2016年11月 2日
#508 竹本 隼太郎 『勢い以外のものを作っている』
◆みんなが信じることは何か
—— 第6節までを終えて、6連勝ですね
次の試合のことしか考えていないので、6連勝ということに関しては特に思うことはありませんが、振り返ってみると、競った試合もあれば快勝の試合もある中で、勝ち続けていることは良いことだと思います。それに、改善すべきところもクリアになっていて、良い方向に進んでいると思います。
—— 地元長崎でのサニックス戦はどうでしたか?
良い試合だったと思います。やるべきことをしっかりと理解して、それを遂行出来た試合でした。後半は激しい雨が降りましたが、その中でもしっかりとパフォーマンスを出すことが出来たので、特に良かったと思います。
—— これまでと比べて、今のチームは何が違うと思いますか?
分かりやすく言うのであれば、1つ1つ目標に近づいている感覚がありますが、これを益々近づけていかなければいけないと思います。自分たちの立ち位置とそこからどうしなければいけないのかという部分が明確になっていると思います。
—— どの立ち位置にいて、そこからどうしなければいけないのかということは難しい課題なんですか?
個人としてみれば簡単だと思いますが、チームで同じことを考えるということは難しいと思います。それを踏まえても、過信してはいけないと思いますが、現在のチームは良い状態だと思います。
今はやればもっと良くなるということが見えているので、そこに意識を集中出来ていて、ネガティブの要素があまりないと思います。大きな目標があって、それに対して進んでいる中でどうしても迷う時もあると思いますが、その時にみんなが信じることは何かということが見えてきているような気がします。
◆悔しい思い
—— 自分自身の調子はどうですか?
6節を終わって、今シーズンで今が一番良い状態なので、これを伸ばしたいと思います。僕としては開幕の時から意識して上げてきています。コンディションの上下を少なくして、その中で変えるべきことをしっかりと変えることによって今の状態があると思います。積み上げているイメージですね。
—— それを行うためには経験が必要ですか?
もともとそういうタイプかもしれません。マイペースで、周りと比較するのではなく去年の自分と比べて良いか悪いかを判断しています。何かを変えることは難しいことだと思います。その中で、具体的に対策を立てて実行に移す力はあると思っています。
具体的に言うと、第5節のキヤノン戦でタックルミスをしたんですが、「こんなチームに迷惑をかけるくらいなら出ない方がマシだ」と思うくらい悔しい思いをしました。そこで申し訳ないと思う気持ちをエネルギーにすると共に、自己実現欲求をモチベーションにしました。具体的にどこが悪かったのかを考え、例えばポジショニングであったり、タックルのフォームやアプローチのところであったり、全てを見直して、少し改善すればやれるという自信があるので、その辺を修正していきました。
あとボールキャリーで言えば、体の使い方であったり、ステップであったり、ボールグリップなど、改善できるところはたくさんあるので、その中から全ては出来ないのでどれかに絞って実行するわけです
—— 絞るためのポイントは?
そこは独断と偏見です。良いと思うところは力むことなくそのままで、変に強く何かを意識しすぎると他に影響を受けてしまう可能性があるので、そのことだけにフォーカスするようにしています。意識しない部分というのは、無意識のうちに出来るようにしておかなければいけません。練習で十分に意識して取り組んで、無意識ベースに落とし込むことによって自然とプレー出来るようになるんです。
やっているうちにそれが薄れてしまったり、何か悪い部分が出てきた時には、もう一度強く意識することと、その回数を増やすようにしています。その意識の強さと回数は意識するようにしています。
—— どの辺りで自分自身が成長していると感じますか?
やっぱり出来なかったことが出来るようになると成長を感じます。例えば、ボールキャリーで変な力みが抜けて前に出られたり、コス(小野晃征)とか上手いキャリーの選手の動きを少し真似てみたりとかして、そこで改善していることを感じるといいなと思ったりします。
—— 成長に限界がなさそうですね
いずれはあると思いますよ(笑)。ベースのフィットネスや、スピード、体の強度などが担保されているのであれば、少しマイナスな部分があったとしても他を改善して良いプレーをし続けることは出来ると思います。
—— ベースをキープするトレーニングだけでも大変なことですよね
大変と思えば大変になると思うので、そこは見方だと思います。今までハードなトレーニングをしてきましたし、変に力むとか、悪い姿勢をするとか、リスクのあるプレーをするとか、そういうことをやらなければそれほど恐れることはないと思っています。
◆行くべきか行かないべきかという判断
—— 今の課題は何ですか?
これまでゲームフィットネスが課題でしたが、少しずつ上がってきていますし、ボールキャリーとサニックス戦ではラッキーな部分もありましたが、ジャッカルが3回ほど出来ましたし、ディフェンスでも抜かれなかったと思っています。
いま意識しているディフェンスは、体に覚えさせています。そして、次の試合ではゲームフィットネスをちょっと上げることと、もう少し良いタックルをすること、あとボールキャリーを出来るだけ長い時間で良いボールキャリーをしたいと思っています。
—— ジャッカルが上手くいっている要因は何だと思いますか?
ここは行くべきか行かないべきかという判断だと思います。目の前で相手が倒れていて、こっちの方が早いと分かったら、相手よりも早く強い姿勢を取るんです。もうそれだけです。動作や低く強い姿勢などの体の使い方には自信があるので、そういう状況に出来れば勝ちですね。
—— チーム全体としての課題は何だと思いますか?
