2016年9月28日
#503 篠塚 公史 『心も体もグラウンドに来たらベストを出せるように』
初めて長期離脱を乗り越えて、篠塚公史選手が帰ってきました。ベテランという立場に甘んじることなく、試合出場への貪欲さを高いレベルで保ち続け、若手を鼓舞する自覚も持ちながら、今シーズンに挑んでいます。ベテランとなった篠塚選手の思いを聞きました。(取材日:2016年9月5日)
◆楽しい
—— 昨シーズンは怪我でほとんどプレーが出来なかったかと思いますが、今シーズン第2節で途中出場を果たしましたね
やっぱり試合に出られたのは嬉しいですね。春から練習試合には出ていましたが、練習試合と公式戦では雰囲気が全然違いますし、試合に出ると楽しいですよ。
練習をやっているからには試合に出たいと思っていますが、約1年リハビリをしてきましたし、今シーズンの初めもなかなかコンディションが上がってこなくて苦労をしてきたので、まだベストコンディションではありませんが、公式戦に出られたということは、自分にとってプラスになったと思います。
第2節では20分だけでしたが、もっと長い時間、そしてスタートから出たいので、更に上を目指していきたいという気持ちになりました。
—— 手応えは?
今回はリザーブでしたが、リザーブの役目は途中から入って、チームを再度盛り上げるという役目もあると思っています。なので、より声を出すことを意識してプレーしていました。
あとはもういい歳なので、コントロールしてトレーニングをしていかなければいけないと思いますが、常に一生懸命取り組んだ結果として、メンバーに入れたと思っています。
—— ラグビー人生の中で、これだけ試合が空いたのは初めてではないですか?
ラグビーを始めてから、公式戦に1試合も出られないということは、昨シーズンが初めてでしたね。昨シーズンはネガティブになってしまっていましたが、今シーズンはグラウンドにも立てていましたし、チーム内での競争にも参加出来ていたので、昨シーズンのような思いはありませんでした。メンバーを選ぶのは監督やコーチになるので、僕としてはグラウンドで思いっきりプレーすることにフォーカスしていました。
—— ネガティブな感情がなくなったキッカケは?
グラウンドに立ったら、気持ちが上がっていきます。グラウンドに立てなければチーム内の競争にも参加出来ていないということですからね。
—— 今回のブランクを経験して、メンタル面ではどういうところが変わりましたか?
僕の場合は、いつ試合に出ても良いように準備することを心掛けています。練習から試合と同じ準備をして、テーピングの位置であったり、ソックスの長さも試合と同じにして、常に試合の状況を意識して練習に取り組んでいます。
振り返ると、今シーズンの春はコンディションが良くなくて、チームの練習にも合流出来ていない状況で、チームは新しいことをドンドンやっているのに自分は何も出来ていなかったので、焦る気持ちがありました。スタートが遅れたせいで周りの選手に置いていかれているという気持ちがあるので、その差を縮めなければいけないという思いで取り組んでいますし、毎回の練習が試合に出るための競争だと思っています。
—— 怪我をする前の状態と比較すると、今はどんな状態ですか?
前の状態までに戻らなければ良いプレーは出来ないですし、良いプレーが出来なければ試合にも出られないので、最低でも前の状態までには戻らなければダメだと思います。
◆モールを武器にしたい
—— チームの中では最年長世代になりましたが、1年目の時と比べると、ラグビー自体も変わってきていますか?
練習の強度自体が上がっていますし、若い頃は体重が今よりも15kgくらい軽かったので、走るのも苦ではありませんでしたが、今は体重も増えて、走るトレーニングメニューも大変になっていますね。それに色々と頭を使うようにもなっているので、日本のラグビー自体も進化していると思います。
—— 今シーズンのチームの状況はどうですか?
勝っていることは自体は良いことだと思います。ただし、開幕戦は1点差の接戦の中で勝ち切ることが出来たんですが、サントリーのラグビーをやった上で勝っているのかということになると思います。開幕戦のスタッツを見ると、負けていてもおかしくはなかったと思います。
第2戦は50-0で勝ちましたが、前半はトライを取るべきところで取れていなかったので、試合の流れも良くなかったと思います。その原因としては、前半はトライにこだわり過ぎていて、そこでトライを取れていたら勢いに乗っていたと思いますが、トライが取れませんでしたし、振り返ってみると、前半は確実にショットで得点を重ねて、点差を広げて落ち着かせても良かったかなと思います。
僕が出場した時にはサントリーのペースで試合が進んでいましたし、残り時間が20分だったので、その勢いのまま終えることが出来たと思います。
—— 現時点での課題は何だと思いますか?
