2017年4月 7日
#529 西川 征克 『人に左右されない精神を身につけたい』
「あのトライがなければ、こうなってはいない」と2冠を獲得したサンゴリアスのメンバーが口を揃えて言う西川征克選手の開幕戦逆転トライ。本人はそのトライをどう振り返り、そして2016-2017シーズン、更には次のシーズンをどのように考えているのでしょうか。オフシーズンを過ごす西川選手に話を訊きました。(取材日:2017年3月14日)
◆必死に手を伸ばした
—— 2016-2017シーズンの開幕戦での逆転トライについて、キックパスをキャッチしトライをした時はどんな気持ちでしたか?
トライを取った時には嬉しかったんですが、TMO(テレビジョン・マッチ・オフィシャル)にかけられたので、「トライなのかな?」と思っていました。僕もボールに必死だったので、オフサイドはないか、タッチラインを踏んでいないか、一度倒れたのでダブルモーションにならないかという部分が、正直心配でしたね。
キャッチする時には、ボールが2、3回手の中で跳ねましたが、もうとりあえずキャッチしなければと思っていました。ボールが飛んできた時には、「高いな~」って思いながら(笑)、ボールの軌道も少しぶれていたので、必死に手を伸ばしたら上手く取れました。練習でもあんなプレーはしたことが無かったですよ(笑)。
—— あのプレーのポジショニングについては?
外側にスペースがあったので、そのまま外側にいて、アドバンテージが出ていましたし、僕のポジショニングに反応して晃征が蹴ってくれたので、狙い通りのプレーでした(笑)。
—— 1点差での勝利でしたが、勝った時はどういう気持ちでしたか?
開幕戦ということで、正直まだチームが完成していませんでしたが、その中で勝つことができたということは、その後に繋がったと思います。勝ち点によって順位が決まりますし、勝てて良かったと思っていました。結果論としては、開幕戦で負けていたら優勝することもできませんでしたからね。
—— 開幕前から1試合も負けられないという意識はありましたか?
絶対に全勝するチームが出てくると思っていましたし、サントリーとしてはシーズン終盤に上位チームと対戦するスケジュールだったので、開幕戦がとても大事になると思っていました。
—— 練習でもやったことのないプレーができた要因は?
スペースを攻めるということはしっかりと準備してきましたが、自分自身としては練習でもやったことがありませんでしたし、あそこでキャッチできたのはたまたまだったと思います。練習だったら、おそらく取れていなかったと思います(笑)。
「運があるな」とは思いましたが、それで「今年は行ける」という思いにはならなかったですね。開幕戦でしたし、僕の中では、「ひとつのビッグプレーよりも平均的に高いパフォーマンスを出したい」という思いがあったので、ひとつのプレーに特別な思いがあるということはありませんでした。
◆自分の体と向き合えた
—— 第2節以降のパフォーマンスはどうでしたか?
2015-2016シーズンよりも良いコンディションを保ってできていると感じていました。その要因としては、自分の体と上手く向き合えたことがあったと思います。以前までは、全体でハードトレーニングをした後に、若手だけで更にトレーニングをしていたりしましたが、そこで自分のコンディションを見極めて、体がキツくなっていると感じたらしっかりと休んで、次の日のトレーニングに備えるようにしました。
—— 自分の体が分かるようになったというのは、積み上げてきたことによるものですか?
2015年度を持って隆道さん(佐々木)がチームを離れることになって、自分の中で2016-2017シーズンは勝負の年だと考えていました。隆道さんの抜けた1枠を、他の選手と争うことになると思っていましたし、そこでどうやってレギュラーを取るかということが課題でした。
そのためには、試合で隆道さん以上のパフォーマンスを出さなければいけないと思いましたし、そのパフォーマンスを出すためには自分の体を理解し、良いコンディションを保つことが大事だと思い取り組みました。
—— 他にはどういう部分を意識していたんですか?
当たり前のことだと思うんですが、練習後のストレッチであったり、コンディショニングの部分をより意識して取り組んでいました。以前までは若さもあり、キツいトレーニングをした後でもコンディショニングを意識せずとも次の日の練習も問題なくできていたんですが、年齢を重ねたことにより、疲労の蓄積を感じるようになっていましたね。
—— 3年目の2012‐2013シーズンでは多くの試合に出場し、その後はなかなかコンスタントに出場することができず苦しんだと思いますが、振り返ってみて、その時期はどういうものでしたか?
4年目のシーズン序盤で大きな怪我をしてしまい、ほぼ1シーズン、リハビリをして過ごしたんですが、その時期にラグビーのできない辛さ感じて、「もうあのような状況には戻りたくない」と思いました。僕のようなメンバーに入れるか入れないかというラインにいる選手にとっては、チャンスが来た時にしっかりと結果を出さなければメンバーに絡んでいけないんです。そのための準備が本当に大事だと思っています。
◆2人目としてどう働きかけられるか
—— 話を聞いていると、謙虚だと感じますが、自分ではどういう性格だと思っていますか?
楽観的で、以前までは「何とかなるだろう」という考えがありましたね。他の選手の意識も変わってきたので、「何とかなるだろう」では周りに置いていかれますし、何をしなければいけないのかということを、自分なりに考えられるようになったと思います。そこも成長のひとつだと思います。
—— 今後の課題は?
春から夏シーズンでは怪我をしないということと、自分自身のレベルを高めることを考えています。そしてトップリーグに向けては、メンバーに入ることにチャレンジしていかなければいけないと思います。
フィットネスやリアクションの部分はまだまだ高めなければいけないと思いますし、ブレイクダウンのところは自分自身が生き残るためには大事な部分だと思っているので、そこをしっかりと高めていきたいと思います。
—— その課題に対して、現時点ではどのくらいの点数ですか?