良い試合の後はパフォーマンスが落ちてしまっていると思います。開幕から僅差での勝利と快勝を交互に繰り返してしまっているので、そこが課題だと思います。下がり続けたり上がり続けるということは逆に不自然だと思うので、上がったり下がったりすることは別に悪いことではないと思います。その中で右肩上がりで、上がったり下がったりする振れ幅が小さくなっていくことが大事だと思います。
—— その中で、快勝だった次の試合はどういうことを意識しますか?
いちプレーヤーとしては、前の試合よりも良いパフォーマンスをするというだけです。
—— 全ての選手がそういう思いで試合に臨んでいると思いますが、それでも波があるということは仕方のないことでしょうか?
ある程度は仕方がないと思います。オールブラックスも勝ち続けていますが、その中で波があります。ただ、良いこととしてはボーダーラインが高いということです。それは下がったとしても下がり過ぎないんです。
—— その中で今シーズンは僅差でも勝っていますね
懐が深くなったと思います。例えば、プレッシャーを受けてもブレないとか、心が折れないようになっていると思います。あとは、コンディションも上がっているので、トップとまでは言えませんが、スタンダードは上がっていると思います。
◆変わらないのはハードワーク
—— 今シーズンのスローガンはサントリープライドですが、竹本選手にとってのサントリープライドとは?
一番最初に思い浮かぶのがハードワークで、相手よりもタフにハードワークするということです。その他としては自分たちのスタイルを信じるということや仲間を信じること、あとはプライド、リスペクト、ネバーギブアップなど思い浮かびますね。
—— チームとしてはどの辺りで統一感が取れていると思いますか?
インターナショナル・スタンダードです。ルーキーとしたら「サントリーとはどういうチームか」ということは分からないと思いますが、やっぱり昔から変わらないのはハードワークのところかと思います。
—— 今のラグビーの面白さは何ですか?
1人1人の判断が大事になってくるところですね。以前まではそこが課題だったと思いますが、そこから考えて動いて、みんながボールを触りますし、バックローとしたらボールを持つ回数は減ったかもしれませんが、判断をしてプレーするということが面白いですね。
スペースをしっかりと見て、パスをするのか、そのまま持ち込むのか、バックスにパスをしてキックするのかという判断があるので、フォワードとしてもパスをする選手が増えたと思います。
あとは達成感ですね。やっていることが正しいという感覚と、結果が出ていたり認められているという充実感もあると思います。みんなで「これをやる」と言って、実際にやって成功しているから楽しいんだと思います。
それに選手同士のコミュニケーション量がとても多いと思います。年齢や国籍など関係なくコミュニケーションを取る量が多いことも良いなと思っています。チームの状況が良い時の方が、コミュニケーションも多いと思います。
◆押し続けるんだというメンタルセット
—— 今シーズンはスクラムやラインアウトに力を入れて取り組んでいると思いますが、フォワードとしてはどういう思いがありますか?
バックローをやっていて、今まで一生懸命押しているつもりでしたが、スクラムは本当に8人がひとつにならなければいけませんし、そうなるためにはプロップやロックの気持ちを分かって、同じタイミングであったり、同じポジションであったり、同じステップを踏むことであったり、あとは我慢が大事で、乳酸が溜まっていても押し続けるんだというメンタルセットが大事だということを菅平合宿で教わって、やっとスクラムの仲間に入れてもらえたという感覚になりました。そうなるまでは大変でしたが楽しかったですね。今でもプロップからスクラムの仲間と思われているかは分かりませんが(笑)、良いことを教わったと思っています。
—— それが各試合で活きているという感じですか?
その片鱗が活きている感じです。メンタルセットの意識が高くて良いんですが、どうしても時間が経つにつれて薄れていく部分もあると思いますが、薄れながらもまた上がって、改善しながらやっています。
—— 2015年のワールドカップに向けて日本代表がスクラムを強化して、その成果は出たと思います。日本代表で取り組んだことが各チームにも伝わっていると思いますが、その影響もあると思いますか?
代表選手から各チームに伝えられても真似できるものではないですね。8人が8人とも同じことを考えることは難しくて、「こうだ」というものがあって、それを信じてやることが大切だと思います。伝言ゲームみたいに「低い姿勢で同じタイミングで、同じ姿勢で押すんだよ」と言われても、自分は押しているつもりでも実際には押せていないんです。8人がまとまって押すことによって相乗効果が生まれるんです。
◆冷静に客観的に判断
—— 今シーズンの個人としての目標は?
過去最高のパフォーマンスを出すことです。
—— その予感はありますか?
必ずなります。周りから見ていても分かるくらいのパフォーマンスを出したいですね。
—— 過去最高のパフォーマンスの先に何を見ていますか?その予感はありますか?
達成感と、やるべきことをやるという責任を果たすことがキャリアになると思います。
—— 今回のインタビューでは特に言葉を選んで話をしているように感じますね
冷静に客観的に判断して話をしています(笑)。30歳をとっくに過ぎていながらも、今の自分に納得できないところがあって、まだ成長したいという向上心の表れです。そうすることによって、年輪のようにジワジワ成長していけるんじゃないかなと思っています。
—— なぜそういう思いに至ったんですか?
成長曲線で言うと、若手の頃に何とか試合に出て上がって、キャプテンになって2冠を取らせてもらったり、周りに感謝をするようになった時期がありました。いま過去2~3年を振り返った時に、頑張っていなかったわけではありませんが、右肩上がりだった頃と比べると、達成感などがなかったように感じました。
このまま緩やかに落ちていくよりは、引退した時やその後の人生の為になるようなキャリアが残っていなければダメだと思ったんです。簡単に言うと、それまでは勢いだけで来ていたところに、勢い以外のものを作っているという感じになると思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]