SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2017年12月 8日

#564 田村 煕 『少しでも空いていたら思いっきり』

社会人を1年経験してサントリーに移籍してきた田村煕選手。前チームで新人ながら多くの試合に出場した田村選手の移籍にかける思い、そしてラグビーへの取り組み方について、じっくり訊きました。(取材日:2017年11月22日)

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◆自信を持ってやれる

――昨シーズンから社会人になり、トップリーグでやってみて、どんな手応えを感じましたか?

開幕戦に出させてもらいましたが、次の日に身体がとても痛くて、大学の時とは全く違いました。朝、起きたら本当に動けなかったんです。それ以降は、毎週連続で試合が続いたので、徐々に慣れていきました。そういう中で昨シーズンの東芝は、最初の3試合には勝利したんですが、第4節でヤマハに負けてからズルズルといってしまいました。

サントリーは昨シーズン全勝しているので、そこに上乗せするというのが今年のチームの形になっています。シーズンを全て勝ち続けることの難しさを、昨シーズン負けたからこそ分かっていますし、今シーズンまた勝つことは相当の努力をしないと難しいと思っています。

――開幕戦後に身体が痛くなり動けなくなった時、どう感じましたか?

身体が開幕戦ですごくダメージを受けていて、次週の練習が出来るかなと思いながらやったら、意外にすんなり入れて、次の試合も勝つことが出来たので、「こうやって社会人のラグビーに身体が慣れていくんだな」と思いました。

それと、シーズンが終わった後の話になりますが、サンウルブズとして1試合だけ出させてもらい、その時もまた比べものにならないくらいの圧力を受けました。もっとサンウルブズで試合に出て経験を積むことが出来たら、トップリーグのプレッシャーでも大丈夫だと思えたと思います。

昨シーズンの1年間で、東芝の中にも試合に出られない選手がたくさんいましたが、そういう中で試合に出させてもらい十分な感覚を個人的には掴めたので、今シーズンはまた自信を持ってやれると思っています。

――昨シーズンはサンゴリアスの試合だけ出場しなかったですね

そうなんですよ。偶然だと思います。

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◆覚悟

――明治大学から東芝に進みましたね

東芝はトップリーグのチームの中でも歴史があり、伝統のある良いチームだと思いましたし、僕が入る前も2位で、そういうところを見ていて、僕がまた違ったアクセントを入れられればと思い東芝に入りました。

東芝で1年やらせていただき、成長させてもらって新しく見えたところもありましたが、ラグビー選手としてのキャリアは何十年も出来るわけではありませんし、その中でもう少し歳を重ねて本当にチームの中心となった時に、この1~3年目のキャリアの積み上げ方がすごく大事だと思いました。

――なぜ東芝からサントリーへ移籍したのでしょうか?

もちろん東芝でやっていても絶対に成長できたと思いますが、サントリーには敬介さん(沢木監督)はじめコスさん(小野晃征)など、知っているメンバーもいましたし、ボールを動かすスタイルのチームなので、そういうチームでスタンドオフをやることによって自分のスタンダードをより上げられると思ったんです。

移籍しても出られない可能性もあるということを知りながら、覚悟を決めてサントリーに移籍しました。自分の人生は1度きりと考えたら、貴重な経験だと思います。

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◆自分が好きなように

――お父さんやお兄さんもラグビーのトップ選手ということで、何か応援はありましたか?

高校からラグビーを始めたんですが、父は基本的には「自分の好きなように、最後の判断は自分でしろ」というスタンスです。兄も父と一緒で「自分の思うようにやったら良いし、もしそれがダメだったら、またその時に考えれば良いから、とりあえずやってみた方が良いんじゃないか」と言ってくれました。

――ラグビーを始める前は、何かスポーツをやっていたんですか?

3歳から中学3年まではサッカーをしていました。親がトヨタ自動車だったので、愛知県の中学校の部活でサッカーをやっていて、そこまで悪くはなかったと思います。兄は早くからラグビーをやる方に気持ちが傾いていたと思うんですが、僕は高校受験のギリギリまでサッカーを続けるか、ラグビーにするかと悩んでいて、7対3くらいでサッカーを続けようと考えていました。兄は5歳上なんですが、兄が出場した早明戦などを見たり、親からの勧めなどもありラグビーを選びました。

兄は幼い頃にサッカーの練習があっても、父の現役時代や監督をやっていた時の試合を見に行っていたので、ラグビーは結構身近だったと思いますが、僕の場合はサッカーを優先していて、父の試合を全く見に行きませんでしたし、ラグビーボールに触ったこともありませんでした。いま思えば、中学3年の時に競技を変えて1人で栃木の高校に行くことも、大きな決断だったと思います。

――サッカーでのポジションは?

