2016年12月30日
#516 村田 大志 『ハードワーク、良い判断、集中力』
精神的な安定感が、終盤に向けてチームへの大きな力となっていくことを予感させてくれる村田大志選手。中堅選手らしく、自分のことだけではなく、常にチーム全体を意識していることが、今回のインタビューでもよく分かりました。(取材日:2016年12月13日)
◆整えることによって改善する方法
—— 第11節コカ・コーラ戦が、昨シーズンのNTTコミュニケーションズ戦以来のトップリーグでの試合で、約1年振りとなりましたね
1年振りという感覚はなかったんですが、今年の春シーズンには練習試合にも出ていましたし、自分自身の調子もチームの調子も良い中でやっていて、このままトップリーグにも出られるという時期に、また怪我をしてしまったので、もどかしい気持ちはありました。
復帰を焦って、また怪我をしてしまったんですが、怪我をしてしまったことは仕方ないと切り替えました。焦ってしまった理由も明確になりましたし、自分の体を再度見つめ直すことが出来たので、長い目で見たらプラスになる経験だったと思っています。
—— プラスになるという面では、怪我をする前よりも肉体的には強くなったと思いますか?
強くすることも大事なんですが、体のバランスを整えることも大事なんです。怪我をした時にはその個所ばかりに集中しがちなんですが、怪我をしていない個所を整えることによって改善する方法も分かったので、それを続けることによって怪我をしない体づくりに繋げられるようになったと思います。
怪我に対するアプローチの方法を増やすことが出来ましたし、例えば上半身のエクササイズをして、硬さを感じたらもう少しほぐした方が良いという基準を作ることが出来たと思います。実際に体の変化も感じることが出来たので良かったと思います。
—— 怪我をした個所だけではなく、体全体を動かして回復させていくということですか?
体全体というよりも、何箇所か見るべきポイントがあって、その個所にそれぞれ基準を作って、その動きの基準に合わせてリハビリを行っていました。ウエイトトレーニングをすると筋肉が固くなりがちなので、鍛えた後にはしっかりと柔らかく戻すことが大事なんです。
—— 意識することで固くなっているかどうかが分かるんですか?
そうですね。意識していないと分からない部分ですね。上半身のウエイトトレーニングをして筋肉がパンパンに張っている状態が、これまでは普通だったんですが、実は筋肉によって背骨が曲がっていたり、色々な個所がほぐされていないことによって、下半身の柔軟性の無さに繋がっていたりしたんです。
意識することによって、「このストレッチをした後に外に出て走ると、こんなに走りやすいんだ」と感じるんです。長くラグビーをやりたいと思うのであれば、色々なことを勉強しなければいけないんだなと感じましたね。
年齢がチームの中で上の方になってきて、自分の感覚と実際の体の動きが変わってきていますし、今回の怪我も、自分ではいけると思っていたのに怪我をしてしまったということがあったので、強度を強くすればいいというわけではなく、ちょうどいい強度でやることが大事だと思いました。
◆より魚を食べるように
—— トレーニングだけではなく、食事や睡眠についてはどう考えていますか?
食事と睡眠は基本的なことなので大事です。サントリーの社員選手は、営業車でお店を回ったり、パソコンで作業をしたりして、座って仕事をすることが多いので、姿勢が悪くて体が固まってしまうことが多いんです。その状態でクラブハウスに来て体を動かしてしまうと、筋肉系のトラブルが起こりやすくなってしまいます。それを知って準備をした上でグラウンドに出ていくことと、それを知らずにグラウンドに出ることでは、怪我のリスクが全然違います。
食事に関しては、チームの栄養士さんがしっかりと考えてくれているので、クラブハウスで食事を摂る時には、とくに神経質にはなっていません。怪我をする前と後で変わったことと言えば、より魚を食べるようになりました。魚の油は疲労回復に繋がるんですが、それは肉の油からは摂れないものなんです。
朝ごはんなどは栄養士さんにメニューを考えてもらって、そのメモを妻に渡して作ってもらっています。朝は出来る限り魚を食べるようにしていますし、あとは野菜を多めに摂るようにしています。
—— 奥さんの料理は美味しいですか?
美味しいですよ。結婚して1年くらい経ちますが、やっぱり1人の時は自分ではなかなか作れませんでしたし、外で食べるにしても同じようなメニューになってしまっていましたね。僕がこういう食事を摂りたいという要望に対して応えてくれているので、本当に感謝しています。
◆努力が結果に繋がっている
—— 復帰してトップリーグのグラウンドに立ってみて、改めて感じるものはありましたか?
