2016年11月23日
#511 真壁 伸弥 『ラインアウトのリフターとして日本一の選手に』
◆モールでトライ、思いが爆発
—— 第9節のクボタ戦では、今シーズン初めてモールでトライを取りましたね
春からモールを武器にするために、フォワードはガチンコでモールの練習をして、ヘロヘロになった状態で全体練習に取り組むということを続けてきましたので、開幕戦からモールでトライを取ろうと話していたんです。
開幕戦から4節くらいまではモールのチャンスもあまり多くありませんでしたし、上手く崩されてモールを組めない場面が多くありました。それ以降もモールでトライを取るチャンスはあったんですが、なかなか上手くいかずにフラストレーションが溜まってしまっていましたね。敬介さん(沢木監督)からも「そろそろ取ろう」と言われていました(笑)。
そして、9節でやっとモールでトライが取れて、みんな内に秘めていた思いが、一気に爆発しましたね(笑)。フォワード全員で喜びましたし、バックスも「やっと取れたか」と喜んでくれました。
あと、クボタ戦はヘンディー(ツイヘンドリック)と慎太郎(石原)がサンゴリアス50キャップの試合で、ヘンディーもモールにこだわって取り組んできていたので、50キャップとモールでトライが取れた試合ということで、試合後のロッカーでフォワードが集まって写真を撮りました。
—— 実際にモールでトライを取って、心境などに変化はありますか?
トライを取れて嬉しかったんですが、モールでトライを取ることが目標ではなく、もっと早くに達成しなければいけなかったことだったので、これからオプションの1つとして使ってもらえるように、ウインドウマンスの1ヶ月間で更に精度を高めて武器にしていかなければいけないと思っています。
—— セットプレーで言えばスクラムも強化されたと感じますが、選手としてはどう思っていますか?
成長はしたと思いますが、ヤマハのスクラムを見るとしっかりと固まって組んでいるので、そういうスクラムに対してどう組むかを1人1人が考えて取り組まなければいけないと思います。今シーズンのスクラムは通用していると思いますが、まだまだ伸ばしていかなければいけないと思っています。
—— 更に伸ばしていくためには、どういう部分を強化しなければいけないと思いますか?
「こういうスクラムに対してはどう組むか」という駆け引きの部分で、まだ1列目の3人に任せている部分があると思うので、8人が同じ考えで組めるようにならなければいけないと思います。
◆ボールをもっと大事に
—— ラインアウトに関してはどうですか?
ラインアウトに関しても、春からインターナショナル・スタンダードを目指して取り組んできましたし、今シーズンは早めにチームに合流できて個人としてのベースを上げることが出来ましたし、そこにヘンディーやジョー(ウィーラー)が加わって、ラインアウトの組み立てを行ってくれたので良い方向に進むことが出来ていると思います。
良くなってきてはいますが、世界を経験してきた選手とサントリーでやって来た選手とでは、まだまだギャップがあると思うので、常に細かい部分まで意識して、その細かい部分の精度を高めていかなければインターナショナル・スタンダードには届かないと思います。だから、経験ある選手たちが口を酸っぱくして言い続けなければいけないと思います。
—— その他の部分として、今シーズンは失点の少なさが目立ちますね
ディフェンスでのブレイクダウンが良くなっていると思います。ディフェンスでもアタックと同じメンタルで取り組めているので、それが結果として表れていると思います。それにターンオーバー率が高いんですが、これまでは一部の選手のみが狙いにいっていたところを、ハタケさん(畠山)やヘンディー、西川がボールを奪いにいっていますし、チャンスがあれば誰でも狙いにいくので、それが上手く機能していると思います。
—— 良くなっている部分の話を聞きましたが、現時点での課題は何ですか?
1人1人が自立して、考えて行動する部分に関しては、まだまだ成長できることがあると思います。サントリーのラグビーをやっていると、体力的にしんどくなる時があるんですが、そういう時でもしっかりと考えて行動し、個人としても成長していかなければ、チームとしても成長できないと思います。でくるかが分かっている状態で組むんですよ。それが試合では知らない相手と何回も組めるので、「こういう組み方があるのか」とか「こういうフッカーやプロップの選手がいるのか」と勉強することが出来るんです。
あとは、先ほども話しましたがモールの部分ですね。クボタ戦でトライを取った時には喜びましたが、9節までトライが取れなかったことは事実として受け入れなければいけません。セットプレーで優位に立つことがラグビーでは大前提なので、セットプレーはこれからも強化していかなければいけないと思います。
それに個人的に思っていることとしては、ボールをもっと大事にしなければいけないと思っています。極端なことを言えば、相手にボールを渡さなければ負けることはないんです。だからミスやペナルティで相手にボールを渡さないとか、ボールを渡してもすぐに奪い返すなど、そういう部分を1人1人が更に意識しなければいけないと思います。
春からずっと意識することを言われていますが、ただ意識をするだけではなく、例えば、ボールの持ち方であったり、タックルされる時の当たり方であったり、そういう細かな部分を1人1人が考えて取り組まなければ、細かなところまでは改善されないと思います。昨年の日本代表とトップリーグを比較するとノックオンの数が明らかに違います。それだけボールに対しての意識が違うんだと思います。
◆投げて上げて到達点を高く
—— クボタ戦では久しぶりにマン・オブ・ザ・マッチに選ばれましたね
年に1回か2回あるうちの1回が出たんだと思います。映像で試合を見返しましたが、あの試合であれば、選ばれるのはジョージ(スミス)か僕のどちらかだと自分でも思いました。やっぱり190cmで125kgくらいの体の男が走れば目立つということを映像で見て確信しました(笑)。僕がやったプレーは、ナイジェル(アーウォン)も亮土(中村)もやっているんですが、僕のような体の男がやったから迫力があってマン・オブ・ザ・マッチに選ばれたと思っています(笑)。
—— アタックではチームから求められている突破役を果たしていましたね
クボタ戦の後半で、僕が当たりに行って相手を寄せて、外で剛さん(有賀)がトライをしたようなシーンを増やしたいと思っています。僕はトライを取ろうとプレーしているのではなく、「相手が寄って来い」と思ってプレーしています。まあ、そこで相手が寄ってこなければ抜けて走れるので、そういうシーンが上手く出た試合だったと思います。
—— 突破力に関しては毎年上がっているんですか?
