2016年5月25日
#485 有賀 剛 『もう一度このチームを強くする』
最年長世代の一人となった有賀剛選手。試合をしている時と同じ様に、現状を冷静に見つめています。その冷静な分析と、その中に垣間見える熱い思いをお伝えできればと思います。(取材日:2016年5月9日)
◆怪我して終わりたくない
—— 現時点での課題は何ですか?
身体を良い状態で保つためには「何が自分に合っているのか」ということを、もう一度探し求めている段階です。これまで色々なことに取り組んできましたが、なかなか自分に合うものが見つかっていない状況なので、コンディショニングの方法を探しています。
1月にシーズンが終わり、そこからストレングスについては充実した取り組みを行い、目標とした数値までは来ている状態です。あとは、それを「如何にグラウンドで発揮するか」というところにフォーカスしています。
—— コンディショニングの方法については、これまでどれくらいの方法を試してきたんですか?
自己流な部分もあるので、どれくらいと言われると難しいですし、怪我の歴史が他の選手よりも多いので、コンディショニングというよりも怪我と上手く付き合っていくことが多く、ここ2年くらいはリハビリベースが強かったですね。
これまではそういう状態でしたが、今ようやく筋力が戻ってきたので、自分の中では充実しています。あとはグラウンドに立つということを目標に、S&C(ストレングス&コンディショニング)とメディカルに協力してもらって取り組んでいるところです。
—— 良い状態で、良いイメージが湧いていると思いますが、怪我には気を付けなければという思いもあるんですか?
もちろん強くするためには自分を追い込まなければいけないと思いますし、サンゴリアスの文化としてもハードに取り組むというところがあるので、そこは自分の中にも持っていなければいけないと思います。ただ、昔は10やったことが10返ってきていたと思いますが、歳を重ねる毎によって、プッシュするところとコントロールするところのバランスを作っていかないと壊れてしまうので、そのために先ほども言ったコンディショニングが大事になり、今はS&Cコーチにわがままを聞いてもらっている段階です。
—— それがわがままなのか、必要なことなのかは、結果が示してくれることになりそうですね
そうですね。沢木さん(監督)からも、「この時期に自分に合っているものを探してみな」と言っていただいているので、コーチたちと一緒に探せたらいいなと思っています。
—— 現在の状態は良い状態なんですね
良い状態だと思います。これまでは古傷の影響で強化が出来ていなくて、ここ2年くらいはオペをしてマイナスからのスタートという状態が続いていました。今年に関しては、しっかりと鍛えられて上積みが出来ているので、筋肉の貯金が出来ていると思います。
—— 怪我から得たものはありますか?
「怪我して終わりたくない」という一心だけですね。怪我をしてそのまま引退した選手をたくさん見ていますし、もう一度グラウンドに帰りたいという気持ちを持ってやってきただけです。
—— 怪我には強いと思いますか?
怪我に強いというよりは、痛みに強いかもしれないですね。痛みを切り替えられますし、痛みに強いけど、痛みに敏感というところもあると思います。
◆バイスキャプテンの方が合っている
—— 大学ではキャプテン、そしてサンゴリアスではバイスキャプテンを6年務めましたが、サンゴリアスでのキャプテンの経験はありませんね
チームが決めることなので、それについて特に思うことはありませんが、あくまでも自分の軸と自分の経験をもとにキャプテンをサポートしてきたつもりです。キャプテンは思ったように進んでいけばいいと思いますが、バイスキャプテンはそれを色々な視点から見て、バランスを取りながらやっていくことが大事だと思うので、ポジション柄一番後ろからグラウンド全体を見ていますし、僕はキャプテンよりもバイスキャプテンの方が合っているかもしれません。
—— 今シーズンは流選手という若いキャプテンになりますね
彼は帝京大学という強い素晴らしいチームでのキャプテンを経験していますし、思う通りにやったら良いと思います。それに対して、僕は経験を積んでいる者としてサポートしていければ良いと思っています。いっぱい失敗しても良いと思いますし、あまり深いことを考えずに、どんどん自分のやりたいようにやれば良いと思います。
—— キャプテンという役割に加え、試合のメンバーに選ばれるためにチャレンジもしなければいけませんよね
そこは流に限らず、グラウンドには15人しか立てず、試合のメンバーには23人しか選ばれないわけなので、そこに対しての競争は絶対にしなければいけませんし、全員で良い競争が出来れば、チームは強くなると思います。
◆ちゃんと結果を出さなければいけない
—— 同期である佐々木隆道選手が、昨年度を持ってチームを離れることになりました
彼もクレバーな人間なので、考えに考え抜いた決断だったと思います。本音を言うと、7割は頑張って欲しいと思っていて、またどこかで一緒に出来たらいいなと思っています。ただ、昨シーズンが9位という結果で、「一緒にチームを復活させたい」という気持ちがあったので、3割くらいは複雑な思いがありました。
—— 有賀選手にとって、佐々木選手はどういう存在でしたか?
