SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2017年8月 4日

#546 石原 慎太郎 『まずはサントリーで1番をつけて出る戦い』

心なしか表情に良い意味での厳しさが加わってきた石原慎太郎選手。様々な経験によって選手としてひと回り大きくなったのでしょうか。本人の意識と意気込みを訊きました。(取材日:2017年7月14日)

◆知らないものを知ることが楽しい

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—— 読書好きの石原選手ですが、普段はどんな本を読んでいますか?

普段は「○○が好きで読む」という感じではなく、誰かが「これめっちゃ面白かった」と言っていたことを聞いて興味を持ち始めることが多いです。映画でもそういう声を聞いて興味を持てばすぐ観ますし、みんなに薦められたらその本を読みたくなるので、結構そういう動機が多いですね。

—— 周りの薦めを受け入れようとする時には、どんな気持ちがあるんですか?

知らないものを知ることが楽しいですし、そもそも本を読むということも楽しいですね。いまもテレビをあまり見ないんですが、以前まではテレビをつけないで生活していると、その時間にずっと携帯を見てしまうことが癖になってしまっていました。それを変えたいという気持ちもあったので、本はそれにぴったりだと思ったんです。

若井さん(ヘッドS&Cコーチ)からも「寝る前の睡眠力を上げるためには、寝る2時間前くらいから携帯を使うことをやめた方が良い」と聞きましたし、本を読んでいたらスーッと眠くなるので、ちょうど良いんです。あの感覚がたまらなく好きですし、睡眠力を上げることにも繋がっていると思います。本を読むきっかけは色々とありましたが、結果的に本を読んでいて面白いですし、自分にもプラスになっていると思います。

—— 最近読んだ本のベスト3を挙げてください

1位が『超人の秘密』(スティーヴン・コトラー)で、2位は『告白』(湊かなえ)、3位は『天才』(石原慎太郎)を入れておこうかな。『天才』に関しては、僕が作家・石原慎太郎を初めて読んだ本です。

—— 同じ名前なのに今まで読まなかったんですね

今まで本当に接点がなかったんですよ。母親に名前の由来を聞いても、「慎太郎ってかっこいいじゃん」という感じでしたし、僕が生まれた時は「まだ石原慎太郎さんがそこまで有名じゃなかった」と言っていて、都知事になられたのは僕が小学生くらいの時でした。石原慎太郎さんと名前が一緒ということは知っていましたが、身近に石原慎太郎さんの本が無かったので、触れ合う機会がありませんでした。『天才』は昨年かなり話題になったので、これは良い機会だと思い読みました。

◆話す力が学べている

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—— これから石原慎太郎を読んでいきますか?

『太陽の季節』は読んでおいた方が良いとみんなに言われるので、ちょっと順番を間違えたかなと思っていますが(笑)、死ぬまでには絶対に読もうと思っています。

本を一番読んでいたのは、小学生から中学生の時だったと思います。サスペンス系の小説を学校の先生が集めていて、その先生から借りて読んでいました。

—— そこで本を読む習慣がついたんですね

語彙力をつけるために読んでいる訳ではありませんが、もともと話すことが嫌いではありませんし、こうやってインタビューなどで話すことも楽しいと思うので、結果として語彙力は上がっていると思いますし、本を読むことで話す力も身についていると感じています。

—— どんなタイミングで本を読んでいますか?

今の時期だと、遠征などで移動時間があるので、そういう時に読んでいます。それからハマっている本があれば、それを読むことが寝る前の習慣になっています。

—— 後輩に読書を薦めたりはしますか?

本を読んで悪いことはないと思いますが、読まされていたら意味はないと思います。僕も読みたくない時に本を読んでも頭に入ってきませんし、自分で読みたい時に読みたい本を読むことが一番良いと思います。他人から「○○が面白いよ」って言われても、その本に興味が湧かなかったら読みたいという気持ちにはなりません。

だから、最初は好奇心で、好きな本から読み始めることが良いと思います。本を読むという感覚ではなく、好きなことについて書かれているものを読み、好きなことについて更に知るっていう感じです。

—— 年間にどのくらい本を読むんですか?

