2017年2月24日
#523 中靍 隆彰 『失うものはない』
チームで2冠、個人で3冠を達成し、いきなり頂点に駆け上がった中靏隆彰選手。日本選手権決勝の2日後に、心境と展望を訊きました。(取材日:2017年1月31日)
◆ひとつひとつを丁寧に
—— トップリーグで優勝し、個人タイトルを3つ(トライゲッター、ベストフィフティーン、MVP)も取ったことで、顔つきが変わったように感じます
良い意味ですか(笑)?これまでMVPに選ばれた選手は、ジョージであったり、バーンズ(ベリック/パナソニック)など凄い選手たちが選ばれてきていて、僕はまだ全然そのレベルにはいないので、「そういう選手になれるように頑張っていこう」というモチベーションにしようと考えるようになりました。あと、これからはMVPという目で見られると思うので、ひとつひとつのプレーを今まで以上に丁寧にやっていこうと思っています。
—— そういう意識を持つようになり、実際に日本選手権でのプレーはどうでしたか?
準決勝の帝京大学戦は、チームとして良くないパフォーマンスをしてしまいました。選手は誰一人としてなめていたわけではありませんが、あのように学生にチャレンジされる結果になってしまい、逆にパナソニックはヤマハに対して良い試合をしたので、「これでもうパナソニックにチャレンジするしかない」と吹っ切れたような感覚がありました。
もし準決勝で普通に勝っていたら、隙を残したまま決勝に臨んでいたかもしれません。準決勝を見た人も「このままではパナソニックには勝てない」と思ったと思いますし、選手もそう感じていました。決勝でウイングとして外側からみんなのディフェンスでの動きを見ていたら、帝京大学戦とは全く違うチームになっていました。
僕自身としては、気持ちの面ではそれほど違いはありませんでしたが、決勝というあのような大きな舞台でトライを取りたかったですし、あそこでトライを取るということが大事だと思うので、そこは反省すべきだと思います。
◆成功体験をもっと増やしてく
あのようなタイトな試合でも、振り返ってみると、もっと色々と出来たと思うことがありました。ボールが回ってくる機会は少なかったんですが、前半15分頃のラインブレイクして抜けたところでトライを取り切れるようになりたいと思いましたし、あとラインアウトのサインプレーで流が抜けだしたところで、もっと上手くコミュニケーションを取ってトライまで繋がられるようになれればと思いました。更に、後半にも幸太朗(松島)、大志さん(村田)と回ってきて、大志さんのパスが相手に弾かれる形になりましたが、あそこでももっと上手くもらう方法があったと思います。
—— あのような試合では数少ないチャンスで、どうトライを取り切るかが大事になるんですね
トライを取り切るというところが課題ですね。
—— その課題はどう改善できると思いますか?
ビデオなどで見返すと「ああしておけば良かった」と思うプレーがいくつもあるので、振り返った時にそういう思いをしないように、経験を積んでいくしかないと思います。ファイナルという大きな舞台で、そういう部分が大事になるという経験をしましたし、その経験に加えて、自分の能力を高めていかなければいけないと思っています。
先程言ったところでトライに繋げられませんでしたが、例えば、1つでもトライに繋げられていたら、成功体験として大きなものになっていたと思うので、そういう経験をもっと増やしていかなければいけないと思います。
◆目指しているところはもっと先にある
—— 中靏選手に初めてインタビューをした時に、プレーに対しての自信を感じました。その自信の根拠は何だと思いますか?
今までの体験から来ているのかもしれません。学生の頃、当時あまり強くないチームでプレーしていましたが、自分が思っていたことをやれば結果を出すことができましたし、高校日本代表にも選んでもらい、ステップアップすることができました。
今でも「これをやれば、ここまで行けるだろう」という思いを持っています。僕は自分の能力を高いとは思っていなくて、それでも「なぜ試合に出られないのか、出るためにはどうすればいいのか」と考え、それを実践してきた積み重ねだと思います。
例えば、次の日にハードなトレーニングをやる日だったり、1km走のテストをやる日だったとしても、次の日の練習のことは気にせず、その日のトレーニングでベストを出せるように取り組んでいます。次の日のトレーニングやテストでいい結果を出すことを目指しているわけではなく、目指しているところはもっと先にあると思ってやっていました。
正しいか正しくないかは別にして、どうすれば自分が一番成長できるかを常に考えています。もしかしたらハードなトレーニングの前の日は軽めの練習にして、フレッシュな状態で練習に臨んだ方が良いのかもしれませんが、極論を言えば、人と同じことをやっていても、周りに差をつけることはできないと思っています。
◆思い込みも大事
—— 素晴らしいシーズンを過ごした次のシーズンがとても大事だと思いますが、次のシーズンに向けてはどう考えていますか?
サンウルブズという貴重な機会をいただけて、自分を更に成長させられることが嬉しいですし、多くのチャレンジをすることで絶対に成長できると思っています。サンウルブズを経験し、チームに戻ってきた時には、今よりも絶対に良い状態で戦っていきたいと思っています。
—— コンディション面での状態はどうですか?
試合の翌日などでは疲れを感じることはありますが、僕の場合はシーズンを重ねることでの疲れはあまりありません。食事や睡眠など、気を遣えるところは全て気を付けて生活していますが、思い込みも大事なんじゃないかなと思っています。1日寝れば体力が回復しますし、長い休みが欲しいとは思わないですね。
◆スピードとアジリティで勝負
—— 次のシーズンに向けて、今考える一番のターゲットは何ですか?
今から一番伸ばせるところはフィジカルの部分だと思います。シーズン中から少しずつ体を大きくしていきたかったんですが、どうしても試合があるので、無理をすることは出来なかったんです。これからはスーパーラグビーに向けて、気にせずに体を大きくしていきたいと思っています。
—— 体を大きくすることとスピードとのバランスが難しいですね
スピードを気にしてばかりだと成長はないと思いますが、無理に体を大きくすると重さを感じすぎてしまい、そこで敏感になり過ぎて、逆に体重を落とし過ぎてしまうと思います。だから、少しずつ大きくすることが大事なんです。これまで重くし過ぎて体重を減らすという経験をしてきているので、上手く体と相談しながら徐々に大きくしていこうと思います。
—— サンウルブズでの目標は?
楽しみですが、スーパーラグビーはトップリーグよりもフィジカルが更に一段階上だと思います。ただ、僕はそこで勝負をするわけではなくて、ある程度はフィジカルで戦える体を作りながら、自分の武器であるスピードとアジリティで勝負していきたいと思います。
あとスコッドが多いそうなので、まずは激しいチーム内競争に勝たなければいけません。それに僕は追加招集の立場で、良い意味で失うものはないかなと思っているので、色々とチャレンジしていこうと考えています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]