2017年2月17日
#522 畠山 健介 『覚悟を持って取り組む』
サントリーの中心メンバーとして、そして日本代表でも常に中心メンバーとして活躍してきた畠山健介選手。今シーズンのサントリー、そして世界のラグビー、2019年ワールドカップへ向けての思いを語ってもらいました。(取材日:2017年1月24日)
◆勝ったことのある経験
—— 今シーズンは残り日本選手権決勝となり、これまで全勝できていますが、畠山選手から見てチームの状態はどうですか?
トップリーグで優勝できたことは、とても良かったことだとは思うんですが、日本選手権準決勝の帝京大学戦であのような戦い方をしてしまったので、それが決勝にどう影響するのか、というところが気になるところではあります。
—— 日本選手権準決勝であのような戦い方になった理由は何だと思いますか?
僕個人の意見を言わせてもらうと、若いメンバーも能力的には帝京大学にしっかりと勝てる力はあったと思いますが、勝ち方という部分で経験の差があったと思います。森川、駿太(中村)、元樹(須藤)と、1列目だけを見ても、大学4年間で帝京大学に勝ったことがないメンバーです。森川は出身校ですし、敵としてのイメージをしにくかったと思いますし、他のメンバーもどうやれば勝てるのかという部分がイメージしにくかったんだと思います。
勝った経験があるのかないのかということは、能力とはまた別のものだと思っています。僕の場合は、接戦の試合はありましたが、帝京大学に対して負けたことがなかったので苦手意識はありませんし、冷静に状況を見て、勝てるという判断が出来ていたので、勝ったことのある経験は大きいと思います。そういう訳であのような試合になったんじゃないかと考えています。
例えば、オリンピックでメダルを取れる能力がある選手でも、オリンピックの雰囲気を知らなければ、本番でその力を発揮できないことと一緒です。そういう勝ち方であったり、勝ち癖を持てていなかったメンバーの経験が、前半では響いたんじゃないかと思います。
—— そこで経験できたということは大きいことですよね
そうですね。何事も経験が大事だと思いますし、ベストではなかったと思いますが勝てたことは事実です。試合後のロッカーで誰も勝ち試合の顔をしていなかったので、良い経験になったと思っています。
◆やるべきことに対する落ち着きを身につける
—— 今シーズンのトップリーグはリーグ戦のみで順位を決めて、ファイナル・ラグビーを経験せずに日本選手権決勝を迎えるわけですが、経験値の部分ではどう考えていますか?
三洋時代からパナソニックとは何度も決勝の舞台で戦っていますが、サントリーの方がファイナルを経験していない選手が多いので、単純に経験値という部分で比較をすれば、パナソニックの方が上かもしれません。ただ、経験値で上回られていたとしても、自分たちがやるべきことをしっかりと準備をして、それを遂行出来れば、勝機はあると思っています。
その部分は結果論でしかないと思っていて、準決勝であのような試合になったのはなぜかと考えた時に、僕は経験値の差だと感じましたが、経験値の差がそのまま決勝の結果になるとは思いません。決勝は経験値の高い相手になりますが、サントリーには勢いと、自分たちのスタイル、そのスタイルの理解度やその準備をしてきているので、面白い試合になるんじゃないかなと思っています。
—— 経験値が少ないということは、その分若いメンバーが出てきたということだと思いますが、それについはどうですか?
僕もそうなんですが、若い時に勝ち癖をつけておくことが大事だと思います。石原やヅル(中靏)は勝てていない時からずっと経験を積んできて、能力は高いんですが、そこから更に成長するためには、勝ち癖であったり、勝ってきた自信が必要だと思います。
僕がサントリーに入った時は、前年にマイクロソフトカップ(プレーオフトーナメント)で優勝していて、僕が1年目の時も日本選手権でファイナルまで進みました。そして3年目の時には日本選手権での優勝も経験させてもらったので、自分がやるべきことに対する落ち着きを身につけることが出来たと思っています。
勝ち方を知らなければ分からないことがたくさんあるんです。勢いだけではどこかで詰まってしまうんですが、そこで冷静に「どうすればもっと良くなるのか、勝てるのか」ということを考えられるのは、経験値であったり勝ち癖だと思います。今の1年目や2年目の選手は、今シーズンでそれを経験出来ていますし、特に2年目の選手は、勝てていないシーズンも経験していて、そこで「何が変わったのか」が考えられると思います。
◆アオさんの存在が大きい
—— 昨シーズンの9位から今シーズンのトップリーグで全勝優勝するということは、並大抵のことではなかったと思いますが、この結果になった要因は何だと思いますか?
