SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2018年2月23日

#573 森川 由起乙 『一番走れて、一番タックルできて、一番動けるプレーヤーになりたい』

サントリーに入って3年目の森川由起乙選手。試合に出場できたりできなかったり、そして先発とリザーブの両方を経験しながら、一歩一歩確実に頼られる選手へと成長し続けています。そんな森川選手にシーズンの振り返りと、新シーズンへ向けての抱負を訊きました。(取材日:2018年2月6日)

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◆スタートから出ても崩れない

――2017-2018シーズンを振り返ってみてどうですか?

結果的に見れば周りにハッパをかけられながら、ちょっとしたチャンスを自分なりに掴んで、最後までピッチに立てました。自分の役割として決めたことについてはまだまだな部分もありますが、自分を出し切ってシーズンを終えられたと思います。

2016-2017シーズンまでは1番が2人しかいない状態だから試合に出られているというだけで、スタートは難しくてもリザーブには入れるという状況でした。2017-2018シーズンでは3~4試合外されて、敬介さん(沢木監督)にストレートに「お前には足りないものがあるから外れている」と言われました。そうやって緩んでいた僕に敬介さんがハッパをかけてくれてからは、後半戦ではしっかりと自分のスタイルで戦いきれたと思います。

リザーブ出場のほうが多かったですけれど、近鉄戦、神戸製鋼戦と自分の中ではビックゲームで、苦手意識のある相手チームだったんですが、スタートで使っていただけました。そして2016-2017シーズンより成長して、自分がスタートから出ても試合が崩れないという信頼も、少し勝ち取れたのかなと思い自信に繋がりました。

――それは精神的なものですか?

そうですね。6月のワラタス戦で、慎太郎さん(石原)がいなかったんですが、春の一番のターゲットにしていた試合にスタートで出るということを達成したことで、どこかで気の緩みがあったんじゃないかと思います。

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取り組みを怠っていたと思いますし、様々なところで100%で取り組めていなかったと思います。練習で言われていることができなかったりして、それは技術というよりはメンタルな部分だと思います。

――もともとのんびりタイプですか?

のんびりと言うより、やる時はやるという感じです。好きなラグビーに関しては、自分の中では全力でやっているんですけれど、自分で限界を決めがちなので、2017-2018シーズンは必死で敬介さんに言われたこと、自分の役割をしっかり果たすこと、それだけをとにかく磨きました。

細かく言えば、フィールドプレーのタックル、ボールを持った時のゲインライン、ブレイクダウンで相手をしっかりと押しきること。あと、スクラムは自信を持って日々の練習を全力でやって成長していくしかないと言われたので、自信を持ちながら練習でもしっかり取り組めたと思います。いま思うと、2年目のシーズン(2016-2017シーズン)はフィールドプレーが笑えないぐらい落ちていました。

――自分への戒めの言葉が入っていますね

サントリーに入って1年目から、足りないものは明確にスクラムでした。自分が考え過ぎて、ビデオを見ても練習しても、毎回同じ癖が出てしまっていました。良くはなっているけれどスクラムをものにしたという感覚はなく、映像を見てもそうは見えないので、スクラムばかり考えてしまって、ラグビー自体が上手くいきませんでした。スクラムにとらわれ過ぎて、ラグビーを楽しめていなかったです。

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◆最後まで体がぶれない状態

――スクラムが大きなターゲットで、2017-2018シーズンは成果が出ましたか?

癖なく組めるようになって、耐えられるようになりました。やっぱりアオさん(青木佑輔)、ヤマさん(山岡俊フォワードコーチ)、そして自分で映像を見ても、ヒットしたらフッカーの後ろに下がってしまう癖があって、前に進めるスクラムではありませんでした。攻めていくためには、もっと違う組み方をしなければいけなくて、ヒットの瞬間の膝の落とし込みやバインドファイトの時の頭の位置の取り方など、細かいところを練習しました。

これまであまり練習では良いスクラムが組めていませんでしたが、2017-2018シーズンでは、リザーブメンバーでまとまったスクラムが組めました。前のシーズンで、プレッシャーを掛けられたということはあまりなかったと思いますが、相手からプレッシャーを受けてガタガタになったり、そういう影響が出るスクラムは、組まなかったという印象はあります。ただ、我慢しているだけでは相手にプレッシャーを掛けられないので、2017-2018シーズンは自分の1番側から攻めていけるようなスクラムを目指しました。青さんもそれが強いと言っていましたし、そういったところに取り組んでチェンジすることができました。

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――気の緩みがあったと言っていましたが、心の持っていき方は掴めましたか?

