2016年6月 8日
#487 真壁 伸弥 特別編"HISTORY OF SUNGOLIATH" 歴代キャプテンが語るサンゴリアス史 16代目キャプテン 『もう一度ワールドカップの舞台に立ちたい』
サンゴリアスの歴史上、最長タイとなる4年という期間キャプテンを務めた真壁伸弥選手。1年目に全勝優勝という最高の結果でスタートしたキャプテンとして、何を考え、どの様にプレーしてきたのでしょうか。日本代表やサンウルブズ、そして新しいサンゴリアスへの思いを語ってもらいました。(取材日:2016年5月31日)
◆チームをどう試合に持っていくか
—— キャプテンを4年間務めましたが、終えてみていかがですか?
昨シーズンはワールドカップがあり、チームを離れる期間が長かったですし、トップリーグ終了後にはサンウルブズにも参加することも決まっていたので、このままキャプテンを続けていたとしても、チームにとってはあまり良いことがないだろうなと考えていました。
そう考えている中でキャプテンは流になると聞いて、流は適任だと思いましたが、キャプテンを終えて何かを感じたことは・・・特にありませんでしたね(笑)。
—— 真壁選手は3年目の時にキャプテンになりましたが、そういう年代でキャプテンを担うということはプレッシャーを感じるものですか?
流の場合は、ずっとキャプテンをやってきていましたし、帝京大学という厳しい環境の中でキャプテンを務めてきたので、それほど大きなプレッシャーはないんじゃないかと思います。私の場合も、3年目はがむしゃらにやっていた時期で、プレッシャーを感じていなかったと思いますし、先輩方のサポートが素晴らしかったのでやってこられたと思っています。だから、私も同じように流をサポートしていければと思っています。
—— これまでキャプテンの経験は?
大学時代もキャプテンではありませんでしたし、これまで本格的にキャプテンをやってことはありませんでした。
—— キャプテンをやる時には色々と考えましたか?
当時の監督だった大久保直弥さんが私のことを導いてくれていたので、あまり考えることはなかったかもしれません。キャプテンということは関係なく、「自分のパフォーマンスを上げるためにがむしゃらにやれ。そうすれば周りがしっかりとついて来てくれるから」と言ってもらっていました。
U19日本代表の時に、短期的にキャプテンを任されたことはあったんですが、その時はキャプテンになろうと、自分が出来ないことまで首を突っ込んでしまい、逆に上手く動けなくなってしまっていたので、サンゴリアスでキャプテンになった時には、キャプテンということは考えず、任せられるところは周りに任せるようにして、いちプレーヤーとして頑張ろうと取り組んでいました。
当時は、誰がキャプテンをやっても大丈夫だと思うくらい、周りには凄い先輩たちばかりのチームだったので、細かなところは周りに任せても大丈夫だと思っていました。客観的に見れば、キャプテンとは言えないようなキャプテンだったかもしれませんね。
—— 真壁選手がキャプテンになった時には、バイスキャプテンが有賀選手でしたね
相当サポートして頂きました。何をすべきか、どこでどういうことを言うべきかなど、そういう細かいところまで言ってくださいましたし、色々な相談を聞いてもらいました。
—— 例えば、どういう相談をしていたんですか?
チームをどう試合に持っていくかとか、その流れとかですね。それまでは全く考えたことが無かったことだったんですが、的確なアドバイスをもらっていたので、そういうことをやってきた人には分るんだなと思いました。
—— 実際にそのアドバイスを実践してみると、どういう違いがあるんですか?
何の不安もなく試合に臨めるところだと思います。
◆ダメなキャプテン
—— キャプテン1年目の時は、全勝でチャンピオンになりましたね
嬉しかったとは思いますが、キャプテン1年目の時はあっという間という感じで、手応えを感じる余裕もなかったと思います。そのシーズンで一番記憶に残っていることは、プレーオフファイナルで、試合終了間際にトゥシ・ピシがトライをした瞬間に、まだ試合が終わっていないにも関わらず、泣いてしまったことです(笑)。
ダメだと思いますが、がむしゃらにやってきて、役割を果たせたという思いが込み上げてきてしまったんだと思います。試合が終わる前に泣いてしまった時点で、ダメなキャプテンだと思いますよ(笑)。試合後の円陣で、「まだ日本選手権がある」と言ったんですが、全く説得力がなかったと思います。
—— そこで泣いてしまったということは、大変な思いがあったということですよね
優勝したいという思いで、がむしゃらに突っ走ってきたことが報われたからだと思います。
—— そのシーズンの日本選手権で優勝した時はどうでしたか?
