2016年8月31日
#499 ツイ ヘンドリック 『ベストを尽くして取り組んでそこから何かを学んでいく』
サンゴリアス4シーズン目のツイ ヘンドリック選手。日本代表そしてスーパーラグビーでも活躍し、今シーズン、サントリーが掲げる“インターナショナル・スタンダード”をリードするキープレーヤーのひとりです。ツイ選手の生き方、ラグビーへの取り組み方、そして今シーズンへ懸ける思いを聞きました。(取材日:2016年8月19日)
◆ハイ・スタンダード
—— リオデジャネイロ・オリンピックは見ていますか?
あまり見ていません。今は家族がニュージーランドにいて自分の時間があるので、ラインアウトの映像などを見ています。あとは日本語のレッスンを受けています。
—— ラインアウトの映像ではどういうところを見ているんですか?
コーラーやラインアウトリーダーに対して、スキルやスペースの見つけ方を手助けする方法を考えながら、相手はどういうディフェンスをしてくるのか、どこにスペースがあるのかというところを見ています。
—— サンゴリアスのラインアウトの強みは?
いまレベルアップしているところですが、フォーカスしたことをしっかりとやりきるところ、あとはタイミングが上手くなってきていると思います。
—— 今シーズンはラインアウトがポイントですか?
自分たちのテーマとしては“インターナショナル・スタンダード”としているので、ラインアウトだけじゃなく、全てにおいてインターナショナル・スタンダードにしていかなければいけないと思っています。
—— 目標とするプレーにはどの程度近づいていますか?
僕はトレーニングマッチで1試合しか出場していないので、どの程度ということまでははっきりと分かりませんが、すごくハイ・スタンダードで来ていると思います。昨シーズンと比べると、スキルの部分が大きく変わりましたし、判断力も高まっていると思います。
—— それはなぜだと思いますか?
みんなの「どういうプレーをするか」というマインド・セットが変わったと思います。昨シーズンは型にはまったラグビーをしていましたが、今のラグビーではアンストラクチャーなプレーが多くなってきているので、そういうプレーを成長させていかなければいけません。
—— ラインアウトに加えてスクラムやモールも良くなりましたね
これまでは他のチームがサントリーを見た時に、スクラムやモールが強いという印象はなかったと思います。そこを変えることが出来たことは良いことですし、チームとしてインターナショナル・スタンダードを掲げているのであれば、弱い部分をどんどん成長させていかなければいけないと思います。
—— 今シーズンはスクラムやモールの練習を増やしたということでしょうか?
トレーニングの時間を増やしたということではありません。弱い部分を変えるためにはどうすればいいかという具体的な練習に取り組んだんです。極限に疲れた状態でもハイレベルなプレーが出来るようにトレーニングをしています。
—— フォワードとしてセットピースが強くなると、プレーしていても楽しいですか?
楽しいですね。
—— 弱みを強くするという経験はこれまでありましたか?
日本代表の時がそうだったと思います。
◆ドキドキしていた
—— ラグビー以外で好きなスポーツは?
バスケットボールが好きです。子どもの頃にはバスケットもやっていましたが、普通の選手でしたね。
—— ラグビーを選んだ理由は?
友達がみんなラグビーをやっていましたし、ニュージーランドではラグビーが国技のようなものなので、ラグビーを選びました。
—— ラグビーで生きていくと決めたのはいつでしたか?
帝京大学に来た時です。初めて日本に来た時には緊張すると共に興奮もしていました。ラグビーをプレーしたいというドキドキと、日本で生活するということにドキドキしていました。
—— 日本での生活が、初めての海外での生活だったんですか?
初めてでした。日本のラグビーは思っていたよりもレベルが高かったですし、自分の中ではラグビーをプレーすることだけにフォーカスしていました。
—— 日本に来た時から、日本代表を目指していましたか?
当時は、国を代表するような選手になれるとは思っていませんでした。その時に目指していたことは、自分のベストを出して、大学の中でベスト4になることということくらいしか考えていませんでしたね。ベスト4を達成したら、次は優勝というように、ゴールを徐々に上げて取り組んでいき、その年には優勝までは果たせませんでしたが、その翌年にはそのゴールを達成することが出来ました。
—— 大学での目標を達成した後も日本に残る選択をしたんですね
大学4年の時にはトップリーグのチームでプレーしたいと思っていました。
—— トップリーグでプレーし日本代表にもなり、今のゴールは?
もちろんサントリーで勝つことです。まだ達成できていないので、チームのためにプレーし、しっかりと勝つことを目標にしています。
◆プレーの精度
—— スーパーラグビーでプレーしてみてどうでしたか?
フルシーズンをプレー出来たことはとても良い経験になりました。
—— スーパーラグビーの中で一番の経験は何でしたか?
初めて勝った時です。その時のレッズは何年も良い成績を残すことが出来ていなくて、チームを再構築している時でしたが、自分自身のパフォーマンスも良かったですし、ホームでしっかりと勝利することは、自分の中でもとても印象に残っています。
—— パフォーマンスが良いと判断する基準はどこですか?
