2016年3月10日
#474 村田 大志 『信じることが大切』
キャプテン不在時にチームを率いるなど、初めてバイスキャプテンというリーダー役を担った1年。チームが不調に終わり、個人として、チームとして、その中で得たこと、そして新しいシーズンへ向けた課題と意気込みを訊きました。(取材日:2016年2月18日)
◆シンプルにやること
—— 2015-2016シーズンには初めてバイスキャプテンを任されましたが、どうでしたか?
僕はそもそもリーダーという立場になることが初めての経験だったので、最初は本当に手探りの状態で、とにかく「どうすれば勝てるのか」ということを考えてやっていましたが、最初はやはり上手くいかないこともありました。色々なことをやり過ぎると、みんなが戸惑いますし、最後には自分が何をしたらいいのかさえも分からなくなる時期がありました。プレシーズンリーグの最後の方には、みんながまとまったと感じて、最終的にはリーダーもやることはシンプルなんだと感じました。
リーダーと言っても、まずは自分自身が良いプレーの出来る状態にあることが大事で、その次にチームのみんなにシンプルにやることを提示して、それをみんなで一緒にやることが大事だと感じました。チームは急には成長しないということが分かり、プレシーズンリーグでは1つ1つ階段を上がりながら、最後には1つのチームになったという印象を受けました。
—— シンプルなものを見つけることも大変ですよね
そういう時には思い切ってシニアメンバーの力を借りました。チームには経験あるメンバーがたくさんいて、剛さん(有賀)や隆道さん(佐々木)などに、「いま何をすべきか」ということを聞きながら、選手同士でやるべきことを絞って、それをみんなに落とし込むということをやっていました。
チームは一歩ずつしか進まないということに気づき、やることがシンプルになったきっかけとしては、夏合宿での神戸製鋼戦でボコボコに負けた時(0-63で敗戦)で、最初は「これはヤバイ」「プレシーズンリーグでは絶対に勝てない」と思いました。その後、みんなには「この試合を見て、サントリーがプレシーズンリーグで勝てると思う人は誰もいない。けど、それで勝ったらカッコいいよね」と言いました。
課題は物凄く多かったんですが、チームにとって一番良い影響があるものを1つや2つくらいに絞って、練習中にはそれだけを言い続けるようにして、そこが改善されれば、次のステップに進むようにしていました。
その夏合宿中にはブレイクダウンのところを修正して、その後はその都度出てきた課題を修正しながらプレシーズンリーグに入っていきました。成長しながらチームが作れているという流れを感じることが出来たので、やっていて楽しかったですね。
夏合宿の神戸製鋼戦がチームとしての一番の底で、そこから試合を重ねて、プレシーズンリーグの決勝でまた神戸製鋼と試合をしました。自分の中では最高のストーリーが出来上がっていて、「この決勝で勝ったら、最高にカッコいい」と思っていました(笑)。優勝には届きませんでしたが、試合終了直前までどっちが勝つか分からない状況でしたし、チームの成長を感じることが出来ました。
—— 課題を意識して取り組むことによって、チーム全体が目に見えて良くなりますか?
すぐに良くなることはありませんし、練習で出来たことが試合で出せなければ意味はありません。その中で、リーダーが信念を持って言い続けると、選手には「これをやらなければいけない」ということが伝わります。ただ、伝えることが多すぎると、どれが大切なのかが伝わりにくくなるので、改善していくべきポイントをシンプルにすることが大切だと思います。
◆自分たちのラグビーを一番良いラグビーにするために
—— ワールドカップを戦った代表メンバーがチームに合流した後は、また違う状況になったと思いますが、その時はどうでしたか?
