2017年11月 2日
#559 須藤 元樹 『小さな目標を積み重ねて上がって行く』
強みであるスクラムをはじめ、まさに伸び盛りのプレーを見せている須藤元樹選手。2冠獲得と日本代表入りをターゲットに、その挑戦への道のりと意気込みを訊きました。(取材日:2017年10月17日)
◆練習が活きている
――かなり激しい練習をしていると思いますが、どうですか?
敬介さん(沢木監督)もずっと言っていますが、試合より高い強度で練習が出来ているという共通認識がみんなにあると思います。僕もそれを思っていて、試合の時よりも練習の時の方がプレッシャーがかかる中でのプレーが多く、ボールの展開も速いですし、アタックとディフェンスが試合よりも目まぐるしく変わるので、試合の時には冷静な判断でいられるようなシチュエーションになっていると思います。
――あの速い展開の中で選択してプレーしていくというのは相当大変だと思いますが、それには慣れましたか?
そうですね。アタックとディフェンスを切り替える時に相手を見てディフェンスをすぐに埋めていくんですが、それをまず第一に考えます。前を見れば相手がどこにアタックをしてくるか分かるので、スペースがあったらそこをしっかり埋めたり、他の選手を呼ばなければいけなかったら自分が入って呼んだり、という判断が出来ていますね。
アタックに関しても、ディフェンスからアタックに切り替わった瞬間にディシジョンメイキングして、仲間たちとコールをし合います。それを共通認識としてセットできているので、春先に比べたら凄くレベルアップ出来ているのかなと思います。
――そのやり方は昨シーズンからですか?
昨シーズンもそうですね。試合よりも高い強度で練習するということをやっていました。尚かつ、今シーズンは速いテンポの中で用意されたプレーだけじゃなくて、自分たちでディシジョンメイキングして、ラグビーをやるということをやっています。今シーズンは昨シーズンを超えてやっているので、それは本当に自信になっているところかなと思います。
――上手くいく時もあれば、上手くいかない時もあって難しいと思いますが、手応えは?
不慮の事態になったり、セットからファーストフェーズ、セカンドフェーズとミスをしてしまう時もあったりしますけれど、ミスしてもすぐカバーができるような強度の練習をやっていて、練習の方が強度は高いので、試合でそんなに慌てることはないですね。トヨタ自動車戦も18点開きましたけれど、みんな全然パニックになっていませんでしたし、そこは練習が活きているのかなと思います。
◆ディフェンスは精度を上げて
――18点差を付けられた要因はどこにあるんですか?
いろいろな要因があると思いますけれど、雨が降っている中でトヨタ自動車の強みが出て、自分たちが不用意なペナルティーを繰り返してしまいました。相手はセットピースのラグビーで、スクラム、ラインアウトとモールを起点としているラグビーなので、相手の土俵で戦ってしまったことが、あの点差になってしまった一番の要因だと思います。
――セットピースは自分の強みにしようと言っていましたが、どうですか?
スクラムに関して言えば合格点ではないですけれど、ある程度プレッシャーもかけられましたし、ペナルティーも取れました。ただ、ラインアウトに関してはアタックのデリバリーの精度が50%というめちゃくちゃ低い数字でした。ラインアウトモールからのトライも直接ではないですが、そこを起点にフォワードフェーズでトライを取られてしまったので、ディフェンスに関しては精度を上げていかなければいけないなと思いましたね。
――精度を上げていくポイントは?
今やっているラインアウトのサインを正確にやることがまず第一で、自分たちのオプションがいっぱいある中で、ジョー(ウィーラー)やヘンディー(ツイ ヘンドリック)のコーラーが中心となってサインをチョイスしていくんですが、キツい時にコーラーに頼りっぱなしになってしまうシーンがありました。速いテンポでゲームを進めなければいけないですけれど、もしミスが続いてマイボールのラインアウトになった時は、一回落ち着いて、余裕を持ってセットアップできるようなことをやらないといけないなと思います。
◆声に負けじと体がついてくるように
――しゃべり方が速く感じますが、試合中でもそのペースで話すんですか?
僕はそんなに喋りません。ラインアウトは基本的に先頭に立つので、一言、二言しか話さないんです。アタックだったらコールを一言、二言しか話しませんし、ディフェンスでも相手のナンバーや何人いるかということを言いますが、ポンポンと言うスタイルで、細かいことは言ってないですね。
――それも含めて、それだけ速くしゃべることができるということは、同じくらい頭が回転していて状況を把握していると思います。その頭の回転に体の動きはついていけていますか?
そうなんですよ(笑)。頭では分かっているんですけれど、キツくなった時に声が出なくなってしまうこともあるので、声に負けじともっと体がついてくるようにどんどんレベルアップしていかなければいけないです。少しずつ良くはなっていると思うんですけれど、まだまだです。
――ついていくためには何がポイントですか?