選手やスタッフがほとんど変わっていない中、敬介さん(沢木監督)が入ってきて、敬介さんが勝つためのラグビーをしっかりと選手に理解させながら、引っ張るべきところで引っ張ってくれているので、そこが大きいんじゃないかなと思います。
あと選手で言えば、フォワードはアオさん(青木佑輔)の存在が凄く大きいと思います。セットピースや仕事量を見ても、アオさんは日本のトップクラスの選手だと思います。昨シーズンは、アオさんが開幕戦で怪我をして長期離脱して、北出がずっと頑張っていましたが、やはり能力が高くても、経験がないと厳しい部分はあったと思います。
—— 今シーズンは“インターナショナル・スタンダード”を掲げていますが、日本代表や海外チームでの経験を積んだ畠山選手から見て、サンゴリアスはインターナショナル・レベルに近づいていますか?
正直言えば、もっともっと出来ると思っています。サントリーには社員選手とプロ選手がいるんですが、世界を見るとインターナショナル・レベルの選手はみんなプロで、全てをラグビーに注げて、オフシーズンはしっかりと体を休め、次のシーズンに備えることができ、全てがラグビーのための時間として使えるのがプロの世界です。
サントリーの社員選手は、仕事をしながらラグビーをしていて、ラグビーに使える時間が限られています。しかも、外国人選手の方が身体能力は高いわけで、その差を埋めるためにトレーニングの時間が必要ですし、お金もかかるんです。だから、“インターナショナル・スタンダード”を掲げるということは、もの凄くタフなことにチャレンジしていると思いますし、かなり高い目標であることは間違いありません。だから、もっともっとコミットできると思いますし、正直、もっともっといけると思っています。
◆好きなことで飯が食える
—— 畠山選手はプロ選手で、プロとしての楽しさや厳しさを経験していると思いますが、楽しさはどこにありますか?
ラグビーが好きで、純粋に好きなことで飯が食えるということは有難いことだと思いますし、サントリーで9年目、プロとしては6~7年目になりますが、これだけの期間を契約してもらっていることは本当に有難いですね。オフの時には色々な人との出会いがあったり、家族のサポートをしたりすることが出来るので、そういう部分も有難いと思います。
—— では、厳しいところは?
怪我が起こりやすいスポーツですし、競争が激しくて、チームからいらないと言われれば、契約が切られてしまうので、そこはシビアだと思います。ただ、僕は有難いことに周りの人やチームメイトのおかげで評価してもらっていて、それは稀なことだと思います。
正直プロでなければ、ラグビーをインターナショナル・レベルでやることは、相当厳しいことだと思います。インターナショナル・レベルになるためには、まず世界の選手たちが何をしているのかを見なければいけませんし、世界の選手たちは完全にプロとしてやって、その中で本物の競争があるんです。
◆メディアに取り上げられるような結果を出し続けること
—— 日本のラグビーがどうなっていけばいいのかに繋がる話だと思いますが、実際に選手として世界と戦っていて感じる、日本のラグビーの一番いいあり方は?
ワールドカップで勝ちたいのであれば、プロ化すべきだと思います。ただ、日本選手権の大学枠がどうだとか、大学の試合がどうだとかという観点から見れば、今までの形を取りつつ国内を盛り上げていくということも1つの方法としてはありだと思います。
その中で、両方を追いかけようとすると上手くいかないと思います。僕はドメスティックにするか、ワールドワイドで世界と戦うかのどちらかしかないと思っていて、世界で勝ちたいのであれば、世界のトップレベルがやっているシステムを模倣するか、もしくは良い所取りするかしかないと思います。
日本人は急激な変化を嫌う傾向があると思うんですが、海外でプレーしてみて思うのは、日本のように大企業がチームを支えているということは本当に有難いことだと思います。プロチームであれば、いくつもの協賛社をつけてチーム運営をして、色々なところを節約しながら何とか運営しているチームもあります。
日本人は急激な変化を嫌う傾向があると思うんですが、海外でプレーしてみて思うのは、日本のように大企業がチームを支えているということは本当に有難いことだと思います。プロチームであれば、いくつもの協賛社をつけてチーム運営をして、色々なところを節約しながら何とか運営しているチームもあります。
—— 2015年のワールドカップであれだけの成績を残せたということは、大変なことだったということですね
ワールドカップのメンバー31人だけを見れば、プロ選手が7割~8割ほどいて、あとは学生と社員選手という構成だったんです。一方でトップリーグを見た時に、プロ選手は全選手の1割~2割ほどしかいないんです。じゃあ、世界で勝つためにはどちらを強化していくべきなのか、ということになると思います。
僕の考えとしては、世界で勝つためには大舵を切るしかないと思います。ドメスティックにやるのであれば、それはそれでありだと思いますが、そういう方針でやるのであれば、世界で勝つことは考えず、国内をどう盛り上げるかに注力すべきだと思います。
—— 国内での普及についてはどう考えていますか?
