2018年1月11日
#569 小野 晃征 『今までの試合を忘れる』
昨シーズンの大活躍と比べて、今シーズンは本調子までもう少しの状態の小野晃征選手。現在の心境とファイナルラグビーへの意気込みを訊きました。(取材日:2017年12月27日)
◆それもラグビー
――いよいよセミファイナル、今シーズンのチームはどうですか?
今シーズンのゴールに向かって進んでいると思います。1試合負けましたけれど、チームが100%勝ち続けるということはありません。昨シーズンは凄く良い流れで1シーズン勝てたけれど、いずれどこかで負けます。そして負けたことで学べたことも、いっぱいあると思います。最初のゴールはこの決勝トーナメントに出ることだったなので、チームとしては良い形でここまで来られたと思います。
――調子はどうですか?
今シーズンはチームが目指し、そして自分も目指しているインターナショナルレベルでは、まだプレーできていないと思っています。そんな中でチームが勝てていますが、チームが勝つことが一番大事だと思っています。
――淡々と話していますが、フラストレーションは溜まりませんか?
溜まりますけれど、それもラグビーだと思います。けれど、そう自分で理解するまでには時間がかかりました。そしてこういうことも経験しなければ自分も伸びないと思いますし、良いパフォーマンスができないことで自分自身学べることもあります。
ラグビー人生の中で波はあると思うので、どうやってそれを乗り越えて、苦しい時にこそピークに持っていけるようになることを目指しています。プレーオフの前の2試合には出ていませんが、自分の中でできることはやっていますし、そうやって準備していかなければいけないと思います。
――それは自分の心との戦いに勝つということで、それができているということですね?
コンディションが良くない時は考える時間が多いということもありますし、そういう状態でサポートできることはたくさんあると思います。一番大事なことは自分のコンディションを上げてグラウンドに立ってプレーすることですけれど、それができない時もチームが勝つために何をするべきかを考えながらやっていくことが大切だと思います。その両方がとても大事だと考えながら調整しています。
――状態が良くない時にも、ちゃんとした土台があるということですね
調子が悪い時は、分かりやすいと思うんですよね。何が悪いか、何が上手くいっていないか。調子が良い時にこそ、それを探していないといけないと思うんです。自分の弱点を修正しながらやらなければいけない。ですから、この2年間は個人的に見れば、全然違うシーズンですね。
ラグビーはどれだけ良い準備をしても相手もそれを崩しに来ますし、最悪のコンディションで試合に出て勝つこともあるので何とも言えないですけれど、一番大事なことは今までチームが勝ち続けて、決勝トーナメントに進出していることです。
◆クラブハウス外での準備
――今シーズンの他のチームはどうですか?
波があったりするチームもありますね。あとは、僕らのカンファレンスの方がより競っていたので、厳しい試合が多かったかなと思います。
――チームとして今シーズン成長したポイントはどこですか?
凄くチームが若くなっているのは感じますね。バックスは特に若い選手たちが、良いパフォーマンスを出してきていると感じます。
――自分自身の課題は?
毎週良いコンディションで試合に臨むことです。
――そのためにどういうことをやるんですか?
体のケアを含めて、今までと同じ準備をしていたら良くならないと思いますし、色々な人とか色々なアイディアを含めての準備とケアと治療が重要です。あとは食事も考えながら、準備していかなければいけないと思います。
――その中にはトレーニング方法も含まれますか?
そうですね。トレーニング方法についてはこのチームは凄くレベルが高いですし、管理されていると思います。ですから、それ以外で自分ができることは、クラブハウス外での準備だと思います。
――家庭とのバランスはとれていますか?
それはとれていると思いますし、凄く応援してくれています。娘も全然風邪を引かなくて元気なので。ただ自分自身の試合後の体のケアは上手くないと思います。
――今まではそれでできてしまっていたからですね
そうですね。だから、そこが一番かもしれないですね。僕はオンとオフが好きな人なので、試合が終わったらオフで、次の準備とかその日は全く考えません。正直自分でもそこが弱点かなと思います(笑)。
◆オフを楽しめるためのオン
――そこに改善点があるということですね
大切なことの1つはメンタルスイッチなので、スイッチをいつオフにするか、次いつオンにするのか。例えば土曜日に試合だったら月曜日の朝にオンにするのか、日曜日の夜から準備するのかというような細かいところであり、考えようによっては簡単なところです。
ラグビーが好きでここまで続けられているのは、「オフを楽しめるためのオン」だと思っているからです。もちろん試合で勝つことが目標ですが、その戦った仲間と終わった後にコミュニケーションをとれることが自分のラグビーの良さだと思いますし、自分のチームだけではなくて相手チームとでもラグビーやそれ以外の話をできることが、自分の中でのラグビーの良さだと思っています。
月曜日から土曜日までは勝つための準備をして、勝つための準備をした上で戦った仲間と一杯飲めることがラグビーの良さだと思っています。それは絶対に変えられないし、変えるのだったら辞めます(笑)。サントリーだけではなく、代表でもニュージーランドでも、そういう時間を過ごすためのラグビーだと思ってやってきました。
――そのためにラグビーを100%やるということですね?
