2016年11月30日
#512 宮本 啓希 『当たり前のことをしっかりやる』
8年目で最も出場機会が少ないという前半戦を終えた宮本啓希選手。そこで焦らず自分をしっかりと見つめ、更なる情熱を燃やす姿が、見ている周りの人たちに色々な影響を与えているのではないでしょうか。宮本選手の心境と目指すところを聞きました。(取材日:2016年11月7日)
◆毎週リセットして取り組んでいる
—— 今シーズンは第2節ホンダ戦、第5節キヤノン戦での出場となっていますが、コンディションはどうですか?
出場した試合で言えば、ホンダ戦はイメージ通り出来たと思いましたし、キヤノン戦はずっとディフェンスをしていた印象です。まだ2試合のみの出場ですし、全試合に出場しなければやり足りないという思いになると思います。
今年8年目で、これまでのシーズンの中で一番試合に出られていないシーズンになっているんですが、試合に出られなくともやるべきことはあって、毎週リセットして試合に出るために取り組んでいます。
—— 現時点での課題は何ですか?
年下の選手が多くなっている中で、「当たり前のことを当たり前にやるという部分をより力を入れてやらなければいけない」と言われていて、そこを意識して取り組んでいるんですが、「今日はもっと出来た」と思うこともあるので、もっと詰めていかなければいけないと思います。
具体的に言うと、アタックの場面で2対1のシチュエーションでは絶対に決めるとか、タックルをされて倒されても絶対にボールをリリースして繋げる、1対1のタックルをしっかりと決める、事前の準備をしっかりやるとか、自分自身が気を付ければ出来る当たり前のことを、しっかりやるということをより意識しています。
試合が終わった時に大きくズレたということはありませんが、振り返って「あの細かい部分が出来ていればトライに繋がったな」と思うようなプレーがあった時に、自分で自分にガッカリするという感覚になるんです。
決して派手なことではないんですが、サントリーのラグビーにはそこが一番大事なことだと思っていて、過去を振り返っても、そういう細かな部分が出来ている時のサントリーは強かったんです。それに、それを分かった上で15分の1の仕事をしっかりやらなければいけないと考え取り組んできたつもりですし、今年になって敬介さん(沢木監督)からも、「下が見てるぞ」と言われて取り組んでいる中で、出来ていないと自分で思った時に、よりショックを受けるんです。
—— 自分自身を追い込んでいるのとは違いますか?
常にこれをやらなければいけないという部分がクリアになっているので、感じる部分だと思います。だから、必要以上に自分を追い込んでいるわけでもありませんし、逆に励みになっている部分でもあると思います。その部分と、自分の売りであるコミュニケーションでコントロールする部分を繋げて試合に臨んでいるんです。
—— 過去7シーズンと比較して、パフォーマンスはどうですか?
成長し続けられていると思います。ただ、やっぱり大事なことは結果で、今シーズンはほとんど試合に出られていないので、ダメなんだと思います。リーグ戦残り6節ある中で、いつどこで何があるかは分からないですし、先ほど言った課題の部分を改善していくことに加え、これまでやってきた一定のレベルよりも上のパフォーマンスを出し続けることが、試合に出るためには必要なことだと思います。
◆色々なことに対して考えることが楽しい
—— 先ほど毎週リセットをしているという話がありましたが、8シーズンやって来た中でこれだけ試合に出られないことが初めてにも関わらず、毎週リセットをして次の試合に向け取り組むことが出来ているということは、自分の精神状態をかなりコントロールされていると思います。どうやってそれを学び、実践出来ているんですか?
