2016年2月10日
#468 大島 佐利 『走ることはどの国よりも練習してきた』
シーズンのほとんどをリオデジャネイロオリンピックへの出場権獲得に向けセブンズ(7人制ラグビー)日本代表として活動した大島佐利選手。日本代表チームは見事予選を勝ち抜き、オリンピックへの出場権を獲得しました。大島選手がセブンズから得たものは何か?そして今年の目標は?遠征間近な大島選手に話を訊きました。(取材日:2016年1月21日)
◆タックルが良くなった
—— 今シーズンはどんなシーズンでしたか?
春から11月くらいまではずっとセブンズの日本代表として活動させていただいて、世界のチームと試合をする機会も増え、僕個人としては本当に良い経験が出来たシーズンだったと思います。
その後サントリーに戻って来てからは練習試合などに出させてもらい、どんどんチャレンジすることが出来て、シーズンの終盤になってトップリーグの試合にも出させてもらえるようになりました。個人としてはこれまでのシーズンの中で一番良かったと思います。
—— どこが良くなったと思いますか?
セブンズでずっとハードなトレーニングをしていて、走れるようになりましたし、体の動きが良くなったと思います。ただ、その分、トップリーグの中ではコンタクトで苦労することもありました。あと、世界のチームと戦う中で、速くて強い海外の選手に対して、どうやってボールをキープするか、どうやって相手を止めるかということを学べたことが大きかったと思います。
—— どういうことを新たに学びましたか?
セブンズだとスペースがたくさんあるので、最初の頃は走り合いになってしまうとタックルが高くなってしまっていました。半年間を掛けて、そういう相手に対しても必ず下に入ることが身につけられたと思います。最初の頃は抜かれてしまうこともありましたが、継続して取り組んだことで、タックルの部分が良くなったと思います。
アタックに関しても、体が大きい相手に対して自分から当たりに行くのではなくて、きちんとフットワークを使って、相手がタックルに入ろうと思っている逆の肩にわざと当たりに行くなど、そういうところが冷静に見られるようになったと思います。だから、僕としてはセブンズをやったことが15人制にも良い形で繋げられているので良かったと思います。
—— 各国の7人制代表チームの中には、日本のように15人制をやりながら7人制をやっている選手もいるんですか?
世界的に見ると、15人制は15人制、7人制は7人制というようになってきていますが、世界の強豪国の中にも日本のように15人制も7人制もどちらもやっている選手もいます。
◆イレギュラーな部分が多くなる
—— 7人制ラグビーの日本代表としてリオ五輪出場権を獲得するまでは、ある程度メンバーを固定して合宿をしていましたね
メンバーを固定してトレーニングをしていたので、それぞれの選手の特徴をしっかりと理解することが出来たと思います。セブンズはスペースも広いですし、形が整えられた攻撃よりも、ボールを持っている選手に対して周りの選手が反応して攻撃が繋がっていくような、イレギュラーな部分が多くなるんです。ずっと同じメンバーでやっていたことによって、イレギュラーな場面でも「この選手は内側にステップを踏む傾向がある」とか「この選手には早めにボールを渡してあげた方が良いプレーをする」というようなことを感じられるようになったと思います。
—— 時間が経てば経つほど、良いチームになっていくと思いますか?
良い選手が集まり、長い時間を共有することが出来れば、どんどん良いチームになっていくと思います。昨年の6月にアジア予選までの代表スコッドが発表されて、それから約150日間のうちの100日間くらいは合宿をしていて、その間に家に帰ったのは30日もなかったと思います。それだけの時間を同じメンバーで共有できたことが大きかったと思います。
—— 今まで勝てていなかった相手にも勝つことが出来ましたね
セブンズの場合は、いくらゲインをされてもトライを取られなければ良いという考えがあるんですが、半年の間、キツいトレーニングをやって体力がついたことによって、これまでは簡単にトライを取られていた場面でも、最後の最後までディフェンスで粘れるようになったと思います。組織としてのディフェンスが良くなったということもあると思いますが、組織が破られてもそこから追いかけてタックルをする力がついたと思います。
—— どの国よりも練習量は多かったんですか?
走り込んでいたとは思います。オーストラリア代表の話を聞くと、みんなが一緒に泊まり込み合宿をしていたそうなんですが、僕らもそれに近い環境でやらせていただきましたし、走ることに関してはどの国よりも練習をしてきたと自信を持って言えます。
—— サントリーの練習と比較しても、更に厳しい練習だったんですか?
セブンズの場合は、サントリーの練習を短くした感じなんですが、その練習が1日に2~3回あるような感じになるので、1日が終わるとぐったりしていました。
◆国歌を歌ってグラウンドに立てること
—— 日本代表のジャージを着て戦うことについてはどう感じていますか?
責任を感じますし、一番感じたことは、アジア予選の決勝で国歌斉唱があって、国歌が流れるのは決勝だけなんですが、国歌を歌ってグラウンドに立てることに嬉しさを感じました。
ただ、そんなことを言っておきながら、決勝ではずっとベンチで、出場する機会は巡ってきませんでした(笑)。ベンチから試合を見ていて、競った試合でも選手たちが走り込んできたという自信を持っていたので、後半には絶対に逆転出来ると信じていましたし、ハーフタイムでもそういう話をしました。
—— セブンズでは多いと1日で3試合を行いますが、どのようなスケジュールなんですか?
試合の間が2~3時間くらい空くので、試合が終わったらストレッチをしたり、トレーナーにマッサージをしてもらったりしています。その中でも大事にしているのは、自分の中で一番リラックスして回復する方法で準備をして、次の試合に備えることです。試合後のプログラムがチームで組まれているので、そのプログラムを行いながら、個人個人で考えて次の試合に備えています。
—— 1大会で2日間に5試合戦って、次の大会に向けてはどのようなスケジュールなんですか?
