2018年2月 2日
#570 青木 佑輔 『何の役にでも立てれば良い』
スクラム、モール、ラインアウトなど、フォワードの役割が大きいセットプレーのリーダーとしてチームを引っ張る青木佑輔選手。今回はフォワード全般、そしてモールについての狙いや思いを訊くことができました。(取材日:2018年1月9日)
◆準備の大切さ
――2冠か0冠かという決勝を迎える選手の心境は?
この方が潔くて良いんじゃないですか。1冠ずつでも良いですが、この方が良いと思います。1回1発勝負。トップリーグで優勝して盛り上がって、もう1回日本選手権に向けてモチベーションを上げるのって大変なんです。
――チームの調子はどうですか?
調子は良いと思います。みんな昨シーズンよりも良くなろうとしていますし、その中でいろいろもがいていた部分もあったと思いますが、それが成長に繋がっているのではないかなと思います。
――昨シーズンより良くなろうとしていて、実際に良くなっている感じですか?
この間の準決勝を見ると凄く良いと思いますよ。準備の大切さということを凄く感じます。例えば、誰かが怪我をしてもパッと他の誰かが入って活躍しますし、試合に出ているメンバーだけではなく、試合に出ていないメンバーもしっかり準備して、チーム一丸となって戦っていると思います。
――今のチームは12年やってきて初めて到達した領域にいますか?
勝ち続けるとハングリーさはなくなってくるものです。昨シーズンは一昨年の9位という結果を受けてモチベーションを持続しましたが、昨シーズン全勝で2冠を獲ることが出来て、今シーズンはモチベーションをつくるのがとても難しかったと思うんです。その中で、みんなでファイナルまで勝ち上がって試合が出来るということは、凄く頑張ってきたと思います。
◆スクラムの試行錯誤
――フォワードはどうですか?
この前のヤマハ戦でも、相手の強みであるスクラムをある程度消すことが出来ましたし、モールも止めることが出来ていましたし、良いと思います。
――青木選手はずっとサントリーのスクラムの形をつくることやモールを強くしようと言ってきましたが、今シーズンの手応えはどうですか?
スクラムに関しては、昨シーズンそして今シーズンの夏くらいまでは距離をとってバンッとぶつかるように練習していたんですが、トップリーグ開幕前に、プレエンゲージという組み合った状態から始めるスクラムに変更になりました。
昨シーズンと同じ形でのスクラムを春からトレーニングしてきたのにそれが出来なくなり、プレエンゲージに対応しなければいけなくなったので、開幕前に少し迷ってしまいスクラムの成長が遅れた感じがありました。プレエンゲージである程度組めるようにはなりましたが、昨シーズンよりもペナルティーが取れる回数は減っていたと思います。
そして、今度は11月にトップリーグとしてスクラムの距離を取りましょうと、また組み方を変えなければいけなくなりました。そこからまた試行錯誤が始まって、少し足踏みをした感じがありましたが、そういう中ではよく出来ていると思います。
――シーズン中にそこが変わるということは珍しいのではないですか?
本来であったら距離をとらなければいけなんです。コールがあるのに最初から組み合ってしまっていて、さらに一貫性がない状態でした。世界的には離れて組んでいるのに、「なんで組み合った状態でオッケーなの?」みたいな疑問はみんなあったと思います。
――そうするとスクラムの強さは関係なくなってしまいますよね
関係ないですね。ヒットのところの優位性がなくなって、重たい人たちが低い位置で組んでいたら、それはもう動かせないです。軽い方は速いヒットでジャブを与える感じで相手を後退させたりバランスを崩したりしたいのに、最初からドスンと組まれてしまったらキツいですね。お相撲さんだって軽い人と重い人が組み合った状態で始まったらやっぱり重い人の方が強いと思うんです。そういう状況になってしまっていて、開幕の頃はキツいなと思っていました。
◆同じモールは組めない
――モールは?
この前のヤマハ戦ではモールからトライされませんでしたが、でもサントリーとしてもモールでトライを獲れませんでした。今シーズンは時には押せたり、モール起点のトライもありました。
――サンゴリアスとしての形は出来つつありますか?
もう少しだと思います。
――それはどの辺が?
トライを獲りきれないところです。
――何人モールに入るかはあらかじめ決まっているんですか?
その場その場だと思いますが、何人入ろうが各々のチームである程度形があるんです。そこでいかに自分たちの形になれるか。自分たちの形になれば良いんですが、その形にいくまでに崩されたりしまって難しいんです。
――そこにいくまでが大変なんですか?
形をつくるまでが大変なんです。形をつくれたら押せるんです。
――形をつくるためには?
