2017年12月21日
#566 竹本 竜太郎 『100%を大きくしながら90%でやり続ける』
トップリーグの試合に久々に登場しフル出場した竹本竜太郎選手。勢いのあるパフォーマンスの源にあるものは?竹本竜太郎選手の"いま"に迫りました。(取材日:2017年12月5日)
◆90%でやり続ける
――第10節近鉄戦、フルバックでフル出場は久々だと思いますが、プレーはどうでしたか?
正しい努力と、練習中にやってきたことを出す、ということを試合でできたと思います。そして、正しい努力をして、練習するということです。練習でやったことしか試合で出ないので、それを意識してやってきました。そして、90%の力でやり続ける中で、自分の100%を出した時のレベルをどんどん上げること。練習試合2試合で良いパフォーマンスが出せたので、今回チャンスを掴み取ることができて良かったです。
――90%は達成していましたか?
怪我をしていないということが、その証明だと思っています。練習中に頑張りすぎちゃって怪我をする、良いところまで行って怪我をする、ということが僕は結構あったので。
――それは100%でやり過ぎて?
そうですね。
――100%にしようと頑張りつつ抑える、更に90%よりも下げないということは難しいと思いますが、そこはどういうやり方なんですか?
グラウンド外でしっかりとリカバリーをすることが大事です。そして自分が動くだけではなく、周りとコミュニケーションを取ってラグビーをしていくことだと思います。ですので、しっかりとコミュニケーションを取ることが、練習中にもできるようになってきたと思います。
――前よりもよく話しているということですか?
そうだと思いますね。自分の強みは何だ?と考えた時に、フィジカルの面は強いと思っているので、それを活かすために良い角度でボールをもらったり、良いタイミングでもらえたりするように、ビデオをしっかり見ること。そして前よりもコミュニケーションを取って、チームにコミットしてのプレーができていると思います。
◆正しい努力
――ずっと試合に出られていませんでしたが、その間の気持ちはどうコントロールしてきたんですか?
いろいろ考える時期もあったんですけれど、選手なのでグラウンドに出たらしっかりとやりきるということが仕事だと思い、そこはやれてきたと思っています。その中で且つ正しい努力、ゲームに出るための練習ができた成果が、今回試合に出られた要因だと思います。
――正しい努力とは?
例えば、自分にハンドリングスキルが足りない時には、クイックパスとかトリッキーなプレーではなく、着実なパススキルの練習をやらなければいけないんです。あるいはハイボールキャッチができないんだったら、ハイボールキャッチをするために良い練習メニューを集中してやる、ということが必要で、基本的なことをやることですね。
――そこに気がついたのはなぜですか?
前回のスピリッツ・オブ・サンゴリアス(#533)でヨガをやっていると言ったんですが、それはそれで体の使い方という面ではプラスになっていると思いますけれど、それがラグビーに通じるかと言ったらちょっと分からない部分もあったので、その時間をしっかりとラグビーに充てるようにしました。
正しい努力はいろいろなことをやって身に付くものではなくて、基本的なところをコツコツとゲームをイメージしてできたかがラグビーの基本的なプレーに繋がってくるので、そこができていなかったのかなと思いました。
――何事も基本から応用に入って、また基本に戻って応用にということだと思いますが、そういう意味での基本は今までの基本という意識と違っていますか?
これができたから次に行こうではなくて、これができたからこれを応用してこのプレーに行こうと考え、スタッフが組んだ練習メニューの意味を分かって、次の練習に繋げていくことができるようになったと思います。今まではぶつ切りで繋がっていなかったんですけれど、それを自分の中でちゃんと落とし込んで、この練習をしたから次はこの練習を意識しながらやるということができたと思います。
――それは相当考えたということですか?
そうですね。考えながらプレーするようになりました。これまでは勢いでやっていた部分があったので、勢いでやるということも大切なんですが、それが怪我とかのリスクにも繋がってくるので、しっかり体と心の状況を理解して練習に取り組んでいけたことが大きかったです。
◆見ながらコミュニケーションを取る
――後半戦が始まってすぐというタイミングでフル出場を果たしたということは?
その前に2試合トレーニングマッチがあって、最後のチャンスはここしかないと思っていたので、それに向けて良い準備ができました。それと、ライバルの松島選手が日本代表から戻ってきたばかりなので、近鉄との試合では自分が出られるチャンスだなと思いました。そこに対しての早い段階からのアプローチが、練習中からできていたと思います。
――自分の力が伸びたという実感はありますか?
自分の力は伸びてきたと思います。一番はしっかりと自分をコントロールしてどの試合も良いパフォーマンスが出せたということです。周りのサポートがサンゴリアスは強いなと改めて思いました。
――自分の体と心をコントロールするとともに、他の14人をコントロールするという役割が15番はあると思いますが、その辺はどうですか?
週の初めの落とし込みの練習で、相手のキックやバックスペースに対する働きかけやディフェンスの形式を見て、それに対して選手同士でコミュニケーション取ってやっていくことができました。ヤスさん(長友泰憲)とか、啓希さん(宮本)とか、ベテラン勢がなぜチームにしっかりと練習中やミーティング中もコミットできているか?1つ1つのちょっとした気づきや、気づいたその場でコミュニケーションを取っているからだと思うんですけれど、それを少しずつ自分もやれてきていると思います。
――その辺は本人の意識がないと気づかないと思いますが、自分ではどこが変わったんですか?
今までだったら勢いでやっていたんですけれど、勢いに任せてのリアクションで行動をしていたところを、我慢することができるようになりました。
――なぜ我慢ができるようになったんですか?
啓希さんの行動を見ていたら特にそう思いますね。さらに、啓希さんも僕に結構コミュニケーションを取ってくれています。
――彼の行動の何を見ているんですか?
