2018年3月16日
#576 中村 亮土 『一歩を踏み出せた』
トップリーグプレーオフ兼日本選手権決勝戦、試合開始5分の先制トライでチームに勢いをつけた中村亮土選手。シーズン終盤になるにしたがって、その潜在能力を存分に発揮し始めたのではないでしょうか。進化を続けている中村選手に、現在の心境を訊きました。(取材日:2018年2月14日)
◆ルーティン化
――2017-2018シーズンを振り返って、どんなシーズンでしたか?
本当に苦しい時期もあって、それを乗り越えて、我慢しながら自分にフォーカスを当ててやってきたシーズンの中で、最後にチームとして結果も出ましたし、自分としてもその場に立てて、結果を出せたので良かったと思います。
――自分にフォーカスを当てるとは?
チームの目標は2冠で、チームとしてはぶれずにやっていたんですけれど、チームが目標に向かう中で、自分がどういう立ち位置にいられるかを自分自身に問いただしていました。そうやって毎回自己分析や、自分がどういう存在であるべきかを考えながら行動していました。
――今週はこんな存在、次の週はまた変わってこんな存在、ということですか?
基本的にあまり変わることはないんですけれど、それを自分の中でできているか、できていないかをはっきりさせながら、次に自分にどういうフォーカスを当てて、どういう意識で取り組むか。そこを毎回の練習や試合で反省して、また次に繋げられるような自分の時間は作っていました。
――一貫した自分の存在意義をあえて言うと?
頼れるプレーヤーになりたかったです。賭けではなくて、安心して試合に出させてもらえるプレーヤー。ノンメンバーからも、メンバーからも、スタッフ陣からも、こいつだったら大丈夫だなという選手になるための、準備や練習を意識していました。
――そのための準備とは?
準備はあくまでも試合で良いパフォーマンスを出すための準備なので、自分の中で準備が良かったから良いパフォーマンスができたというのはただの自己満足。良かった時のパフォーマンスを振り返って、そこで何が良かったのか、悪かった時は何が悪かったのか。それらを分析しながらしっかりとしたルーティンを確立して、最後の4試合くらいは臨むことができました。それに関しては一つ、シーズンの中で学んでルーティン化したということがあります。
――ルーティン化できたのは初めてですか?
そうですね。あまり僕はルーティンを持たない人間でした。ルーティンを持つと、それをやらないといけないプレッシャーになってしまうという僕の考えがあったんですが、やっていくうちにルーティンを作っても良いのかなと思いました。それで自分の良いパフォーマンスが出せるのならば、ルーティン化しても問題ないと感じました。
◆自分のトレーニングを見つけられた
――2016-2017シーズンは、それで葛藤したことがあったのではないですか?
そうですね。振り返ると、安定した選手ではなかったのかなと思います。今でもずっと一律なプレーができるかと言われたらまだ分からないですけれど、今そこが問われていると思いますし、2016-2017シーズンよりは一定のパフォーマンスがちょっとレベルアップしたのかなと思います。自分ではやっているけれど結果も出ませんでしたし、パフォーマンスが良くても続かなかったので、そこで自分の中に葛藤がありました。
――そのルーティンは例えばどういうものですか?
今までやっていなかったところに刺激を入れました。お尻の方に今までやっていなかったバランス系のトレーニングを取り入れたり、ちょっと他人と違ったトレーニングをベースにしていて、それが僕の中で、はまったのかなと思います。
――これは良いなと感じたのはいつですか?
本当に最後の方です。最後の4~5試合くらいの時でした。体調の問題で、スクワットみたいな重い負荷をかけてウエイトとかもできないですし、ある程度筋肉は付いてきていたので、それとは別にその時間を使いたいと思って、SC(ストレングス&コンディショニング)コーチと相談しながらやりました。
――意外なところにあったんですね
そうですね。その一歩を踏み出せた気がします。自分で見つけた感があります。
――今までも新しいことに挑戦していたんですか?
それこそJP(ジョン・プライヤー)が来た時はJPのメニューをやって、とりあえずパフォーマンス自体は良くなった感じです。でも、JPが帰ってからは続かなかったりしました。本当の意味で自分のトレーニングを見つけられたということは、今後にとって大きいと思います。
◆いつでも出られるような準備
――最後の4試合は存在感があったと思いますが、体の面に加えて精神的な部分ではどうでしたか?
精神的な部分では、コスさん(小野晃征)のコンディションが良ければ僕がメンバーには選ばれなかったと思うんですけれど、何があっても良いように、いつでも出られるような準備をしようと毎回思っていました。
そのためギッツ(マット・ギタウ)とのコミュニケーションは意識して取るようにしました。もちろんプレーのこともそうですが、普段の時からコミュニケーションを意識しましたし、本当の意味で心が通じるようにと、そういうことを意識してしました。
――マット・ギタウ選手はコミュニケーションを取りやすいタイプですか?
そうですね。年齢を感じさせませんし、気さくだし、ふざける時はふざけますし、プレー中は引っ張ってくれるので、凄くやりやすかったです。
――決勝戦の最初のトライがとても印象的で、ボールをキャッチする直前に右へ行かずに左へ行ったあの切込みが見事だと思いました
あれはボールの軌道と相手が来たコースが見えていたので、わざと取る前にインサイドに切ってコースを変えて取るようにしました。ボールの跳ね方も予測できましたし、凄く良いキックでした。
もちろん集中していましたし、チャンスどころだったので、確実に取って帰るというのはみんなの中にもありました。それこそパナソニックみたいなディフェンスが強い相手に対して、22mライン内に入ったら、しっかりと取って帰るというプレビューもありました。
――そういう意味で吹っ切れた感があったんですか?
