2017年10月27日
#558 松井 千士 『松井は足が速いなと言ってもらえるように』
新人として早くも4試合に出場、良い時も上手くいかない時も、気持ちを前面に出してプレーする姿に、思わず声援したくなる方も多いのではないでしょうか。今まさに成長途上の松井千士選手に心境を訊きました。(取材日:2017年10月17日)
◆ウエイトが実った
――横に動いてのトライと真っすぐに突っ込んでのトライで、バリエーションがあると思いました
これまでだと、右サイドだったら右、左サイドだったら左しかなかったんですが、両サイドで獲れるようになりましたし、更に左右にステップを切ったり、ギッツ(マット・ギタウ)から縦でもらったり、そういう力強さも身に付いたと、試合の中で実感できました。
――第7節宗像サニックスブルース戦のトライも自身で「できた」という実感がありましたか?
そうですね。ステップワークは大学の頃から自信を持っていましたが、2本目のトライはタッチラインがギリギリで、以前だったら押し出されるところを粘れたことが、3月からウエイトをやってきたことが実ったことの1つかなと思います。
――ウエイトの成果というのは今後に向けてはどうですか?
サニックスで言えば、少しは通用した部分はありましたけれど、対外国人選手とぶつかった時は弾かれたり、押し戻される部分があったと思います。上位チームになってくるともっと力強い選手が多いと思うので、まだまだだなと思いますね。
◆課題が浮き彫りに
――第8節トヨタ自動車ヴェルブリッツ戦はほぼフル出場でしたね
本当に課題が浮き彫りになった試合だと思います。トップリーグではサンゴリアスが今シーズンあれだけリードを許した試合は初めてでしたし、僕自身にとってもサンゴリアスに入って初めての試合展開だったので、自分自身の成長に繋がったと思います。ですが、コミュニケーション能力も、ボールキャリーも、いろいろな部分でまだまだだなと感じさせられた試合でした。
――最大で18点差がつきましたが、どんなことを考えていましたか?
僕自身はインターセプトを食らったことは、アンラッキーだったと思って切り替えようと思ったのですが、その後また1本取られてしまい僕の中で少し焦りが出てきて、少し点数が開いたなと感じていました。ですが、周りの14人はピシッと何も動揺せずにやっている人ばかりだったので、さすが昨季のチャンピオンチームだなと思いましたし、パッと顔を上げてみると逆にトヨタの選手の方がキツそうな顔をしているように見えました。だからこそ、他の14人は勝てると思ったんだと思います。
――どの辺から松井選手は他の14人と同じ意識になっていったんですか?
ハドルを組んで流さんが喋っている時ですね。このチームは昨季チャンピオンになっているチームなので、やっぱりここで焦らないんだと思いました。そういう周りの選手たちの姿を見て、僕自身も試合に出ているメンバーとして、ここで焦っても仕方がないですし、チームにコミットしていかなければいけないなと思いました。ハドルを組んだ時にみんなの意志が1つにまとまっているんだなと思って、凄く引っ張られた形になっちゃいましたね。
――今回の試合の出来はどうでしたか?
内容的には本当に最悪でした。敬介さん(沢木監督)も言われていましたし、僕ら選手自身もそう思っています。18点差をひっくり返せたことは1つ次に繋がる材料になると思うので、そういう部分では評価できる試合かなと思います。
――個人的には?
個人的には全然ダメだったなと思いますね。敬介さんにも凄く怒られましたし、「まだまだだな」ということも言われました。僕自身も試合中に感じていましたし、試合後にもまだまだだなと思いましたが、次節パナソニック戦があって切り替えなければいけなかったので、課題がある部分を再確認できて良かったと思います。
◆いろいろ質問したい
――今の時点での最大の課題は?
ラグビーの理解力かなと思います。ウエイトとフィジカルの部分は自分自身の問題だと思うので個人で鍛えていければ良いんですが、サンゴリアスで言われるナレッジという部分で、チームのやろうとしていることをもっともっと理解しなければいけませんし、ラグビーに対する時間を今以上に割いていかなければいけないと思いました。
――理解するためにどうしようと考えていますか?