出会うタイミングによりますが、年間で10冊程度なので、そんなに多くはないですよ。トップリーグが開幕すると決まったルーティンがあるので、ほとんど移動の時にしか読まなくなります。僕の場合は寝る前は試合の映像を見て、それをイメージしながら寝ることがルーティンになっているので、オフシーズンの遠征とか合宿中が本をよく読むタイミングです。

◆悔しさで終わった3年目

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—— この1年間で、ラグビー面で多くの経験を積みましたね。自分でも予期していましたか?

特に今年の春シーズンは目まぐるしかったですね。まったく予期はしていませんでした。一昨年の3年目は試合に全然出られなくて、森川に1番の背番号を取られて、悔しさで終わったシーズンでした。4年目を迎えたオフシーズンではめちゃくちゃトレーニングをしてシーズンに臨み、チームは全勝優勝を果たすことができたので、スタートから違いました。

僕の場合は、特に日本代表になりたいという気持ちでやってきたわけではなく、「絶対に負けない」、「試合に出て絶対に優勝する」という気持ちでやってきたので、その取り組みによって結果が出て、日本代表などもついてきたという感じです。

正直、昨シーズンは毎試合、敬介さん(沢木監督)から尻を叩かれながら17試合続けていていたので、あまり1試合1試合での実感はなくて、シーズンが終わり振り返った時にすごいシーズンを過ごしたと思いました。そして、全勝優勝という実感が湧いてきた時に、まずトップリーグ選抜対サンウルブズの試合に呼んでもらい、それが終わったらNDS(ナショナル・デベロップメント・スコッド)キャンプという若手育成のキャンプに呼んでもらえたんです。そこからアジアチャンピオンシップに出場し、一時サンウルブズにも帯同させてもらい、その後に日本代表へと繋がって、自分の頭がついて行かない感じでした。

3年目のシーズン終わりから、ずっとサンゴリアスでの4年目のシーズンのことだけを考えてトレーニングをしてきたので、流と2人で、「整理つかないですよね」「だな、俺もなんか目まぐるしいわ」みたいな話をしました。

—— 4年目の昨シーズンを迎えるに当たり、どんな強化をしたんですか?

マインドを切り替えていて、4年目のスタートの時点で、絶対に他の選手との差を生み出すこと、同じポジションの選手に負けないことを考えて取り組みました。みんなと同じ練習をやっていたのではアドバンテージは生まれませんし、みんなが休んでいる時に何かプラスアルファをやってやろうと考えて取り組んでいました。

—— 3年目のシーズンが、相当悔しかったんですね

高校からラグビーを始めたんですが、あまり苦労を感じたことがなく、どちらかというと順調に来ていました。始めたばかりなのに、高校2年の時にU17関東代表に選んでもらい、高校代表にも選ばれました。明治大学に進んだ後はU20日本代表にも選ばれ、トントントンと社会人まで進んできたので、いま考えると3年目のシーズンは、自分にとって本当にプラスになったと思います。

ただ、3年目の時は地獄かと思うほど苦しくて、試合に出られないことを受け入れられなかったので、絶対に4年目ではこんなシーズンを過ごしたくないという思いだけでしたね。

それに加え、僕らが入る前年はサントリーが全勝優勝をした時で、「今年も優勝するんだろうな」と思って入ってきたんですが、そこから3年も優勝できないシーズンが続きました。チーム内でも僕ら以下の代の選手たちは優勝を知らないメンバーという括りにされて、それが本当に悔しかったですし、この括りを変えるには絶対に優勝しなければいけない、この立ち位置は変えなければいけないと、同期などとずっと話していました。

特に同期のヅル(中靏隆彰)とそういう話をしていて、ヅルも3年目のシーズンを思うように過ごせなくて、シーズン中から2人でトレーニングをすることがありましたし、オフシーズンも一緒にトレーニングを続けたら、2人とも4年目のシーズンでは結果を残すことができたと思っていますし、特にヅルは3冠(MVP、最多トライゲッター、ベスト15)を取りましたからね。

◆流のおかげ

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—— 練習に裏付けられた自信があったとしても、それを1試合1試合積み重ねることは大変なことだと思います。昨シーズンはなぜそれができたと思いますか?