そうですね。そうしないと仲間からの信頼も失ってしまいます。昔ニュージーランドのラグビーの先輩に「ビールを持ったらラグビーの話はやめろ」と言われました。「人生はラグビーだけではないし、ラグビーはもう終わったことだから、土曜日の夜はみんな楽しんで人として話そう」という言葉が響きました。もちろんラグビーの話もするけれど、そういうことも意識しながらやっています。だから試合後に相手チームに会った時も、ラグビーの話よりも「家族元気?」とか「最近何している?」という話をしますね。
――オフを大切にする意識は子供の頃からですか?
いや、きっとお酒が入ってからです(笑)。
――ラグビーを通じて得たものですか?どこから始まったんですか?
結果は変えられませんし、ロッカーに戻ったら勝っても負けても終わってしまったことなので、次にできることは月曜日の朝からしかできないと思います。それまではどこかで切り替えないと、引きずったり調子に乗って次の試合の準備に入ってしまったりすると思うので、それが大事かなと思います。
――これまで面白くなかったシーズンはありましたか?
面白くないシーズンは絶対にないと思います。ラグビー部45人がみんな仲間ですし、その45人で戦えるのはその1年しかないので、それは絶対に大事にしなければいけないと思います。気づいたら終わっているのがラグビーです。その試合でチームが勝つために、スタッフを含め全員がどれだけ頑張っているかを、みんなが気づかなければいけないと思います。
――オンとオフが分かっている人とはすぐ仲良くなりそうですね
オフができない人は、すぐに飲みに連れて行きます。やっぱり人それぞれオフの過ごし方も違いますし、自分が正解だとは思っていませんが、でもオフにしづらかったりご飯を食べに行く仲間がいない人がいたら、巻き込んで行くようにはしています。
◆引き出しを増やしたチーム
――ファイナルラグビーに向けて気をつけていることは?
今までの13試合を忘れることです。これまでの試合はこの準決勝には全く関係ありませんし、もう目の前にはヤマハしかないので、しっかり準備することです。そして勝てばもう1回のご褒美として、もう1週あるというだけです。何があってもこのチームにはあと2週間しかありませんし、2週目は1週目をちゃんとしなかったらないので、今までの13試合を忘れることです。あと、ヤマハに向けて大事なことは、明日。そして明日が終わったら明後日、という準備をすることです。
――ヤマハに勝てたらそれも忘れるということですか?
もちろん。ファイナルラグビーでは1つのプレー、1つのポイントがどれだけ大事かということを考えて準備していきたいです。
――ヤマハ戦の朝に準備万端となることが一番ですか?
そうですね。自分の中でのベストです。コンディション的にもフィジカルとメンタルの準備は、そこに向けてやっています。そこをゴールにするには、明日から、今からでもできることはあります。
――そのように考えるようになったのはいつ頃からですか?
毎年リーグ戦の方式が変わるので、昨シーズンはこういう考え方はありませんでした。なぜこの13試合を戦ったかというと、この準決勝で戦うためだからです。そしてこの13試合、自分たちのチームの流れや雰囲気を作ってやってきましたが、ここまできたら関係ないと言っても良いくらいヤマハしかないと思っています。ヤマハにどう勝つかだけが大事だと思っています。
――そこまで良い準備をして、良い試合ができるという自信はどうですか?
はい、大丈夫です。自分のベストを出すしかないです。自分の選手としての役割は良い準備をして、良いコンディションで選ばれるようにすることだと思っています。そこでセレクターが選んでくれるかどうかについては、自分の役割ではありません。
――チームとしては昨シーズンを超えていますか?
戦ってみないと分かりません。でも進化は絶対しています。
――どういう進化ですか?
昨シーズンと一緒の戦いはしていないと思いますし、さらに引き出しを増やしたチームだと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]