映像を見て理解することもそうですし、周りに日本代表やサンウルブズで活躍するバックス陣もいますし、晃征(小野)さんも流さんも然りですが、ラグビー理解力が高い選手がいっぱいいるので、もっと自分から積極的に質問をしてかなければいけないということを改めて感じました。
――それは早速やっているんですか?
トヨタ戦の準備で凄く映像を見ていたんですが、まだまだだなと思いましたし、どこが相手の弱みとか自分自身がどこを狙われているとか、そういう部分まで考えられていなかったと思います。今日から練習が再開で代表メンバーも帰って来ているので、いろいろ質問したいなと思っています。
――映像を見る時に視点はどこにあるんですか?
大体、最初は相手のディフェンスを見ています。僕がどうアタックするか、どこの裏にスペースが空いているのかなど見ていますね。ウイングがいつ上がってくるとか、いつ下がっているのかとか、もし下がっていたら外に回した方が良いとか、そういう理解力を高めていき、試合でのパフォーマンスとして出していきたいと思うので、そういった部分をしっかりと見ています。
――実際にやってみて違う場合は?
実際、トヨタ戦でできなかった理由は、たぶん焦りがあったからだと思います。なんで焦りがあったかと言うと、もっと準備ができた部分があったと思うので、準備が足りなかったという思いが、自分の焦りに繋がったと思います。パナソニックも全勝チームなので、本当にこの1週間はしっかりと準備をして、自信に繋げていければ周りも見ることができてくると思うので、そこをちゃんとやっていけば大丈夫だと思います。
――準備とは?
コミュニケーションだと思いますね。サンゴリアスに来て、コミュニケーションをとっているつもりだったんですけれど、まだまだ自信やコミュニケーション能力の無さが出てしまい焦りに繋がってしまったと思います。そういう部分は練習の中でやっていくしかないと思います。1年目でルーキーとして練習中にアグレッシブにいかないといけないですし、コミュニケーションを取らないといけない部分もあると思うので、そこを修正していきたいと思います。
◆毎日が楽しい
――今まで焦りを感じることはありませんでしたか?
なかったですね。サニックス戦も、NTTコミュニケーションズ戦も、ヤマハ戦も、自分の中でしっかりと準備してきました。トヨタ戦も自分の中で準備していたと思っていたんですけれど、まだまだでした。そこで相手が違うことをしてきたり、自分のプレーが通用しなかったりした時に、また違ったプレーをしなければいけないという考え方もなかったので、そういった部分でもっとラグビーの理解力を高めていけば、引き出しが増えていきそれが自信に繋がるのかなと思います。
――そういう課題がありながらも、話を聞いていて楽しそうですね。今のラグビーの楽しさはどこにありますか?
サニックス戦は上手くいっていて、マン・オブ・ザ・マッチも取れて、僕の中で調子の良さを感じていた中で、トヨタ戦では良いプレーができず、また自分の課題が浮き彫りになりました。成長したと思っていても次の試合ではまだまだだなと思えるところが、僕の中で楽しいなと思いますね。まだまだ成長できる部分があるからこそ、敬介さんも僕に厳しい指導をしてくれていると思いますし、そういう部分では毎日が凄く楽しいですね。
――ここまで出場した4試合で、今年こうしようと思い描いていた部分と、実際にやってみたこととの違いはありますか?
現状は僕の中の理想とは違いました。僕の中では開幕戦から出てやろうと、自信に満ち溢れてサンゴリアスに入って来た中で、メンバー争いでポジションを勝ち取ることができなくて開幕戦に出られず、第3節のヤマハ戦でやっと出ることができました。そういった部分で理想とは違ったんですが、僕の中ではそれが日々成長に繋がる糧になると思うので、毎日楽しんでいます。
――いざスイッチを押したら爆走するみたいな感じがあると思うのですが、自分は集中力があると思いますか?
そうですね。言い方が悪いかもしれませんが、僕はまだ波がある選手だと思っています。僕自身もそう思っていますし、敬介さんからもそう思われていると思います。一貫性を持って良いプレーをし続ける選手が良い選手だと思うので、そこを毎試合毎試合コンスタントに出していきたいと思っています。
――それはどうやったらできると思いますか?
