2017年1月13日
#518 小野 晃征 『強みである部分を誰よりも上手くやる』
すっかりサンゴリアスの顔となり、チームの中心選手として実力発揮中の小野晃征選手。チームのリーダーズメンバーとしての自覚と意気込みを聞きました。(取材日:2016年12月19日)
◆10番の価値を上げていきたい
—— 今シーズンはこれまで勝ちという結果を残せていますが、そういうチーム状況の中でラグビーをすることは楽しいですか?
ラグビー選手は月曜日から試合に向けて良い準備をして、試合が終わればそこでリセットして、また月曜日から次の試合に向けて良い準備をするということを繰り返すんですが、やはり1週間のゴールで勝って次に向けて修正が出来るということは、幸せなことだと思います。その1週間で準備すべきことが、選手1人1人が明確になっていることが、ここまで勝ち続けられている結果だと思います。
—— 10番というポジションだと、チームに与える影響も大きいですよね
10番だから特別というわけではなく、そのチームで10番を背負って試合に出ても、その10番は自分のものという感覚はありません。毎回、試合に向けてハードワークをして、そのやって来たことを試合で果たして欲しいと思われているからメンバーに選ばれているだけだと思っています。そこで自分がダメであれば、他の選手がメンバーに選ばれるんです
その中で自分が10番のジャージを着た時には、前の試合よりもレベルアップしていたいと思っていますし、10番の価値を上げていきたいという思いだけです。ただ、試合毎に積み重ねていくことは大事なんですが、定期的にゴールを設けないと、その経験を次に向けてどう活かすかと考えることが出来ないと思います。
試合の中で良い経験もあれば悪い経験もあって、それをどうやって次に繋げて修正していくかということを考えるために、試合が終われば一度リセットして、また月曜日から前の試合で経験したことを活かしていく取り組みをしていくんです。
—— 経験したことをどんどん次に活かせていければ、やればやるだけ面白いという感じですか?
ラグビーで面白いと感じることが、どれだけ良い準備をしても上手くいかない時もありますし、あまり良い準備が出来なくても試合では上手くいく時もあるので、そこが面白い部分だと思います。そして、天候やグラウンドの状況、レフリーなど色々なことが影響して、ラッキーなこともアンラッキーなことも起きますし、その中で80分間戦って勝ちか負けを決められるので楽しいですね。
◆ひとつの武器に頼らない
—— 今シーズンの中でラッキーだと感じたことはありましたか?
開幕戦は負け試合の内容だったと思うのですが、ニシ(西川征克)が片手でキャッチしてトライを取るということがありましたね(笑)。もちろんニシの実力だと思うんですが、残り10分を切った状況で、更に汗でボールが滑りやすい状況の中、片手でキャッチした上、それをトライに持って行ったので、あれが無ければここまで勝ち続けていなかったかもしれません。開幕戦で勝って修正できて、それを何回も続いてここまで来たと思います。
—— 良い準備をして試合に臨めば、それだけ勝つ確率が高くなると思いますか?
いや、確率は高くならないと思いますが、良い準備をすることによって、自分たちがやって来たことに対する自信がつくと思います。自分たちがやるべきことを高める準備に加え、相手を崩す準備もしている中、相手チームも同じように準備しているので、だから面白いんだと思います。「準備したから、このスクラムでトライが取れる」ということは、やってみるまでは全く分からないですからね。
—— 逆に、良い準備が出来なければ、勝つ確率は下がるんですか?
それは分からないですね。サッカーで言えば、フリーキックは絶対にマイボールで、練習の成果を出せる場だと思うんですが、ラグビーの面白いところは、マイボールスクラムでもボールを確保できる確率が100%ではないことなんです。ラインアウトも同じで、風が強ければノットストレートを取られるかもしれないので、どのプレーも実際にやってみなければ、ボールを確保できるか分からないんです。そういうことも含めて、ラグビーって分からないんですよ。
めちゃくちゃスクラムが強くても、芝がすぐにめくれてしまうグラウンドであれば、スクラムが押せなくなってしまうんです。そこで、これまでの経験を活かして、どうやって対応していくかを考えて、すぐに修正できるのが、チームの対応力になると思います。
今シーズンのサントリーは、月曜から準備してきたことが実際に試合では上手く出せない状況になっても、試合中に修正することが出来ているので、そこが強みになっていると思います。
大事なことは、ひとつの武器に頼らないということです。色々な得点の取り方を持ち、試合中に「このプレーが行ける。このプレーは止めた方がいい。じゃあこのプレーをしよう」とコミュニケーションを取りながら修正をし、戦えるようになってきていると思います。
◆完璧がない面白さ
—— 小野選手のプレーを見ていると、チームに貢献するプレーを瞬時に行っていると思います。試合の後にそういうプレーについて話を聞くと、いつも「その状況を見て判断しているので、よく分からないんです」という返事が返ってきますよね
月曜からの準備の中で、常に試合を意識して取り組んでいるんですよ。だから、自分の中にしっかりと落とし込んで、試合では深く考えずにプレーしているので、「相手がこういう動きをしてきたから、こういうプレーをした」という返事になっちゃうんだと思います。
でも、今が完璧なわけではありませんし、一歩間違えたらタックルミスをすると思いますし、判断ミスもすると思います。完璧がないので、そこがラグビーの面白さでもあるのかもしれません。
強いて言えば、ここ2年くらいで落ち着いてプレーできるようになってきたと思いますし、今シーズンに入ってからは、ひとつひとつの判断により自信を持つことが出来ていて、判断したことをしっかりと遂行することが出来るようになったかもしれません。
あと、自分の強みが分かったかもしれないですね。いま自信を持っている強みが、判断力と具体的なコミュニケーションです。判断しても周りと連動出来なければ、ただの個人プレーになってしまうので、自分が判断したことをどう周りに伝えるのか、そして周りから出たコールを理解してプレーできるかが大事だと思います。
◆無理をして自分に出来ないことをしない
—— 小野選手は日本人の中でも体が大きい方ではないと思いますが、体の大きさに関係のないラグビーでの大切なところはどこだと思いますか?
