SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2016年1月20日

#465 吉水 奈翁 『お互いの為、チームの為に自分は何をしなければいけないのか』

ニュージーランドの元警察官。この前職から想起されるイメージとは全く違ったソフトな雰囲気の吉水奈翁通訳。醸し出す優しさのベースには、警察官時代に体験した厳しさがあることが、今回のインタビューで分かりました。2年目の吉水通訳への初めてのインタビューです。(取材日:2015年10月30日)

◆ニュージーランドで初めての日本人警察官

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—— サンゴリアスに来る前はどういう仕事をしていましたか?

ニュージーランドで警察官をやっていました。ニュージーランドで警察官になるためには、ニュージーランドに住んでいて、永住権を持っていれば外国人でも警察官になれるんです。

—— なぜ警察官になったんですか?

僕には3つ年上の兄がいて、警察官になる前は、その兄と両親の4人で、ニュージーランドで車の修理工場をやっていました。父親が作った工場で、家族みんなで働いていたんですが、そこから抜け出さなければいけないんじゃないかと考えるようになっていましたし、自分にしか出来ないことはないかと考えていた時に、たまたま雑誌を見ていたら、アジア人の警察官を募集しているという広告を見つけたんです。

当時、ニュージーランドではアジア人の人口が増えていて、ニュージーランドの警察としてもアジアのバックグラウンドを持っている人が接することの方が、話はスムーズにいくと考えていました。言葉の問題が大きいんですが、アジアの文化を知っているということも重視していて、アジア人の人材を募集していたんです。

これまでニュージーランドで日本人の警察官はいないと聞いていましたし、ニュージーランドで初めての日本人の警察官になれるということで、受けてみようかなと思ったんです。

—— 日本では警察官になるためには武道や体力面も求められますが、その部分については自信があったんですか?

幼稚園からラグビーを始めて、中学でニュージーランドに移住をしたんですが、ニュージーランドでもラグビーをやっていたので、体力には自信がありました。

◆ニュージーランドで16歳までラグビー

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—— なぜニュージーランドに移住したんですか?

最初は、僕の父親が川崎のラグビーチームのコーチをしていたので、そのチームの遠征でニュージーランドに行きました。僕もそのチームに入っていたんですが、父親は僕の1つ下の学年を教えていて、父親が教えていた学年が、神奈川県で優勝したんです。そこで父親は「この優勝したチームを日本以外のところでプレーさせたい」と考えたそうです。

オールブラックスが世界で一番強いので、「このチームをニュージーランドに連れて行って、向うでプレーさせたら、どれくらい戦えるんだろう」と思って、ニュージーランド遠征に行ったんです。僕は学年が1つ上でしたが、僕もそのチームに入って、2週間くらいニュージーランドにいました。それが1990年で、その遠征がきっかけで移住することになりました。

—— 初めてのニュージーランドはどうでしたか?

その前に何度か海外旅行には行ったことがあったんですが、僕がまだ小さい頃で覚えていなかったので、僕としては初めて海外旅行がニュージーランドという感じでした。全てが新鮮で、ホームステイ先の人たちも温かくて優しかったですね。もちろんニュージーランドの子供たちはラグビーも強くて、2試合してどちらも負けてしましたが、小学生ながらにラグビーに対する熱い思いを感じました。

2週間で日本に帰ってきたんですが、ニュージーランドに対する思いが一番強くなったのが父親で、もうニュージーランドに住む気満々になっていました(笑)。そして父親から「ニュージーランドが好きになっちゃったから住もうと思うんだけど、どうだ?」と言われて、僕としても帰ってきたばかりで、楽しい思い出ばかりだったので、「いいじゃん」と応えました。そしたら父親が「今から永住権を取ったりして時間がかかるから、お前と兄貴の2人で先にニュージーランドに留学して、英語を覚えておけ」と言ってきたんです。その後、すぐに兄と2人で留学させられました(笑)。

僕がその時、中学1、2年くらいの時で、兄は高校1、2年くらいでした。兄は高校も楽しくて、ラグビーもやっていたので、ニュージーランドにあまり行きたいという感じではなかったみたいです。ニュージーランドでは僕はラグビーを続けましたが、兄は止めてしまいました。

—— 留学してラグビーをやってみてどうでしたか?