まず自分の役割をしっかり理解しなければいけないんです。これは大前提で、どこに入るかは、みんな分かっています。何をしなければいけないかということも分かっているんですが、相手のプレッシャーがあるので難しいんです。
――形が変わるということですか?
モールって同じモールは絶対に組めないんです。スクラムみたいにみんなでしっかり準備するということではなく、モールはリフトして降りた瞬間からコンタクトが始まるので、最初から固まるわけにはいかず、そこが難しいんです。
◆剥がされる時、剥がれる時
――おもしろいですね
面白いと言ったら面白いですね。逆に言ったら固まったら強いチームでも、最初に崩されたらやられてしまいます。
――練習では何に気をつけてやるんですか?
まずは自分たちの形になることにフォーカスします。そこに至るまで何秒というチームのルールがあるので、そこにフォーカスしてやっています。
――チームで決められた秒でできないと良いものにはならないんですか?
崩されてしまいます。決められた目標時間内にできた時は、ある程度良いモールが組めますね。
――スピードと正確さの両方が大切だと思いますが、そのバランスは?
やっぱり前の3人が戦ってくれないことには厳しいと思います。前3人はしっかりと戦って、後ろが速くセットしてサポートする。
――前3人が変わっていくこともありますよね
最初は耐えて押していく中で、前3人が徐々に切れてしまったら、次は後ろが入って行って前の人が後ろに付いてという、ところてん方式で、ところてんがロードされていくみたいな感覚です。何回も何回も回って行けるのが良いですが、前が全く変わらずに押せるのであれば、それが一番良いと思います。
――前が変わるということは、剥がされてしまうんですか?
剥がされる時もありますし、戦略的に剥がれる時もあります。
――戦略的に剥がれるとは?
相手が上からやってきたり低いところで耐えていたりしたら、1人に対して2人いたらなかなか進めないので、その2人を引き連れて剥がれれば、杭みたいな役割の人を1人で2人倒せて、数的優位を作れます。
◆モールは生き物みたい
――モールを極めた人はいますか?
いないんじゃないですか(笑)。
――他のチームには?
分からないですけれど、ヤマハとか強いですよね。
――それはどこが強いんですか?
固まることが強いですよね。やっぱりそこに至るまでが強いと思います。そこにプライドを持って、数をやっているんだと思います。
――サンゴリアスはモールとスクラムではどちらの比重が高いんですか?
スクラムですね。スクラムの方が、試合中の回数が多いし、攻撃の起点になるからです。モールは組まなくてもいいですが、スクラムは絶対的に組まないといけません。
――組むか組まないかはどうやって判断するんですか?
相手が凄く入ってきたらボールを出すとか、逆に裏をついて押すとか。モールは形があるようでないので、生き物みたいなものです。全く同じモールって組めないので、練習通りになかなか行かないんです。その中で相手が引き倒してくる時もありますし、いかに対応していくかなんですよね。スクラムみたいにヨーイ・ドンから始まるわけではないので。
――最大で何人入るんですか?
何人でも良いんですよ。だから、良いモールが組めて前進し出したらバックスも入ったら良いんです。バックスはモールの練習をしているわけではないですが、臨機応変に入って来てくれます。
――臨機応変にできるってことは、基本がないとできないですよね?
基本がないと出来ませんが、形が組めて動き出したらなんとなく入れてしまうんじゃないですか。だから判断とかのセンスなんですかね。
――相当おもしろいですね
もっと力を入れたら強くなりますよね。もうちょっと予備運動したら良いと思うんですよね。いつもやられてしまう時は前3人のところなので、前3人が対応力を身に付けて、受け皿の土台の部分がしっかりすればと思います。後ろはエンジンみたいなものですから、土台がガタガタしていたらいくらエンジンが良くても進まないと思います。
――前3人はスクラムの前3人と一緒なんですか?
ある程度は形が決まっています。ですが、さらに練習をやったら良いと思います。
――ラインアウトはどうですか?
調子良いです。サインを読まれて取られるということがなくなったので、純粋に相手の動きを読んで取り合う。ディフェンスも難しくなったんですが、そんな中でもサントリーはジョー(ウィーラー)とヘンディー(ツイ ヘンドリック)がいて、コミュニケーションが凄く取れているので上手いですね。
◆誰が組んでも同じことが組める
――フォワードは問題ないですね
問題ないです。ばっちりです。
――サントリーのスタイルを作ろうと言ってきて、ようやく出来てきているということですか?
スタイルを作ろうというのではないですが、みんな凄く考えるようになりました。ラグビーに対してもそうですし、漠然とした話し合いではなく「どうしようか」というところまで話が進むようになってきています。上から言われておしまいではないですし、自分たちでも相手をしっかりと分析して話し合えているところが良いんじゃないかなと思います。そういうことを敬介さん(沢木監督)が根付かせてくれているので。
――それは青木選手も望んでいたのではないですか?
