SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2016年3月 2日

#472 スカルク バーガー 『サントリーのファンとしてみんなの成長を見ていきたい』

2年間在籍したサンゴリアスの中でも、グラウンド外では年々優しくなっていった印象のあるスカルク・バーガー選手。プレーの激しさは変わらず、昨年のワールドカップでも南アフリカ代表のバイスキャプテンを務めて、キャプテンのフーリー・デュプレア選手と共にチームを3位に導きました。ワールドカップ、そしてサンゴリアスのラグビーについて訊きました。(取材日:2016年1月19日)

◆試合をシンプルにまとめていった

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—— 2015年のラグビーワールドカップはどうでしたか?

とても面白かったです。スプリングボクス(南アフリカ代表)はワールドカップに向けてのチーム作りではあまり良くありませんでしたし、プラン通りにいかないことで多くのプレッシャーがありました。そういうチーム状態でしたが、上手くいくだろうと思って初戦の日本戦を迎えてしまったんです。多くの方がご存知の通り日本戦ではあのように負けてしまい、そこでスプリングボクスはパニックに陥りました。メディアからのプレッシャーも凄くて、自分たちは背中を壁につけて、押し寄せられているような感覚でした。

良かったところでは、その後にシニアプレーヤーを含めた全選手がひとつにまとまり、完璧ではありませんでしたが、勝ち進んでいけるようになったことです。そこでまとまらず空中分解し負けてしまうチームがたくさんあると思いますが、自分たちはそこでマネジメント出来て、メダルを取りにいくために結束することが出来ました。負けてはしまいましたが、オールブラックスとの準決勝も接戦でした。

—— デュプレア選手がキャプテンで、バーガー選手がバイスキャプテンでしたね

フーリーはゲームコントロールが素晴らしい選手です。ただ、オフフィールドでは彼はあまり喋らないので、そこは僕が話をしたりしていました。フーリーと僕がチームをリードして、ジャン・デビリアスなど他の選手が周りを固めてくれました。それによって、チーム全員が何をしなければいけないのかを理解することが出来ました。

そこからやっていったこととしては、試合をシンプルにまとめていきました。そうすれば勝っていけると分かっていたので、スプリングボクスとしてベストのプレーをしようとチームがまとまっていきました。

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—— 小さい頃から周りとコミュニケーションを取る力はありましたか?

そういう力はあったと思います。グラウンドの外では冷静で、グラウンドの中ではアグレッシブになると思います。18歳~25歳くらいまでは、僕の取り扱いは難しかったと思いますが、そこから少しずつ髪の毛が少なくなっていき、優しくなっていったと思います(笑)。グラウンドの外ではあまり変わっていませんが、グラウンドの中では今よりも更にアグレッシブだったと思います。今はコントロール出来るようになっています。

—— どうやってコントロール出来るようになったんですか?

試合をたくさん経験したことで学んでいきました。

—— これまでのラグビー人生の中で、ゾーンと呼ばれる超集中状態に入ったことはありますか?

誰もがそういう状態を経験したことがあるかもしれません。何も考えていない時に、そういう状態になったりする時があります。上手くいかない時には色々なことを考えてプレーしてしまいますが、良いプレーをしている時には何も考えずに体が動いている状態だと思います。どうやって試合に勝つかということに対して集中力が頂点に達している時には、ゾーンに入っているかもしれません。

ゾーンに入っている時には自分の仕事にフォーカスしていて何かを考えているということもありませんし、やることが明確になっていて良い判断が出来たりします。試合の中でそういう状態になったりならなかったりする時がありますし、そういう状態に一切にならない時もあります。毎試合でそういう状態になればベストですが、そういう状態はなかなか続きません。

ラグビーはチームスポーツなので、自分がそういう状態であっても、他のチームメイトの状況によっても変わってくると思います。他のチームメイトが良い状態でプレーしている時に、自分も良い状態でプレーしていると、試合自体が上手くいくこともあります。チームが上手くいっている時には、選手1人1人のエナジーが高くて、勢いに乗っているような状態だと思います。

◆メンタルの部分で上手く準備が出来ていなかった

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—— 先ほど日本に負けてパニックになったと言っていましたが、試合をしている時もパニックでしたか?

試合終盤はそうだったと思います。最後のプレーで日本がトライを取るんじゃないかという気持ちが出てパニックになっているような感じはありましたが、それまではパニックにはなっていませんでした。60分を過ぎても接戦で、そこから自分たちは勝たなければいけないんだと考えるようになっていて、どうやったら勝てるかということばかり考えていたと思います。常にプレッシャーが掛かっていて、自分たちが望んだような展開ではありませんでした。

オールブラックスと試合をする時には、プレッシャーが掛かる展開になると事前に分かった状態で試合に臨むんですが、日本と試合をする前には、誰もがあのような展開になるとは思っていなかったと思います。日本戦に向けた自分たちの準備という部分では、それほど問題は無かったと思いますが、メンタルの部分で上手く準備が出来ていなかったのかもしれません。

—— 日本側から言うと、全てが上手くいったと言われていますが、対戦している側としては日本の何が良かったと思いますか?

最終的には、日本は勝つべくして勝ったと思っています。スプリングボクスよりも良かったところとしては、1つはディフェンスで、僕らはトライを取ることに苦戦しました。だからスプリングボクスは規律も悪くなって、そこで日本は五郎丸(歩/ヤマハ発動機)のキックでどんどん得点を重ねていきました。スプリングボクスが規律良くしっかりとプレーしていければ、スコアボードの得点は違うものになっていて、20分~25分くらいの時点で、15点差くらいでリードしていてもおかしくはなかったと思います。

サモア戦もスコットランド戦も、自分たちがプレッシャーを掛けてプレーすることが出来ましたが、日本戦はプレッシャーを受けながらプレーしてしまいました。相手にプレッシャーを掛けられないと、相手はどんどん力をつけてきてしまいます。それが日本との試合だったと思います。オールブラックスとの準決勝でも、自分たちがプレッシャーを掛けることが出来ました。そこでフィニッシュまで行けませんでしたが、プレッシャーを与えることは出来たと思います。

◆気にしなければいけないことは自分ではなくチーム

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—— 日本戦から立て直せたポイントは何だと思いますか?

