦術の細かいところを含めて、この試合はこう戦うというのもありますし、自分たちで立ち止まった時にこういう戦い方をするということも含めて、オプションというか大まかなものができているチームは勝てると強く感じました。

――その場その場でやっていくというより、大きな流れがありつつも1つ1つしっかりやっていくということですね

そうですね。優勝を見据えての一戦一戦だったら良いんですけれど、一戦一戦やっていく中で何か見えるものがあるのではないかという考えを選手やコーチが持ってしまうと、転んだ時に立ち直れなくなります。負けたら全てが否定されるということになってしまいます。そうではなくて、自分たちがちゃんと思い描いて「これで優勝する」と決めて、一回負けてもちゃんと立ち返れるところがある、そういうところに関してしっかりと描けているチームが勝てると思います。

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◆オーストラリアとニュージーランド

――自分の成長のための挑戦で、最初は海外のチームを目指しましたが、大変でしたか?

僕が行っていたところはクラブチームだったので、とっても大変ということではありませんでした。そこから信頼を勝ち取るということも含めて、自分の楽しみの一つでした。プロ契約でいろいろあたってみましたが、ビザの関係も難しいところがあって、この2~3年でまたチャンスがあれば行こうとは思っています。まずは腰を据えて、もう一度思う存分やってみても良いかなと思っています。

――海外と国内含めて、プロになったことがこれまでとの大きな違いですよね

1年中ラグビーをし続けて、1年中試合ができたら僕は良いと思っています。歳もあって、あと何年できるか分からない中で、自分がどれだけできるかでチャレンジできているのは幸せなことです。

――プロになる時の怖さはありましたか?

怖さはありましたけれど、楽しさの方が大きかったです。

――国はどこに行ったんですか?

僕はオーストラリアとニュージーランドです。

――本場のラグビーを実際にチームメンバーとして体感してみて、どうでしたか?

短期間いるのと中期間いるのではまた違って、がっつりその中に入ってできたと思います。その中で、どういう人が選ばれていくかということを含めて、いろいろと体感できました。レベルはそれほど高くないチームもありましたけれど、そういう中で選手たちが生活しながらラグビーをどうやっているのか、しっかり学べたことは良かったです。

――向こうはプロなんですか?セミプロですか?

最初はクラブチームで始めて、強くなればスーパーラグビーの下部組織に入れてもらうか、州代表として直接契約するか、スーパーラグビーと契約するかなんです。

――州代表やスーパーラグビーの下部組織みたいなところに行けばプロということですか?

そうですね。でも、下部組織に入ってもまだ給料は低いので、働きながらになると思います。

――どこのチームにいたんですか?

キャンベラのバイキングスと、クライストチャーチのイルヴァ―シティ・オブ・カンタベリーの2チームに1年ずついました。

◆いかに力を出すか、勢いをつけるか

――自分でここが伸びたというところはどこですか?

体の強い相手と戦ってフィジカルを伸ばしたいという思いがありました。体の強い人たちとコンタクトプレーをして、自分がどれだけコンタクトの部分で負けないようにするかが課題だったので、そこら辺はある程度身についたと思います。

――最初のうちは負けていたんですか?

負けていたというか、本当に慣れの問題だと思います。普通に日本でやっている時は70~80%でコントロールしていくところを、90~100%で当たらないと当たり負けてしまう状態で、いかに力を出すか、勢いをつけるかという部分では考えながらできました。

――セットプレーの中で伸びたと思うところは?

フッカーもやっていたので全体的な流れというか、スクラムに関しても違う視点から見ることができました。サンゴリアスでは1番をやると思いますが、そういうところで還元できると思います。

――違う視点とは?

フッカーでやると感じることができる、スクラム全体の視点です。使うかは分からないですが、スローイングもそれなりに経験してきました。

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◆ラグビーをもっとやりたいと思えた

――神戸製鋼にはどれくらいいたんですか?

夏合宿から合流し、シーズンとしては神戸製鋼で2シーズンやりました。春は南半球で、夏以降は日本でやりました。なので、試合数は稼げたと思います。

――神戸製鋼ではどうでしたか?

神戸製鋼ではほぼほぼ試合に出ていたんですけれど、リザーブの方が多かったです。もう少し出たかったという思いはありますけれど、こんなものかなとも思いました。

――神戸製鋼に行ったきっかけは?

キヨさん(田中澄憲/元チームディレクター/現明治大学ヘッドコーチ)にいろいろと相談に乗ってもらいました。いろいろとサポートしていただいて、とても感謝しています。

――その時はまさかサントリーに戻ってくるとは思っていませんでしたか?

そうですね。思っていませんでした。優勝も経験したし、日本のラグビーに悔いはないと思って出て行ったので、あの時は戻ってくるとは全く思っていませんでした。

――神戸製鋼でやったのは1年中ラグビーをやっていたいという思いからですか?