日本人とは体格が違いますし、ニュージーランドの人はセンスが違うと感じました。僕は日本では9番と10番をやっていたんですが、ニュージーランドでは少し足が速かったのでウイングでプレーするようになりました。

住んでいたところにワイテマタというクラブチームがあって、そこの16歳以下のチームでプレーして、16歳まではラグビーを続けました。その後、スケートボードに出会い、ラグビーを止めて毎日スケートボードをやるようになりました。

—— スケートボードの実力は?

大会に出られるくらいまで上達しました。

◆クライストチャーチの大地震

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—— お父さんはニュージーランドに移住して、何を始めたんですか?

日本でも祖父の代から自動車の修理工場をやっていたので、自動車修理のノウハウは持っていましたが、実際にニュージーランドに移住して、「何をしよう?」という感じでした。そんな中、ニュージーランドの街を見ていると、昔のイギリスの車がたくさん走っていたんです。その光景を見て、「これはビジネスになる」と思ったらしく、古いイギリス車を全て修理して、綺麗に色も塗り直して、それを日本に送って売るというビジネスを始めました。

最初の頃は調子も良かったみたいですが、バブルが弾けて全く売れなくなってしまいました。それから徐々に地元の人たちのための修理工場にシフトしていきました。それと同時に、ニュージーランドにいる日本人のために車を売ってあげたり、整備してあげたりしていました。高校卒業後は僕も車の修理工場を手伝いながら、日本の大学などのラグビーチームがニュージーランドに来た時に、パートタイムで通訳などをやっていました。

—— 警察官はどれくらいやったんですか?

6年間やりました。その中で一番大きな出来事は、2011年に起きたクライストチャーチの大地震ですね。あの地震では多くの日本人も亡くなりました。クライストチャーチには英語学校があったんですが、その建物が地震によって全て崩れてしまい、その学校にいた日本人28名が亡くなってしまいました。

僕が日本の担当警察官となり、日本の外務省と現地警察の窓口になり情報共有をしたり、日本から来たご遺族の方たちへの説明などを行ったり、ご遺体の確認に立ち会ったりして、全てを任されていました。

—— 通常の警察官の仕事の中で、ピストルを扱ったりもしたんですか?

実際の事件で発砲したことはありませんが、3ヶ月に1回はグロックというピストルと、M4というライフルを使って、実際の場面を想定して実弾でのトレーニングを行っていました。

—— 日本人ではあまり経験することが無いことだと思いますが、武器を持つことで意識が変わったことなどありますか?

警察官は事件が起きてから出動することが多いので、常に危険と隣り合わせで、何が起こるか分からない仕事だと思います。常に最悪のシナリオを考えて事件と向かい合わなければいけないので、自分の身を守るためにピストルも携帯していなければいけませんし、警察官はパートナーと行動をするので、そのパートナーを守るためにもピストルをすぐに使える状態にしていなければいけません。

◆人を助けることが好き

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—— 危険を感じたことはありましたか?

刺されそうになったことがありました。その事件は、精神的に病んでしまった人が、ナイフで自分のことを傷つけて「自殺をしたい」と通報してきたもので、その時のパートナーは新人の若い女性警察官だったんですが、そのパートナーはあまり状況が分からず装備なども準備せずに、そのまま僕を置いて慌てて部屋に入ってしまいました。僕はすかさず彼女を引き戻すために追いかけて部屋に入りました。

部屋の中にいたのは、僕が以前逮捕したことがある人で、その人も僕のことを覚えていて、そういう感情があったので僕のことをナイフで襲ってきました。その時は僕も彼女もピストルなどの装備を携帯していなかったので慌てて2人でその場から逃げて、急いで扉を閉めて何とかお互いに刺されずに済んだんです。

扉の近くにいなければ、僕かそのパートナーのどちらかは刺されていたと思います。その後、応援を呼んで、警察犬が来たり、ピストルを持った同僚がすぐに来てくれたりしたので、その人を逮捕することは出来ました。

—— その時の精神状態はどういうものでしたか?