日本戦の後の1週間は、本当にタフな1週間でした。そこで一番大事だったことは、選手たちがしっかりと話し合って、「自分たちはこれをやりたいんだ」ということを明確にしたことでした。必要の無いメッセージは排除し、自分たちのやりたいことを明確にして、フレッシュな気持ちで再スタートしたんです。チームとしてやらなければいけないことを明確にし、そこに集中していきました。

—— 今までにはないような状況でしたか?

ワールドカップ前に行われたザ・ラグビーチャンピオンシップの初戦は、試合終了間際までリードしていましたが82分にトライを許し、オーストラリアに負けました。第2戦のオールブラックス戦は良いラグビーをしましたが、75分に逆転され負けてしまいました。その時点でラグビーに対するプレッシャーを感じてしまい、ラグビーをすること自体を難しく感じてしまっていたと思います。

そうなると、コーチもナーバスになってしまいますし、マネジメントもナーバスになります。メディアからは更にプレッシャーを掛けられてしまいます。チームとしてはフォーカスを失ってしまっていたと思います。個人として自分のプレーを見直すことは簡単に出来ますが、チームとしてひとつになってプレーすることは難しい状況でした。

その経験があったから日本戦の後は、選手個人個人が「気にしなければいけないことは、自分のパフォーマンスではなくチームなんだ」ということを話し合えたんです。コーチも個人のパフォーマンスではなく、「チームがひとつになり勝つこと」を話し合えました。1週間で1,000個のメッセージを話し合うよりも、3つのメッセージだけを話し合うようにしたんです。

—— その3つのメッセージは何ですか?

毎週違うメッセージで、違うチャレンジがありました。例えば、アタックで言えば、サントリーのアグレッシブ・アタッキング・ラグビーのようにシンプルにしましたし、ディフェンスでも激しくするようなことを話し合いました。あとはゲームマネジメントの部分です。その前に個人で反省しチームで話し合ったから、そこまでシンプルに出来たんだと思います。

◆選手がプレーだけに集中出来る環境にしていく

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—— 今後の日本代表についてはどう思っていますか?

もう既に大きなチャレンジがスタートしていると思います。ワールドカップ前の2~3年は成功していたと思いますし、次のワールドカップは日本で開催されるので、日本の出場は決まっている状況です。その前に、チャンピオンシップなどの大きな大会に参加出来るようになると、更に良くなると思います。テストマッチでトップの国と対戦していくことが大切になると思いますし、そういう試合に勝つことで、どんどんレベルが上がっていくと思います。

2019年のワールドカップで勝つための長い期間のプランを作らなければいけませんし、そのしっかりとした明確なプランを次のコーチが遂行していかなければいけないと思います。日本には素晴らしい選手がたくさんいて、スーパーラグビーでプレーする選手が増えています。日本の中でラグビーが魅力あるスポーツに変わってきていて、そういう状況になると、どんどん良い選手が生まれてくると思います。

—— 日本で2シーズンを過ごしましたが、日本代表が今回のワールドカップで活躍すると思っていましたか?

日本がワールドカップで良い結果を残すことを目標にしていたとは知っていましたし、準々決勝に進むことを目標にしていたことも知っていました。結果として日本は準々決勝には進めませんでしたが、エディー(ジョーンズ/前日本代表ヘッドコーチ)のことは知っていましたし、彼が目標を達成することが出来るチームを作ったということも知っていました。

—— ワールドカップでの活躍で、海外の日本を見る目も変わりましたよね

エディーは凄く大きな成功を収めたと思います。エディーは次のステップに進んでいるので、日本代表にとっては次のコーチが重要になると思います。選手がプレー以外のことを考え始めてしまうとあまり良い状況ではないので、選手がプレーだけに集中出来る環境にしていくことが必要になると思います。

コーチによって色々なやり方があるので、エディーのやり方を真似するというよりも、次のコーチがベストだと思うスタッフを入ることが良いことだと思います。もしかしたら日本代表のスタイル自体も変わるかもしれませんが、素晴らしいコーチに指揮されているのであれば、そこは問題ないと思います。

◆将来は1人のサントリーファンとして

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—— サンゴリアスの選手たちへのメッセージをお願いします

まずはフォワードの選手たちとは本当に長い時間を一緒に過ごしましたし、黄色いジャージを着てサントリーでプレーすることは、自分にとっても素晴らしい経験となりました。たくさんの素晴らしい仲間も出来ましたし、ワールドカップで日本代表とも戦うことが出来ました。

これからはストーマーズでプレーするので、サンウルブスと対戦した時には、何人かの選手とはプレーすることになると思います。サントリーのラインアウトやスクラムは良くなっていますし、サントリーのスタイルでプレー出来ているので、そこは良いことだと思います。

サントリーでプレーすることが出来て、本当に楽しかったです。僕は日本を去りますが、人として成長し、南アフリカに帰ることが出来ます。本当に素晴らしい経験をさせてもらいました。そして、将来は1人のサントリーファンとして、また日本に戻ってきたいと思います。その時には、またみんなとお酒を飲みながら、楽しい時間を過ごしたいと思います。サントリーのファンとして、みんなの成長を見ていきたいと思います。

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(通訳:吉水奈翁/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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