突破して走るということに関しては、以前の方が高かったと思います。以前はフィールドプレーに力を入れていましたが、今はポイントを作ることとセットプレーに重きを置いていて、スクラムやラインアウト、モールなどのセットプレーで必要な核になろうと思っています。
—— スタイルを変えたことによって、セットプレーの面白さを感じることはありますか?
特にスクラムで楽しさを感じるようになっていて、やっぱりスクラムが強いと試合を有利に進められるんですよ。スクラムでバックスがゲームをコントロールしようとする時に、サインを聞いてどう押せばいいのか、ペナルティを狙いにいくのか等を考えてプレーする楽しみがありますし、相手ボールのスクラムでもプレッシャーを与えるだけでディフェンスになるので、ディフェンスの最初がスクラムという責任感を持って取り組めていて楽しいですね。モールに関しても、みんなでトライを取る感じがするので、セットプレーに楽しさを感じています。
その中で、細かな技術が必要なところも面白いですね。例えば、「ハタケさんがこっちに行ったから、いつもと同じように押していたらペナルティになるから止めよう」とか、色々な駆け引きがあって、他の人には伝わらないけれど、自分の中だけで満足できるところが面白いんです(笑)。
あとスクラムを押すと、よくプロップが褒められると思いますが、正直な話をすると、スクラムを押しているのはロックなんですよ。分かりやすく言うと、スクラムではロックがエンジンで、プロップが舵取りになると思います。そういう思いがあるので、スクラムやモールには強いこだわりがあります。
ロックは通常ラインアウトにこだわりを持っている人が多いと思いますが、サントリーにはヘンディーやジョー、シノさん(篠塚公史)など、良い選手がたくさんいるので、僕としてはリフターとして日本一の選手になり、どんなジャンパーであろうと最高に活かすことが出来る選手になろうと思っています。
—— 日本一のリフターになるために必要なことは何だと思いますか?
それぞれのジャンパーの特性にしっかりと合わせることと、ただ持ち上げるだけでは低いのでジャパンパーの膝辺りを持ち、上に投げ上げて更に到達点を高くすることを心がけています。あと、ジャンパーの前と後ろでも少し役割が違って、後ろのリフターが高く持ち上げ、前のリフターが力強く支えることを意識しています。
リフターの動きと戦術に関しては自信がありますね。やるべきことはそんなに多くないので、そのやるべきことを意識高く、毎回行えるかが重要なんです。極論を言えば、どのチームよりも高い到達点にジャンパーを持ち上げて、そこにボールを投げれば、サインや駆け引きなどなくてもボールが取れると思っています。
◆セットプレーで核となり安定させられる選手に
—— 今シーズンの個人として、そしてチームとしての目標は?
やはりそこは、いま1位のヤマハを倒して優勝することです。個人としては監督からもチームメイトからも信頼される選手になることです。監督にとって使いやすい選手とは、常に高いレベルで一定のパフォーマンスを出せる選手だと思うんですが、前半戦(開幕戦~第9節)では尻上がりにパフォーマンスが上がっていった状態だったので、後半戦ではしっかりと合わせていきたいと思っています。
—— 8年目のシーズンとなっていますが、これまでのシーズンと比較すると現在のパフォーマンスはどうですか?
単純には比較は出来ないですが、体重が増えた状態でもランニングが出来ているので、インターナショナル・レベルには近づいてきていると思います。以前はランニングは出来ましたが、ラグビーはブレイクダウンや体をぶつける部分が大事になるので、フィジカルの部分でレベルが低くインターナショナル・レベルにはなれていませんでした。なので、インターナショナル・レベルという部分で考えると、過去のシーズンと比較して今シーズンが一番いい状態かもしれません。
—— 体重が増えたことによってブレイクダウンでのパフォーマンスも上がっていますか?
ブレイクダウンでボールを奪うことに関しては、他に良い選手がたくさんいるので、僕としては相手から嫌がられるプレーをすることを心がけています。力強く当たり相手の勢いを止めたり、相手を疲労させることがブレイクダウンでの仕事だと思っていて、クボタ戦では良いパフォーマンスが出せたと思っています。
—— 目指している選手像はありますか?
世界で戦えるテストマッチプレーヤーを目指しています。やはり世界で戦うと、相手からの圧力もプレッシャーも全く違うんですが、そういう環境の中でもトップリーグで発揮しているようなパフォーマンスが出せる選手になりたいですね。
そのためには経験が必要で、日本代表やサンウルブズでその経験は積んできているので、その経験をもとにトップリーグでも世界を相手に戦っているつもりでレベルの高いパフォーマンスを出し続けることを意識しています。
僕は今の日本代表には選ばれていませんが、2019年に日本で開催されるワールドカップに出場したいという思いがあるので、それに向けて更に筋力をつけて体を大きくして、世界と戦えるフィジカルを作ることが大切だと思っています。
—— トップリーグ後半戦に向けて、どういうイメージを持っていますか?
昨年のワールドカップ以降、世界的に見てもセットプレーの重要性が上がってきているんです。セットプレーで核となり安定させられる選手になって、サントリーのスタンダードを上げられる選手になっていきたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]