毎試合毎試合、自分のベストを出すところだけにフォーカスしていたので、積み重ねて良くなってきたというよりか、毎試合毎試合すべてを出すという感じでした。
◆やりきりたい
――今、自分に対する期待度は高いですか?
そうですね。2017-2018シーズンの1年間を振り返ってみると、まだまだ成長できるというのは感じました。スキルも、フィジカルも、体の使い方も、メンタルも、まだまだ向上できるという自信になりました。
自分のプレーの幅を決めたり、自分はこれしかできないからこれを思いっきりやろう、自分はこのスキルしか持っていないからこのスキルを信じてやろう、という考えだったんですけれど、もっとスキルやプレーの幅を広げられると思っています。ただバランスが難しいだけなので、トレーニングの準備の段階の中で幅を広げられるんじゃなかと思いました。
――サンウルブズで目指すところは?
スキルとフィジカルの接点の部分でもう一個レベルアップすることと、いま持っている自分の実力からよりチャレンジするということを考えています。
――それに対してできそうなイメージはありますか?
自信はあります。ただチームの中での役割やルールややるべきこともあるので、それをしっかり遂行することが、チームの勝利の一番の近道になると思います。自分の役割をしっかりとできるような準備はしたいと思います。
――サンウルブズや日本代表を頑張ると来年ワールドカップが来ますが、そこに向けてはどうですか?
ここも1つのセレクションですが、良いチャンスをもらっているので、監督もヘッドコーチも一緒ですし、今の自分のベストを出してそれを見てもらえるような準備をしたいと思います。まずは実力を発揮できないまま選ばれないということが一番悔しいので、いま持っているものをやりきりたいです。
◆自分たちはチャレンジャー
――サンゴリアスも次のシーズンはより大変ですね
めちゃくちゃ大変です。でも、今はまだ来シーズンのことは考えていないです。サンウルブズの中で1試合でも多く出場して、自分のパフォーマンスを高められるようにしたいと思います。またサンゴリアスに帰ったらメンバー編成がリセットされるので、今と一緒でゼロから選んでもらえるように、自分のベストを出してやり続けるしかないと思います。
――自分のレベルが上がったというシーズンでしたが、チームも相当上がったんですか?
チームも相当上がったと思います。本当に個人個人いろいろな思いがあって、もう1回レベルを上げなければいけないということを本当の意味で感じて、一人ひとりが成長した結果、チームも底上げと言うか一つレベルが上がったと思います。
――チームは完全に追われる立場になりましたが、チームとしてそれは関係ありませんか?
関係ないですね。あくまでもチャレンジャーです。2016-2017シーズンは全勝しましたが、2017-2018シーズンでは1回負けて、最後は勝ちましたが、改めて自分たちはチャレンジャーだと思いました。そこの教訓を次のシーズンも忘れてはいけないと思うので、そこはぶれずにサンゴリアスのカルチャーとしてあるべきものだと思います。
――どんな選手を目指していますか?
スキルフルでフィジカルな選手です。それをレベル高くずっと出せる選手になりたいです。
――世界で目指している選手はいますか?
オールブラックスのクロッティ(ライアン)や、昔ではムリアイナ(ミルズ)やトニー・ブラウンが憧れと言うか、目指したい選手です。実際は身長も高くないし、足もそこまで速くはないのにあれだけレベルが高く称賛されるようなプレーヤーなので、そこまでは絶対になれると思っています。
◆いろいろなサポート
――サンウルブズでトニー・ブラウンコーチから教わるのは楽しいですか?
楽しいです。良ければ良いと言ってくれますし、ダメなところはダメとはっきり言ってくれて、そのスタンダードが毎回一緒でぶれないので、僕としても信じられるし説得力があります。実際にプレーも見たこともありますし尊敬している選手だったので、感じるものは他人とは違うかもしれません。
――今後の見どころは?
ディフェンスを見てもらいたいです。タックルでチームを引っ張っている姿を見て欲しいと思います。
――本当の意味でサンゴリアスから信頼されるようになるためには?
新シーズンが一番肝になってくると思います。
――相当モヤモヤ悩んでいたと思いますが、吹っ切れた感じがありますね
試合に出ていないメンバーに、本当にいろいろなサポートをしてもらいました。チームで誰もが認めるくらい長友さんはタックルが上手くて、その長友さんには毎回タックル練習に付き合ってもらっていました。僕にも気持ちはあるんですけれど、そこの技術を一緒にやらせてもらって、自分でも良くなったことが分かって、自分の中で本当に自信になった部分です。コスさんや煕(田村)や啓希さん(宮本)も、僕のための練習に付き合ってくれて、たくさん助けてもらいました。
――みんなの期待感からですね
嬉しいです。みんな僕が持っているようなモヤモヤとは違うかもしれないけれど、それぞれ思いがあるのに、その中でメンバーをサポートするという思いだけでできるのは素晴らしいと思って、改めて尊敬しました。
――ここからですね
これからが本当の選手として上にいけるか、そうでないのかの際になってくると思います。
――上にいく鍵は?
レベルアップのみです。今のベストであればそこまで上にいかないと思いますけれど、ベストを少しずつ伸ばせられるように、それを毎回できるように、そこが鍵になってくると思います。
――それは新しいことにチャレンジするんですか?
新しいことももちろんなんですが、質を高められるようにしたいと思います。キック、パス、ラン、タックルの質を、少しでも高められるような努力は毎回したいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]