2017年11月30日
#563 竹本 隼太郎 『スクラムの仲間に入れてもらいたい』
青木佑輔選手と共に日本人選手最年長、12年目のシーズンを迎えた竹本隼太郎選手。第9節までのリーグ前半戦では出場機会が無く、後半戦に向けた熱い思いを心に秘めています。復帰間近の竹本選手の心境と目標を訊きました。(取材日:2017年11月15日)
◆昨シーズンより体は改善
――開幕からこれだけ試合に出ていないのは1年目以来だと思いますが、前半戦が不出場で終わった気持ちはどんな感じですか?
チームも新しいことにチャレンジして、昨シーズンの戦術からよりレベルアップ、改善しているので、客観的には良いなと思っています。感情的には出られない悔しさに自分の意識をフォーカスさせてしまうとネガティブになるので、あまり考えないようにしています。怪我を治す、パフォーマンスを上げることに集中できた前半戦でした。
――それはどんどん良くなっていますか?
月単位なんですが、ちょっとずつ良くなってきています。時間でしか解決できません。また、グラウンドで走る量をコントロールしています。開幕直前までは100%チャレンジでグラウンドに立ち続けてみたりはしましたが、初めてのことだったので力加減が分からなかったですね。
――現状は上向きですか?
上向きになっています。
――全体的なトレーニングの完成度はどうなんですか?
ほぼほぼ良いです。実は体脂肪と筋肉量というのは、過去最高に良いんです。ほぼ整っています。
――どうやってそこまで持っていったんですか?
良いトレーニングですよ。ウエイトトレーニングと痛めているところに負担のかからないエアロビックなバイクやストライダーです。グラウンドでの運動量を減らしても、そっちの方のトレーニングで、昨シーズンよりも体は改善できています。
――あとはやるだけ?
今シーズンもあと7~8週なので、結果が出せるかどうかが今シーズンのフォーカスポイントだと思います。
――1年目(2006-2007)の時はどのあたりから試合に出ましたか?
ほぼ出ていないです。その年の日本選手権準決勝でのリザーブ、あとリーグ戦中盤のワールドファイティングブル戦でのフル出場かな。スタメンは1試合だけ出ました。
――それから比べると今シーズンは行けるぞと?
どれだけ出られるか。絶対により多く出たいなと思っています。
◆完全にドミネートする、ぶちのめす
――昨シーズンと今シーズンの違いはなんですか?
戦術面ではより個人の判断が上がって、スペースを見つけることとか、ボールキャリーにもフォーカスしていますし、ブレイクダウンも改善しようとしています。セットプレーもラインアウトが良くなっています。
――それをやっていても接戦が多いということは、他のチームも相当レベルアップしているということですか?
周りもレベルアップしているのと、やっぱりチャンピオンチームになったことで、いろいろなチームから注目されて、分析されて、周りのチームはサントリーに対して全力を出してくる。こっちは昨シーズン通りに戦っていてもその分差が縮まっています。相手の100%をぶつけられるので、接戦ということもあります。ヤマハとは接戦、トヨタには内容的には負け試合でギリギリ勝ったり、パナソニック戦は、相手のタックルとブレイクダウンが素晴らしくて負けましたが、勝てていたかもしれない試合だったのではないかと思います。
――「勝てたかもしれない」とは?
例えば、スクラムとかモールでは確実に優位に立てていましたけれど、優位に立っていたところを完全にドミネートする、相手をぶちのめすことができたら、いけていたかもしれません。そうしたら相手の自信がなくなって、勢いがなくなって、試合に勝つチャンスがあったと思うんです。でも、ギリギリでモールも耐えられて反則もされていますけれど、いいディフェンスされて、トライになりませんでした。スクラムも押したスクラムは何本かありましたが、ターンオーバーまでいきませんでした。そこが変わると大きく変わってくるのかなと思います。
――そこは主にマインドの部分ですか?
スクラムはマインドが大きい影響を占めていると思います。「8人がまとまって」と簡単に言いますけれど、なかなかまとまれないですよね。だからこそ、他のチームと差をつけられるところなのかなと思いますけれど、昨シーズンのダルマゾ(マルク/スポットコーチ)が来た後は、組むタイミングから姿勢から100%押すというマインドセットのところがあったと思うんですよ。
でも、今シーズンのフロントファイブは昨シーズンから引き続きやっていると思うんですけれど、バックローはタイミングもアングルもそうですけれど、フロントスリー、プロップを助けるところが薄れてきているのかなと思います。スクラムを組む時はやっぱりそういうマインドがないと、良いスクラムが組めないと思います。
◆8人が一つになった時のパワー
――スクラムが課題ですか?
バックローの押しに関しては、昨シーズンより少しだけ落ちているのかなと思っています。
――何を見ているとそう感じるんですか?
スクラムに入る前の姿勢と、体の使い方と、浮いているか浮いていないか、地面と平行で伝わっているか、足の寄せ方などです。
――後半戦ポイントになってくると思いますが、どうですか?