敬介さんのお陰もあると思います。そして、僕の中では流の存在が大きくて、昨シーズンから多くの時間を一緒に過ごしました。試合が終わって、翌日には一緒に映像で試合を見ながら話をした後に、次の相手の試合を見て、すぐにマインドを入れ替えることを1つのルーティンにしていました。

それが僕らだけじゃなく、他のメンバーも試合の映像を見て、それぞれの反省点や相手の特徴を理解した上で次の試合に向けた練習に臨めていたので、それが大変だとは思いませんでしたし、だから1年間続けられたと思います。

—— 同じポジションの選手ではなく、流選手というところが意外ですね

流は外国人選手のようなマインドをしているんですよ。外国人選手は気持ちのスイッチがすぐに入れ替えられるとよく聞きますが、流もいくら練習前にふざけていても、グラウンドに入ったらスイッチが入ってがらりと変わるんです。

—— 流選手にとっては先輩の石原選手と一緒に映像を見るということは、なんだか気を遣いそうですね

僕が大学の時には考えられない状況です(笑)。けれど、流は特に気を遣っていないと思いますし、僕も全然気を遣わずにいられます。いつからそういう関係になったかは分かりませんが、今でも時間がある時には一緒にスーパーラグビーの試合を見ますし、レッズの試合を見て、ジョージ(スミス)のプレーに2人で「すごいな」って話したりしているので、ラグビーを考える時間が大幅に増えましたし、そうなれたのも流のおかげだと思います。

◆昨シーズン以上のこと

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—— "ラグビーを考えてやることで成果が出る"というサイクルが、どの辺ではハマったんですか?

昨シーズンは色々と分析をして取り組みましたが、開幕戦をギリギリで勝てた時は、まだみんなの中には疑問があったと思います。「いくら分析して、いくらキツいトレーニングをしても、今年もやっぱり勝てないのかな」という思いがあったんです。それが第4節のパナソニック戦で、本当に完璧に近いような準備が1週間通してできて、あのパナソニックを相手にボーナスポイントを取って勝利することができたので、そこでピタッとハマったというか、モヤモヤしていた霧が晴れましたね。春シーズンからやってきたことは間違いじゃなかったと証明してくれたのが、あのパナソニック戦だったと思います。

—— 今シーズンも手探りをしながら始まったのでしょうか?

昨シーズンが終わった時に、「来シーズンも同じことをやっていては今のチームを越えられない。相手チームも優勝したチームと戦うというマインドでくるから、次のシーズンでは全く違う試合になる」という話をしました。

今シーズンの練習試合も明らかに昨シーズンと違うんですよ。インテンシティが高いですし、相手チームとしたら僕らと練習試合するのとすることを春シーズンのターゲットにしてきていたので、そういうマインドをしっかり理解した上でやっていかないといけないんです。

みんながそういうマインドを持ちながらやっていて、自分たちの状況を理解していることは良いと思うんですが、今の段階では、まだまだ昨シーズン以上のチームになれてはいないと思います。これから自分たちが考えているプランに、自分たちのパフォーマンスがついてくれば、また昨シーズンとは違ったチームになって、より良いチームになれると思っています。

—— 過去の経験からそういう思いになっているんですね

リーグ戦ではパナソニックに対して、あれだけの点差をつけて勝利することができましたが、日本選手権決勝では、パナソニックはトップリーグの優勝チームと戦うというマインドだったと思うので、あれだけの接戦になったと思います。あの試合で、他のみんなも気づいたと思います。

マインドだけでチームのパフォーマンスは変わってくるので、準備も含めてその部分は大きいと思います。それをみんなが自覚できているというのはチームにとってプラスだと思うので、あとはそれにパフォーマンスがついてくるようにしたいと思います。

◆まず試合に出るための戦いに勝ってから相手と戦う

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—— 個人としてのパフォーマンスの部分では、昨シーズンの1年間でどこが伸びましたか?