昨年まで日本代表が参戦していた大会はワールドシリーズと言って、世界のトップ16のチーム同士で戦う大会で、その大会で言えば、例えばニュージーランドで大会をやった翌週にオーストラリアで大会を行い、その後、1ヶ月くらい間が空いて、また2大会を行うというスケジュールでした。
僕はそんなに多くの大会を経験したわけではないんですが、僕が経験した時には、1大会ごとに国が変わるので、1~2日は移動とリカバリーで、あとの3日間は戦術などの確認と前の大会で出来なかったことを修正するくらいで、次の大会に入っていくというスケジュールになります。
—— 疲れ具合はどうなんですか?
リカバリーである程度の疲れは取れますし、大会の直前になればそこまでハードなトレーニングではなくなるので、体をしっかりと戦える状態にしていくことが大事だと思っています。
◆何かをしてくる前にシャットアウト
—— 15人制と比べて、頭の使い方なども変わってくるんですか?
セブンズはイレギュラーなことが多いですし、例えばボールを持ち込んでもわざとラックを作らなかったり、15人制よりもオプションが豊富だと思います。選択肢がたくさん中でベストを選んでいかなければいけないので、そこは難しいところでもあります。
だからディフェンスの時には、相手が何をしてきても良いように対応していかなければいけませんし、逆に相手が何かをしてくる前に全てをシャットアウトしてしまうディフェンスの方法もあります。前に出るディフェンスをするとその分リスクもあるんですが、日本代表が世界と戦う場合は、相手のやりたいようにやらせて、それを守ろうとすると、速い選手との走り合いになってしまい、ボールを奪い返すことが難しくなってしまいます。だから、網を張ったディフェンスと前に出るディフェンスとを組み合わせてやっています。
—— 例えば、どのようにディフェンスをしているんですか?
自分たちのディフェンスの形があるんですが、その形がきちんとセット出来ている時は必ず前でプレッシャーを与え、相手に何もさせないようにディフェンスをしていますし、イレギュラーなことが起きてしまった時には、トライを取られないようなディフェンスに切り替えたりします。
—— アタックの時には選択肢が多くて迷うことはありませんか?
しっかりとコミュニケーションを取って、ベストの選択だと思うプレーをやるだけです。サインもありますが、セブンズはスペースがたくさんあって、外側の選手が一番スペースを見つけやすいので、いくつかスペースがある中のどこにアタックを仕掛けるかを、外側の選手からのコールで攻める方向を決めてやっています。15人制と比べると、選手同士の間が遠いので、より大きな声でコミュニケーションを取らなければいけないと思います。
◆役割はサポート役
—— リオ五輪出場を決める中で、ポイントとなった試合やプレーはありましたか?
やはり最後の決勝です。その試合には出られませんでしたが、日本代表にはアタックが上手な選手が多かったので、僕の役割としてはサポート役と考えていました。誰かが勝負をして捕まってしまった時には、そこから良いボールを出すために僕がいると思っていました。だから、僕は黒子に徹して、素晴らしいアタックをする選手たちが、いかにスペースを走れるかというところを意識して取り組んでいました。
—— その役割は自分で見つけて取り組んでいたんですか?
僕が初めてセブンズでプレーをした時に、自分にはそういう役割があると思ったということもありますし、監督からも僕に期待しているところは、そういうプレーだと言ってもらっていたので、セブンズでは常にそういうプレーを心掛けています。
—— リオ五輪までのスケジュールはどうなりますか?
昨年参戦していたワールドシリーズには、今年は参戦することが出来ないんですが、毎大会1チームのみ招待枠があって、その枠で4大会はすでに招待していただけることが決まっています。あと4月に香港で、ワールドシリーズに昇格するための大会があります。そこで昇格することが出来れば、参加する大会が更に増えることになります。
その香港での大会には、ワールドシリーズに参戦することが出来なかった世界のチームが参戦するので、難しい大会になるとは思いますが、昇格に向けてチャレンジしていきたいと思います。ヨーロッパではジョージア、アフリカではジンバブエがライバルになると思います。
セブンズでは、大会に出て試合をやるということが、一番の強化に繋がると思いますし、チームとして試す機会がたくさんあった方が、オリンピックに向けては良いことだと思います。
◆世界のトップ4を目標に
—— リオデジャネイロには行ったことはありますか?
いや、これまで行ったことはありません。オリンピック前の7月中旬頃からリオに入って、8月のオリンピックを迎える予定です。
—— リオ五輪では12チームが参加しますが、目標は?
出場するからにはメダルを取るということを、みんなで話していますし、ワールドシリーズも含めて、僕らは世界のトップ4に入ることを目標に取り組んでいます。世界の上位にはフィジーやイングランド、南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアという15人制でも強い国が、セブンズでも上位に来ています。
15人制だと番狂わせがあまり起きないんですが、セブンズの場合は番狂わせが多いんです。前後半7分ずつの間で不確定要素が多いので、僕らがやると決めたことをしっかりとやり切れれば、世界の上位チームに勝つチャンスは絶対にあるんです。
その中での僕の役割としては、味方が苦しい時でもしっかりと体を張って相手を止めることであったり、味方が抜けた時に疲れていてもすぐにサポートに入ることであると思っています。
—— 個人としての目標は?
現時点ではスコッドとして19人の選手が選ばれているので、その中から12人が選ばれ、サポートメンバーが2人選ばれます。だから、まずはその12人に選ばれなければいけないんですが、その12人に選ばれるために頑張るのではなくて、「リオで必ずメダルを取るために頑張る」ということを常に頭に置いて取り組んでいきたいと思います。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]