うわ~、凄い質問ですね。質問がカッコいいもん(笑)。試合に出るために目の前のことを一生懸命やるということは、昔も今も変わらないんですが、若い頃は試合に向けて、毎回ぶち当たっていくというイメージでした。
そこから経験を積んでいくことによって、「こうやった時はダメで、こうやった時は良かった」というボーダーラインが分かってきて、そしてそこから良くするための引き出しが増えることに加えて、自分の状況を整理し、判断が出来るようになってきました。
あと、ラグビーだけじゃなく仕事もやらせてもらっているので、そこで色々な人とお会いして、ラグビー以外で繋がることも、ラグビーにリンクしていると感じる部分があるので、それを上手くラグビーに活かせていることも大きいと思います。
自分自身で「上手くいっていないな」と感じている時って分かると思うんですが、その時に「このままいったらアカンな」とちょっとブレーキを踏めたり、ちょっと気分を変えたりすることが、色々なことを経験することによって、年々出来るようになってきていると思います。
—— 先を予測し行動する力があるんですね
色々なことに対して、考えることが楽しいと思えるようになったことが大きいと思います。
—— その経験を若手選手にも伝えられたら素晴らしいですね
今年は特に、今の若い選手は賢い人が多いと感じることがあります。話をしていても、何か言われた時の対応も、考えて取り組んでいるなと感じることがあるんです。これまで個人を高め、徐々にひとつのチームになってきている中で、リーグ戦残りの6節で更に強固なものに出来れば、その先まで見えるようになるんじゃないかと思いながらチームのことを見ています。
◆考えて行動に移せるようになっている
—— 選手会長としては2年目になりますが、グラウンド外でのチームの状況はいかがですか?
もともとサントリーの強みとして、決められたことをきちんとやるという力はあったと思います。ただ、その力を維持しながらも、一度弱みとして表れてしまった部分が、自分たちで考えて行動するという部分だったと思います。
今シーズンに関してはこれまで全勝で来ていますし、勝ち続けることによって、「こうすれば勝てる、こうすれば上手くいく」ということがラグビーで見えているので、グラウンド外でも「じゃあ、こういう時にはこうしよう」と考えて行動に移せるようになっていると思います。
選手会長としては、一応は役職としてはありますが、今シーズンに関しては他の選手にもグラウンド外での役割は特に持たせていないんです。それに今年、日本ラグビーフットボール選手会が立ち上がったので、そこでの話をみんなに話すということをしています。
これまでチームソーシャルは何度かやりましたが、選手たちだけで集まるということが、今のところはないんです。そこは前半を振り返っての反省点だと思いますし、後半戦に向けて11月の1ヶ月間が本当に大事になると思うので、更にチームを強固なものにしていくために、どこかで機会を設けたいと思っています。
—— 勝ち続けることで選手自身が考えて行動するようになってきたということですが、そこは若手にも良い影響を与えていると思いますか?
例えば、ご飯を食べながらラグビーの話をしていると、「あの時はこうした方が良かった」とか意見が聞こえてきていて、そういう声が確実に増えていると思いますし、そういう環境を敬介さんが春に作ってくれたことが影響していると思います。
春シーズンにサントリー以外のある試合をポジション毎に分析して、話し合うという取り組みをしてきて、それによってラグビーの見方自体が変わったと思います。あの取り組みがベースとなっているので、今ラグビーについて話すと、具体的な話し合いが出来るようになっていると思います。
◆出てなかったメンバーがどんどん出てくるようなチーム
—— いまチームの雰囲気が良いと感じるのは、昨シーズンの成績も影響しているんでしょうか?
チャレンジャーという根本の気持ちは、昨シーズンの結果から出ていると思います。ただ、チャレンジャーという気持ちを持ちながら、今シーズンはいちから作っているという部分の方が大きいと思います。前半戦では試合によって波がありましたが、目の前のことに集中して取り組めているので、どんどん良くなってきていると思います。
—— 後半戦に向けて、個人としてはどういうイメージを持っていますか?
11月は合宿があり、そこで色々なことを取り入れてレベルアップ出来ると思うので、その後のトレーニングマッチでしっかりと発揮したいと思います。やっぱり思うのは、試合に出ないとダメだと思うので、そこに繋がるような1ヶ月間にしたいと思っています。個人としてやるべきことは変わらないので、そこにどれだけこだわりを持てるかが、結果に表れると思います。
—— チームとしてはどうですか?
やっぱり目の前のことを1つずつやっていくしかないと思います。他のチームもこの11月の1ヶ月間でレベルアップしてくると思うので、トップリーグが再開する初戦のNTTコム戦は重要な試合になると思います。それに後半戦を戦う上で大事になってくるのが、これまであまり試合に出られていないメンバーが、この1ヶ月間でどれだけやれるかに懸かっていると思います。
敬介さんもよく言っているんですが、それがチームの値打ちになると思いますし、チームの強さになると思います。前半戦に出ていなかったメンバーが後半戦ではどんどん出てくるようなチームになっていかなければいけないと思っています。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]