やはり準備だと思います。あとは、ラグビー理解力ですね。僕がレギュラー争いを挑んでいる同じポジションの先輩たちと比べても、体の強さや足の速さの部分では負けていないと思うんです。でも、まだまだサンゴリアスのチームのことやラグビー理解力で負けている部分が多いと思いますし、そこを磨いていけばどうにかなるなと思っています。
◆頼れば良い
――自分の中ではどういう時にスイッチが入るんですか?
サニックス戦の時みたいに、最初はメンバー外だったんですけれど、アクシデントがあり急きょメンバーに入れてもらって、そこで何が良かったかと言ったら準備だったと思います。怪我明けのサニックス戦でマン・オブ・ザ・マッチを取れたのは、その前の練習でしっかりと準備をしていたからこそだと思います。
トヨタ戦に関しては、1週間の練習の中で敬介さんによく怒られる部分が多かったんです。それはなぜかと考えた時に、準備が足りなかったんだなと思いました。トヨタ戦の映像も然りですけれども、浮き彫りになっている自分の課題が把握できていなかったからこそ、準備力が足りなかったと思うので、そこで一貫性を持ってやり続けることが大切で、やり続けていかなければいけないと思っています。
――準備というのは、例えば、映像を見て対策をイメージしてそれを体現してみるという繰り返しですか?
そうだと思いますね。間違ったことや分からないことは、周りに経験豊富な選手がいっぱいいるので、質問すればすぐに返ってくる環境があります。映像を見て、体現していたつもりだったんですが、質問まではしていなかったなと思うんです。
自分の中で噛み砕こうとはしていましたが、周りに聞こうとしていなかったことが先週は多かったと思うので、そういう部分は頼れば良いことだと思います。別に恥ずかしいことでもないですよね。むしろ頼っていた方がチームからすれば「松井はこういう考え方をしているんだな」と思ってもらえたりして、両方でコミュニケーションが取れて、絶対に一方通行にはならないと思います。
先輩方からはよく発信してくれるんですが、なかなか自分から発信することが先週1週間は本当に少なかったなと思うので、今週1週間はどんどん質問をしていきたいなと思っていますね。
――それはなぜ気がついたんですか?
トヨタ戦終わりに、何がダメだったのか、何でプレーが悪かったのか凄く考えましたし、試合中のプレーが良くなかったのでどんどん自信がなくなってしまったんですが、それ以前に何かできたことはあったのかと思った時に、そういう考えが出てきました。それは僕自身の発見ですが、敬介さんにも「このままやっていても代表選手にはなれないと思うし、それをどう変えていくかといったら、松井自身の考え方を変えれば良いことだと思うから」と言われました。ナレッジの部分が足りないということも話されたので、もう一度ラグビーに対してセンシティブに向き合っていきたいなと思っています。
◆ぶれずにスピード
――課題はいっぱい出ましたが、元々の自分の最大の強みはなんですか?
そこはぶれずにスピードだと思っています。中靏さんも江見さんも足が速いですが、僕自身そこだけは絶対に負けていないと思っていますし、そこだけはブレずにしたいと思っています。フィジカルの部分も自信がついてきていますが、何よりも自分の大きな幹はスピードの部分だと思います。そこだけは譲らないように、ブレずに頑張っていきたいなと思っています。
――それはさらにスピードを上げていくということですか?
そうですね。フィジカルで、上半身と下半身の筋肉がバランスよく上がってくれば、より一層スピードのキレも上がってきますし、力強いスピードも出せると思うので、そこはどんどんプラス αしていきたいなと思っています。
――今シーズンの目標は?
サンゴリアスでレギュラーを勝ち取ることと、優勝することが僕の目標です。
――どこら辺までスピードを上げたいですか?
中靏さんもそうですが、パナソニックの福岡堅樹さんであったり、好調を維持されていて、凄く足の速い選手と言われているので、「それよりも松井は足が速いな」と言ってもらえるような存在、トップリーグの観客にもそう思ってもらえるような存在になりたいと思っています。
(写真:⑧170902_6507)
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]