まだまだ全然足りないと思います。2016-2017シーズンではブレイクダウンでボールを奪えた回数が、シーズンを通しても3、4回しかなかったと思うので、1試合で1回はボールを奪えるようになりたいですね。
—— ブレイクダウンでボールを奪うためのポイントは?
まずは感覚を身につけることが大事だと思うので、春の練習試合などで試したいと思っています。それと根本的に奪いに行く回数を増やさなければいけないと思います。僕はこれまで自分で倒してボールを奪いに行く方が得意だったんですが、味方が倒した相手に対して2人目としてどう働きかけられるかという部分をより意識していきたいと思います。
2人目の働きとして、ベストはボールを奪うことであったり相手に反則をさせることですが、ベターとしては球出しを遅らせるということになると思うので、ベストとベターを増やしていきたいと思います。
—— ジョージ・スミス選手のプレーを見て、学べることもありますか?
勉強になる部分もありますが、ジョージのプレーは異次元ですね(笑)。タイミングであったりボールに対する働きかけの部分で凄いと思う時と、「ここからどうやって取ってくるんだ?」と思う時があります。タイミングに関しては、相手のサポートが遅れた隙をつく判断はもの凄く速いと思います。
絶対に真似できない部分はありますが、真似できる部分に関しては自分に合った形で取り入れて、その回数を増やしたいと思います。
—— 真似できないプレーとは?
どんなに激しい密集からでもボールを取ってきたりするので、ジョージにしか分からない感覚があるんだと思います。
◆次の日も100%取り組むために
—— 次のシーズンの開幕までには、今の課題を克服できそうですか?
取り組みに対して、春シーズンで結果が出せれば行けると感じると思いますし、結果が出なければまた違う方法でアプローチしていかなければいけないと思います。そこはこれまで積み重ねてきた部分があるので、感覚としては良くなってきています。僕としては、その感覚は相手チームによって変わるものではなく、ベースとしては同じだと思うので、そこでしっかりとチャレンジしていきたいと思います。
—— 今年の5月で30歳を迎えますが、何か意識することはありますか?
言葉などでチームを引っ張れるタイプではなく、僕ができることはパフォーマンスであったり、練習での態度だと思うので、更に自覚を持って取り組まなければいけないと思っています。
—— 若い選手が増えている中で、西川選手のチームでのポジションや役割は何だと思いますか?
態度の部分でどう後輩に示せるかだと思うので、やらなければいけないことを当たり前にやることであったり、目指しているスタンダードに対して、自分自身がそのスタンダードを持ってしっかりとやることが役割だと思います。これまではそこでも波があったので、安定した高い水準を保てるようにしたいと思います。
—— その部分を果たすためには精神的な部分と肉体的な部分のどちらが重要になりますか?
楽観的ですが精神的に弱さが出てしまうことがあるので、そこがポイントだと思います。相手にやられたら気持ちが落ちてしまう時がありますし、体力が落ちてくると精神的にも落ちてきてしまうことがあるので、精神的にも安定させなければいけないと思います。
楽観的で単純なので(笑)、怒られたらへこみますし、分かりやすい性格だと思うんですが、人に左右されない精神を身につけたいと思います。人が言うことに対して、「ハイハイ」と言っていたら精神的に辛くなっていくと思うので、何か言われたことに対して、しっかりと自分の考えを持ち、自分なりに判断することが重要だと思います。
楽観的な部分を活かしていけると思いますが、楽観的と捉えられるか、妥協と捉えられるかは難しい部分だと思います。「疲れたから今日は止めよう」ということはただの妥協だと思いますが、自分自身のコンディションをしっかりと理解し、「次の日の練習でも100%取り組むためには今日は止めておこう」ということは必要だと思っています。
◆ブレイクダウンとボールキャリー
—— 9位から全勝で2冠へと這い上がったチームに対して、西川選手から見て、今のサンゴリアスはどういうチームだと思いますか?
久しぶりにサンゴリアスらしい強い集団になれたと思いますし、集団になれたことが結果にも繋がったんだと思います。他の選手も同じことを言うと思いますが、それが同じ方向を向いているということの証明だと思います。
—— その要因は何だと思いますか?
一番は敬介さん(沢木監督)だと思います。そして、流であったり、ベテランの選手たちであったり、リーダー陣の統一性があったので、チームを同じ方向に向かせることができたんだと思います。
あとは春から考える取り組みをしてきて、自分たちでしっかりと土台を築けたということもあると思います。ビデオを見て、どういうラグビーをするのかであったり、自分に足りない部分は何なのかということを考え、それに対してしっかりと取り組めたと思います。
—— 次のシーズンに向けて、チームとしての課題は何だと思いますか?
アタッキング・ラグビーというスタイルであったり、サンゴリアスのカルチャーであったり、積み上げてきたベクトルなどはブラさないと思います。それに対して、相手チームは対応してくると思うので、その上をいかなければいけないと思います。春シーズンはそのスタンダードを上げることがメインになると思うので、まずはそこからですね。
—— 次のシーズンに向けた意気込みは?
ブレイクダウンとボールキャリーのところは自分の強みにしていかなければいけないので、その強みを活かせる準備をしていきたいと考えています。
—— 2019年のラグビーワールドカップについては、どういう思いがありますか?
その時には10年目になっていますし、僕はこれまで代表とは無縁だったので、あまりワールドカップへの欲はないですね。サンゴリアスでしっかりと戦えるメンバーになって結果を出すことが目標なので、その先についてはあまり考えていないです。
—— 現時点で目指す選手像にはどれくらい近づいていますか?
7合目くらいですかね。これからパワーなどが急激に上がることはないと思うので、頭の部分で上げていきたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]