SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2017年8月11日

#547 マット ギタウ 『人生は常に学び』

ジョージ・グレーガン、ジョージ・スミス両選手に続き、オーストラリアからまた代表キャップ100を超える名選手がサンゴリアスに加入しました。ユーティリティーバックスのマット・ギタウ選手。シーズン直前にラグビーへの思いを訊きました。(取材日:2017年7月28日)

◆最初の試合は緊張した

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---- ギタウ選手の前にジョージ・グレーガン、ジョージ・スミスという選手がサンゴリアスへ来ています。今回サントリーに加わったのはその影響もありますか?

はい、理由の1つではあります。日本に来る前に日本で経験した人に話を聞きましたが、サントリーについて悪い話を聞いたことがありませんでしたし、サントリーは歴史があって成功しているチームだということをフランスにいる時から聞いていたので、そういう思いもあってサントリーに決めました。

---- 来てみてどうですか?

すごく良いです。でも8日間(網走合宿)で3試合したのは初めてです(笑)。選手もみんな温かく迎えてくれましたし、本当にプロフェッショナルな環境と感じていますし、やっていること全てが楽しいです。

---- プロフェッショナルとはどういう意味を持っていますか?

まずトレーニングでのインテンシティという部分ですごく良いですし、練習はやるべきことをやりながら決して長くはないですし、時間通りに終わります。それから、ゲームプランやゲームトレーニングに対しても明らかになっていることが、自分にとってとても嬉しいですね。ジムの設備も素晴らしいと思いますし、素晴らしいフィジオセラピスト(理学療法士)もいるし、通訳や日本語レッスンもやってくれますし、全てが時間通りで自分の思うようになっていて、組織がしっかりできていると感じました。

---- 日本のチームと戦ってみてどうでしたか?

初めてのチームでやることなので最初の試合はすごく緊張しました。日本の試合は展開が速いと聞いていましたし、その中で日本はフィジカルが足りないということを言われていますが、自分はそうは思いませんでした。スペースがあり1対1の状況は多く、フィジカルの面も強いと感じました。

現在チームに合流している外国人選手は私一人なので、サントリーのみんなが私に話しかけてくれますし、サントリーの文化を学べる良い機会だと思っています。そして実際にサントリーの文化に触れ、素晴らしいと感じています。

◆すべてが新鮮

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---- 改めて日本のラグビーを体験してみて、面白いと思っているところはどこですか?

全部です。1つ1つが自分にとって新しい経験です。言葉もそうですし、やること全てが自分にとって新しい経験なので、すべてが自分にとって新鮮で楽しいです。

---- 他の外国人選手がいない中、7月上旬頃にサンゴリアスに合流しましたね

最初は外国人が私しかいなくて大丈夫だろうかと思いましたが、英語を喋れる晃征(小野)も通訳もいるので、いろいろと安心できるようになりました。それからバックスの選手の名前をテスト形式で1人ずつ当てていったりすることで、チームメイトの名前を憶えていきました。

逆に、外国人選手がいると外国人同士で固まってしまうようなことになってしまい、こんなに短い時間で日本人選手と打ち解けることはできなかったと思うので、良かったと思います。網走合宿中の空き時間では日本人選手とカードゲームをやったり、他の外国人選手が経験できないことをたくさんできたことは良いことだと思います。

---- チャレンジャーなんですね

自分の文化を持ってくるのではなく、日本の文化を尊重して自分がそれに入っていくというチャレンジする気持ちが大事だと思っています。

---- 楽しんでいますね

生卵をごはんにかけて食べたり、すごくタフでしたが、やってみたら意外と美味しかったです(笑)。

◆見てすぐに覚えていく

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---- 最初にラグビーにチャレンジしたのはいつですか?

5歳の時にリーグラグビーを始めて、11歳までラグビーはやっていませんでした。父がプロラグビー選手だったので、ラグビーの環境に触れ合ってきました。幼い頃からラグビーボールを持っていましたし、ボールが家の中に転がっていました。リーグラグビーを始めたことはチャレンジというよりも、ただ楽しかったからやっていたという感じですね。チャレンジという意味で言えば、学校の方が自分にとってのチャレンジでした(笑)。

---- 子どもの時はリーグラグビーのどこが楽しかったんですか?

父がコーチをしていたので、6~8歳の時に有名な選手たちが新しい動きやトリックをやっていたのを見て、「どうやるの?」と聞きに行ったことを今でも覚えています。そこで覚えたことを学校でみんなに見せたりして、それが楽しかったですね。

---- 比較的すぐにできましたか?

どんどん覚えていくタイプでした。テキストブックなどにやり方を書きながら覚えていくのではなく、見てそれを実際にやっているうちに、できるようになるタイプでした。

◆7人制の1回の練習でエディーは決めた

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---- いつラグビーをずっとやっていくと決めましたか?

