2016年10月19日
#506 石原 慎太郎 『新たな正解を自分たちで作っている』
第4節パナソニック戦で相手を切り裂くようなトライ。「ボールを持つことが好き」と言う石原慎太郎選手の真骨頂の場面であり、サンゴリアスのチームとしての一体感が、シンボリックに表現されたシーンでもありました。勢いを増してきた4年目の石原選手に訊きました。(取材日:2016年9月23日)
◆全てのプレーが繋がっていた
—— 第4節のパナソニック戦では、チームを勝利に導く勢いのあるトライを取りましたが、自分ではどういうトライだったと思いますか?
ユタカ(流大)が試合後の会見で言っていましたが、ボディーブローのように縦への仕掛けを繰り返していて、練習の時からゲインラインを切りに行くことを選手全員が意識してトレーニングをしてきていたので、それを前半から繰り返していたことがパナソニックに効いていたんだと思います。
ディフェンスが強いパナソニックに対して、ああいう形で抜けるということはあまりないと思うんですが、その中で自分たちがやって来たことは合っていたんだとはっきりと認識しましたね。信じていなかったというわけではないんですが、正しい方向に進んでいると、みんながより核心できた瞬間だったと思います。
トライを取ったシーンだけが良かったわけじゃなくて、全てのプレーが繋がっていたと思いますし、僕らが準備してきた通りのプレーを出すことが出来たので、それが結果に繋がったと思っています。
—— 試合を通じでパフォーマンスを発揮できた要因は何だと思いますか?
これまでと大きく変えたわけではないんですが、相手のディフェンスラインを縦に切っていくプレーを、パナソニック相手にやろうと話し合って、それに向けて1週間準備していました。その1週間の始めの頃は合わないこともあったんですが、練習を重ねるごとに良くなっていき、試合に入る時には「ただやり切るだけだ」と思っていたので、全員が自信を持って試合に臨めて、それがパフォーマンスに繋がったと思います。
—— 自信を持つことは難しいことですよね
練習の積み重ねが自信になっていましたね。僕はトップリーグでパナソニックに勝ったことがありませんでしたし、練習をしている時は不安でした。ただ、敬介さん(沢木監督)がずっと「自分たちのプレーに1つ1つ自信を持ってやれば大丈夫」と言ってくれていて、そのお陰で変な不安を持たずに試合に臨めましたし、選手間でも「やり切ろう」とずっと話していたので、やり切った結果が全て出たのかなと思っています。
◆ボールを持って動く
—— 今シーズンはセットプレーにも力を入れていると思いますが、ランナーになる意識はどのくらいあるんですか?
僕はボールを持つことが好きなんですよ。ハーフの人に「こういうボールが欲しいです」って生意気に要求したりもしています(笑)。もちろん試合ではチームから求められていることがあって、セットプレーから崩すことであったり、ディフェンスの部分になるんですが、それに加えて自分の良さを出していかなければいけないと思っています。
そこが僕の場合はランナーとして、しっかりとボールを持って動くことだと思っていますし、ラックの近場ではディフェンスがフォワードになることが多いんですが、そこでの一瞬のスピードであったり、ボールのもらい方であったり、タイミングなどは自信を持っているところなので、もっとチャンスを増やしていきたいですね。
ただボールをもらうだけじゃなくて、どういうもらい方をしたら相手が嫌かとか、試合の序盤と終盤ではディフェンスも変わってくるので、その状況によってどう当たっていくか、スペースがどこに空いていくかということを考えながら練習に取り組んでいます。
—— セットプレーについてはどうですか?
要所要所で上手くいっていないスクラムもありましたし、まだまだ納得できるところまでは行っていないですね。これから更にセットプレーが大事になってくると思うので、より磨いていかなければいけないと思っています。
春からセットプレーを武器にするために取り組んできていますし、昨シーズンと比べると自分でも感じるほど成長出来ていると思っています。その中で、みんなが自分たちのセットプレーはどうあるべきかと問い続けていて、まだまだ完成はしていません。
—— 現時点での完成度はどれくらいですか?