一昨年までの3年間は、サントリーの速いテンポでプレーするという形にはめてやっているだけだったところを、昨シーズンで敬介さんが1回崩して変えて、その中に判断という大事な要素であり、一番の軸となる要素を生み出してくれました。

全てのプレーに対して、その要因やなぜそのプレーをしたかという意図を持つようにしてくれました。それを自分も意識するようにして、自分の中で意図したプレーができるようになったと思います。

なので、スキル1つが伸びたということではなく、全体的な気持ちの部分ということなのかもしれません。気持ちで負けたくないと思った時に相手より走れましたし、第4節のパナソニック戦ではトライを取れましたが、あの時もキツい時間帯で、相手の足が止まっている時に負けたくないと思い走ったことがトライに繋がりました。そこは本当に小さいマインドの部分ですが、相手とのマインドの競い合いが大事だと感じています。

—— 小さなマインドの差はどこから生まれると思いますか?

それはやはり自信だと思います。僕も試合のメンバーに選ばれるまでは、チームメイトとの戦いになるので、練習の時は「こいつよりも少しでも多く走って、絶対に1番をつけて試合に出る」という気持ちでやっていますし、そこでチームメイトに勝つことができたら、次は対戦相手との戦いになるので、そういう戦いをしてきてジャージを着られているという自信がありました。

—— その戦いは面白いですか?

面白いですよ。3年目でその戦いに負けているからこそ、負けている時の自分のマインドが分かりますし、4年目では「昨シーズンはここで負けていたから絶対に負けない」という気持ちでやってきました。

この戦いはずっと続くと思います。逆に昨シーズンは由起乙(森川)がそういう思いをしたので、今シーズンはその思いを持って僕を越えようと挑んでくると思います。日本代表であることは、サンゴリアスでは全く関係のないことので、まず試合に出るための戦いに勝ち、その次に対戦相手と戦っていこうと思います。

◆マインドの大切さ

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—— 改めて、今シーズンの目標は?

サントリーでスタメンです。まずはサントリーで背番号1番をつけて試合に出るための戦いで勝っていきたいと思います。

—— 2019年のワールドカップに対してはどう思っていますか?

以前まではボンヤリとしていた目標から、実際に日本代表に選ばれたことによって、2019年へのプランニングやターゲットはあります。ただ、今はあまり意識しておらず、サントリーでハードワークすることが自分の役割だと思いますし、トップリーグの試合に出て、高いパフォーマンスを出すことが、いま僕のやるべきことです。それが後に、11月の日本代表に繋がると思います。

—— いま感じるラグビーの面白さは?

いくらスキルを磨いても、いくら良いプランニングがあっても、ベースの部分である"戦う気持ち"がなければいけないんです。例えば、スキルとプランニングが10あったとしても、マインドが0であれば全てが0になってしまうんです。

その中で、常に準備できる部分がマインドなんです。そこは自分の責任です。そこを常に10にしておけば、スキルやプランニングで劣っていたとしても戦えるんですよ。4年目のシーズンで、それが本当に理解できましたし、流と一緒に過ごすことでマインドの切り替え方の勉強になりますし、マインドの大切さを学んだ4年目だったと思います。

—— マインドを10にするために何をしているんですか?

昨シーズンのマインドの原動力は、悔しさが大きかったと思います。今シーズンは、悔しさよりも責任です。もし僕が気の抜けたような練習をしていたら、周りにどんな影響を与えるのかという部分がベースにあります。悔しさはもちろん心の奥底にありますが、日本代表にも選ばれて、その期間サンゴリアスを離れさせてもらい違うラグビーを経験させてもらったので、そういう経験をさせてもらった選手として、それに見合ったプレーをしなければいけないという気持ちですね。

—— 感謝とプライドですね

そうですね。たしかに昨シーズン、敬介さんに言い続けてもらいましたし、気持ちが緩む度に「それじゃあ9位の時と一緒だ」って言われ続けて、そういうマインドを植えつけてもらいました。またその状態に戻りたくないという気持ちもありますし、以前のような姿を敬介さんに見せたくないという気持ちもあるので、そこが大きいですね。

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