本当にすごくおかしな話なんですが、オーストラリアの7人制代表に選ばれて、その当時の7人制はアマチュアのメンバーで、スーパーラグビーでプレーしている選手はほとんどいないチームでした。それなのに、7人制代表の練習に、当時ワラビーズ(オーストラリア代表)のヘッドコーチをしていたエディー(ジョーンズ)がやって来たんです。

そして、エディーが私を見て、「良い選手がいる。彼に来てもらいたい」と言ってくれたんです。その年のワラビーズのシーズンツアーのスコッドに入れたいということだったんですが、その話の最初の15分ほどは冗談を言っているんだと思っていました(笑)。なぜ自分が選ばれるのかと思いましたが、ワラビーズのスコッドに入ることで、自分はプロとしてやっていくんだという感覚が湧いてきました。

---- すごく嬉しかったのでは?

すごく幸せでした。だって私はその時にはスーパーラグビーでプレーしていなかったんですよ。私が活動していたキャンベラのエリアの他の選手も私のことを知りませんでしたし、練習でもすごく緊張していて、誰と一緒にいればいいのかも分からない状態でした。そんな中、ジョージ・グレーガンがリードしてくれて私を迎えてくれましたし、ジョージ・スミスもそうでした。それから色々な選手と交流するようになり、仲良くなっていきました。

---- 誰も知らない中に入って"実力で認めさせる"という気持ちはありましたか?

最初、スコッドに入っても試合には出られないと思っていましたし、もし試合に出ることができれば、経験を積めれば良いかなという気持ちでした。その中で、幸運なことに試合に出場することはできたんですが、緊張してナーバスなエナジーに変わってしまい、パスが強すぎたりなど、あまり上手くプレーできない時がありました。そこをコントロールするのにすごく時間がかかりました。

そこで自分はこのレベルでプレーして良いのかというところも考えましたが、スーパーラグビーやそのレベルでのプレーを経験することによって、だんだん慣れてきました。ただ、その中でもまだやらなければいけないことがたくさんあると思いながら、プレーを続けていきました。

---- その当時は、自分の中でどこがストロングポイントだと思っていたんですか?

ありませんでした。その中で、エディーは私から何かを感じてくれたんだと思います。ただ、いま考えても、なぜ選んでくれたのか分かりません(笑)。強みというよりも、どうやったら良い選手になれるかということにフォーカスして日々の練習をしているので、強みを伸ばしていこうという気持ちではないんです。

---- そういう姿勢が評価されたのでしょうか?

エディーは7人制の1回の練習を見て決めたので、本当のことは分かりませんが、もしかしたらそういうところを見ていたのかもしれないですね。練習後のミーティングの後にエディーと話した時には、「あなたはこの中で一番スキルフルな選手だ。それを練習や試合の中でどんどん見せてくれ」と言われました。だから、エディーがどういうところを見ていたかは分かりません。

◆ディテールが大事

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---- そういうことを経てトッププレーヤーになり、オーストラリア代表として100試合以上も出場しました。いま考えた時に「自分はここが良いからこういう選手になった」と思うところはどこですか?

すごく良い質問ですね。私がとても大切にしていることは、チームメイトやコーチの意見を大事にしているということです。そのサークルの中に自分が常にいるということがすごく大事だと思っていて、他の選手から「彼と今までプレーして良かった、プレーしたことがプラスになった」と言ってもらえることがすごく大事だと思っています。

もちろんそれはコーチも一緒で、コーチが「彼を指導して良かった」と思えるサークルがあって、それがすごく自分にとって大事だと思っています。そのサークルがあるから、自分も毎日頑張っていこうという気持ちになります。

成功するということに関しては、ディテールがとても大事になってきます。例えば1つの動きがあって、それが10個のパーツに分かれるとしますよね。10個のパーツに分けて、そのうちの自分がやらなければいけない役が、その中にいくつかあったとします。その役割をしっかりとやることによって、その10個のパーツがしっかりと組み合わさって1つのオプション、プレースタイルができ上がっていくんです。

その細かいディテールにこだわることによって、大きな枠というものがあまり関係なくなってくる場合があるんです。80分間の試合でも、その80分間が色々と分かれています。その細かいディテールをしっかりとやることが大事なんです。

インディビジュアルでもそうですし、メンタルタフネスでもそうで、個人の1つ1つの準備からその細かい部分をしっかりやっていくことがすごく大事です。私が指導を受けたコーチが「1%をしっかりとやらなければいけない」とよく言っていました。その1%というものは見えない部分で、100%のうちのたった1%かもしれませんが、その見えない部分をしっかりとやることによって、ジグソーパズルのように全てがちゃんと収まってくるというところを大事にしています。

---- コーチに言われた「1%を大事にする」ということを、具体的にどう実感しましたか?