プレーの精度です。どれだけタックルを成功させたかとか、ボールキャリーでゲインラインを切れたかどうか、タックルを受けた後のボールデリバリーはどうだったかという部分の精度ですね。あとはラインアウトでの自分の役割をしっかりと理解して、ラインアウト後のプレーでも動きをしっかりと理解しているかということがポイントになります。
—— 自分に厳しくプレーしなければ難しいことですね
そのレベルでプレーする時にはミスは出来ませんし、1つのミスでトライを取られてしまうことがあります。レッズはあまり勝てていなかった時だったので、限られたチャンスしかありませんでしたし、チャンスが来た時には全てを出して活かさなければいけない状況だったので、その部分で学ぶことがありました。
その時のレッズはラインアウトにも問題を抱えていたので、判断力と集中力が本当に重要でした。チャンスゾーンでのラインアウトの時には、そのチャンスを活かして、トライに繋げなければいけないんです。
—— ミスはどうしても起きることだと思いますが、ミスを少なくする方法は何だと思いますか?
自分たちでコントロールできるミスもあれば、コントロールできないミスもあります。そこは全て規律に関わってくると思います。やらなければいけないことをしっかりと規律を持って取り組むということが、自分たちがコントロールできるミスを減らす方法だと思います。
例えば、スクラムでコラプシングをしてしまうことは自分たちのミスかもしれませんし、ラインアウトでジャンパーを上まで高く上げることなどは、自分たちがしっかりとプレーすればコントロール出来る部分だと思います。
◆一度しっかり取り組めば、やり直す必要はない
—— グラウンド外でも規律は意識していますか?
サントリーでのルールがありますし、クラブハウスでのルールもありますし、もちろんグラウンドでもルールがあります。使った用具をグラウンドに出しっぱなしにしないとか、ロッカーを綺麗にするとか、そういうグラウンド外の規律は、グラウンド内にも繋がっていると思います。小さいことでも怠けずにしっかりと取り組むことが大切だと思います。
—— その部分はニュージーランドのラグビーの文化でもあるんですか?
僕は5人兄弟のいちばん下です。掃除をすることを厳しく言われたり、家の中でも規律を守らなければいけませんでした。言われたことをやらなかったりして怒られたこともありましたし、規律がしっかりとある家庭だったと思います(笑)。
厳しい時は体で教えられることもありましたが、僕が大きくなってくると父も体力面で思うようにならず、代わりに兄たちに教えられることもありました。
—— ツイ選手の規律は家庭で育まれたんですね
その通りだと思います。祖父母が両親をそう育てたように、両親が僕をそう育ててくれました。ニュージーランドではそういう家庭が多いと思います。両親はすごく厳しかったんですが、小さい頃から楽しんで生活していた記憶があります。
—— ツイ選手は自分の子どもにも同じ接し方をしているんですか?
僕はソフトな性格なので優しく接していると思います(笑)。
—— 話を聞いていると、とても丁寧な印象を受けます
「一度しっかり取り組めば、やり直す必要はないでしょ?」と言われてきました。ベストを尽くして取り組んでも、パーフェクトではない時があると思いますが、そこから何かを学んで次に進んでいくことが大切だと思います。
—— ツイ選手が洗濯物などを綺麗に畳んだりする姿が想像できます
洗濯をすることは好きですし、畳んだりすることも嫌いではないですよ。ただ、服は着るものなので、そこまで綺麗に畳まなくても良いとも思っています(笑)。
—— 日本には畳んだり、包んだり、折ったりする文化がありますが、そういう文化はどう感じましたか?
大学の時にたくさん学びました。岩出さん(雅之監督)は規律にとても厳しい方で、時間は必ず守らなければいけませんでしたし、本当に良い経験をたくさんしました。
—— 日本の文化の好きなところは?
お互いを信頼しているところです。それに、いつもフレンドリーに接してくれるところが好きです。
◆ディフェンスを重視
—— 今シーズン、個人としてはどういうプレーをしたいと考えていますか?
とてもエキサイティングなチームになっていますし、かなり高い確率で勝つチャンスがあるチームになっていると思います。ジョージ(スミス)がチームに入ってくれてとても心強く感じています。
ジョージはジャッカルも上手くて、ボールキャリーも素晴らしい選手なので、その中でジョージとは違った強みを出していきたいと思っています。
ジョージとは違う味を出していければ、お互いに相乗効果でチームに良い影響を与えることが出来ると思っています。自分の強みを出しつつ、これまでにない強みを作っていきたいと思います。
—— ファンの人にはどういうところを見てもらいたいですか?
試合ではディフェンスを重視したいと思っています。スーパーラグビーでも素晴らしい経験をたくさん積むことが出来ましたし、そこは自分自身でも成長していきたいと思っている部分なので頑張りたいですね。
(通訳:吉水奈翁/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]