2016年10月12日
#505 中村 亮土 『突破役』
第4節のパナソニック戦のトライシーンに象徴されるように、この試合でパワーを全開に発揮したときのポテンシャルを感じさせた中村亮土選手。話す内容もまさに全開状態で、量も質も濃いインタビューとなりました。今シーズンのサンゴリアスで大きな役割を担うプレーヤーとして、ますますの活躍に期待したい選手です。(取材日:2016年9月21日)
◆青い壁を突破する
—— パナソニック戦で、モールから連続トライを奪われ嫌な流れの中で、中村選手が相手のタックルを振り解いてトライを奪いましたが、あのトライを振り返ってみて、どういうトライだったと思いますか?
自分の中で、ようやく目に見える結果が出たと思っています。昨シーズンよりはフィジカルやスキルの面での成長を感じていましたが、それが試合の中で目に見える形で出すことが出来ていなかったので、僕自身に対してもチームの他のメンバーに対しても、結果で示すことが出来たのが、あのトライだったと思います。
結果的に時間帯も良かったので、チームを救えたトライだったと思いますが、地道に練習の中でやって来たことが、あの瞬間だけじゃなく、試合全体を通して出てき始めていたと思います。
—— 前に出るという意識がとても感じたプレーだったと思います
試合に臨むにあたって、僕の役割は相手ディフェンスラインを突破するということを意識していました。その中でボールキャリーを何回かしましたが、毎回、青い壁を突破するイメージで仕掛けていました。あのトライの時も、倒れないということを強く意識していましたし、低いタックルではなく、倒れなければ前に出られると感じたので、その思いが道を開いてくれたと思います。
—— 今までも前に出る意識でプレーしていたと思いますが、今回目に見える形で表れた要因は何だと思いますか?
毎回の練習の中で、今まではどこかで上手くやろうとしていた部分があったんですが、そうではなくて、チームにどう貢献するかということを意識するようになりました。僕はバックスの中ではフィジカルが強い方だと思いますし、突破役ということを求められています。その役割が明確になったことで、今回のように結果として表れたんだと思います。
サントリーの場合は、9番と10番にしっかりとコントロールできる選手がいますし、外には取りきれる選手がいるので、外に運ぶためには内側で相手のディフェンスを寄せて崩す役目が必要になるんです。その役目を果たすために一番適しているのが、僕だと思っているので、自分の中でやるべきことが明確になったと思います。
—— 上手くやろうとしていた自分に気づき、反省をしたということですか?
反省というよりは、パス、キック、ランと、それぞれにオプションがたくさんある中で、まずは自分が前に出ることを考え、やることを明確にしました。そして、そのためには何が必要かを考えて取り組むようになりました。
昨シーズンまでは出来ることがたくさんあって、相手がこう来たらこうするという選択肢をたくさん持ちすぎていましたし、プレー中の一瞬の判断で上手く出来るだけの能力が無かったと思います。そこに気づいたので、まずは自分のやることを絞って、そこが出来るようになってからオプションを増やしていくように変えました。それに、やるべきことを絞ったことによって判断も早くなったので、余裕をもってプレーすることが出来るようになったと思います。
トップリーグを経験していく中で、前に出るということが一番通用する部分だと思いました。たぶん昨シーズンも、自分の中でその部分には気づいていたと思いますが、上手くやろうとする気持ちがプレーに表れてしまっていていたと思います。ただ、1、2年目でのその経験があったからこそ、今シーズンではやるべきことを絞ることが出来たと思っています
ラグビーはフィジカルのスポーツなので、そこで負けていたら何も出来ないという原点に戻った感覚です。自分の強みであるフィジカルという部分を思い出すことが出来たと思います。
—— 自分に厳しくしなければ気づくことが出来ない部分ですよね
これまでの中で、試合に出られない時もありましたし、良いプレーをしようと思っても全然結果が出ない時もありましたし、日本代表に呼ばれなくなった時もありました。色々な時期がありましたが、敬介さん(沢木監督)はじめ、チームスタッフの人たちはずっと向き合ってくれていたので、その人たちの力が大きかったと思っています。
◆フィジカルとスキル
—— 現状の課題は何ですか?
パナソニック戦は良い内容だったと思いますが、試合が終わってから「もっと出来ることがあった」と感じました。パナソニック戦でも、たまたま結果が出た部分もあると思いますし、結果を出すためのプロセスを大事にしたいと思っているので、本当に「1回1回の練習で向上心を持って取り組む」ということを、どんな時でも忘れずにやりたいと思っています。
—— もっと出来ることがあったと感じた部分はどこですか?
もっとボールを持って前に出られたと思いますし、接点の部分でもっと激しく出来たと思いますし、1つ1つの場面でもっと正確に出来たと思っています。チームとして「インターナショナル・スタンダード」を求めている中で、オールブラックスなどの試合を見ていて、あそこまでのレベルに達しなければいけないと思っているので、そこはブラさずに理想を求めてやっていきたいと思っています。
—— その理想を求めていくためには、これから何をしなければいけないと思っていますか?
フィジカルの部分でもっと激しいプレーをすることと、スキルをもっとレベルアップさせて、プレッシャーがある中で、正確に強いプレーが出来るようにならなければいけないと思っています。
—— タックルやキックなどもレベルアップしているように感じましたが、自分ではどう思っていますか?
タックルなどの個人的なスキルの部分については良くなってきたと思います。ただ、横の選手とのコネクションの部分ではもっと改善出来るところがあるので、そこを突き詰めていかなければ、優勝することは出来ないと思っています。
キックについても、練習している中で良くなってきていると感じているので、シーズンを通して正確なプレーをし続けたいと思っています。成長出来ていると感じる部分は、これからも継続して伸ばしていきたいと思います。
◆小さな積み重ねが試合の中で生きてくる
—— チームはこれまでと比べて、どこが変わったと思いますか?
