2017年8月17日
#548 中靍 隆彰 『できるようになるまでコツコツやる』
昨シーズン初めてのタイトルを手にした中靏隆彰選手。MVP、最多トライゲッター、そしてベストフィフティーン、さらにはチームが二冠獲得というシーズンを経て、新たなシーズンにはどんな目標と課題を持って臨むのでしょうか。シーズン直前にじっくりと話を訊きました。(取材日:2017年8月2日)
◆ボールを動かす人たちが気持ち良く動かせるように
----5年目のシーズンを迎える心境は?
春シーズンの過ごし方がいままでと違ったので、目指すところは一緒ですが、いままでとは違う感じがします。
----その違いはサンウルブズの活動ですか?
昨シーズンまでだったら、春シーズンはずっとサンゴリアスで過ごしてやっと開幕という感じだったのですが、今年は本当にシーズンが終わってからすぐにサンウルブズの練習が始まって試合をしてきました。そういう活動を経てまたサンゴリアスでプレーをできるという楽しみな部分がすごくあります。
----サンウルブズの結果についてはどうですか?
結果が出なかったり大敗したりして色々な意見があると思いますが、個人としてはずっとテレビで見てお手本にしていた世界で、まさか自分がその中でプレーできると思っていなかったですし、世界のトップレベルの頂点を知ることができたというのは、自分の中では大きかったです。
これまでは未知の世界でしたが、現在の立ち位置が分かったので、そこに向かって僕は努力をしていきたいタイプなんです。春にサンウルブズで経験できたことが良かったか良くなかったかは、これからのトップリーグでの自分のプレーで判断できると思うので、サンゴリアスのためにしっかりとやっていきたいと思います。
----そういうことを経験したうえで、サンゴリアスの中での自分の課題は何ですか?
サンゴリアスには、また今年も本当に良いメンバーが揃っていると思います。課題は試合をやっていく毎に出てくると思いますが、いまサンゴリアスのメンバーと試合に出るのが楽しみで、本当に出たいです。コスさん(小野晃征)やギタウというボールを動かす人たちが、いかに気持ち良く動かせるかという部分で、僕らが色々な選択肢になれるようコミュニケーションを取って、やっていきたいなと思っています。
昨シーズンは毎試合必死にやって、結果的に最後振り返ったら全勝優勝という感じだったので、他のチームとの差は無いと思います。でも、その中で昨シーズンは本当に負ける気がしなかったですし、そういう気持ちは大事だと思います。
◆優勝が自信になりました
----みんなが自分の課題を自分で考えるという意識の持ち方が一昨年と昨年で変わったと思うんですが、選手としてはどうですか?
前日の自分より成長していくという積み重ねで試合毎に成長できたと思いますし、昨シーズンのチームを超えないと今シーズンでまた全勝できないと思います。僕は昨シーズンの自分を超えるのはもちろんですが、日々改善していって毎日成長しないと、本当にこのチームで試合に出れないと思っています。
----改善や成長を具体的に言うと、どういうところですか?
チームから求められているものは戦術やコミュニケーションだと思うので、そこはしっかりとやろうと思っています。個人としては自分の体の動かし方であったり、サントリーに入ってからずっとやっていることをまた試行錯誤しながら、昨シーズンよりももっと速くなりたいですし、もっとステップを切ったり、もっと色々なところに顔を出したり、本当にいっぱいあると思います。結構欲張りなのでそういうのを全部やって、色々な分野を伸ばしていきたいなと思っています。
----昨シーズンで結果が出たのは前年と比べて、どこが自分で良かったと思いますか?
一番は敬介さん(沢木監督)が監督になってラグビーが変わって、ウイングがボールをもらえる機会が増えたと思っています。いまは更に進化し、自分でトライを取りきるという強みを活かす機会が増えました。
----チャンスがいっぱいあり、持っている力を出し切れたという感じですか?
そうですね。すごくチームの戦い方にマッチできるようになったと思うようになりましたし、外側だけではなく色々なところに顔を出すことができるようになりました。サンゴリアスのウイングというものをようやく分かってきたという感じです。
----自信になったところはどこですか?
優勝できたということがすごく自分の中では自信になりました。本当にいままでの人生で優勝できていなかったので、優勝までの道のりを経験できたことは自分の中では大きいです。いままでだったらどうやったら優勝できるんだろうという状態でした。だからと言って今シーズンもまた同じ行き方で行けるかと言ったら、そうではないと思っています。
----プレーとしてはどうですか?
ここをこう行けばチャンスだなとか、この人がこう行くからそこにもらいに行けばトライに繋げられるという、プレーの引き出しはすごく増えたかなと思います。
----それはチャレンジを重ねたからですか?
そうですね。昨シーズンの試合の経験もありますし、さらにスーパーラグビーという上のレベルで試合をしたという、気持ちの部分がすごく自分の中にはあります。
----そこにさらに世界との経験が加わってみてどうですか?
自分としては世界のバック3と対戦できたことが大きいです。それをこれからのシーズンに活かしたいです。春からやってきたことにはプライドや得たものをしっかりと持っているので、それをぶつけていって、「あいつ凄いな」と思ってもらえるようにしたいと思っています。
サンゴリアスのラグビーはやっていて本当に楽しいですし、絶対に今シーズンも勝てるという自信があるので、僕もそこで試合に出て活躍する自信があります。
◆もっと掘れば行ける
----体のケアはどうしていますか?
僕はいまのところ怪我なくやってこられているので、スポーツ選手として怪我をしないということはやっぱり大事なことだと思います。ケアをしすぎないところとケアをするところを分けています。
----それは自分で学んだんですか?