自分も入ってバックローとロックとコミュニケーションを取って、ちょっとでも良いスクラムを組みたいという思いはあります。僕はバックローですけれど、「スクラムの仲間に入れてもらいたい」と強く願っている数少ないバックローです(笑)。
――スクラムの仲間になかなか入れないのはなぜですか?
ブレイクを速くしてディフェンスしなければいけないし、サポートにも行かなければいけないし、足も疲れてきます。そこで押すかどうかは、一緒にスクラムを組みたいか組みたくないか、スクラムを押し切りたいか、だと思うんですよ。
――そういうマインドを持てるだけのスクラムの魅力は?
昨シーズン、ダルマゾが来た時にキツいスクラムの練習をして、8人が一つになった時のパワーの凄まじさを体験しました。練習で凄いなと思ったことが練習試合で通用して、今までできなかったことができる。春の東芝戦でもスクラムで圧倒してターンオーバーして、もう負ける気がしなかったですね。フォワード8人が頼もしいと思いましたし、あれは素晴らしいなと思いました。
昨シーズン社会人11年目でしたが、11年目でやっとスクラムの仲間に入れてもらえたなという感覚がありました。そういう一回自転車に乗れたのと同じような感覚があるので、もう一回仲間に入れてもらいたい、自分のできることはできるだけやろう、という気持ちです。どんなにキツくても相手が根をあげるまで、力を出し続けるとか、一人でも欠けたらダメだという感覚。
――それと同じことはラインアウトやモールでも言えるんですか?
モールでももちろん良いモールを組めた時はそうです。9月にリコーと練習試合をやった時に、その時に出ていたメンバーはモールで一つになっている感じを体感したと思います。
――それは発見でしたか?
これまではミーティングで同じように毎回繰り返してずっと変わらなかったことが、ちょっとずつ良くなって試合で成果が出たので、やっぱりみんな嬉しかったし、意識的にも無意識的にも繋がれたと思います。余裕ができて、その後の練習においてもAチームに勝ったり、やっぱりまとまりが大事なんだなと。
◆自分を活かして周りを活かす
――今シーズンの今後の課題は?
ずっと課題だったのは勝ちきる、良い形で容赦しないローバスト(Robust ※サンゴリアスでは「容赦なく強固に相手に勝つ」という意味で使用)、強固にまとまって相手を圧倒するというところだと思うんですけれど、結構先制される試合も多いので、試合の入りから最後までファイトし続けるというところですね。
――竹本選手がキャプテンをやっている時にもずっと勝っている時があって、その時の教訓はありますか?
その時は、「みんなが練習通りにやれば勝つ」という自信があって、例えシンビンが1~2人出て13人で戦っても、試合の前から勝つ自信はありました。でも、過信はしていないです。自分のパフォーマンスが出せるかどうか不安で必死にみんなやっていて、だからこそ失点する心配もないし、ミスしてペナルティゴールを狙われる心配もしていませんでした。
――勝ち続けた経験をどう活かしていけば良いと思いますか?
連覇することは対戦相手と同じくらいのレベルだったら、なかなか難しいと思います。やっぱり相手より1~2段階くらい強くないと、圧倒的な強さがないと、レフリーや観客などアゲインストの風も吹くでしょうし、勝ちきれないと思います。それはないといけないなと思います。
――今シーズンは前半戦で1試合負けていますが、そこはどうですか?
そこはチームとして前向きに捉えて、「自分たちはまだ弱い」ということを自覚して、挑戦者の気持ちを取り戻したので、今後のやりようによって昨シーズンのチームを超えることができますし、逆に下回ることも両方あると思います。
――そのポイントは?
1回1回の練習で確実に改善するか、しないか。1%の小さな積み重ねがまとまった時に大きな力を生み出すことができるので、シーズン終盤に向けて改善しつつまとまっていかなければいけないと思います。
――個人的な課題は?
スキルやフィジカルの面を磨いているので、出遅れた分をしっかりと取り戻さないといけないというところです。トータルでレベルは101%以上にしなければいけないと思うんですけれど、昨シーズンのパフォーマンスよりはまだ悪いと思うので、より具体的に、セットプレーからフィールドのアタックディフェンスで周りを使ったり、自分ももちろんスキルを磨きますし、自分を活かして周りを活かすことを改善しなければいけないと思います。
――そこへの準備は?
この2週間でやって、公式戦に出たいなと思います。
――今シーズンの現時点での目標は?
後半戦に出て優勝の時にグラウンドに立っていることです。
――今のラグビーの楽しさは?
練習の時にチームとして良いアタックした時は凄く喜びを感じます。それは、自分一人ではできないことができるからです。自分だけで良いタックルをしようと出過ぎてしまうと、ギャップができて抜かれますし、まとまっている感と、自分もそれに寄与している感、役に立てている感が喜びです。
――まとまっているとはどういう意味ですか?
いろいろな要素が一つにならないといけません。戦術も理解しないといけないですし、フィジカルも、スキルも、それらが全てかみ合わないと、良いタックルとディフェンスができないんですけれど、それがかみ合った時が嬉しいんですよね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]