コミュニケーションの密度や質が、これまでと比べて上がっていると思います。ラグビーの試合の中で、コミュニケーション1つでプレーが変わったり、結果が変わったりすることが本当に多いんです。それを普段の練習の中から如何に出来るかが試合に繋がるポイントだと思うので、今シーズンはそこにこだわっていますし、曖昧にしないということが大事だと思います。
例えば悪かったプレーをそのままにしたり、他の選手は分かっているだろうと勝手な思い込みを無くそうとしているので、細かなコミュニケーションが多くなったと思います。練習中も、ご飯を食べ終わった後も、その日の練習の映像を見ている時も、もちろん試合中も、プレーが止まっている時も、ロッカーにいる時も、小さい積み重ねが試合の中で生きてくるんです。本当にラグビーのことを話している時間が多くなりました。
—— 常に意識しているんですね
1つのプレーに対して、「なぜこのプレーをしたのか」、「なぜこの判断をしたのか」という意思がなければ反省は出来ないと思います。だから「相手がこう来たからこうした」とかを考えながらプレーできるようになっているので、反省する場面でも、ある選手が「相手がこう来ていたからこういう選択をした」ということに対して、他の選手が「でも、周りがこういう状況だったから、こうした方がより良かったんじゃない」ということをちゃんと言えるようになっています。
—— プレーしていて面白いんじゃないですか?
面白いですね。上手くいかないこともありますが、自分たちが意図していたことがハマったりすると、どんどん面白くなっていきますし、プレーしていて楽しいですよ。
◆コミュニケーションの濃さ
—— 3節までは試合の立ち上がりがあまり良くありませんでしたが、そこは改善出来ていると思いますか?
パナソニック戦は良かったと思いますが、今の段階ではまだ1試合だけなので、改善出来ているということにはならないと思います。それが継続して出来ていかなければ、スタートが良いということにはならないですよね。毎試合で試合の立ち上がりを意識して臨まなければいけないと思います。
—— ようやく噛み合ってきたという感覚ですか?
パナソニック戦のスタートは思い切りが良かったと思います。相手がどうとかではなく、試合に臨むにあたってベストなコンディションで、自分たちのやるべきことが明確になっていたので、それが結果に繋がったと思います。試合前の準備の段階で、練習から選手1人1人がチームの戦い方を理解して、その中で何をしなければいけないのかを考え、それに向けてコンディションを整えられたので、試合に向けてのプロセスが良かったと思います。
—— 3節までとパナソニック戦とでは、何が違ったんですか?
前の3試合では、フォーカスが少し相手に向いてしまっていた部分もあったと思います。「相手がこうしてくるから」と、少し受け身になっていたと思います。自分たちのスタイルを貫けば勝てるということを、パナソニック戦で学んだので、これからはブラさずにやっていきたいと思います。
—— パナソニック戦を経験して、全員が同じ絵を見えるようになってきましたか?
良くなってきていると思います。プレーの判断も意思疎通をした上でのものであったり、その判断をすることを周りの選手が理解してプレー出来ていたりすることが多くなっていて、勝手な判断でプレーするということが無くなってきていると思います。
これまでは上手くコミュニケーションが取れていなくてリアクションで動いていた場面があったと思います。リアクションで動くとどうしても一歩遅れるんですが、事前に分かった上で動くことが出来ているので、相手からのプレッシャーの感じ方も違いますし、判断の早さも変わってきていると思います。
あとはコミュニケーションの濃さも大事になります。例えば、「外に回せ」ということだけでは選手によってパスの種類であったり、プレーのイメージが違うと思いますが、「どこどこにスペースがあるから、こうやってボールを運んで来い」というと、同じプレーをイメージしやすいと思います。そのコミュニケーションの濃さが、これまでとは違うと思います。
—— 今後、更に良くしていくための課題は何だと思いますか?
ペナルティーが失点に直結してしまっていますが、そこは意識で変えられるところだと思うので、すぐにでも変えていかなければいけないと思います。あとはスキルの部分での正確性を上げていくことが大事になっていくと思います。
—— 個人的にはどう考えていますか?
今シーズンはフィジカルの部分で、バックスの突破役としてやっていくと考えています。それに加え、状況に応じて外のスペースを使ったり、最終的には人を使えるようなプレーをしていきたいと思っています。
パナソニック戦でのトライは、たまたま抜けたというところもあると思うので、どんな悪い状況でも常に一歩でも二歩でも前に出られるプレーヤーになりたいと思っています。僕はスピードがある選手ではないので、まずは早い判断をしてターゲットを決めて、思い切りよくプレーすることが大事になります。「こいつに預けておけば必ず前に出てくれる」というプレーヤーに、このチームでなりたいと思います。
—— 継続してパワーアップには取り組んでいくんですか?
今シーズンから体の使い方であったり、瞬発系のトレーニングに取り組んでいて、それがフィットしていると思います。
—— ファンの人たちには、今後どういうところに注目してもらいたいですか?
「前に出たい」とか「止めてやる」という思いが強く出ている試合は、絶対に良い試合だと思います。そこは相手がどこであろうが出していかなければいけない部分ですし、気持ちが伝わる試合であったり、気迫あるプレーが、これからもっともっと増えていくと思うので、そういうところを見てもらいたいですね。
泥臭いプレーであっても、競った試合であっても、気持ちが入ったプレーは見ている人に伝わると思うので、そういうことを常に意識して、プライドを持って取り組んでいきたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]