フォワードもやっていましたが、メインはトップ下でした。今のラグビーと変わらないですね。

――サッカーの面白さは?

自分でもボールを持っていけるし、ポジションにもよりますがスペースがいっぱいありますし、ラグビーと違い前にパスをしても良いですし、体をぶつける部分もあることや、駆け引きなども面白いと思っていました。

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◆ちょっとやれそう

――高校でラグビーを始めてどうでしたか?

兄も同じ國學院大學栃木高校で、兄の代の同期は8人でしたが、僕の代は25人で、経験者の方が多く強い世代と言われていたので、本当に頑張らなければいけないと思いましたね。ラグビーは本当の初心者だったので、まず手を使うところから始めましたし、体も細くて55kgくらいしかなかったのにタックルがあるので、本当に「これやばいな」と思っていました。高校に入ってすぐサッカーの球技大会があり、これはサッカーに戻った方が良いかなと思いました(笑)。

――頑張れた源は何でしたか?

高校の吉岡肇監督が僕の父の國學院大學久我山高校時代の同級生なんです。まず辞める理由がありませんでしたし、やらなければいけない状況でした。それに僕が一人暮らしをしていたアパートは、監督の家の横にあり、有無を言えない、やるしかない状況でした。

――この競技もできるかなと思ったのはいつくらいですか?

吉岡監督は教育者で、人を育てるために見てくださる方です。僕が初心者で入ってきて、ボールを持って相手を抜くことができたり、パスを放れたり、キックが飛んだりした時に、ものすごく褒めてくれました。そういう環境の中でやることができて、5月くらいには楽しい気分になっていましたが、試合に出させてもらうようになってから少しずつ「あそこダメだぞ、こうだぞ」と言われるようになってきて、いざ夏合宿に行ったらめちゃくちゃ怒られました。

監督は「試合に出て学べ」という考えで、試合に出る度にめちゃめちゃ怒られていました。夏合宿が終わって帰って来て、関東の高校のリーグ戦が始まったら怪我で人手が足りなくなって、その時、僕はフルバックをやっていましたが、ウイングで試合に出させてもらいました。たまたま良いパフォーマンスをして、そのまま25人の花園メンバーにも選んでくれました。

そしてその花園の1回戦で鹿児島実業高校と試合をして、実は1分間だけ亮土さん(中村)と同じグラウンドに立ちました。ちょっとした出血交代での出場だけだったので、次の年こそはと思いましたし、2年目くらいから「ちょっとやれそうかな」と思っていたと思います。

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◆自分の得意なことしかできない

――その時ウイングでのパフォーマンスが良かった要因は?

サッカーは3歳の頃から始めて、気づいたら小学1年で3年生の試合に出ていたり、2年の時は高学年の試合に出ていたりしていて、物心ついた時には試合に出られないという経験をしていなかったんです。そういう中で、ラグビーという違うスポーツを始めて、上手くいかないのは分かっていましたが、それでも試合に出られないことが悔しかったんです。そして、試合に出られた時には何かしなければいけないと思ってプレーしていて、そういう時って自分の得意なことしかできないので、それがたまたまハマったんです。

――悔しい思いをする熱い部分と自分を分析するクールな部分の両方がありますね

本当にあの時はタイミングが良かったと思います。10日間くらいの夏合宿で、僕は朝から30分1本の試合を4~6回して、午後は3~4回で、僕だけ1日に3試合分くらい出ていました。そこで怪我をしないということは褒められましたが、少し痛いところがあるだけで休もうとするとめちゃくちゃ怒られました(笑)。そこでメンタルが強くならなければいけないと思いましたし、サッカーをやっていた時には経験できなかったことをたくさん経験することができました。

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――高校時代に感じたラグビーの面白さは何でしたか?

2年生の時に、U17の9地域ブロックの代表による大会があり、それに関東代表として選んでもらいました。その時はセンターとして選ばれて、横田先生(横田典之/日本ラグビー協会ユース統括・埼玉県深谷高校)などに指導してもらい、僕らの関東代表が初めて優勝したんですよ。その時にやっぱり面白いなと思いましたし、自信がついてきました。その後に、U17の日本代表にも選んでもらいました。

あと、2年生の時の花園で、1つ上の代が8人くらいしかいなくて、スタメン13人が僕らの代でした。それで3回戦まで進み、僕らの高校では十何年ぶりかに花園で年を越しました。その時はものすごく自信になりましたし、次の年は自分たちの代で何とかしないといけないと思っていました。

そして、僕らの代になって、常にタイトル争いができるようになり、新人大会2位や関東大会優勝、国体で3位など成績を残していましたが、花園では準々決勝で東海大仰星高校に負けてベスト8止まりでした。

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◆10、12、15番

――その時は10番ですか?