その時は怪我をしていて前半で交替してしまいましたし、周りにおんぶに抱っこ状態だったので、ダメだなと思いましたね。
—— そのシーズンは、なぜ全勝優勝することが出来たと思いますか?
誰がキャプテンをやっても良いチーム状態だったので、たまたま私がキャプテンをやっていましたが、他の選手がキャプテンをやっていたとしても成り立っていたと思っています
—— そういうチーム状態にするためにはどうすればいいと思いますか?
周りの選手が経験豊富で、成熟していたチームだったので、そういうチームで若かった私がフィットするためには、キャプテンという責任を持たせた方が上手くいくだろうという考えがあったんだと思います。キャプテンを4年やらせてもらいましたが、年数を重ねるごとに、自分はキャプテンに向いていないなという思いが出てきましたね。
沢木さんがインタビュー(SPIRITS of SUNGOLIATH #484)でもおっしゃっていましたが、キャプテンにはセンスが必要だと思います。そのセンスは私にはなかったと、つくづく思いますよ(笑)。
—— そのセンスとは、どういうセンスだと思いますか?
ラグビーの知識があることはもちろんなんですが、"喋る時のオーラ"と"言葉の力"だと思います。その力は持っている人と持っていない人がいると思います。キャプテンになれるような人は、言葉の選び方であったり、喋り方を、元から持っていると思います。
—— 真壁選手の入団後のキャプテンは、自分を除いて佐々木隆道選手、竹本隼太郎選手、流大選手の3人になると思いますが、センスという部分ではその3人はどうですか?
思ったことをしっかりと口に出して、それがしっかりと伝わるので、羨ましいですね。私の場合は、自信がない部分もあったかもしれません。
—— 年数を重ねるごとに、キャプテンとしての役割は果たせるようになってきたと思いますか?
それは出来るようになってきたと思いますし、試合後の会見などでも話せるようになったと思います(笑)。ただ、そこで話した言葉が、しっかりと相手に伝わっていたかは疑問です。
—— コイントスにも強かったですよね
勝率は凄かったと思います。コインの裏と表を当てる勝率ではなくて、チームとして選択したい方を取ったという勝率は9割を超えていたと思いますよ(笑)。そのコツは、自分が思った方の逆を言うことと、選択したい方が取れると、フーリー(デュプレア)が凄く喜んでくれていたので、その姿を思い出していました。コイントスに関しては、フーリーからの信頼は絶大だったと思います(笑)。
—— キャプテンをやった4年間で、他に印象に残っていることはありますか?
3年目の時に、初めてプレーオフトーナメントに進めなくて、そこから選手が主体性を持って一致団結し、日本選手権の決勝まで進んだことですね。
◆ポジション争いに勝てるように
—— 監督とキャプテンの関係については、どういうところに気を付けていましたか?
疑わないことが大事だと思います。日本代表やサンウルブズなど、他のチームを経験すると、どうしても比較してしまうと思いますが、監督を信じているかどうかで、結果が大きく変わってくると思います。
—— 昨シーズンは9位という結果でしたが、シーズン中はどう感じていましたか?
数字だけを見れば、3敗しかしていないのに9位という結果に終わってしまったので、運も引き寄せられないようなチーム状態だったのかなと思います。
—— プレーヤーとしての4年間はどうでしたか?
国際レベルで戦えるという自信がつきました。ランニングスキルやフィットネスの部分では、もしかしたら4年前とあまり変わっていないかもしれませんが、コンタクトレベルであったり、ロックとして試合を進めていく中でのスキルについては、海外でも通用するんじゃないかと思っています。
—— 海外のチームに興味はありますか?
興味はありますが、サンウルブズでプレーさせてもらっているので、それだけでも有難いことだと思っています。
—— サンウルブズについてはどう思っていますか?