毎回試行錯誤をしながらです。あと、食事にはすごく気をつけていて、食べること、寝ること、練習前の準備を特に意識しています。気をつけようと思えば気をつけられるところはいっぱいありますし、自分の中で試して取捨選択できるという感覚があるので、本当にそこは人それぞれかなと思います。
----ルーティンはほぼ固まってきている感じ?
ルーティンというのは表裏一体というか、良いことを続けるのはもちろんですが、やっていく中で停滞するところも出てくると思うので、そういう部分であえてウエイトでいつもと違うことをやってみたりしています。冒険してみて違った場合も、その違うということに気づくことが大事なのかなと思っています。
----相当、試行錯誤を繰り返していますか?
そうですね。最終的にはそれを最後に誰かに教えたいなと思っています。僕が試行錯誤をして辿り着いたものを僕が誰かに教えれば、その人は最短距離でそこまで行けると思うので、本当に知りたいという人がいれば、自分の経験を教えたいなと思います。
----自分をモデルにしながら色々と試して、成功もあれば失敗もあると思いますが、、そこに面白さを日々感じているという感じですか?
うですね。僕なんかラガーマンとして日本人の平均以下の体型だと思うんです。そこで日本代表でワールドカップにもチャレンジし続けて、自分が試したことで結果が出ていけば、高校生年代の子供たちがもっとできると思ってくれると思うんです。体が大きくなくても、飛び抜けた何かがなくても、絶対にできると思います。
----体格的に恵まれていなくても何があれば大丈夫だと思いますか?
まずはやり方を教えてもらうことは大事だと思います。がむしゃらにやっていても、しっかりと下に掘っていくことだと思いますし、みんなが掘っていない時に掘り続けることが大事だと思います。
----それは周りが掘っていない時間に掘るということですか?それとも掘っていない部分を掘るということですか?
それも人それぞれだと思うんですが、スポーツはやっぱり結果じゃないですか。結果が出ていないから掘るのをやめるのか、自分はこんなに掘ったのに才能によって無理だと辞めてしまうのかなどあると思いますが、更に掘ればもっと行けるという気持ちが大事だと思います。
----そこを信じ続けられる力はどこにあるんですか?
いままでの成功体験ですかね。例えば僕の場合は、高校では弱小校でもがむしゃらに掘り続けて、高校日本代表に入るという成果を出すことができましたし、それにより早稲田大学に入ってレギュラーを獲るとか、日本一になるとか、それでもし結果が出なかったら努力が足りなかったということです。
サンゴリアスに入っても1年目は試合に出られませんでしたが、ずっと努力をし続けて2年目で試合に出られるようになりました。そして、3年目までは試合に出ながら優勝は経験できませんでしたが、4年目で結果を出すことができました。
----そこを乗り越えるコツは?
自分が試合に出てチームのために活躍して勝ち、そして優勝できれば、どんなにキツいことがあっても、あのような気持ちの良いことは癖になります。あの気持ちを味わえるのであれば、オフもいらないと思えます。いまはそういう気持ちになっていますね。
----3年目まではどういう気持ちで続けられたんですか?
そこまでいくんだという気持ちですかね。結果が出たことで生まれる固定観念はやっぱり壊さないといけないと思っています。僕よりもっとやっている人はいっぱいいるかもしれないですし、実際にスーパーラグビーでは通用しなかったので、もっとやらなきゃいけないと思いました。まずは自分が結果を出してなんぼだと思うので、もっと色々とやらなきゃいけないと思っています。
◆できなかったことができるようになったら
----いま一番ラグビーが面白いと思うところはどこですか?
やっぱり一番は勝つことで、勝ったチームにどれだけ貢献できていたかで得られる満足度は違うと思います。ワンチームと言っても試合に出ていないと悔しさが残ると思いますし、残らないといけないと思います。勝ってチームに貢献して、みんなで喜ぶのが一番ですかね。
----自分の理想とする選手のどの辺まで来ていますか?
半分くらいですかね。項目毎に分けたチャートがあるとして、それぞれそこにはMAXがあります。自分がいくらやっても伸びる限界値というのはあると思うんですけれど、ここまで行きたい、MAXまで行きたいと取り組み、ラグビー人生が終わり振り返った時に、それぞれの項目でMAXと比べて自分が行けたのはここら辺までだったなと分かると思います。
例えば、キックの飛距離だったら今まで見てきたキックの飛ぶ人がMAX、タックルが一番すごかった人がMAX、そうやって自分の中のMAXができています。そして、スーパーラグビーで戦ったことで、「ここまでMAXがあるんだな」というのが分かって、「それと比較して自分はまだここだ」と思いました。もちろん各分野でMAXを目指したいですが、どこまで膨らませるかなという感じですね。
----どこまでもいけると考えられるもとは何ですか?
成長ができたら楽しいですよね。ちょっとでも前より良くなったり、できなかったことができるようになったら楽しくて、それがスポーツの醍醐味だと思いますね。僕は新しいことがすぐにできるタイプではなくて、できるようになるまでコツコツやるのが得意です。
◆トライは勝つため、出るため
----今シーズンの目標は?
まずは優勝する。優勝するのはもちろんですが、いかに優勝に貢献できたかというのを求めていきたいです。昨シーズンより成長したなと思ってもらえるように頑張ります。
----成長したなと思うにはどこを見たら良いですか?
目には見えないと思うんですよ。大雑把に言うと、見ていて「あいつすごいな」と思ってもらえるようになりたいですね。
----MVPなど昨シーズンの成果はもちろん自信になっていると思いますが、昨シーズンの成果を背負っている感覚はありますか?
完全にないですね。
昨シーズンは昨シーズンという感じですね。MVPを獲りたいとか、ベスト・フィフティーンに入りたいとか、そこを目指していたわけではなく、トライを取るのは試合に出るため、そして勝つためでした。今シーズンも優勝に貢献したいです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]