現時点では7割くらいだと思います。今でも少しずつ新しい取り組みなどを入れたりしているので、それがフィックスしてくれば更に良くなっていくと思います。
◆スイッチを切り替えなきゃいけない
—— パナソニック戦では同じような形でモールから連続してトライを取られてしまっていましたね
後半5分くらいに僕がトライを取って、3トライ3ゴール差(21点差)まで広がったんですが、気持ちでは「まだまだ」と思っていても、無意識のうちにフワッとなってしまった瞬間だったと思います。同じ形で連続して取られたということは、それが顕著に表れてしまっていたと思います。
2本目のトライを取られた時に、インゴールの中で幸太朗(松島)が「いま、みんなスイッチオフしている」と言ってくれて、その言葉でみんなが「もう一度スイッチを切り替えなきゃいけない」と思ったと思います。前半の最後では守り切って終われているので、その辺りの気持ちの入れ方を、もう一度考えなければいけないと思います。
2トライ取られて9点差まで縮められていたので、一歩間違えば追いつかれて、また全然違う流れになり、結果も違っていたかもしれません。
—— 他にポイントとなるプレーは?
キックオフですかね。パナソニック戦ではカベさん(真壁伸弥)のところに多く蹴られたと思いますが、カベさんが体をぶつけに行ってくれていたので、良かったと思います。
いま全体の練習が終わった後に、ロックの選手たちは毎回キックオフの練習をしています。ジョー(ウィーラー)は模範となるような選手で、本当に上手いですね。ジョーのプレーを見て、ロックの選手たちは「なぜ上手いのか」を考えて取り組んでいると思いますし、ジョーもめちゃくちゃ練習するので、良い刺激になっていると思います。
—— ウィーラー選手は何が上手いと思いますか?
はっきりとは分かりませんが、経験と練習だと思います。ボールの落下地点に入るのが早いですし、正確なんですよ。
◆選手間のコミュニケーションが増えています
—— チームとして同じ絵を見てプレー出来ていると思いますか?
僕の感覚としては、良いイメージがついて来ている感じです。成長過程だと思いますし、1試合も負けられない試合が続いていて、その中で試合ごとに成長していく必要があるんです。開幕戦からパーフェクトな状態で臨めるチームなんていませんし、競った試合でも勝つことが出来て学ぶことが出来ていますし、勝ち癖が徐々に取り戻せつつあるんじゃないかと思っています。だから、チームとして良い方向に進んでいると思います。
—— これまでと比べて、どこが違うと思いますか?
一番は選手間のコミュニケーションだと思います。敬介さんもコーチ陣も色々な準備をしてくれているんですが、最終的にグラウンドでプレーするのは僕らなんです。これまでもその部分は分かっていたと思いますが、これまでは言われたことをやるだけになっていて、そこが今シーズンは全く違います。
それに加え、グラウンド外でのコミュニケーションが増えていることによって、同じ絵を見ている選手たちの輪がどんどん広がっていっていると思います。与えられたものに対してプラスα を加え、自分たちで作り上げていかなければいけないんです。
—— 同じ絵を見るということは、これまでも目指していたことだと思いますが、なぜ今シーズンは出来るようになってきていると思いますか?
春シーズンから、ハタケさんがずっと「俺たちは9位のチームなんだ。並大抵のことをしていたのでは、チャンピオンになれないチームなんだよ」と言い続けてくれて、それで危機感を持ったり、自分たちでどうにかしなければいけないという思いに繋がっているんだと思います。僕もサントリーに入って9位になるなんて思ってもいませんでしたし、底を見たことが影響しているかもしれません。
◆色々なことにチャレンジ
—— 今の課題は何ですか?