凄く良い経験が積める場所なので、もっともっと日本人選手が出てきて欲しいと思っています。スーパーラグビーの他のチームはコンタクトレベルの質が、日本のチームとは違いますね。
—— ワールドカップと比較するとどうですか?
ワールドカップくらいのレベルにあると思います。そういう環境の中でラグビーが出来るので、日本のレベルアップにも繋がると思います。バックスでは日本も対抗できると思いますが、改めてやはりラグビーはコンタクトスポーツなんだなと思い知らされる場所です。
—— スーパーラグビーを戦うことによって、成長したと感じる部分はありますか?
人間には慣れがありますから、あのレベルを繰り返すことによって、強くなります。国内のレベルだけで戦っていたのでは、やはり世界では勝てないですよ。
—— サンウルブズが更に成長するためには、何が必要だと思いますか?
セットピースに関しては戦えていると思うので、あとはボール争奪の接点の部分で、どう勝つかというところだと思います。我慢していても力勝負のところで食い込まれてトライを許してしまうことが多いので、そこでどう戦えるかだと思います。
あとは、サンウルブズ的な戦い方を作っていく必要があると思います。もともと違うチームの選手が集まってきているので難しい部分ではありますが、フィジカルが劣る中でどう戦うかというところをもっと詰めていかなければいけないと思います。
—— 現在の日本代表についてはどう思いますか?
私は元代表なので、どうですかね(笑)。若手主体で戦ったアジアチャンピオンシップのメンバーが入ってくるので、楽しみですね。
—— 日本代表への意欲は?
現役のうちに、もう一度ワールドカップの舞台に立ちたいと思っているので、他のロックの選手に勝つためには自分は何をすべきかを考えて、監督も新しくなりますし、これからも日本代表は狙っていきます。
—— 日本代表で戦っていた時には、サンゴリアスのキャプテンという思いはあったんですか?
サントリーでやってきたことを出すというプライドはありましたが、そこにサントリーのキャプテンという思いはありませんでした。サントリーのプライドはあっても、キャプテンだったという思いは、今後も持たないと思います。
—— キャプテンではなくなった今、どういう気持ちですか?
年齢としてはチームの中でも上の方にいるので、気持ちとしては変わっていません。今シーズンは同じポジションの選手が増えたので、いち選手として同じポジション選手に思いっきりぶつかっていき、ポジション争いに勝てるようにしたいと思っています。
◆サラリーマンが南アフリカに勝ちました
—— ワールドカップの南アフリカ戦はどうでしたか?
楽しかったですよ。グラウンドに立てば必死な思いでプレーしていましたが、南アフリカと試合をしているという状況が楽しかったですね。サラリーマンが南アフリカに勝ちましたからね(笑)。グラウンドに入る前は、試合が均衡していたので、「ミスが無いプレーをしよう」と心掛けていました。だから、ボールを持った時にはそこまでゲインはせずに、すぐにボールをリリースできる体制を整えようとしていましたし、安全に行くことを考えていましたね。ボールは持つけれども、相手に渡さないことが自分の役目だと思ってプレーに入りました。だからアタックの回数は多かったんですが、ゲイン率は凄く低かったんです。
—— スコットランド戦は?
スコットランド戦は交替で入った時には負けていたので、安全ということは考えずに、とにかくゲインとアタックを考えてプレーしていました。私の中では、スコットランド戦が一番出来が良かったんですが、負けてしまいました。スコットランドとはテストマッチで戦ったことがあったんですが、ワールドカップではやはり違いましたね。日本代表が普通じゃなかったように、他の国も普通ではなかったと思うので、それを経験できたことは良かったと思います。
—— その中で勝てたことは大きかったんじゃないですか?