もう無我夢中で、パートナーと自分の身を守ることに必死でした。後から考えるとゾッとするような出来事でしたが、そういうことを経験していくことで慎重になっていきましたし、もしパートナーが新人であれば、パートナーに対しても厳しく指導していかなければいけないと考えるようになりました。

その事件の経験から、新人の警察官を指導するライセンスを取って、最後の1年間は新人と一緒に行動しながら指導する教官をやっていました。警察学校を出たばかりの新人は頭でっかちになってしまっていて、実際の現場では何が必要かを分かっていないんです。現場では人と上手く話をしていかなければいけませんし、犯人と話をする時はその犯人によって話し方を変えなければいけません。その部分は勉強して身につくものではなくて、実際に経験していかなければ身につかないものです。

—— 警察官が自分に合っていると思ったことはありますか?

人を助けることは好きですね(笑)。深く考えて、忍耐強く、時には我慢して相手の話を聞かなければいけないこともあります。もちろん感情的になってはいけない仕事だと思います。

—— 普段から冷静ですか?

普段は短気だと思いますが、仕事では比較的冷静な方だと思います。

◆その時にどういう言い方が良いのか

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—— サンゴリアスでの通訳という仕事を始めたきっかけは?

そこでもやはり父親のDNAで、チャレンジとかステップアップということに対して貪欲だったと思います。ニュージーランドで警察官を6年やり、最後の1年は教官もやっていたので、自分の中で先が見えてしまったというか、落ち着いている自分がいることに気づいたんです。

ラグビーはずっと好きで、ニュージーランドでも毎週ラグビーを見ている中で、心のどこかにラグビーに携わりたいという気持ちがあったんだと思います。そんな時に、ウェブサイトの掲示板を持っているニュージーランドの友達が、その掲示板に載せる前に僕のところに連絡をしてきて「通訳を募集しているところがあって、今度掲示板に載せようと思うんだけど、誰かいない?」と言ってきたんです。

その友達から詳しく話を聞いたら僕がやってみたくなって、その友達から連絡先を聞いて、電話をした相手が坂田さん(正彰/サンゴリアスOB)でした。坂田さんと話をしていたら共通の知り合いもいて、スムーズに話がまとまって、すぐに日本に来て面接をして、その1ヶ月後くらいには家族で日本に来ていました。

—— ご家族は?

妻と子供3人です。警察官になる前に結婚していて、警察官になった時には子供が2人いました。

—— 奥さんはニュージーランドに住んでいた日本人の方なんですか?

そうです。彼女はずっと幼稚園の先生をやっていて、僕と知り合った時にはワーキングホリデーでニュージーランドに来て勉強をしていたんです。

—— 大人になってから初めての日本はどうでしたか?

20~21歳の頃に1ヶ月くらいは日本に来たことがありましたが、日本で働きながら生活をしたことが無かったので、凄く新鮮でした。今いる環境はとても楽しいですし、子供たちのことを考えたら、日本に来た方が良いのかなと思っていたので、家族のことも考えて日本に来ました。

—— ラグビーチームの通訳をやるということは、警察官と比べて楽しいんじゃないですか?

凄く楽しみながらやらせてもらっています(笑)。ただ、難しいこともあります。的確に訳さなければいけないということもありますが、一番学んだことは、その時々でどういう言い方が良いのかという部分です。状況によっては伝える内容を、全く変えることはありませんが、調整をしなければいけない場面があります。その時のベストな言い回しは何かを常に考えて、瞬時に判断して話さなければいけないので、そこは難しいことでもあります。ただ直訳して話をすることだけが通訳ではないと思います。

—— 例えば、どういう言い回しに変えたりしているんですか?