そうですね。限界を決めないで満足しないことと、自分はまだまだのプレーヤーで伸びる要素がいっぱいあるということ。それは周りからも言われますし、自分でも凄く気づいています。メンタルスポーツとしてそういうところが不可欠で、プレーにも技術にも影響してしまうんだということを、恥ずかしながらまた実感しました。

――波があるようには見えず、プレーが安定していますよね

そうですね。安定している中でも僕の場合はリザーブで途中から入るので、安定した中でも一発ぶち込む、それが何回できるかというも必要になります。そこでいかにパフォーマンスを上げるかを考えていて、体幹のトレーニングや、ヤマさんとスクラムだけに特化したコアのトレーニング、手と肩と首の使い方、長友さんとコアを意識しながらのトレーニングなどをしました。

走って寝て起きても芯がぶれないようにするということを意識して、タックルの瞬間も飛び込みがちだった僕が、しっかり間合いを見て、最後まで体がぶれない状態で相手にタックルして、後半はそれが成功するようになりました。

――それは面白かったでしょう

面白かったですし、相手に抜かれる気がしないと思っていました。こんなに簡単にタックルに入れるのか、と感じていましたね。後半は凄く安定してチームに勢いをつけられて、自分の役割を果たせたような試合も何試合かはありました。試合に出た時に上手くいかないと感じる試合は2016-2017シーズンより減ったと思います。リザーブメンバーが出てきたら盛り上がるくらいの勢いと、安定感によって周りに与える安心感、そして試合を決めることのできる選手を目指してやっています。

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◆お尻の筋肉

――ここで安心してしまうと、これまで同じことを繰り返してしまいますよね

少しでも信頼を勝ち取りたいです。その信頼を保ちつつ、2017-2018シーズンは後半戦で安定してきたので、いかに開幕戦からそこに持っていけるかが大事だと思っています。あとはリザーブでは全然満足していないので、サプライズでもワンチャンスでも、2019年に日本代表に選んでもらいたいと思っています。

シーズン終盤で良くなったスクラムも落とさずに、自分なりに取り組みを変えていて、間合いができるようになりました。スピードや落とし方や捕まえ方、アオさんにヒットを改善した方が良いと言われて、そうすることでフッカーとの負担差がなくなって、壁も作れて自分も押しやすいですし、フッカーも楽になったと思います。いま自分のレベルアップを試しているところです。

――ヒットで食い込まれることが多かったんですか?

そうですね。ヒットスピードや角度の問題です。それを解決するには練習するしかありません。あとはお尻の筋肉をつけます。シーズンを通して感じたのは、後半になって急に気がついても追いつかないので、そこを僕はもう1回見直して、それを春シーズンに補っていけば良いスタートが切れるんじゃないかと思います。

――お尻の筋肉が足りないと思うのは、スクラムの時ですか?

スクラムの時やブレイクダウンの時もそうです。相手に逃げられてしまったり、疲れてきた時に飛び込んでしまったり、足を使えずに体で行ってしまいます。だから、今はコア、お尻、背中あたりを重点的に鍛えています。

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もともと体が大きくはありませんし恵まれた体でもないのに、ウエイトトレーニングがあまり好きではなくて、自分の頭の中でフィールドプレーができれば良いという考えがありました。でもサントリーに入った時に足りない部分を痛感して、すぐにウエイトトレーニングをするようにしました。1年目は凄く上がり、3年目で更に上がって、特にスクワットは急激に数値が伸びて楽しかったですね。それがスクラムに活かせるようになってきました。

――いまラグビーのどこが面白いですか?

できないことができるようになることが、自分は一番楽しいです。プロップだからできないとか、ディフェンスができないとか、ブレイクダウンは足が遅いからできないとか、動けないから内に入れとか、絶対に抜かれるとか言われたくないんです。自分ができないことをできるようにしていくことが楽しいです。

スクラムは褒められると凄く嬉しいですし、やってきて良かったな、こういうことを言っていたんだ、これがスクラムだ、とかいろいろ分かってくると楽しいです。またより一層頑張ろうと思えます。この3年間は与えられたことしかできなかったので、次の4年目では、言われたことを理解できるようになってきていることに加えて、もっとクエスチョンを持って、言われる前に自分から質問できるようになって、自分なりのスクラムを、形として作り上げていきたいです。

――新しいプロップ像を目指しているように感じますね

一番走れて、一番タックルできて、一番動けるプレーヤーになりたいです。それは常に思っていて、フィールドプレーには自信を持っているので、それをしっかり取り戻せた1年間になりました。

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◆リミッターを外して

――今のチームの良いところはどこですか?

僕は近くに慎太郎さんや元樹(須藤)がいて、常に競争できて、見本がたくさんいるので、凄く良い環境に居させてもらっていると思っています。良い環境があってそして常に勝負できる人がいるということは、恵まれていて楽しいです。

――9位から2季連続優勝となりましたが、選手としてその要因は何だと思いますか?

