SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2016年7月13日

#492 小林 航 『仲間のために体を張る』

とにかく大きく、気は優しくて力持ちというイメージの小林航選手。高校日本代表、そしてU20日本代表の実力を、公式戦のフィールドで発揮する姿を早く見てみたい選手です。(取材日:2016年6月24日)

◆カッコいいスポーツ

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—— 身長が195cmという恵まれた体を持っていますが、自分ではどう捉えていますか?

190cmを超えている選手は、大学時代の対戦相手にもあまりいませんでしたし、トップリーグでも195cmある選手は日本人ではあまりいないので、この体は武器になると思いますし、チャンスはあると思っています。

—— いつ頃から大きくなったんですか?

小学6年生の時に168cmあって、中学の3年間で身長が20cm伸びました。父親の身長が180cmあって、母親も174cmあるので、その影響もあると思いますが、恵まれた体に産んでくれたので感謝しています。

—— ラグビーはいつから始めたんですか?

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中学からです。受験をして明治大学付属の中学校に入ったんですが、父親と父方の祖父がラグビーが好きで、その学校に入ることになって「明治の付属校に入るんだったらラグビーをやって欲しい」という感じが伝わってきました。それで入学前に関東学院大学と早稲田大学の試合に連れて行かれて、説得されながら見たんですが、「カッコいいスポーツだ」と思いラグビーを始めました。

—— どの辺がカッコいいと思ったんですか?

当時はポジションもよく分かっていませんでしたが、選手同士がぶつかり合うところや、ウイングの選手が狭い隙間を抜けてトライを取る姿がカッコ良かったです。そういうプレーを見て、子供ながらに「ラグビーをやりたい」と思いました。

—— 小学校では何かスポーツをやっていたんですか?

サッカーと水泳をやっていました。サッカーでは最初フォワードで、コーナーキックからのヘディングシュートなどを得意としていたんですが、中学受験でだんだんと太っていくにつれてポジションも下がっていって、最終的にはゴールキーパーをやっていました。母親は肩幅が広くて手足が長いんですが、その体型を受け継いだことと、水泳をやったことで更に肩幅が広くなったと思います。

あと肩が柔らかくて、大学でトレーナーさんなどにも「野球をやれば凄かったと思う」と言われたことがあります。遠投も遠くまで投げられたので、野球をやっていれば、もしかしたらプロ野球選手の大谷翔平くんを超えていたかもしれません(笑)。

◆ダメ出しばかり

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—— 中学校で初めてラグビーをやってみてどうでしたか?

そんなに強い学校ではなかったので、みんなが楽しみながらラグビーをやっている雰囲気のチームでした。中学からずっとロックでプレーしているんですが、始めたばかりの頃は、父親や祖父から「なんで出来ないかな」とダメ出しばかりされていました。

父親はもともとラグビーが好きでしたが、僕がラグビーをやるようになって更にラグビー好きになって、時間があれば大学や社会人などの試合を見るようになったので、どんどん知識が増えていって、上手い選手のプレーを見て、始めたばかりの僕に「こういうプレーをした方が良い」と言ってくるようになっていましたね(笑)。

父親はラグビーをやったことはなかったので、ダメ出しをされると少しムッとする時はありましたが、核心をついたことを言われていたので、何も言い返せませんでしたし、未だに言われます。

—— 高校ではどうでしたか?

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中学と同じく付属の高校に進んだんですが、高校もそんなに強い学校ではなかったので、全国的に目立つような選手ではありませんでした。僕が2年生の時に、その高校としては初めて関東大会に出場したんですが、そこでU17関東代表のセレクションの方の目についたそうで、練習に参加することになりました。

そのセレクションで初めて強豪校の選手たちと一緒に練習をして、レベルの違いを感じさせられましたし、色々と教えてもらう中でラグビーに対する考え方も変わりました。あと、周りのレベルが高かったですし、関東代表としてレベルの高い試合を経験することが出来て、同世代の選手に早く追い付きたいという思いが強くなりました。そのあとそれぞれの高校に戻ったんですが、強豪校の選手たちは夏合宿や全国大会を経験していて、高校3年生でまた関東代表に選ばれた時には、更にレベルの違いを感じました。

—— その差を埋めるために取り組んだことはありましたか?

それまではウエイトトレーニングをほとんどやったことが無かったんですが、親にお願いをしてジムに通わせてもらい、ウエイトトレーニングをするようにしました。プレーへの効果が現れたかは分かりませんが、体は更に大きくなったと思います。

—— その当時はラグビーのどこに楽しさを感じていましたか?

当時はラグビーが生活の一部になっていて、ラグビーをすること自体が楽しかったと思います。プレーしていて特に楽しさを感じたことは、ラインアウトでスチールしたり、ラインブレイクして会場が盛り上がったりした時です。

◆スキルアップと精神の安定

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—— 大学は明治大学に進みましたね

サントリーの同期の中村駿太、須藤元樹など、U17関東代表で知り合った友達がみんな明治大学に進むことになって、「一緒に明治でやろう」と言ってくれていましたし、こんなに凄い選手たちが明治に来るんだったら「優勝できるかもしれない」と思いましたね。

明治大学に入って、1年生の春に初めて紫紺のジャージを着させてもらったんですが、そこからはずっと試合に出られない時期が続きました。それから、2年の時の大学選手権でリザーブに入って、3年では春に少しだけ試合に出たんですが、その後は出たり出なかったりを繰り返して、4年でやっとスタメンで試合に出られるようになりました。

—— スタメンで試合に出られるようになるまでは、どういうことを考えていましたか?