そうですね。ワールドカップでも勝てるという自信になりました。勝つことが出来た要因としては、ずっとハードワークし続けたことと、全員が同じ目標を描いて取り組んだことだと思います。あと、選手が勝ちたいという思いを持ち、主体性を持って取り組んだことだと思います。
—— 2019年に向けても、そういうチームを作っていかなければいけませんね
作っていかなければいけませんし、今の若手の選手が「若手だから」と言って、周りに任せてしまっている状態では勝てないと思います。私もサラリーマンですが、プロ意識を持って取り組んでいるつもりです。やはり強いチームは1人1人が成熟している状態だと思うので、そういうチームにならなければいけないと思います。
◆なかなか出来ないことをやるという意欲やエネルギー
—— 今シーズンのサンゴリアスは体制も新しくなりましたね
他の選手を見ても、みんな生き生きとやっていますし、練習の中にも厳しさがあるので、良いチームになってきていると思います。私はまだチームの練習には参加していませんが、周りから見ていてそう感じるので、これから更に変わっていくと思います。
昨シーズンの中であまり試合に出られなかったメンバーが、いま凄く頑張っています。試合に出られなかった悔しさや試合に出たいという思いが表れていると思います。それにどの選手も「サントリーは9位にいるべきではない」という思いを持っていますし、「もう一度強いサントリーを作る」という話はよくしています。それをモチベーションにして、今シーズンを戦っていくと思います。
—— そういうチームの中で、真壁選手自身はどういう役割があると思いますか?
今は怪我をしているので、まずはしっかりと治して、同じポジションの選手を叩き潰そうとしか考えていません(笑)。
—— ワールドカップやスーパーラグビーなど、色々なことを経験した上で感じるラグビーの魅力は?
それぞれのチームにラグビーのスタイルがありますし、生活とラグビーの距離感は、南アフリカと日本では全く違います。南アフリカの選手たちはスーパーラグビーに生活を懸けて戦っている中、日本にはそういう文化が無いですよね。そういう文化の違いを感じることも楽しいですし、その中でもやっぱりみんなが勝とうと必死に戦っているので、そういうところも楽しいところです。
いまラグビーをする上で楽しいと思っていることは、サンウルブズで言えば、相手が本当に強いチームなので、そういうチームに挑戦するという気持ちです。挑戦して勝つとか、なかなか出来ないことをやるという意欲やエネルギーは、会社員という立場ではあまり感じることが出来ない部分だと思うので、とても良い刺激になっています。
そういう思いは、特に日本代表では強かったですね。今まで一度も勝ったことが無い相手には勝ちたかったですし、そういう思いを感じられるからラグビーをやっているんだと思います。あとは、ラグビーの仲間が面白いですね(笑)。しんどいことを一緒にやっているので、しんどいことをツマミにして話すことは面白いですよ。
—— サンゴリアスに入る時には、これほどの経験が積めると思っていましたか?
いや、全く考えていませんでした。サントリーでラグビーが出来て、サラリーマンとしてウイスキーに携われたらいいというくらいしか思っていなかったと思います。ラグビーに関しては、日本代表に選ばれたいという思いはありましたが、エディーさん(ジョーンズ)に出会ったことで、ラグビーでワールドカップに出たいと思うようになったと思います。
—— エディーさんは何を変えてくれたんですか?
「日本代表で何をしたいか」ということを明確に出してくれたと思います。そのビジョンが楽しそうと感じましたし、それを実現するための徹底具合が、それまでの日本代表とは違いましたね。
—— 今後については?
出来れば、もっとレベルの高い試合を多く経験したいですね。まだ漠然とした目標ですが、2019年の日本で開催されるワールドカップの舞台に立ちたいと思っています。そのためには、レベルの高い試合が経験できる場に立つことだと思います。強い相手と試合をする経験が、自分の力を伸ばしてくれると思うので、そういう環境に身を置きたいですね。そのために、日本代表に選ばれる位置にいることが必要だと思います。
—— サンゴリアスでの今シーズンの目標は?
同じポジションに良い外国人選手が入りますし、まずはしっかりとグラウンドに立つことと、もちろん優勝という目標はありますが、まずは1試合1試合で全力が出せるようなコンディションを作ることをターゲットにしています。
—— キャプテンとしての経験は何かに活かせそうですか?
仕事でもそうだと思うんですが、上の立場になった時に、どういうことをすると周りがついてくるかということは凄く勉強になりました。ネガティブなことを言っていたのでは周りはついて来てくれませんし、ポジティブの中にしっかりと力のあることを言わなければついて来てはくれません。私の場合は、考えに考え抜いてもペラッペラな言葉しか出てこないんですけどね(笑)。
相手にしっかりと伝えるためには、自分の経験や実績をもとに話をしなければいけないと思います。あとは、一緒に仕事をしているメンバーを信頼して、任せることも大事だと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]