選手会長ということもあるんですけれど、チームを親目線という感じでしっかりと見ていて、見ながら色々な人にコミュニケーションを取っているんですよ。その人にはどういうふうに話が通じるか?人によってコミュニケーションの仕方を変えながらやっているんです。その姿を見ていて、僕も29歳ですし、そういうふうにやっていかなければいけない歳だと思いましたし、お手本にして勉強しています。
――それはラグビーのプレーにも繋がっているんですか?
繋がると思いますね。自分が対戦相手に対してここを注意するべきだと感じていることが、簡単なコミュニケーションを積み重ねることによって、同じ良い絵を見られるようになってきたと思います。
◆信頼関係とコミュニケーション
――今のパフォーマンスはサンゴリアスに入った中でベストですか?
ラグビーを感じながらやれているなと思います。流れを感じながらやれていて、面白いです。凄く楽しいです。近鉄戦は前半に良くないプレーもあったんですけれど、僕は体が強くてキャリーできるという形での強いプレーをしなければいけないと思っているので、そこは後半に切り替えてできましたし、周りともコミュニケーションを取りながらできたので、凄く楽しく感じました。
――修正できているということだと思いますが、なぜですか?
ミスをしたら「これは良くないプレーだ」と分かります。そして「次にこうしよう」という声が出るので、その声を聞いて自分の中で咀嚼してから「次はこうしよう」と思うことができます。ミスをネガティブに捉えるのではなくて、そうやって改善を加えてやっていけているからだと思います。
――それを続けていくには?
今ウインドウマンスで海外の国際試合とかもやっていますし、その映像を見ながら「こういうプレー凄かったね」と話し合ったり、次の試合の対戦相手の試合を見て話したりしています。ラグビーを見て周りと話して、刺激し合っていくことが大切だと思います。
――これからの課題は?
前半の最初の入りのところから、自分の強いプレーをもっとしっかり見せていかないといけないと思います。近鉄戦でセットピースから裏にキックしてダイレクトで出てしまったというプレーがあったんですけれど、練習試合2試合の僕のメンタルだったらしっかりとランして強いプレーして次に繋げていたと思います。普段できていないプレーをそこでやってしまいました。ダメだと思ってその後は修正できたんですけれど、練習でやってきたことがグラウンドに出るので、普段やっていることを出すことが大事になってくると思います。
――これからの目標は?
自分ができるプレーを練習中にしっかりとやっていくことです。その基本的なことをコツコツやっていく。それを90%でやっていって、その中でもしっかりと吸収して100%の大きさを大きくしながら90%でやり続けることです。
――具体的に言うとどうやっていくんですか?
良い先生が周りにたくさんいます。良いメンタリティと良いスキルを持っている先輩も同期も後輩もいるので、自分ができるプレーと良いプレーを比べながら練習中に吸収していくことだと思います。ギッツ(マット・ギタウ)は、体はそこまで大きくないんですけれど、あれだけラインブレイクできるのはなぜかと考えた時に、パススキルももちろん素晴らしいですが、相手との間合いの取り方が凄く上手いんですよ。
僕がそれに対してできることは、ギッツのプレースタイルに合わせて良い角度とランニングコースとタイミングで入っていくことだと思います。日頃からコミュニケーションを取ってギッツが来てほしいタイミングで入って来られる選手だという信頼関係を作りたいし、絶対に良い形でパスをくれるので僕が合わせていけば必ずゲインラインも取れるし、信頼関係と日々のコミュニケーションが大切だと思っています。だからめっちゃ面白いんですよ。
――マット・ギタウ選手の相手との間合いの取り方はどこが凄いんですか?
自分がパスもランもできる位置でもらって仕掛けて周りを活かすことができるし、キックもできる。日々勉強です。だから、一緒にやっていて凄く楽しいですね。
◆考えながらやっているというところ
――自分の理想のプレーヤー像から今どのくらいにきていますか?
3合目くらいですかね。
――ラグビーをもっと感じて更に自分をもっと出していくプレーの先には何があるんですか?
周りを活かせるプレーを自分ができるようになってくる、ということではないでしょうか。今まではこういうプレーをしておけば良いというシェイプラグビーが自分の中に染みついていたんですけれど、しっかり状況と仲間のプレーを見ながら自分で考えていくということが凄く楽しくなってきているので、そこをもっと磨いていけば頼れる選手になっていくと思います。
――試合に出るという面での目標は?
僕よりも身体能力の高い選手は多くて、良い選手はチームの中にいっぱいいるので、日々の練習の中でチャレンジして勝負していくだけだと思います。あとは監督とスタッフがメンバーを決めていくので、僕はそれに対してしっかりチャレンジして、チームが勝つ状況を作っていくだけだと思います。
――今の楽しさをファンはどう見たら一緒に味わえますか?
練習を見に来るしかないと思います(笑)。サンゴリアスの試合には80分間で必ず意図があると思うので、それを見て感じてほしいです。
――それは見どころが深いですね
例えば、ある試合で相手の状況を見て22mライン内に入ったらタッチキックを出すとか、違う相手だったら出さないで真っすぐ出すとか、そういうところはキックとかだと分かりやすいと思います。それを見て、サンゴリアスはこういうチームだから、こういうラグビーをやっているんだなと感じてくれたら、もっと楽しんでもらえると思います。考えながらやっているというところを見てもらえたら、楽しいと思います。
――フルバックのプレーとしては一番何に気をつけているんですか?
キック処理に関しては、キックを蹴られたらダイレクトで取るということと、越されないということです。あとはディフェンスで最後の要というところで、アウトサイドを簡単に抜かせないことです。攻めは相手の弱いところをどんどんついていきたいんですけれど、まだまだ勉強中です。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]