正直、個人的には楽観視していたというか、自分の中でプレシーズンの中で、どれだけチームを守れるか、良い状態で代表メンバーに合流してもらうかということが使命だと思っていました。その時はある程度まで良い状態にチームを作ることが出来て、そこに真壁さんたちが帰ってきたことで、良い要素が加わって、シンプルに上乗せされるものだと思っていましたが、そこがそんなに簡単なものではなかったと思いました。
代表メンバーとチームに残っていたメンバーとでは、やってきたことが違うので、噛み合わせることが難しかったですね。日本代表メンバーはワールドカップで結果を残して帰ってきて、彼らが言っていることは、もちろん正しいんですが、自分たちが信じてプレシーズンリーグでやってきたこととは違うことだったので、それをミックスさせることが最初は上手くいきませんでした。
結局はミックスさせるのではなく、ワールドカップメンバーの意見を全て取り入れる作業になってしまっていました。いま思えば、良い方向ではなかったかなと思いますし、そこでミックスさせられなかったのは、リーダーの責任だと思います。代表メンバーがあれだけ結果を残していたので、個人的にはその意見は合っていると思っていましたし、それがチームへの上乗せの部分だと思っていました。
—— シーズンを通して、そこがなかなか上手くいかなかった部分ですか?
そうですね。あとはチームが提示するテーマと、リーダーたちの意見にもギャップがあったと思います。ミーティングの中では、「こうした方がもっと良くなる」という話し合いをした方が良い方向に進むと思うんですが、指摘ばかりになってしまい、上乗せのミーティングではなく、凄く低いところで止まってしまっているようなミーティングだったと思います。だから、リーダーグループに入っていなかった選手たちは、更に迷ってしまっていたと思います。
—— シーズンの中で様々なチーム状態を経験して、リーダーとはどうあるべきかと思いますか?
リーダーだとしてもより良いプレーヤーであるべきで、成長し続けることが大事だと思っていますが、チームとして考えると、信じることが大切だと思います。プレシーズンリーグでは自分たちが持っている武器を絞って、それを信じて戦ったから最終的には決勝まで進むことが出来たと思います。
レギュラーシーズンでは選択肢が増えて、信じるべきところがブレてしまっていたかもしれません。大きく言えば、自分たちがやるべきラグビーを信じて戦うということの重要性を凄く感じたシーズンでした。シーズン中に感じたことで、「どのラグビーが一番良いラグビーか」ということを、みんなが探し始めるとまとまらなくなってしまいます。結果的に見ると、優勝をしたチームのラグビーが一番良いラグビーなんです。だから正しいことは、自分たちのラグビーを一番良いラグビーにするために、みんなで自分たちのラグビーを信じることだと思います。それが今のサントリーに必要なことだと思います。
◆人間としてのプラス
—— 今の時点で、次のシーズンへの取り組みは見えていますか?
まだそこまでは見えていませんが、結局は僕がどんなラグビーをするかを決められるわけではないですし、練習メニューを決める立場でもありません。ただ、僕はサントリーに育てられたと思っていますし、サントリーが目指すラグビーを信じることが僕の仕事だと思っています。
もしまたリーダーをやらせてもらえるのであれば、他の選手たちにそれを信じさせることが、僕の仕事だと思います。だから次のシーズンではチームを信じて戦うのみです。もちろん「もっとこうした方が良い」という意見があれば、それを伝えるということが自立するということだと思うので、その部分はしっかりやろうと思っています。
—— バイスキャプテンをやったことで、選手としてプラスになったことはありましたか?
選手としてよりも人間としてのプラスが大きくて、バイスキャプテンをやったことで物事を大きく考えるようになりました。会社では課長などにならなければ部下を持つことはないですけど、若いうちからチームをどう動かすかということを考えさせられたので、凄く良い経験をさせてもらったと思います。
ただ、大きいことを考え始めると、自分自身はどうかということを忘れがちになってしまうので、昨シーズンでの自分のプレーは、最初の頃はブレていたこともあったと思います。途中でプレー自体は安定したと思いますが、もう少し自分の殻を破りたいという思いがあります。
今は自分の枠の中でやっていると感じるので、そこから踏み出して、プレーヤーとして更に成長したいと思います。日本代表もサンウルブズも注目されていて、ここから目指すべき価値のあるチームだと思うので、そこにチャレンジしてきたいと思います。
—— 殻を破るとは、例えばどういうことですか?
ディフェンスについては、今までリアクションでプレーしていたところが、経験を積んできて、相手の動きを読みながらディフェンス出来るようになってきたと思います。僕の課題はアタックで、ラインブレイクする能力が低いと思います。前に出ることは出来るかもしれませんが、相手ディフェンスラインを破って、チームを大きく前に進める力が足りないと思っていて、その力で言えば、マツ(松島幸太朗)や江見の方があると思います。そこを課題として取り組んでいこうと思っています。
—— シーズン前とシーズン後を比較して、レベルアップしたと思いますか?