オールブラックスとスプリングボクスの試合を見ていると、スーパープレーはあまり無いように感じていて、基本的なプレーをどれだけ高い成功率でやるかだと思います。パスであれば、どれだけ取りやすいパスを投げられるかとか、スクラムではどれだけ良いセットアップをして良いヒットから組めているかとか、そういう細かいところを高めていくことが大事だと思います。
大きく変える必要はなくて、チームとしてのベースは出来ていると思うので、細かい部分を高めていくことによって、先ほど言った完成度が7割から9割とか9割5分とかに上がっていくと思っています。
—— チームの中では同じ意識で取り組めていますか?
もちろんです。練習中から「やろうとしていることは悪くない。最終的に個人的なハンドリンクエラーなどが起きているから、そういうところを高めたら、もっと良いところに行く」という声がたくさん出ているので、軸はみんな同じ方向を向いていて、そこに個人的なスキルがプラスしていければ更に良くなると思っています。
—— 改めて感じるラグビーの面白さは?
僕がサントリーに入った前年は全勝でトップリーグ2連覇、日本選手権3連覇した時で、チームの中に正解があったと思います。だから、1年目の時はその正解をやるということだけを意識して取り組んでいましたが、今は立ち位置が違って、9位から優勝を目指して色々なことにチャレンジしているので、楽しいですね。
チャレンジャーですし、変に形にこだわる必要もないですし、4年目になってその思いを口に出して言えるようになってきたので、その変化が凄く楽しいんです。正解に向かうのではなく、また新たな正解を自分たちで作っているんです。
大学でもサントリーでも優勝を目指してやってきましたが、これだけ全員が同じ方向を向いて取り組んでいるのは初めてかもしれません。
◆先発でフルタイムでずっと出続けたい
—— 個人的な課題は?
セットピースです。敬介さんが冗談か分かりませんが、「日本一強いプロップになれば良いじゃん。そうすればどのチームも怖くないだろ」って言うんです。けど、それって本当にそうだなって思うんです。そういうプロップがいれば、チームも安心できますし、相手の強みも消すことが出来るので、そこをベースとして目指しています。
口で言うのは簡単ですし、僕1人でスクラムが強くなるわけではないんですが、日本一のプロップが集まる集団になっていきたいですし、ハタケさんという素晴らしい模範となる選手がいるので、僕もそういうモデルになっていきたいと思います。
—— それに向けて、具体的に何に取り組んでいるんですか?
スクラムに関して、これまでのラグビー人生の中でも感じたことのないほどコミュニケーションが取れていますし、僕は英語が話せませんが、ジョーとも片言の英語で密にコミュニケーションが取れています。それに疑問に思ったことはヤマさん(山岡俊FWコーチ)やアオさん(青木佑輔)に聞きに行ってクリアな状態にしていて、1つ1つの練習にしっかりとフォーカスして取り組めています。
何か新しいことを加えようとすると、どうしても摩擦が起きてしまうので、しっかりとコミュニケーションを取って摩擦をなくしていて、その積み重ねが大事だと思うんです。ヤマハも同じで、今年から今のスクラムの形で組み始めたわけではなくて、長い期間を積み重ねて、今シーズンのヤマハがあるんだと思います。
スクラムに関しても正解はなくて、僕らも理想を見つけようと取り組んでいる段階なので、まだまだ伸びしろがあると思います。
—— 現在の目標は?
個人としては、ずっと先発で試合に出ることですね。フルタイムでずっと出続けたいですし、信頼される選手になりたいですし、信頼されるプレーをしていきたいと思います。
まだ4試合だけですが、これまでも先を見て臨んだ試合なんて1つもないんですよ。1試合1試合をしっかりと見つめた結果、僅差で勝てたり、良い試合が出来たりしてきたので、そこはブラさずに、1試合1試合でしっかりとフォーカスしてやっていくことが、大きなことを成し遂げるための一番の方法だと思っています。
相手に合わせてプレーすることはどのチームでも出来ることだと思いますが、軸を持った上で変化させることで自分たちの色を失わないですし、結果的にサントリーの強みを出すことが出来るんだと思います。そこを忘れないことが大事だと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]