時と場合によりますが、前後の会話を踏まえた上で、「そうではなくて。」という言い方をしているのに対して、「こうした方が良いと言っているんだよ」というように、相手に分かりやすく言い変えることはあります。

僕は外国人選手と日本人選手の間に入ったり、外国人コーチと日本人選手の間、外国人コーチと日本人コーチとの間など、様々なバリエーションがある中で、的確にしっかりと伝えておかなければいけないシチュエーションがあったり、ニュアンスは残しながらも言い方を変えて言うべきシチュエーションなどがあったりします。

何を意識するかは、そのバリエーションやシチュエーションによって変えています。例えば、映画の字幕も同じで、違う映画で同じことを言っていたとしても、訳し方は違ったりすると思います。

◆発言者と同じ動きで話す

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—— どういうところに気をつけて訳しているんですか?

発言者の感情の入れ方ですね。この人はどういうことを思って、この発言をしているのかというところまで読まなければいけません。言葉面だけを見るのではなくて、その発言の前後まで考え、どういう思いで言っているのかを瞬時に判断することが大事だと思います。

—— それは日本語であろうが、英語であろうが、発言者の個人差が出ますね

個人差は凄くありますね。あと、日本人は言いたいことをなかなか言えない傾向があると思いますが、外国の人たちは思ったことはしっかりと言いますし、ディスカッションをするカルチャーの中で育ってきていると思います。

日本の中には、"言わないことが美"というカルチャーもあると思います。だから、そこまで考えて、言わないから思っていないと考えるのではなくて、その前後の言葉で「どういうことを言いたいのか」を考えるようにしています。そのため、その場では言わなくても、あとで「さっき言われたのは、こういう意味があって言われたんだと思うよ」と伝えたりすることもあります。

—— 相手の思いを汲んだことが間違えている時はありませんか?

それはないようにしていますよ。確実にその思いが汲み取れた時にしか言わないようにしています。通訳としての大前提として、正確に伝えなければいけないということがあります。ただ、相手の思いを汲み取るという部分に関しては、自分の思い入れが強すぎると、ニュアンスが変わって伝わってしまうこともあると思います。だから、自分の意思を捨てなければいけないですし、絶対に超えてはいけないラインがあって、そのラインをしっかりと持っていなければいけません。

そういった意識がありながらも、発言者の立場に立って話をしないと、伝えたいことも伝わらないと思います。僕が自然とやっていることで気づいたことがあって、発言者と同じ動きをしながら話していたりします。その発言者が手を動かして「こうやってやるんだ」と言うことに対して、僕も同じ動きで話すことによって、その人になっている気分になるんです。それは最初の頃は出来なかったんですが、自然とそうやるようになってきたので、通訳とはそういうことなのかなと思っています。その人の代わりになって話しているという思いがないと、通訳は出来ないと思います。

◆いかにその人になり切れるか

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—— 通訳の大変さと面白さはどこになりますか?

性格の違いがあったり、人によって言い回しが違うので、いかにその人になり切れるかというところが大変ですね。長くチームの中で通訳をやっていると、それぞれの発言者の癖や言い回し、文章を切るタイミングや言うタイミングが分かってくるんですが、そこが分かっていないと通訳をすることが凄く難しいんですよ。その人しか使わない言い方であったり、他の人はあまり使わない言葉をチョイスする癖があるとか、そういうことをいかに早く取り入れられるかが重要になってくるので、初めて会う人の通訳をする時は難しさを感じることがあります。

—— 自分自身のボキャブラリーも増やさなければいけないですよね

新聞を読んでボキャブラリーを増やしたりしていますし、専門的なS&C(ストレングス&コンディショニング)やメディカルの部分は、これまで勉強をしてきたわけではなく知識が多いわけではないんですが、僕がその内容を理解していなければ説明することが出来なくなってしまいます。だからノートにメモを取り、繰り返し読み返すことで、専門的な分野の言葉も増やすように心掛けています。