僕が1年目の時に9位で終わって、その時の現実を誰もが見ているので、簡単にモチベーションは下がらないと思います。9位になったその話をされたらモチベーションが上がるので、あの1年間を忘れる人はいないと思います。2017-2018シーズンではそういう思いを胸に、流キャプテンを筆頭にやってきましたが、色々なことがあって、完全に上手くいく試合はなかったというぐらい難しいシーズンでした。

みんなのメンタルとモチベーションをどう一つの方向にまとめるか、1年間、流が一番苦しんだと思います。それでも優勝まで持って行ける、あの場面で勝ちきれる、それは最後にメンバーだけではなくノンメンバーもモチベーションをしっかり持ち直して、全員が同じ方向を見ることができたからだと思います。もちろんスタッフの絶大なるサポートもあるんですけれど、結局やるのは選手なので、選手が同じ方向に向けたその力が、2017-2018シーズンは一番強かったと思います。

秩父宮のグラウンドコンディションで後半戦はお互いのチームがスクラムでプレッシャーをかけられない中、フィールドプレーのパナソニックに対して、セットプレーでプレッシャーをかけて優勢に持っていきたかったサントリーという決勝だったと思います。実際にはセットプレーの優位性がなかったにもかかわらず、しっかりとフィールドプレーで勝ち切ることができました。そういう技術、メンタル、心技体がしっかりと揃った強さが、2017-2018シーズンのチームにはあったと思います。

――次シーズンの課題は?

チームの誰に聞いても「スクラムが良くなった」というくらいの信頼を得ることです。そのためにやることはいっぱいあります。あとは、慎太郎さんなど他の1番の選手に差をつけるのは、タックルやフィールドプレーだと思っています。そしてラグビーのインテリジェンスだったり、サンゴリアスでやりたいことをしっかり自分の中で把握して、理解力や遂行力を伸ばしつつ、信頼を勝ち取り続ければ、自然と2017-2018シーズンの自分は超えられて、結果もついてくると思います。

――そこに向けて楽しさと大変さがあると思いますが、それはどう予想していますか?

タックルやフィールドプレーの状態は凄く良い状態だったので、シーズンの後半になっても大きな怪我もなく、パフォーマンスもコンディションも良かったんです。だから、もう一度モチベーションを高く持って、限界を頭の中で勝手に決めつけるのではなく、リミッターを外してやれるところまでやることが大事だと思います。

――リミッターを外すということには怖さがあると思いますが、そこはどうやって乗り越えますか?

周りから言われるということは、まだリミットを決めつけてしまっている自分がいるということなので、リミッターを外すことを目指すのではなく、周りから何も言われなくなったら自然とそれができているということだと思います。

難しいことだと思います。私生活はもちろんですけれど、グラウンドやクラブハウスで、もっとラグビーを知らなければいけないと思います。

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◆チームに勢いを与え続ける

――2019年を目指していると言っていましたが、長期構想としてはどういうことを描いていますか?

2023年も狙える歳なのでチャンスがあれば日本代表に入りたいです。無駄ではありませんでしたが、今は分かっているスイッチを入れられずに2~3年過ごしてしまいました。結局ノーリミッターのゾーンに入り切っていないから今の状況だと自覚しています。

怠けていた自分も経験していますし、スイッチが入りきらず未だにリザーブで、先発とリザーブを交互に使ってももらえない実力ということを自覚しています。その悔しさは十分にあります。その悔しさを慎太郎さんに味合わせるくらいの気持ちで、1年間怪我なく続けるしかありません。

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――自分で精神的に強いと思いますか?

試合の緊張には強いと思いますが、練習でやってきたことが出ない、ということを多くの試合で感じてきました。2017-2018シーズンの後半戦では練習でやったことがしっかり出せたと思うのですが、その違いは日々の成長過程にあるからで、「練習は裏切らない」という敬介さんの言葉は、その通りだなと思いました。

練習からしんどいくらい誰よりも動いて、誰よりもタックルして、という気持ちで動いて、練習が同じサイクルになってしまう中、練習メニューをこなすということではなくて、一つ一つの練習メニューでしっかりと場面を想定しながら取り組みました。それで試合の時に練習と同じ状況が出てきた時に、対応できたと感じる場面が多かったですし、とてもやり易かったです。

――今後の森川選手自身の見どころはどこですか?

僕がピッチに入ったら、タックルやスクラムで相手にダメージを与えて、プレーでチームに勢いを与えられるような選手になりたいと思います。スタートから出ても途中から出ても、いつ出てもグラウンドに立っている限りは、チームに勢いを与え続けられるようなプレーヤーになりたいです。

――チーム内でのリーダー的な役割についてはどう考えていますか?

リーダーという立場に立ってしまうと自分のことに手が回らないタイプなので、受け身ではないんですけれど、自分がチームに必要とされる役割を果たし続けたいと思っています。キャプテンを経験したこともありますが、どちらかというとサポートの方が向いていると思います。

――リーダーシップメンバーにいずれなるのでは?

今は必死に慎太郎さんにしがみついていきながら、自分には自分の良さがあるので、しっかり差をつけられるようになりたいと思います。スクラムを勉強しながら、目指す選手になりたいです。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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