色々な活動をさせてもらってきて、色々なところに普及活動に行かせてもらったんですが、やっぱり日本代表がワールドカップという場で結果を出すことほど、大きな普及はないと思っています。メディアの力は大きいので、あのような場で結果を出すことによってメディアが取り上げますし、メディアに取り上げられるような結果を出し続けることが、一番の普及だと思います。
草の根の活動を否定するわけではなくて、そういう活動も大事なんですが、日本代表が結果を出すということが何よりの普及になるということを、僕らは2015年に感じてしまったんです。フミさん(田中史朗/パナソニック)も、「あれだけ色々な普及活動をしてきたけど、結果を出すことが一番の普及になることを思い知った」と言っていましたね。
◆文化としてセットピースの強さ
—— 今シーズンに関しては、リザーブからの出場が増えましたね
昔は先発にこだわって、がむしゃらにやっていましたが、ラグビー自体が先発で80分間プレーするという時代ではなくなってきています。与えられた時間と背番号によって必ず役割が存在するので、メンバーに入っている以上は、その仕事を全うすることを考えています。
—— リザーブでの役割と先発での役割とを比較して、大きく違うところはどこになりますか?
僕の場合は、試合に入った時間と点差を見て、どういうプレーをしなければいけないのかが決まります。負けていて時間がないのであれば、テンポを上げて点数を取りにいかなければいけませんし、逆にセーフティーリードで勝っているのであれば、そこまでリスクを取る必要はなくて、いつも通りのラグビーでプレッシャーを与え続けることを考えてプレーします。
ベンチから試合を見ていると、相手が嫌がっているのがセットピースなのか、アンストラクチャーなのか、という部分が把握できるんです。準決勝の帝京大学戦で言えば、相手がセットピースを嫌がっていると分かっていたので、セットピースでプレッシャーをかけてアドバンテージをもらって、合理的に試合を進められたと思います。
先発は、最初の入りがとても大事なので、エナジーや前に行くパワー、態度が本当に大事なんですが、リザーブは試合の状況判断が必要で、よりインテリジェンスが必要だと思っています。負けていればやるべきことがはっきりするんですが、勝っている時にはフォワードとしてどうテンポをコントロールすべきかを考えながらプレーしなければいけないんです。
—— 今シーズンは明らかにスクラムが強くなりましたよね
それはやっぱりアオさんの影響ですね。それくらいアオさんはトップクラスの選手なんです。若手にとっては本当に良いお手本なので、どんどん学んでいくべきだと思います。
あとは、バックファイブの意識が変わったと思います。スクラムに関して、1列目だけじゃなく、バックファイブがどう意識するのかということを、山岡さん(FWコーチ)であったり、スポットコーチが来て、定期的にメンテナンスをしてくれているので、そこが大きいと思います。
これまでのサントリーにも、坂田さん(正彰)や慎さん(長谷川慎)、直人さん(中村直人)がいて、その前からもサントリーの文化としてセットピースの強さがあったので、そこを無くすことはもったいないですし、ラグビーにはセットピースの安定が絶対に必要なので、これからも力を入れていくべきだと思います。
◆ワールドカップを目指しています
—— ラグビー選手としての今後の目標は?
2019年のワールドカップにどれだけコミットできるのかですね。そこを目指していますし、代表を引退したいなんて思っていないんですが、ジェイミー(ジョセフ/日本代表ヘッドコーチ)がサンウルブズから代表を選ぶと言っているので、これからはサンウルブズにもコミットしていかなければいけないと思っていますし、代表でやるのであれば、その覚悟をもって取り組む必要があると思っています。
あとは、昨年のヨーロッパ遠征の後に、これから必要なスキルのフィードバックをいただいていて、ラグビー自体が進化しているので、選手も進化していかなければ置いていかれてしまいますし、その目標にもコミットしなければいけないと思っています。
—— このインタビューが掲載される頃には日本選手権決勝は終わっていますが、決勝を前にしての気持ちは?
意外とスッキリしているというか、今はまだそれほどプレッシャーはない状態です。僕はロッカールームでプレッシャーが来るタイプで、まだ3番なのか18番なのかノンメンバーなのかは分からない状況ですが、それぞれには必ず役割があるので、その役割をしっかりと全うし、チームが勝つために良い準備をするだけです。
勝てると思わなければ勝てませんし、相手はどういうチームで、どうやったら勝てるかを考え、そのためには何をしなければいけないのかを落とし込んでいく必要があります。勝つための準備をするということです。
—— その準備は出来ていますか?
大丈夫だと思います。他の選手も準備をしていると思いますし、そこは周りの選手を信じてやるだけです。ファイナル・ラグビーで勝つかどうかは、本当に細かいところで勝負が決まるんです。そして、やはりそういう部分は癖なんですよね。勝つための癖は存在するので、その癖をグラウンドでどれだけ出来ているかということです。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]