練習試合とも雰囲気が違いますし、やっぱり楽しかったですね。試合の前にはもっと緊張するかなと思っていましたが、これまでトップリーグに出ていた時と同じように準備が出来て、普通にグラウンドに立てて、試合のスタートから良いパフォーマンスを出すことが出来たので、本当に楽しくラグビーが出来ました。その中でも、もちろん修正すべきところはありました。
—— 改めて感じたラグビーの楽しさはどこですか?
いま優勝を争っていて、ひとつの負けが命取りになるという状況の中、お客さんがたくさんいる前で真剣勝負をするところに面白さを感じました。それに他のメンバーも本気で試合に臨んでいることが伝わる緊張感があるので、その中でラグビーが出来ることが楽しいですね。
—— 昨シーズンと今シーズンとではチームの雰囲気が違うと思いますが、リハビリをしていて少し引いた状態でチームを見ていて、その要因などは見えてきたりしていましたか?
今シーズンはみんなが持っているハングリーな気持ちを、敬介さん(沢木監督)が上手くラグビーに繋げてくれていると思いますし、強くなりたいという思いをトレーニングプログラムに落とし込んでくれていると思います。それによって努力が結果に繋がっているので、チームの雰囲気も変わっているんだと思います。
—— 過去のシーズンと比べて、今シーズンの状態をどう見ていますか?
今の状態は久しぶりだと思いますね。先日のコカ・コーラ戦で実際にグラウンドに立って試合をしてみて、最初相手に2本トライを取られて、もっとバタバタするかなと思ったんですが、みんながしっかりと地に足をつけ、ひとつひとつやっていこうと考え取り組んでいたので、結果としてあれだけ良い試合が出来て、チームが強くなっていると感じました。ただ、ターゲットは優勝なので、そこまでは気を抜いちゃいけないと思っています。
◆自分はどういう選手か
—— これまでにないくらいポジション争いがし烈だと思いますが、それについてはどう感じていますか?
バックスは誰もポジションが固定されていなくて、色々な入れ替わりがありますが、その中で誰が出ても勝利に繋がっているので良い状態だと思います。ただ、自分はチャレンジする立場なので、13番のポジションが取れるように頑張りたいと思います。
—— そのためには何が必要だと思っていますか?
やっと試合に出られる立場になったので、まずはチームの信頼を勝ち取るところだと思います。「試合でもしっかりとパフォーマンスを出せますよ」というところを、試合に出た時に、結果を出し続けるということが必要だと思います。
コカ・コーラ戦で言えば、後半の初めまでは良かったと思いますが、久しぶりの試合で疲れてきた時に集中力が欠ける部分もあったと思うので、しっかりと80分間パフォーマンスを出し続けることが課題だと思います。
—— 集中力が切れた時には、どういうことに気を付けているんですか?
集中力が切れた時には、自分が大事にしていることを思い出すようにしています。自分はどういう選手かと考え、ハードワークをすること、良い判断をすること、集中力を取り戻すということを、いつも考えるようにしています。
疲れているから動かないというのは自分勝手だと思うので、自分の体のことよりもチームのことを考えて動くようにしています。そこで大事になるのが、気持ちとリアクションだと思います。何かが起きてから動き始めたのでは遅いので、疲れていても予測は出来ますし、早めに動き始めるという小さな積み重ねが大事になってくると思います。
—— 今シーズンの目標は?
もちろんチームの優勝が第一で、個人としてはチームの優勝に貢献すること、チームに必要とされる選手でいることです。いまシーズン終盤に入ってきて、これからビッグゲームが続いていくので、そこに対して恐れを持たずに自信を持って、みんなで戦うことが大事になってくると思います。
サントリーは本当に強いチームになってきていると思います。ただ、過信と自信は難しい部分でもあるので、その雰囲気を感じ取れる選手になりたいと思いますし、そういった部分でユタカ(流大)をサポート出来れば良いなと思っています。
—— リーグ戦の終盤はトーナメント戦のような感覚なんでしょうか?
そうですね。今のリーグ戦の状況だと、優勝できるチームは限られていると思います。これからは優勝を争う上位チームと戦うことになっていくので、ひとつひとつ丁寧に戦っていくことが大事になると思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]