そうですね。「ラグビーができればどこでもいきます」というイメージでした。与えられた環境で自分がどれだけ評価されて、どれだけ発揮できるかという部分で挑もうと思っていました。

――ニュージーランドやオーストラリアよりも、日本の方がプロというものに対する意識が高まりそうですか?

海外で一個人としてラグビーをやってみて、ラグビーの原点に触れられて、僕としてはまずラグビー自体を楽しめる、もっとやりたいと思えるようになりました。日本でこれからずっとプロとしてやっていって、それが自分にどう影響するか。サントリーを辞める時も、中途半端にやるくらいならラグビーを辞めて、社業に専念しても良いと思っていたので、どちらかの選択にしようとは思っていました。そういう意味ではどっちにしても踏ん切りがついて良かったと思います。

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◆まだまだ成長できる

――ラグビーの原点の面白さはどこですか?

やらされない、自分で進んでラグビーをやる、自分たちで想像力を働かせてやる。日本でやるラグビーと違って一発狙いのプレーをどんどんしますし、そういうプレーをいつも見ているから周りもそれに反応できます。自分が見たことがないようなプレーする人たちに触れて、「なんてラグビーは自由なスポーツなんだ」と思いました。

――批判ではなくて、日本はコーチングのし過ぎですか?

そうではなく、日本は日本の体質に合うようにやれば良いと思います。逆に今はサンウルブズを見ていて、ニュージーランドの監督だったら普通の戦い方なんですけれど、日本の選手だったら切り替えるのが大変そうだなと思って見ています。

――文化の違いがあるんですかね

そう思います。ゴール前でチャレンジすることとスクラムやモールのセットプレーから押し進めて行く割合は、9:1、8:2くらいの割合で良いと僕は思っています。そういう意味では日本人的な考え方なんですけれど、海外ではチャレンジして相手にボールを渡してしまう確率が50%でもどんどんやっていくという感じなので、その辺の部分で選手と監督がリスクをどう判断していくかだと思います。

――神戸製鋼での自身の成長はどこですか?

神戸製鋼の選手はみんな体が強かったので、そういう部分で一緒にやれて良かったと思います。ベスト4で勝ちに飢えているチームにいて、これからどうしていくかについて話し合って、一緒に過ごせたことは良かったです。

――再びサントリーに戻ってきた理由は?

個人でいろいろやってきて、もう1回組織の部分でアプローチを変えて、その中から自分の成長を感じられたら良いと思いました。ないものねだりではないですけれど、外から見ていて基本がしっかりできているチームは、どういう練習をしているのかということに凄く興味を持っていました。今までやってきて気づかなかったことや外から見て分かったこと等、そういう部分でまだまだ成長できるし、サントリーは勝っているので僕が特にサポートすることはないと思いますけれど、逆に僕がいろいろ見てきたことを還元できたらなと思います。

――春は海外に行くんですか?

今年は行かないです。

――来年になったら行く可能性もありますか?

そうですね。そんなに強くは思ってはいないですけれど、いろいろチャンスがあればと思っています。

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◆やれるんだからやって良い

――プロは大変だと思いますが、楽しさが勝って大変さはないという感じですか?

好奇心だけで生きている感じです(笑)。帰って来たのは好奇心と恩返しです。

――8年間やって出たことがターニングポイントで、社員からラグビーのプロになると思った根源的なきっかけはありますか?

3~4年目から少しやってみたいと思っていたんですけれど、大けがをしてしまいました。その後、いろいろと自分でも説明をつけながらどういう方向に行くべきか、いろいろと考えました。普通に考えたら遅すぎると思うんですけれど、そこは誰が決めるわけでもないですし、自分が思うところが重要だと思いました。誰かに評価されても関係なく、今やっている人たちがどう作り出すのかが全てだと思うので、普通の考え方に疑問を持って「やれるんだからやって良いじゃん」と思って決めました。

――もっと戻ると大学を卒業する時にもプロになる可能性もありましたよね

大学を卒業する時は銀行員になろうと思っていたので、ラグビーをやるかも分かりませんでした。まずはラグビーを続けようと思ったので、プロという考えはありませんでした。

――社会人を経験していく中で、これはプロでやった方が良いと思ったんですね

社会人でやっていく中で誰もが感じると思うんですけれど、社会人から上のラグビーはないし、ここで気持ちが切れたら引退するんだろうと自分も思っていました。ところが世界の名立たる選手が日本に来てプレーするのを見て、まだまだ自分には目指すべき上のところがあると痛感させられました。そこからプロ意識を持ち、仕事をしながらでもラグビーに対してプロ意識でいる気持ちでしたけれど、日本で優勝したからってまだまだ何かを得たわけではないし、まだまだやるべきことがあるし、まだまだ上があると思って、やれる限りやろうと思いました。

◆いつでも逃げられる

――1つ1つステップアップして決めていくためには、その時点での自信がないとできないと思いますが、いかがでしょう?

