2016年5月 4日
#482 宮本 啓希 『グラウンド外でもブレない大きなものを作っていきたい』
昨シーズンは選手会長としてチームをまとめ、コミュニケーション面では成長を感じつつも、自身のパフォーマンスを「ぬるかった」と話す宮本啓希選手。2年目の選手会長として新たな取り組みを行っている中、チームとしての変化をすでに感じ始めています。新しいサンゴリアスに向けて、今、何が必要か?宮本選手に話を聞きました。(取材日:2016年4月19日)
◆グラウンド外でやっていることはグラウンド内に表れる
—— 選手会長を1年やってみて感じたことはありましたか?
これまで先輩たちがやってこられていたので、実際に選手会長になる前は「先輩がやっている」という一歩引いた感じで見ていたんですが、実際に選手会長をやってみて、やっぱり人をまとめるということは難しいことだと感じましたね。
チームには個性的なメンバーが多いですし、前回のインタビュー(SPIRITS of SUNGOLIATH #447)でも言いましたが、最初の頃は気を遣い過ぎていて、先輩から「それは気を遣い過ぎだから、もっとこう言った方が良い」というアドバイスをもらい、そこから自分の中で変えて取り組めたと思います。ただ、シーズンが終わって振り返った時に、それでも弱かったと思う部分がありました。
—— キャプテンと選手会長との役割のすみわけは?
キャプテンは常に一番前にいる人で、一番見られるのがグラウンドの中だと思います。選手会長はグラウンドでは見えないところのマインドの取りまとめになります。グラウンド内では見えないけれど、グラウンド外であれば見えるところをグラウンドに繋げるということが目的になると思います。
今のチームは若い選手が増えたと言われていますし、1年目の選手は環境が変わって戸惑っていることもあると思います。けれど、学生と社会人とは違いますし、グラウンド外であってもチームとして違うことをやっているのであれば、注意をしなければいけないと思います。
ただその中に、グラウンドの中と外は繋がっているという考えがなければいけなくて、グラウンド外でやっていることはグラウンド内に表れるので、選手会長としてはその部分をまとめなければいけないと思っています。
◆自分で考えてやる
—— 昨シーズンを振り返り、選手会長としてやろうとしたことは出来たと思いますか?
出来たこともあったと思います。サンゴリアスの現状として、「これをやろう」と個人に対して与えられたものを実行する力は強いと思いますが、自分で考えてグラウンドの外に出た時も色々なことをやるという部分は、昨シーズン中にそうなりたいと思っていましたが、そこが出来なかったと思います。
シーズンオフが明けたらまた元に戻ってしまっている部分がありましたが、シーズンという括りで考えた時に、言い続けたことによって意識づけが出来た部分はありました。
—— 次のシーズンでやりたいと思っていることはありますか?
ラグビーも一緒だと思いますが、自分で考えてやるというところですね。例えば、やる側が「これはどうすればいいですかね?」と質問をしてしまえば、言われたことをやるだけになると思います。実際には、それを実行する力は持っていると思いますが、言うのと言わないのでは大きな違いがあり、「僕はこう考えてやってみたんですけど、どうですか?」と言ってみることが出来るようになれば全然違うと思います。
そこにはまず自分の考えがなければいけなくて、こちらも「それはすごく良いけど、これをこうしてみたら更に膨らむんじゃない?」という話に繋がっていくと思いますし、そういう話になれば、彼らの引き出しも増えることになると思います。
ミーティングでも気を付けているんですが、みんなが理解できるように分かりやすく伝えるためにはどう伝えた方がいいかとか、そういうことを考えることが大切だと思います。例えば、ラグビーを説明するためには、ラグビーのことを学ばなければいけないと思いますが、そういう姿勢がなければ相手には伝わらないと思います。敬介さん(沢木監督)からそういう話を聞くと、「そうだな」と気づくことがあります。
—— そういう考え方は他の選手にも広がっていますか?
今のチームは始動したばかりなので、まだまだの状態だと思います。選手の中にはミーティングで上手く伝えられた選手もいれば、上手くいかなかった選手もいると思います。それはその選手が分かっていると思うので、次にどう繋げるかが大切だと思います。
◆1日1回は全員と話そうと思う
—— その取り組みを、どうグラウンド外の部分に繋げていこうと思っていますか?
今はまだ考えながらというか、周りの選手がどう感じているかというところを見ながらやっている感じになります。いま、自分の中でテーマを決めていて、毎日クラブハウスにいるメンバーとは、1人1回必ず絡むようにしています。
会社の仕事面では、今年から内容も変わって、よりコミュニケーションを取らなければいけない内容になりました。初めての内容なので、会社の先輩と一緒に回らせてもらっているんですが、その先輩の姿を見て「凄いな」と思うことがありました。だから、1日1回は全員と話そうと思うようになって、話したその場では何もなくても、それが後からの気づきに繋がることもあると思っています。プライベートなことでも何でも話すようにしていて、実際にそこで気づくことも何度かありました。
選手に直接話してはいませんが、昨シーズン選手会長になった時に、自分が全てやらなければいけないと思って取り組んでいたんです。途中から周りの選手に任せるところもあったんですが、自分でやりすぎたと感じるところがあったので、今シーズンに関しては、年代を見ながら他の選手に割り振っていこうと思っています。
—— 選手会長2年目となるので、これまでとは違う選手会長像を作っていきたいですね
サンゴリアスのラグビーをするためにグラウンド外の部分も意識しなければいけませんし、サンゴリアスにはアグレッシブ・アタッキング・ラグビーというブレないものがありますが、グラウンド外でもそういうブレない大きなものを作っていきたいと思います。
◆もう一度新しい歴史を作っていきたい
—— 今シーズンのキャプテンは2年目の流選手になりましたね
彼は頭の良い選手で、人間的にも周りをよく見てバランスを取ろうとする選手です。周りの目としたら2年目の選手として見ると思うんですが、 僕としては思い切りアクセルを踏んで走っていけば良いと思っています。チームには経験ある選手がいるので、そういう選手が後ろから見てあげているイメージを持っています。
インタビューなどでサンゴリアスが勝っていた時の話などが出ますが、正直、最近のサンゴリアスには気持ちの部分で忘れてしまっていたものがあったんだと思います。頑張っていると思っていても、大切なことを忘れてしまっていたと思いますし、今シーズンは監督とキャプテンが変わり、チームの雰囲気も変わると思うので、もう一度新しい歴史を作っていきたいと思います。
—— 今振り返って、昨シーズンの自分自身のパフォーマンスはどうでしたか?