試合のスタートだと思います。そこは練習から意識して取り組まなければいけない部分だと思いますし、そこが改善出来なければ、これからが大変になっていくと思います。この時期はまだ暑いので、汗でボールが滑りやすいという環境かもしれませんが、それに対して選手1人1人がどれだけ準備をして練習に臨めるかが試合にも影響すると思います。ファースト・プレーからサントリーのテンポで試合を進められるようになっていかなければいけないですね。
—— 篠塚選手の課題は?
まずはゲームフィットネスを上げなければいけないと思います。それと連動して、更に力強いプレーが出来るようになっていきたいですね。
あとロックに若い選手が増えたので、モチベーションを上げたり、スイッチを切り替えるサポートをしたりしています。
—— フォワードが強化されている実感はありますか?
特にセットプレーが強化されていて、これまでの2試合を見ていても、スクラムは良くなっていると思います。ラインアウトも良くなっていますが、モールでのトライが取り切れなかったので、そこを武器に出来るようにしていきたいですね。
—— チームの雰囲気はどうですか?
流(大キャプテン)も常に「自分たちはチャレンジャーだから、ガムシャラに行こう」と言っていますし、その雰囲気はあるので、ベテラン選手たちが上手くサポートしていければ、更に良くなっていくと思います。
敬介さん(沢木監督)をはじめコーチたちが良いゲームプランを考えてくれていますし、チームとしては必ず良い方向に行くと思います。ただ、それに対して選手がただついて行くだけでは成長がストップしてしまうので、その軸をベースに選手たちがどう考えて動くかが重要だと思います。
◆必ずチャンスは来る
—— 改めて、ラグビーの面白さは?
選手の判断で攻め方が変わるので、大変ではありますが、それがやりがいでもありますね。そこで1人でも違う絵を見ていると上手くいかないので、ある選手が判断したことに対して、全員が連動出来れば、サントリーが求めているラグビーが出来るようになると思います。
—— 全体的にトップリーグのレベルが上がっていると感じますか?
確実に上がっていると思います。昨シーズンのブランクからそう感じているだけかもしれませんが、全体的にコンタクトレベルが上がって、激しくなっていると思います。激しくなっているので、毎試合同じ23人だけでは戦えないと思いますし、だからこそ常に試合に出る準備をしておけば、必ずチャンスは来ると思っています。
—— まだ今シーズンがスタートしたばかりですが、目指すところは?
もちろん優勝しかありません。ただ、先ばかりを見るのではなく、しっかりとした準備をして目の前の試合とそれまでの練習に臨まなければ、目指すところにはたどり着けないと思います。
—— 良い準備をするために必要なことは?
心も体も、グラウンドに来たらベストを出せるように取り組まなければいけないと思います。特に若いメンバーは、どうすれば一番うまく行くのかということを早く見つけて、実践していくしかないと思います。
その準備の方法は人それぞれ違いますが、僕の場合は試合が終わって次の練習までには、相手のセットプレー、特にラインアウトはチェックしています。次の試合に向けて、相手のことを理解してから練習に入るようにしています。
相手のセットプレーはかなり時間をかけて映像を見ていますね。癖などがあって、人それぞれ違うので、そういうところを見つけるのが面白いんですよ。だから、逆にラインアウトでは常に同じ姿勢からスタートするようにしています。無意識に出来るようになるまでには意識して取り組まなければいけないので、それが出来るようになるまでは大変でした。
—— 今の若手選手たちはどうですか?
もっと貪欲になって欲しいですね。僕の場合は試合に出られないことが本当に悔しくて、メンバー外の選手たちだけでの練習も嫌なくらいなので、自分の感覚としてはもっとガツガツして欲しいと思っています。ただ、そういうモチベーションを高く持たせるのもベテランたちの役割と思うので、まだまだ僕たちがやるべきことはあると思います。
—— 個人的に注目して欲しいポイントはありますか?
まずは1桁の背番号をつけているかということですね。あとはセットプレーを強みにしたいので、ラインアウトにしろスクラムにしろ、相手を圧倒するところを見てもらいたいです。セットプレーは個人プレーではないので、僕の働きという部分はあまり見えにくいかもしれませんが、フォワードとして相手を圧倒出来ていたら上手くいっていると思ってもらえればと思います。
—— それに加え、試合のスタートからサンゴリアスのテンポで試合を進めたいですね
そのためには先発で出なければいけません。サントリーのテンポで進めているかどうかは、見ていて分かりやすいと思うので、そうなるために選手たちは頑張ります。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]