15番です。2年の時が10番で、3年では15番でした。10番と15番は同じようなスキルを持っていないとできないと言われていて、高校の頃はあまり変わらないと思ってやっていましたが、社会人になって10番と15番は違うと感じています。その中で、10番、12番、15番など、周りを動かせるポジションでプレーしていきたいと思っています。

――今のサンゴリアスは明治大学出身の選手が増えましたね

そうですね。僕が1年の時に慎太郎さん(石原)が4年生で、1つ上に寺田さん、同期が駿太(中村)、小林、元樹(須藤)です。そして1つ下が桶谷、成田ですね。

大学から知っているので、どんな選手か分かっていてやりやすいですし、個人個人の能力は高いと思っています。明治大学以外からもそういう選手たちが集まっているので、簡単には試合に出られないと思いますが、明治大学のメンバーと一緒にグラウンドに立てたら嬉しいですね。そのためには個人個人が頑張るしかないと思っています。

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◆いつ出てもいいように

――今シーズン、練習試合にはほぼ全部出ていますね

そうですね。全部出ています。

――練習試合での感覚はどうですか?

覚悟はありましたが、やはりパフォーマンスを出してもトップリーグには出られない状況にいるので、そこは正直モチベーションの維持が難しいところではあります。

――そういう中でどんなモチベーションで試合に臨んでいるんですか?

「どんだけ頑張っても出られない」とか「練習試合しか出られないから」というような考え方でやっていると、仮に急に出られるようになりましたとなった時に、「まだ出られないと思っていました」みたいな言い訳はしたくありません。ですので、練習試合であってもまず練習からちゃんとできるように、本当にいつ出ても良いように、準備はしています。

形は違いましたけれど松島幸太朗さんも1年目出られなかった訳ですし、周りからは「早く出られたらいいね」と思ってもらえていると思うので、純粋にラグビーを楽しくやるということと、出ているメンバーが良いパフォーマンスを出していて勝ち続けているので、勉強になる部分も多いです。ですから、練習から吸収しようとしています。

――サントリーに入って、面白いな、楽しいなと思うところはどこですか?

練習中に試合をイメージして、プレッシャーをかけたり、かけられたりする中で、僕がBチームでやっていて相手の10番がコスさん(小野)ということは、昨シーズン日本一のスタンドオフという訳ですよね。どこのチームでも毎日そんな経験はできませんし、ギタウ(マット)もスミス(ジョージ)もいますし、本当に特別な経験ができているなと思います。そこが面白いですね。

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◆空いている時は積極的に

――今シーズンの目標は?

チームが優勝するためにサポートすることです。

――個人的には今までの練習試合の中で見つかった課題はありますか?

僕が前に試合をしたのが9月だったんですが、先週の試合をその時と比べると、僕もゲームリーダーをさせてもらえて、試合間が空いたメンバー同士の試合にしては、組立てが良くなっているのではないかと思います。

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――1試合に少なくとも1回はショートキックでボールを上げたり、転がしたりしていますが、あのプレーは得意なプレーですか?

コスさんも試合で何回か蹴っていると思うんですけれど、目立つ部分であり、正直ボールを手放すという行為なので、思いきり蹴るロングキックよりはミスをしたら軽いプレーだなと見られるようなプレーでもあります。敬介さん(沢木監督)には「そこはしっかり判断をして、チームとコミュニケーションが取れた上で判断したチャンレンジなら問題ない」と言われています。

逆にそれをやらなかった時の方が良くないので、空いている時は積極的にチャレンジしています。僕から声を出したり、少しでも空いていたら外からも声が出てくるので、そこは思いっきりやろうと思っていますし、練習試合では上手くいっていると思います。

――サントリーというチームから感じられるものは?

サントリーはトライを取ることに凄く貪欲ですし、優勝を何回もしているチームでアタックが売りのチームです。どのチームも凄くディフェンスが良くなって来ている中で、それでもトライが取れるということは、チームにこだわりがあるからだと感じます。

――ファンにはどんなところ見てもらいたいですか?

あくまで上手くなりたくて、前よりもっと良くなりたくて、このチームに来ました。公式戦には出られないですけれど、頑張ってやっていますという感じです。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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