振り返ると、ぬるかったんじゃないかと思いますね。一昨年のシーズンは、個人としてはリーグ戦にずっと出ましたし、見える結果としては良かったと思いますが、チームとしては2年連続2冠を取っていた時の遺産がかなりあって、そのおかげで日本選手権の決勝まで何とか行ったと思います。
その状態から昨シーズン、チームとして上がった部分もあったとは思いますが、トータルで考えたら満足のいく内容ではありませんでした。個人としてはコミュニケーションの部分では成長できたと思いますが、パフォーマンスの部分では成長できていなかったと思います。成長できない時って、自分の中に甘さがあると思うので、そういう意味でぬるかったと思います。
—— その反省を踏まえ、今シーズンはどうしていこうと考えていますか?
個人としてのパフォーマンスが上がっていないと感じたこともあり、チームとしてダメなことをダメと言えなかったから、昨シーズンのような結果になってしまったと思います。本当に勝ちたいのであれば、仲良しチームだけではいけませんし、選手個人としても自ら学ぼうとすると思います。まだチームとして始動したばかりですが、「ホンマに勝ちたい」と思うか思わないかだと思います。そして、そこが「新たな歴史」にも繋がっていくと思います。
—— 現時点でチームとして「本当に勝ちたい」と感じますか?
毎日選手と顔を合わせていますが、昨シーズンの最後と今とでは、目の色が違いますし、選手の発言の数も全然違うと感じます。そして、その発言についても、後輩からでも「こんなことを考えていたのか」とか「勉強になるな」とか思うこともあるので、チームとしてポジティブだと思います。
◆ホンマに勝ちたいか
—— 昨シーズン多くの選手がトップリーグ開幕直前に合流し、今シーズンも現在多くの選手がチームを離れている状況です。昨シーズンとは違ったアプローチをしなければいけませんね
ラグビーって、コミュニケーションであったり、考えることが楽しいと思うんです。そういう考えがなければ変わらないと思います。例えば、試合を映像などで見るにしても、フォワードとバックスでは見るポイントが違うと思いますが、「このプレーの時にこういうプレーをしたらどうなるだろう」と、上手くいくかいかないかは別にして、そういうことを考えることが面白いと思います。
そういうことは、まずは個人個人でやらなければいけないことで、それをどうチームとして広げていくかだと思います。チームが始動してもうすぐ1ヶ月という時期で、アプローチの方法はこれから作り上げていく段階だと思います。
ただ、昨シーズン9位という結果に終わり今シーズンが始まったということで、「言われてやっているだけじゃダメだ」という根本の考えが変わり、それが少しずつ行動に現れてきていると思います。
—— もし今シーズン勝つことが出来たとして、勝ったことによってその考え方が変わってしまったら意味がないですよね
現時点では、誰も勝った後のことなんて考えていないと思います。まずは自分に勝ち、同じポジションの選手に勝ち、そして試合に勝つということしか考えていないと思いますよ。そこが「ホンマに勝ちたいか」だと思います。
—— 今シーズン、不安に感じているところはありますか?
個人のフィットネスやウエイトの数値を見ると、若い選手は凄い数値を出しているんですよ。ただ、その中で、その数値を活かすことを考えて、スペースの感覚を勉強するとか、試合の流れを考えるとか、その考えるということをずっと続けられなければ、チームとして同じものは描けないと思います。
試合の流れを考えるということは、自分たちが相手をコントロールするということになります。試合が80分間ある中で、サントリーが勝つ試合というのは、前半から色々な布石を打ち相手をコントロールして、試合終盤で圧倒的に攻めて勝つんです。その流れをみんながイメージ出来るかどうかだと思います。
—— 今シーズンの目標は?
サントリーのラグビーを見て感動してもらいたいですね。5~6年前に勝った時は、自分たちも感動しましたが、見ていた人から「感動したよ」と言われ、それが凄く嬉しかったことを今でも覚えています。どこからでも攻めますし、ディフェンスも強くて、見ている人が感動するようなラグビーで勝ちたいと思います。
シーズンオフの時期はいつも応援してくれる方たちと会う機会が増えて、やっぱり9位という結果だと色々な声が増えますよね。「どうしたの?」という声が一番多かったですが、「ホンマに頑張ってくれ」とか「勝っている時のラグビーを見ているから、また感動させてくれよ」と声を掛けてもらい、そういう声を聞くと、やっぱりサントリーはそうでなければいけないと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]