チームメイトとして頼もしい存在でしたね。昨シーズン、僕の中で一番悔いが残っている試合が、部内マッチでした。昨年はワールドカップがあったので、そのメンバーがチームに帰ってきた時に、セレクションという位置づけでチームメイト同士の試合を行いました。
向こうのメンバーは日本代表だったり、先発で試合に出ているメンバーで、僕らのチームはプレシーズンであまり試合に出ていなかった選手や、怪我から復帰した選手でメンバーを組んで試合をしたんです。その試合、僕は前半の途中で交替したんですが、前半はリードしていましたし、その試合で、良い意味でコーチたちを困らせたかったんです。
開幕戦に出るようなメンバーに対して、焦らせて、プレッシャーを掛けて、コーチたちに「メンバーをどうしようか」と悩ませたかったんです。隆道はその試合に出場できなかったんですが、僕のチームにいてくれたら頼もしいと思いましたし、振り返った時に「その試合でもう少し出来ていたら、シーズンの結果は違ったものになっていたんじゃないか」と考えたりしました。
その時に良かったと思うことは、向こうは1列目が森川、青木、畠山というメンバーで、その後ろには真壁もいましたし、ワールドカップメンバーも出ていました。こっちは石原、小澤、垣永というメンバーで、前日から選手同士が話し合って「こういうスクラムを組もう」とか準備をして、実際に試合でもスクラムでバンバン押して結果を出したことです。
コーチたちが言ったことを選手たちが更に良くしていくって、本来自分たちが求める姿だと思うんです。それが見えた試合だったので、負けはしましたけど、清々しかったんです。「これは強くなるな」と思った試合だったんですが、結果としたら大差がついてしまったので、振り返った時に悔いが残る試合になってしまいました。あの試合で、少しでも違う結果になっていたら、9位という結果にもなっていなかったと思います。
—— そこは今シーズンでのポイントでもありますね
選手の意識が変わらなければいけない部分ですし、昨シーズンが9位という結果で、この結果が悔しいと思っている選手がほとんどだと思います。みんな明らかに良くなっていますし、楽しみが凄く多いですよ。
チームの中には勝ちを知っている選手がいますが、勝ちを知らない選手が増えてきているのは事実です。その中で昨シーズンはプレーオフに進めず、順位決定戦のコカ・コーラ戦で復帰をさせてもらったんですが、「自分たちがどういう状況に置かれているのかをちゃんと理解しているのか」と感じたことがあり、試合の前日にミーティングをして、その空気を締めたこともありました。
ただ、そういうチーム状態でも、試合のスタンドには佐治会長(信忠)がいてくれて、普通に考えたら、プレーオフに進めず順位決定戦に回ったチームを見に来ないと思うんですよ。けれども、チームの姿をしっかりと見に来てくれていて、フィールドに立って「佐治会長は今日も来てくれているんだ」と思った時に、ちゃんと結果を出さなければいけないと感じましたね。僕らが良い環境でラグビーが出来ているのは、佐治会長のおかげだと思うので、それに対しての結果をしっかりと出さなければいけないですね。
◆最年長世代、みんなで同じ試合に出られたらいい
—— 同期の篠塚選手がインタビュー(SPIRITS of SUNGOLIATH #480)で有賀選手にラブコールを送っていましたが、それについてはどう感じていますか?
篠塚に限らず、チームの中では最年長世代になったので、またみんなで同じジャージを着て、同じ試合に出られたらいいなと思いますね。青木はスクラムのスペシャリストで、サンゴリアスのスクラムを作ろうと、コーチと一緒に頑張ってくれているので、今シーズンのフォワードは本当にやってくれると思っています。
あと、竹本も毎年、自分をベストの状態にするという強い意志がありますし、昨シーズンで全ての練習に出たのは彼だけなので、僕はそれを見習わなければいけないと思っています。若手でも成し遂げられなかった全ての練習に出るということを、10年目でもそれを成し遂げられたということは、彼の努力の成果だと思います。
最後に篠塚ですが、彼は同期の中でも一番キャップを持っているんです。けど、昨シーズンは1試合も出られないということを経験して、「辞めようと思った」とふざけたことを言っていましたが、9位では終われないという思いもありますし、ラインアウトに関しては、トップクラスの選手なので、今シーズンでの奮起を期待しています。ただ、焦らず、やっていってもらいたいと思います。
—— 有賀選手が描く今シーズンは?
僕個人で言えば、選手はパフォーマンスでチームを引っ張っていくことが全てだと思っているので、しっかりとグラウンドに立って、パフォーマンスを発揮することに尽きます。
チームとしては、目標は勝つことしかないと思います。優勝すると、高揚感であったり、達成感であったり、今まで感じられなかったことを感じることが出来ると思います。そうすると、「またあの感じを味わいたい」と思うんです。
優勝することによって、またみんなが努力をしますし、あのなかなか感じられない感覚を、みんなで感じることが出来れば、このチームはまた変わることが出来ると思っています
—— ベスト4や決勝に進むことと、優勝することでは違いますか?