自信はないですけれど、決めたら行くしかないです。自分の中で1つしか選択肢がない状況は作らないようにしていて、何個かのオプションは持っているようにしています。ラグビーをしていないバージョンもあるし、ラグビーをしているバージョンもあるし、そういう意味では自分が今持っている選択肢の中で、新しい人に会ったら新しいオプションが増えるかもしれません。

そういう選択肢から自分で選択していることで、選ぶ自分の決意さえあればなんとかなると思っています。それでもし敗れたとしても、ちゃんと自分の中で違うオプションを持っているので、そういう意味では何が起きても、怖いのは怖いですけれど、そんなに怖くないです。

――ある意味、欲がないですね。ラグビーに対する欲はあるけれど、それ以外の欲がないですよね

よくみんなに言っているんですけれど、今ここで死んだとしても僕は満足で、でもまだ生きられるなら自分がやりたいことや、自分がやっておくべきことをやろうと思っています。やらない理由づけをみんな探しがちですけれど、僕は「今更」とか「年齢」とか関係なく、いろいろやれることを潰していこうと思っています。

――選んで実行してを繰り返して、結果的に後を振り返ってみると、どんどんラグビーの真髄に近づいているような動きをしていますよね

どうなんですかね(笑)。でも、大学生の時にやりたかったことを今選択してもできると思っています。大学の時に選ばなかったとしても、その道は今からでも行けると思っています。そういう意味では、今ある選択肢以外の過去の選択肢もあると思っています。

――それを持ちながら進んでいるんですね

はい。引きずっていると言えば引きずっていますしし、自分のイメージの中で、良いイメージを持っていると言えば持っています。

――面白いですね。それは切羽詰まらないリスクヘッジのようなものかもしれないですね

そうなんですかね。1つのものにずっとのめり込んでいくというのは、苦手な方なんです。今はのめり込んでいると思われるんですけれど(笑)。いつでも逃げられるし、いつでも辞められるという意味では、そうかもしれないです。

――でも、いつでも辞められるのにラグビーを選んできているのはなぜですか?

なぜでしょうかね(笑)。それも有限と言えば有限だからかもしれないです。自分の体を含めて、まだ限界を感じたことはないですが、自分のやっていきたい次のキャリアも含めて、全部の中でいろいろ考えたりはしています。

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◆腹を括っている

――サントリーでは何をやりたいですか?

ナンバー1たる所以というか、もともといた組織に帰ってきて、自分の価値観がどれだけこの2年間で変わっているのか、そしてここの環境がどれだけ変わっているかというところで、もう1回チャレンジできる環境があるわけで、それが凄く良いと思います。ベテランとして扱われて、重要な場面だけで結果を出せば良いと思われているようなチームだったら、年老いてただ死んでいくだけだと思うので、もう1回チャレンジをして自分がどこまで食らいついていけるかで、自分の体や頭をどれだけ使いこなせるかという部分で、フル活用していければ良いと思います。

――最初にサントリーに入った時の感覚とは違いますか?

そうですね。やっぱり感じ方、決意の仕方で、もう腹を括っています。ダメだったら1年でクビになりますし、そういう意味で実力がなかったらいつでも切ってくれて構わないので、1年1年を楽しんで、結果にこだわりたいです。

――具体的な目標はありますか?

ラグビーのプレーを全部したいです。欲張りなんですけれど、もともとセットプレーが第一で、プラス αを出せる人が試合に出られると僕は思っているので、まずは自分のやるべきポジションの仕事をしつつ、他にあるラグビーの楽しめる部分、ポジションではなくフィールドで楽しめる部分を、フィットネスをつけつつしっかりと関われるように目指していきたいと思います。だからと言って、チームに迷惑をかけるつもりはないので、チームのわがままにならない程度になると思います。

――かなりな意気込みでかなりな鍛え方をしないとできないですよね

はい。この2年間で、ある意味もう1回自分の体を見直して、怪我をしない体づくりはできてきていると思うので、そういう意味では伸ばせる自信はあります。

――怪我をしにくいポイントはなんですか?

関節が固くなって、筋肉が固くなって、肉離れが多くなって、というのは引退する人の三拍子みたいなものですが、今までふくらはぎや腿裏など肉離れしやすかった部分の使い方を、筋肉強化以外の部分で気をつけています。関節を滑らかに動かすことを含めて、自分の体や他人の動きを見ながら、自分の中でどういう動きをしたら一番負担がかからないのかを、いろいろと考えながらやっています。

――3年ぶりに戻って来て、ファンの皆様へ

今いるサントリーの人たちには、もちろん変わらぬ応援をして欲しいです。そしてあの頃のメンバーがまだいて、まだこれだけできるということを中年の方にも勇気づけられれば面白いし、新しく見に来た人でも「サントリーは凄いね」「あいつなかなか良いプレーできる」と言われるようにやるつもりではいます。人それぞれ見方は違うと思いますが、入ってくる人にはサントリーの良さを伝えるし、僕を知っていた人にも「まだまだ頑張っている」「まだまだできる」というところを見せたいです。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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