体が大きいので、セットプレーの安定を求められていたと思いますが、大学時代はプレーの波が大きかったので、コーチ陣からすると使いにくい選手だったと思います。いま振り返ると、試合のファーストプレーの良し悪しでその試合のパフォーマンスが決まっていて、ミスをしてしまうと負のスパイラルに入って、そこから切り替えることが出来ていなかったと思います。当時はそれに気づけなくて、情けないという思いしかなかったですね。

そこから試合に出るためにはどうすればいいのかを考え、同期に相談をして色々な話を聞くうちに、自分の良くない部分に気づくことが出来て、「ミスは誰にでも起きる。ミスをしたらその分を取り返そう」という考え方に変わることが出来たので、そこからはプレーも良くなったと思います。

考え方が変わってもスキルが無ければダメで、試合では練習でやってきたことしか出ないと思います。だから、日々の練習でスキルを磨かなければいけませんし、モチベーションが無ければ良いプレーは出来ないので、スキルアップと精神の安定がパフォーマンスの向上に繋がったと思います。ただ、まだまだ課題があると感じているので、更に改善の余地はあると思っています。

—— 大学時代を振り返ると、どういう4年間でしたか?

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4年間の前半の半分は、ただただラグビーをやっていたという感じでした。やはり一番変わったのは4年生の時で、4年生の時にフォワードコーチとして元さん(申騎/サンゴリアスOB)がチームに来たことによって、「僕は今まで大学で何も出来ていなかったんだ」と改めて気づかされました。

元さんには毎日怒鳴られていて、集中していなかったり、1つ1つの細かなプレーが雑だったりしたら、その都度、厳しく指導してもらいました。厳しく指導してもらうことによって、メンタル面でもプレー面でも元さんに成長させてもらったと思っていますし、プレースタイルについても激しいプレーが出来るようになったと思います。元さんが見たら「まだ変わってない」って言われると思いますが(笑)。

—— 指導された中で、一番印象に残っていることは何ですか?

仲間のために体を張ることです。ブレイクダウンの練習を多くやっていたんですが、タックルを外されることが多くて、「チームのために体を張れないのか」と怒鳴られました。これまでの経験の中で怒鳴られることも少なかったですし、元さんがいることで練習中の雰囲気に緊張感が出ていたので、印象に残っています。自分で言うのも変ですが、はっきりと自覚するくらい4年生の時がこれまでの中で一番成長したと思います。

あと、先ほど元さんに成長させてもらったと言いましたが、僕を成長させてくれたのは元さんだけじゃなくて、丹羽監督や小村ヘッドコーチにも成長させてもらい、言葉では言い表せないほどの感謝の気持ちを持っています。常に気にかけてもらっていましたし、その3人がいなければ今の僕はなかったと思います。

—— チームとしてはどうでしたか?

駿太(中村)を筆頭にリーダーシップがある人がたくさんいて、キャプテンの駿太をサポートするリーダーたちからもどんどんポジティブな意見を発信していたので、例え駿太がいなかったとしても他のリーダーたちが同じようにチームを引っ張っていて、常にどうすれば勝てるかということを考えながらラグビーをしていたと思います。

◆やったことが成果として表れる

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—— サントリーに入ろうと思ったきっかけは?

僕の地元は府中市の隣の多摩市で、子供の頃から憧れていましたし、サントリーでプレーしたいと思っていました。それに、ラグビーを引退した後の方が人生は長いので、将来を考えた時に社会人としてのしっかりとしたスキルを身につけられるのはサントリーだと思いました。

あと、2019年ラグビーワールドカップに日本代表として出場するためには、サントリーでスタメンを取ることが一番の近道だと思いました。以前までは憧れでしたが、今はチャンスを掴み取るためと思って取り組んでいます。同じポジションの先輩たちには、まだライバルとも思われていないと思いますが、チャレンジしていきポジションを取れるようになりたいと思います。

—— サントリーに入ることになって、ご家族は喜びましたか?

喜んでくれましたね。土日のラグビー観戦が家族の楽しみになっていて、「社会人でも続けろ」と言われていたので、ラグビーを続けることが親孝行になっていればいいなと思っています。

—— 改めて、ラグビーの面白さは何だと思いますか?

ラグビーって身体能力とかではなく、やってきたことをしっかりと遂行出来れば勝てると思うんです。昨年のワールドカップでの日本対南アフリカがそうで、身体能力で言えば南アフリカの方が高いと思いますが、相手の分析や戦術を考え、練習を積み重ねていけば、日本がそうだったように勝つことが出来るんです。やったことが成果として表れることが面白いと思います。

あと思うのは、ラグビーをやったことがある人の絆は強いと思います。仕事で色々なところに行かせてもらっていますが、初めて会う人でも、その人がラグビー経験者だったら一気に距離が縮まったりするんです。他のスポーツよりもその感覚が強いと思うので、仕事をしてみて改めてラグビーの素晴らしさを感じています。

—— 今シーズンの目標は?

ロックというポジションには凄い選手がたくさんいて競争が激しいですし、まだまだ他の選手よりも劣っていると思いますが、日々の練習をしっかりと取り組むとともに、先輩たちの良いプレーを吸収して、先発で出場できるように頑張りたいと思います。

—— 現在の課題は?

基本的なスキルの部分もまだまだ成長させていかなければいけませんし、戦術の理解度も更に深めていかなければいけないと思います。あとはこれまでやってきた中で、プレーすることにおいてはあまり良くない癖などもあるので、そういうところを直していきたいと思っています。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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