望んでいたというか、更にもっと上のレベルを昨シーズンから敬介さんがチームに浸透させてくれました。
――それと青木選手がやろうとしていたタイミングは一致しているような気がします。
そんなことないんですが、サンゴリアスの誰が組んでも同じことが組めるというスタイルがあれば良いとずっと思っていました。そういう意味で上手くいったと思います。
――ラグビーは変化し続けるのでそれに対応して変化していくとは思いますが、今やっていることはサントリーのベースの技術として残っていきますか?
180度変わるということはなかなかないので、今のベースがあれば対応していけると思います。スクラムでもシーズン中に変わったりしていましたが、ある程度すぐに対応できていたので。トップリーグを見ていて対応できていないチームもあるなと思ったので、すぐ対応できて良かったなと思います。
◆スクラムを見ています
――シーズン途中からはメンバー入りをしていませんね
11月にコンディションが悪くなってしまい、自分自身でもがっかりした部分が本当に多いです。でもチームのために何かできれば良いかなと思って、練習は参加させてもらっています。もう何の役にでも立てれば良いと思っていました。
――プレーヤーとしては不完全燃焼なんですか?
そんなこともないですよ。選手としてサントリーには良い思いばかりさせてもらっていますし、プレーできなくてもいろいろとやることもありますし、できる限りのことをしてチームが勝利に1%でも近づくのなら、やることをやるだけですね。
――やることの中には若い選手たちへのアドバイスもありますか?
そうですね。プレーできなくなって逆に吹っ切れたというか、もういろいろとアドバイスをするようになりました。
――試合ではそういう選手たちのどこを見ているんですか?
自分は大体スクラムを見ています。あとは相手の分析をしたりしています。
――8人全員を見ている感じですか?
そうです。8人を見ています。フロントローの面や膝の位置、ロックの足の動き、フランカーとナンバーエイトがどれだけちゃんとついているか、そういうところを見ています。
――それで気づいてアドバイスすると改良されるんですか?
そうですね。試合中はなかなか難しいんですが、ハーフタイムに伝えます。この前の東芝の時に上手くいかない部分があったので、少し改良を加えてヤマハに臨んだらある程度上手くいったので良かったです。
――フロントローは若い選手になっていますが、それを見ていてどうですか?
若さの問題ではなくて、今までサントリーで一緒にやってきた仲間なので信頼もしていますし、それをしっかりと遂行してくれているなと思います。
◆トライを獲る、ペナルティーを取る
――今の課題は?
スクラムでペナルティーを取るところに至っていないので、そういうところまでいけば良いですが、今からすぐそうなるというのはなかなか難しいですよね。
――ペナルティーは圧倒的に強くないと取れないんですか?
そうですね。スクラムのことを理解していないと出来ないですし、レフリングの部分に対応していかなければいけない部分もあります。そういうところが出来れば、ペナルティーを取れるパーセンテージも上がってくると思います。
――フォワードはプレーの起点ですよね。それはやっぱりおもしろいですか?
面白いですね。責任感があります。ちょっと前までだったら、スクラムの時はダイレクトフッキングでパンッとボールを出してしまえば問題なかったんですが、今は変わってきて相手ボールの時にも相手が凄く押してきて、ペナルティーを取られたりします。スクラムがある程度組めないとラグビーにならないので、どんどん変わってきていると思います。
昔はサントリーも話にならなかったレベルで、敵陣まで攻め込んでも相手がまたスクラムで押し返してきてペナルティーを取られたりしていました。昔はそういうところで責任を果たせなかったので、今はみんなそういうところでしっかりとやっていると思います。
――そういう点も含めて改めて今の課題はなんですか?
モールは成功率を上げる。
――成功というのは前に行くということですか?
トライを獲ることと、ペナルティーを取ることが一応モールのゴールです。なので、そこの成功率を上げること。そこへのこだわりの部分が足りないのかもしれないですね。スクラムではある程度良い球出しができていれば良いので、さらに苦しい時間帯にペナルティーが取れたらもっと良いですよね。
――それは来シーズンへの課題ですか?シーズン跨いでの課題になりますか?
そうですね。もう少し武器になれば良いですね。
――決勝の勝算はどうですか?
ありますよ。リーグ戦の時よりも選手一人ひとりの力を発揮できていると思いますし、また全然違った試合になると思います。
――リーグ戦の時よりも力を発揮できているというのは、チームとして熟練してきたのか、みんなの意識が高まって来たのか、どうなんですか?
熟練したということもありますし、スタッフがしっかりと考えてトレーニングをしているので、負けからしっかりと学んで試行錯誤をしながら前へ進んでいます。選手も負けてしまって火がつかない選手はいないと思います。両方良い感じに成長してきています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]