もっと自分が余裕を持たなければいけないと思います。余裕を持てれば、バーッと喋らなくても的確にパンパンと言えば伝わりますし、ちょっと考え過ぎちゃうことが自分の中にあるので、そこは変えなければいけないなというのはありますね。
――そこでバランスを探しているという感じですね
そうですね。全部を完璧にしようという思いが自分の中にあるので、妥協とかではないですけれど、もっと的確にポイントを絞って喋ることができるようになるのもそうですし、考えられるようになれれば、プレーの精度も上がっていくのかなと思います。
――その部分が今の課題ですか?
自分の一番の仕事はセットピースだと思うので、まずそこを大前提として100%ボールをキープして、相手ボールだったら全部プレッシャーをかけて、1つでも多くマイボールにできるようにしていきたいです。
◆1番、3番、両方できる
――スクラムでは今、3番に入ることが多いですよね?
今はそうですね。敬介さんにも春先は「1番、3番、両方使う」と言われて、自分の中でも1番と3番を用意していました。1番に関しては良い位置に入れれば自分の力で押していける自信があるんですけれど、3番よりも技術がまだまだ追いついていないと感じて、この春はずっと1番に力を入れてやってきました。1番、3番、両方できるということは僕の強みだと思っているんですが、それをしっかりと言えるようになるには、1番の技術をもっと上げていかなければいけないと思います。
――1番と3番の大きな違いはどこですか?
3番は相手の1番と2番に挟まれるので、2人を相手にします。3番の時は両肩に敵がいるんですけれど、1番は相手が3番だけで右肩にしか敵がいないんですね。なので、体の使い方も全然違いますし、腕のバインドも逆ですし、求められる技術も3番は相手の1番を切って内側に入ってくるんですけれど、1番は相手の3番に潜り込むというか下を取って押して押してという感じです。
――全然技術が違うんですね
そうですね。体の使い方も違いますね。
――両方やっていると面白いと思いますが、大変ですよね
大変ですけれど、自分の中では1番、3番、両方できるという思いで高校、大学でずっとやってきて、社会人になってもそれをブラしたくないという思いがありました。1番、3番、両方しっかりできるようなレベルまでは、もっと上げていかなければいけないと思います。
◆セットピースは自分の強み、フィールドももっとやらなければいけない
――今年、日本代表を経験しましたね
そうですね。面白かったですよ。アジアチャンピオンシップ第1戦の韓国戦は20分くらいしか出ていないですし、第2戦の韓国戦はすぐ交代してしまいましたが、本当に国を代表して戦うという誇り、プライドを自分の中で得ることができました。一番違ったことは、周りのみんなに凄く祝福されて、祝福のメールやラインが凄く来たことです。日本代表のキャップは取れましたが、自分としてはまだまだです。今回11月の日本代表からは外れてしまいましたが、ジェイミー(ジョセフ日本代表ヘッドコーチ)に呼ばれるようにしていきたいです。
――2019年が少し見えてきましたか?
ぼんやりとですけどね。まだまだ超えなければいけない相手はいっぱいいます。ジェイミーからセットピースだけではなく、フィールドプレーでもしっかりボールキャリー、アタック、ディフェンスができるような選手を求めていると最初のミーティングで言われたので、そこのレベルをもっと上げていければ、自ずと呼ばれるようになるかなという自負はあります。
――サンゴリアスでセットピースをポイントにしていて、更にフィールドプレーというと、全部やるということですね
そうですね。まだまだですけれど、自分の中でフィールドプレーは少しずつ良くなってきているという感覚があります。積極的にボールタッチの回数を増やしたり、ディフェンスでしっかり相手へロータックに入ったりというところは、自分で目標を持って試合に挑んでいます。
――良くなった原因はなんだと思いますか?
日本代表から外れたからだと思います。代表を外されて、何故だろうと考えた時に、一番は第4節のヤマハ戦でスクラムを押されて、フィールドプレーもあまり良くなかったので、そこで代表候補から完全に外されたと思ったんですけれど、裏を返せばそこの2つが良くなれば絶対にまた呼ばれるだろうと思いました。セットピースは自分の強みですが、そこでやられてしまったので、長所はもっと伸ばしていかなければいけないなと思いましたし、フィールドプレーももっと良くならなければいけないと思って、練習から更に意識するようになりましたね。
――サントリーの一員としての課題は?
自分の強みはセットピースと低いタックルで、アタックに関して言えばボールキャリーは良くなっているんですけれど、サポートプレーとしてブレイクダウンに寄る時のスピードがまだまだ良くないなと映像を見て思うので、そこのレベルをもっと上げなければいけないなと思います。
――今の時点での今シーズンの目標は?
チームとしてはトップリーグで優勝すること、プレーオフで優勝すること。その2つは繋がっていますけれど、しっかりと2年連続2冠を獲れるようにすることです。個人としては代表に戻る、呼ばれるようにするということです。そのために、いま言ったセットピースを伸ばすのもそうですし、ディフェンスのフィールドプレーでは、自分の中でちょっとずつ小さな目標を積み重ねて、上に上がっていかなければいけないと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]