いままで新入りのメンバーとして大事にするべきことをたくさん学んできました。ビデオでレビューする時にも、そういう細かい部分を言われることによって気づくことがありますよね。映像を見る時にそれが自分の中のビジョンになっていって、細かい部分が見えるようになります。

15番がトライに繋がるようなすごく良いプレーをしたとします。ただ実際にはその前のプレーで9番がすごく賢い動きをして15番のためにスペースを作ったから、そのプレーに繋がったかもしれません。そういうところが大事であるということが、映像を見ていて分かるようになっていきました。

ある選手がトライをした時に、その前に何か素晴らしいプレーがあった時には、その素晴らしいプレーをした選手のところに行って「すごく良いプレーだよ」って伝えます。それでその1%に気づくことができたら、みんなも細部に気づき始めます。そして、全員がその1%をできるようになっていくと思います。

その1%をちゃんと認めてあげるんです。それで全員が安定してその1%の仕事をしっかりと果たせるようになれば、大きな絵として全員が素晴らしいプレーをするようになり、チームとしても良くなります。

---- ギタウ選手も先輩に褒められたことがあったということですか?

自分も負けず嫌いで常に必死でやっていました。ある時の試合でチームメイトがラインブレイクされて、それを自分が追いかけていた時に他の選手が先にタックルをしました。その後、自分が次のポジションンについた時に、ジョージ・グレーガンから「すごく良い仕事したな」と言われました。ベテランからそういうことを言われたことを今でも覚えています。認めてもらえた、細かい部分を見てくれている、というところを今でも覚えています。

---- プロフェッショナルというイメージがしますね

人生そのものだと思います。人生は常に学びです。興味を持つことを失ってしまったら、それは人生ではなくなってしまいます。ベテランだから彼らから学ばなければいけないのではなく、自分よりも素晴らしいプレーをした、良いことをした選手から学ぶべきなんです。ベテランだから彼らの話を聞くわけではありません。自分よりも優れている人のところに行って、話を聞いて良くしていくということがとても大事です。

◆サントリーが勝つために何ができるか

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---- どのくらい負けず嫌いですか?

妹や母などとゲームをしていて、もし相手がズルをしていたらすぐにその場からいなくなります(笑)。妻も、討論になったり言い合いになったりするので、私と1対1でゲームをするのを嫌います。私はちょっとしたコンぺティションを作るのがすごく好きなんですが、負けるのは大嫌いなので、そのバランスが難しいんです(笑)。

---- 自分はどういうバランスを取っている人だと思いますか?

いまは子どもが自分のバランスを取ってくれているかもしれません。3歳と5歳の男の子なんですが、たぶんその2人だけは自分のことを叩いても許します(笑)。

---- 子どもたちが生まれる前はどうでしたか?

あまりシリアスなことを言ってくるタイプの人と一緒にいるのではなく、よくジョークを言ってくるような人と一緒にいることが好きでした。自分もそういうタイプです。

---- カッとなった時はどうやってコントロールしているんですか?

自分の準備がしっかりとできていないと感じた時には少しナーバスになります。それを結構早い段階で学びました。準備をしっかりやることによって、試合に近づいていけばいくほど、自分の思い通りにリラックスできるようになってきました。

---- 自分の性格はどんな感じですか?

楽しいことをすることが好きですし、冗談を言うことも好きで、それがすごく大事だと思っています。ラグビー以外の時はできるだけ楽しいことを考えています。

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---- バランスは取れていますか?

真剣な話が終わったらすぐにスイッチをオフにして、次のことに向かいます。

---- 今シーズンの目標は?

すごくタフなチャレンジになると思います。サントリーは昨シーズン1敗もしていません。チームのゴールは変わりませんし、私が試合に出ていようが、リザーブであろうが、メンバー外であろうが、そのゴールは変わらないんです。サントリーが勝つために何ができるかを考えてやっていきます。

---- ポジションはどこが好きですか?

12番のポジションが大好きです。私だけの意見を言えば、10番よりも12番の方が自分では良いと思っています。

---- どんなプレーをしたいですか?

自分自身のプレーを映像などで評価する時には、トライを取ったり自分が目立つようなプレーをしたから良いプレーをしたとは思いません。そこにはすごく多くの仕事があって、他の人が良いプレーをしたと言ってくれても自分では良いプレーじゃないと思うこともありますし、スーパースターのように目立った選手がいたとしても、チームが負けてしまったら全く意味がないんです。

タイトルを獲るために、どんな仕事でもやらなければいけないと思っています。ラグビーはただトライを取るだけではなく、本当に色々な仕事があるんです。そういうことをしっかりとやることがすごく大事で、インディビジュアルなターゲットに向かって取り組むことはもちろんで、良い練習をすると共にしっかりと細かな仕事もして、チームが勝つことを一番の目的としてやらなければいけないと思っています。

---- ラグビーの一番の魅力は何ですか?

自分が愛するスポーツ、やっていて楽しいスポーツを通じて、様々な人生の経験ができることです。いままで行ったことのない国にたくさん行けますし、オーストラリア、南アフリカ、フランスにも行きました。それまで両親は海外に行ったことがありませんでしたが、私がラグビー選手として海外に行くようになってからは、両親も海外に行くことができました。好きなラグビーを通じてワールドワイドに自分自身が思ったことをできる、そういうところに行けるということは、すごく魅力的なことだと思っています。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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