今の方が心に余裕があると思います。シーズン前にバイスキャプテンを任された時には、「チームのことを考えなきゃ」と思っていましたが、次のシーズンでバイスキャプテンを任されたとしても、まずは自分のプレーを良くしようと思えますし、それと同時進行でチームのことも考えられると思うので、小さくならずに取り組んでいけると思います。
—— それはキャプテンであろうが、バイスキャプテンであろうが、変わりませんか?
自分に出来ることは限られていて、超能力者ではないので人の行動まではコントロール出来ませんし、自分でコントロール出来るのは自分の行動しかないと思っています。まずは自分のプレーを成長させることが大切で、あとはどれだけ「成長したい」という気持ちを持てるかどうかだと思います。
◆自分のなりたい選手像にどれだけ近づけるか
—— 2015年のワールドカップを見て、2019年の日本開催のワールドカップは意識しますか?
意識していないですね。僕は今年で28歳になりますし、ラグビー選手としてはいい年齢になっていると思います。これからラグビー選手としての完成を迎えると同時に、終わりに向かうことになると思うので、本当に1年1年を大切にしなければ、いつ怪我をしてプレー出来なくなるか分かりませんからね。
だから、2019年のためにラグビーをするというよりも、今年1年でどれだけ自分自身を成長させられるかを考えて取り組もうと思っています。その結果として、日本代表に呼ばれるかは、その時の監督の好みもあるので、別だと思います。自分のなりたい選手像にどれだけ近づけるかということしか考えていません。
—— 日本のラグビーの環境も変わってきていると思いますが、それについてはどう思いますか?
これから確実にレベルアップすると思います。日本人選手が海外に出てプレーするということは、海外から日本が認められたということだと思いますし、海外に出た選手が日本では経験出来ないことを持って帰ってきてくれると思うので、日本ラグビー界にとっては素晴らしいことだと思います。
◆サントリーの13番に
—— 次のシーズンでのターゲットは?
個人としては、平浩二さんみたいに、サントリーの13番になります。平さんが現役の時は、「サントリーの13番と言えば平浩二」と思われていたと思うんですが、今はマツが出たり、大島さんが出たりしていて、まだ固定されていないと思います。マツが13番をやりたいと言っていますが、僕の方が13番をやりたいという気持ちで取り組んでいきます。
チームとしては2冠を取ることがターゲットです。毎回言っていて達成出来ていませんが、このターゲットをブレさせてしまうと、チームとして終わってしまうと思います。チームとしてのターゲットは2冠だけで、その中で何をやるかになると思います。
—— 今はシーズンオフに入っていますが、今の時期に選手同士で昨シーズンについて話し合うことなどありますか?
今のオフの期間は、チーム外の人たちと食事に行く機会が多くて、そういう人たちと話をすると、「サントリーはどうしたの?」ってなりますよね。僕の場合はオフの期間こそ、チーム外の人たちと話をしようと思っていて、そういう人たちとは昨シーズンについて話をすることが多いと思います。
—— チーム外の人たちと話をしていて、気づかされることなどはありますか?
ラグビーを知っているかどうかは関係なく、外の人の意見って凄く大事だと思います。社内の人と話をしていても、「最近のサンゴリアスは元気ないよね」と言われることもあって、その「元気ないよね」というワードも凄く大事なポイントだと思います。それはチームのエネルギーが外の人に伝わっていないということで、そこにチームとしての問題があると思います。
逆にラグビーに詳しい人が「こういうプレーが良くない」と言ってくることに対しても、それに対して納得しなくても、そういう意見もあるんだと気づくことがあります。内側にいると見えないことに気づかされるので、外の人の意見は大事だと思います。
良くないシーズンの話をしていると、結局は寂しくなってしまいます。本当は良くないシーズンの話なんてしたくないんですが、そこから逃げることが一番良くないことだと思うので、色々な人の話を聞きながら、取り入れられることを次に繋げていければと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]