やはり自分の強みをしっかりと分かっていることだと思います。例えば、僕がボールキャリーになって、姿勢が高いまま突進していったら、相手に簡単に押し戻されてしまうと思います。そこで体が小さいことをプラスに考えると、ディフェンスでも同じですが、低く入ることになります。その中で心がけていることは、無理をして自分に出来ないことをしないということです。
世界を見ると、例えば、リッチー・マコウ(元オールブラックス代表)のプレーを見ると、ワークレートがとても高くて、ブレイクダウンもタックルも強いんですが、無理にパスをしたりしないんです。ラグビー選手にとって大事なことだと思うんですが、自分のスキルレベルをしっかりと理解して、強みである部分で誰よりも上手くやることだと思います。
—— 強みが多ければ多いほど良いと思いますが、どうバランスを取るかが大切ですね
ラグビーは1995年に世界的にプロ化されて、そこを境にルール変更が頻繁にありますし、主流となるスタイルも人間のパワーやスピードもどんどん変わってきているんです。
以前までは背の高いプロップが有利でしたが、今のスクラムのルールでは背の低いプロップの方が有利だったりします。ウイングでもジョナ・ロムーのようにパワーのある選手が良いのか、ブライアン・ハバナのようにスピードのある選手が良いのかとかがあって、その中でコーチがどういうスタイルが良いのかを決めて、そのスタイルに合うかどうかということになってくるんです。
このチームでは自分の強みが合っていたけれど、他のチームに行ったらその強みが合うかどうかは分からないんです。そういうこともラグビーの良さだと思っています。
—— そう考えると、色々なスタイルに合わせられる力を持っている選手は凄いですよね
そうですね。様々な状況に合わせられる多くの引き出しを持った選手がワールドクラスの選手だと思います。ジョージ(スミス)は、オーストラリアでスーパーラグビーのタイトルを取り、ブランビーズのMVPを10度も取り、そして日本に来てトップリーグでもMVPを取って、それからイングランドでもMVPを取っているので、ひとつのスタイルだけではなく、しっかりとそのチームのスタイルに合わせた上で自分の強みを出せる選手は素晴らしいと思います。
—— 実際に一緒にプレーしてみて、ジョージ・スミス選手の一番凄いと思うところはどこですか?
グラウンド内でもグラウンド外でも、オンとオフの切り替えが凄いですね。ジョージは80分間で全てのプレーに関わっているわけではありませんが、キーポイントとなるプレーの時に必ず現れるんですよ。ここで相手の流れを止めなければいけないという時にジャッカルをしてくれたり、ここでもう1人、ゲインラインを切ってくれたらという時にジョージがゲインしてくれたりするんです。1人でチームの勢いを変えられる選手だと思います。
—— それはなぜだと思いますか?
いや~それは分からないです(笑)。「ここで止めなければダメだ」とか「ここで前に出なければいけない」というチームが必要な時が分かるんじゃないですかね。ゲームセンスが誰よりも凄いと思いますね。
—— ゲームセンスは磨けるものですか?
ゲームセンスを磨くために必要なことは、グラウンド内で経験することと、色々なラグビーを見て、世界のトレンドについていけるかどうかだと思います。
僕も色々なラグビーをよく見ています。いまオールブラックスがどういうことをしているのか、スーパーラグビーがどういうことをしているのか、ヨーロッパでは、トップ14では、と色々なラグビーを見ています。色々な戦い方を見ることが出来ますし、見た中から実際にプレーしたりしています。
◆やってきたことを信じてぶつける
—— 日本代表については?
日本代表でプレーしたいと思っています。エディーさんが日本代表の監督になって、4年間やっている時は長かったですけど、終わってみたら本当にあっという間でしたし、ワールドカップで戦う準備がどれだけ大事かが分かったので、1000日というのは本当にあっという間だと思います。
ワールドカップが始まった時点で、周りはお祭りみたいで、気づいたら終わっていたという感じなんですよ。期間中はもう考える時間はありませんし、準備をする時間もないので、ワールドカップが始まる時に100%の準備が出来ていなければいけないんです。本当に時間がないので、自分自身チャレンジしていきたいと思います。
—— 今年のリーグ戦形式は、どの試合も大事な試合になっていますね
どの試合でもそうですが、試合に対して緊張をする必要はないですし、100%の力でやるだけです。今シーズンのトップリーグの試合形式だと、全勝しなければほぼ優勝出来ないんです。
—— 今のチームの状態はどうですか?
みんなが同じ方向を向いていると思います。ただ、まだ今シーズンのゴールは先ですし、チームは常に変わっていっていて、バックスを見ると若い選手が多く試合に出ているので、良いコミュニケーションを取って、フォワードにしっかりとついていけるようにやっていきたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]