—— サンゴリアスではスタッフも入れれば60名くらいの人の間に入らなければいけないので、好き嫌いを言っていられないですよね

そういう感情を持たず、無でやっていることが多いですね。ただ、無でやっていながらもベースの部分はしっかりと持っているので、後から「言った内容を覚えている?」と聞かれても覚えていないことが多いんです。言われたことに対して、瞬時に判断して発言することに神経を集中させているので、実際に僕が言った内容は、キーポイントの部分は覚えていますが、全体的にはあまり覚えていないんです(笑)。

—— 外国人コーチと日本人選手の間に立つ時に気をつけていることはありますか?

日常的に会話で使う言葉は日本語になるので、日本人であれば自然と他の人たちの日常会話が聞こえてきて、周りの状況が理解出来ると思います。それが外国人コーチの場合は、日常会話まで僕が通訳するわけではないので、自然と聞こえてくるという環境にはないんです。だから、僕としては彼らの耳になってあげることを考えていますし、他の日本人コーチが自然と聞こえてきている内容を「こういうことを言っていましたよ」と伝えてあげるようにしています。

それは告げ口ということではなくて、日本人コーチが日常的に聞いているであろう情報をしっかりと外国人コーチにも与えてあげないと、彼らが情報共有の中から外れてしまうことに繋がってしまいます。例えば、練習終りに選手同士で話している内容を、外国人コーチに「選手がこういう話をしていたよ」と、必要である部分を細かいところまでピックアップして伝えています。日本人コーチであれば、選手同士が話している内容を聞いて「選手はこういうことを感じているのか」と理解することが出来ると思いますが、外国人コーチの場合はそれが出来ないので、日本人コーチと同じ情報を得られるように心掛けています。

—— 試合の時はどうしているんですか?

試合中はハーフタイムの時に、選手間で話している内容を伝えてあげないと、外国人コーチが近くにいても、選手が何を話しているのかが分からなくなってしまいます。ハーフタイムは短い時間になるので、全てを伝えることは出来ませんが、重要なポイントをピックアップしてコーチに伝えて、その内容を踏まえて、コーチが選手全体にアナウンス出来るような環境を作らなければいけないと思っています。そして、外国人選手が話していた内容を日本人選手に伝えることも重要になります。

◆人同士を上手くまとめるように

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—— 通訳は自分に合っていると思いますか?

僕はラグビーが大好きです。これまで1つのはっきりとした目標に向かってみんなで作り上げて、チームが1つとなりゴールを目指すという環境にいたことがなかったので、毎日が楽しいですし、僕が持っていないものをたくさん持っている人たちが周りにいて、リスペクトしている人たちと一緒に働けているので、チームが勝つためにはどうすれば良いかを常に考えて取り組めていると思います。

—— どうしてそんなにラグビーが好きなんでしょう?

幼稚園の時からラグビーをやっていますし、生まれた時から家にはラグビーボールが転がっている環境でした。ニュージーランドでは毎週テレビでラグビーが放送されていますし、学校の体育の授業でラグビーがあり、誰でもスクリューパスが投げられる環境がありました。本格的にずっとラグビーをやってきたわけではありませんが、常に身近にあるスポーツでしたね。

ラグビーは個人が突出して、自分の仕事だけをしていたのではダメで、みんなが1つの目標に向かって、お互いに協力しながらやります。そこがラグビーならではだと思います。そのためにはお互いのことを知らなければいけませんし、尊重しなければいけませんし、お互いの為、チームの為に自分は何をしなければいけないのかと考えて取り組むというラグビーが好きですね。あとコンタクトの激しい部分も好きです。

—— サンゴリアスの通訳となり2シーズン目が終わりますが、昨シーズンと比べて、チームの雰囲気の違いなど感じることはありましたか?