今まではずっと上の方にいたので、失礼かもしれませんが、ベスト4にいることは当たり前のような感覚になっていたと思いますし、優勝した時くらいしか、その感覚を味わえなかったと思います。だから、勝つことによって、もっと強くなれると感じています。
優勝は何回しても良いものだと思いますし、会社がとても協力してくださっているので、また会社の方たちも含めて、みんなで集まれる機会が作れればいいなと思っています。祝勝会でみんなが集まってくれて、色々な人とお話が出来て、ああいう雰囲気がめちゃくちゃ好きなんです。あの経験を、選手のうちに何回も経験したいと思っています。
◆一瞬のバブルで終わらないために
—— 昨シーズンは会場に来てくれる人も増えましたね
そこはエディー・ジョーンズを始め、日本代表選手たちが残してくれたものだと思いますし、そこに対して、僕らは一瞬のバブルで終わらないために、しっかりとレベルアップさせていくということが使命だと思います。
—— 昨年のワールドカップは、見ていてどう感じましたか?
素晴らしかったですね。久々に興奮しました。まさか南アフリカに勝つなんて、誰もが思っていませんでしたし、他の試合も素晴らしかったので、やれば出来るんだというところを見せてくれたと思います。僕は日本代表で勝てない時代を経験しているので、あのワールドカップの舞台で勝つことが、どれだけ凄いことかということをよく分かっています。
—— 日本代表は何が良かったと思いますか?
彼らの努力の結果だと思いますし、言い表せないですよ。凄い努力をしていることを近くで見ていましたし、それがワールドカップの舞台で花開いたんだと思います。
—— ワールドカップを戦ったメンバーがサンゴリアスに帰ってきた時には、やはり成長していましたか?
1人1人は成長していたと思いますが、チームとしてみんなでやっていくということに関しては、期間が短かったですし、難しい部分があったかもしれないですね。そのチーム状況をしっかりとまとめられなかったということは、シニア選手の責任だと感じています。
—— 昨シーズンが終わって、スーパーラグビーに日本チームが参戦していますが、サンウルブズについてはどう思っていますか?
2019年に日本でワールドカップが開催されますし、それに向けた強化の一環だと思っているので、もっと若い選手がどんどん出ればいいと思っています。色々な声は聞きますが、みんなが選ばれたいと思うような価値ある組織になっていってもらいたいと思います。
◆ラグビーに対してプロかどうか
—— 今シーズンは沢木監督となりましたが、監督についてはどう思いますか?
まずここ2シーズンくらいは、優勝していた時と比べると、自分たちで何かを考えてやるという選手の自由度が増えて、自主性に任せられていたと思うんですが、それで勝てなかったということは、選手が成長していなかったということだと思います。その自由度に甘えていたんだと思います。
僕はコーチとも、「やるのは選手で、ラグビーに対して良いプロの集団を作っていかなければいけないわけだから、選手に対して1~10まで言う必要はないんじゃないか」という話をしたりします。自主性を持って、何が必要で何をやらなければいけないのかということを考えて取り組まなければいけないと思うんです。何か言えば「自分の評価が下がるんじゃないか」とか、小さいことは気にせず、どんどん言いたいことを言えば良いと思いますし、組織が良くなるために、選手各自がもっと色々な言動をしていって欲しいと思います。
パナソニックが強いという評価を得ていますが、いまパナソニックは誰が監督をやっても勝てるチームになっていると思います。選手が自立し話し合い、コーチと一緒に良いものを作っていこうという姿勢があると思いますが、それと比べると、サントリーは少し受け身な選手が多いかもしれません。
沢木さんが監督になってチームとしては良くなるかもしれませんが、選手は沢木さんに甘えてはいけないと思います。沢木さんのプレッシャーがあるからやるということでは、勝てなかった時と何も変わらないんです。
先ほどプロの集団と言いましたけど、それは別に社員かプロかの契約の話ではなく、ラグビーに対してプロかどうかということなんですよ。昨シーズン、順位決定トーナメントに回ることになって、チームとしては絶対に9位は死守しなければいけないという状況になった時でさえ、「本気でラグビーと向き合っているのか」と感じることもあったので、本当に選手の意識が大事だと思います。
—— 有賀選手のサンゴリアスでのモチベーションは?
「もう一度、このチームを強くする」ということですかね。これが今回のインタビューのタイトルじゃないですか(笑)。僕の年齢になれば、1年先に何をやっているかさえも分からない年代になっていると思いますし、1年1年が勝負の時期に来ているわけです。だからグラウンドにしっかりと立って、好きなラグビーを楽しみたいと思っています。もちろんその先には「勝つ」ということがあって、勝たなければ楽しみもありません。
「勝つことが全てじゃない」とか「負けて学ぶこともある」ということを言う人もいると思いますが、僕はそういう言葉はあまり好きじゃなくて、勝たなければいけないと思うんです。会社から求められていることは「勝つ」ということだと思うので、それを考えて取り組みたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]