昨シーズンは1年目だったので、自分の仕事を一生懸命取り組むということばかりに集中していたと思います。今シーズンは昨シーズンの経験があったので、シーズンの流れが分かっていましたし、改善出来るところを意識して取り組めていて、昨シーズンはなかった会話を選手と出来ていたり、選手1人1人の性格まで見ることが出来ていると思います。自分に余裕が持てるようになってきているので、より楽しくなってきていますね。

—— 例えば、昨シーズンから変えた部分はどこですか?

最終的にはチームとして強くなること、チームとして勝たなければいけないという部分になるので、チームにとってベストは何なのかを常に頭に置いて考えられるようになったと思います。人によっては「首を突っ込み過ぎじゃないの?」と思われるかもしれませんが、通訳ではない部分でのコミュニケーションであったり、良い意味で自分しか知らない情報をみんなに共有したりしています。

もちろん守秘義務上、通訳として言ってはいけないことがたくさんあるので、そういった情報はしっかりと守っている中で、チームが良くなるためであれば、言っても良いんじゃないかというラインが分かってきたことも大きいと思います。

昨シーズンまでは分からなかった、ここまでであれば言った方が円滑にチームが進むという部分が、今シーズンは分かるようになりました。僕が通訳として感じた「この人はこういうことを言いたかったのかな」とか「この人はこういう風に受け取ったかな」という細かい部分まで考えてやるようにしています。通訳するだけじゃなくて、人同士を上手くまとめるようにしてあげるということを、チームが良くなるのであればやっていこうと思うようになりましたね。

—— 警察官としての経験が活きているのかもしれないですね

そうかもしれないですね。中立の立場を守りながら、集まった情報から色々と考え、周りと調整していくという部分は警察官に通じているかもしれないですね。

◆スーパーラグビーや日本代表

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—— 中長期的な目標はありますか?

僕は通訳としてまだ2シーズン目ですが、僕に合っている職業だと思っているので、この道でやっていきたいとは思っています。ただ、この先もチャレンジしていきたいという気持ちが常に自分の中にあるので、最終的にはスーパーラグビーや日本代表などでやってみたいという思いもあります。

—— 2015年のラグビーワールドカップイングランド大会での日本代表の活躍を見て、どう感じましたか?

とてもエキサイティングでしたし、あのような舞台で活躍出来ることを羨ましかったですね。もちろん選手たちが成し遂げたことは素晴らしいことだと思いますが、多くのスタッフを含めた日本代表として成し遂げたことだと思うので、正直、あの中に入ってやってみたいなという気持ちが少し湧きました。

—— ご家族は応援してくれていますか?

応援してくれていますね。最初は僕1人で日本に来て、選手などがいるサントリーの寮に入る予定だったんです。話をしていたらサントリーの社宅に入れることになって、そのことをニュージーランドに帰った時に家族に話したら、最初は驚いていましたが、日本に来ることを受け入れてくれて、一緒に日本に来てくれたので、妻と子供たちには感謝しています。

—— 通訳としての今シーズンの目標は?

全てはチームが勝つためで、僕が間に入ることによってスムーズなコミュニケーションが出来て、同じ共通認識で良いディスカッションが出来る場を提供していくということが、僕の仕事だと思います。そこのベースを落とさずに、それに加えてチームが良くなるために出来ることに目を配らせてやっていかなければいけないと思っています。

—— 背負い過ぎてしまうことはありませんか?

背負い過ぎることに関しては、警察官で慣れているので大丈夫です。警察官をやっている時は、もっと大きなストレスを抱えていましたよ。常に生と死を抱えていましたし、刑務所に何十年入るか入らないかという犯人の人生を判断することもしていたので、とても大きなストレスがありました。それに比べれば、通訳をしていて死ぬことはないですからね(笑)。僕が手錠を掛けるか掛けないかという判断で、その人が20年刑務所に入るか入らないかが決まるので、その判断の方が大きなストレスだと思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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