2016年1月13日
#464 北出 卓也 『何でもレベル高く出来る選手になっていきたい』
新人ながらサンゴリアスのフッカーとしてリーグ戦全試合に出場した北出卓也選手。手応えを感じつつ、自らの得意分野と課題をしっかりと把握して、日々更なる成長を目指しています。シーズン終盤の北出選手に話を訊きました。(取材日:2015年12月25日)
◆ワークレート、スロー、そしてディフェンス
—— 1年目から試合に出続けていますが、今の状況をサンゴリアスに入る前からイメージ出来ていましたか?
正直、ここまで試合に出るイメージはしていませんでした。社会人になりトップリーグのチームと対戦した時に、コンタクトなどの部分でもっとプレッシャーを受けるかと思っていましたが、案外通用したと感じたところがあって、そこから自信を持てるようになり、どんどんチャレンジしていけるようになったと思います。
—— 学生の時にイメージしていた学生と社会人との差が、考えていたよりも小さかったということですか?
そうですね。大学生の時は、社会人のチームと試合をした時にかなりのプレッシャーを掛けられて、「社会人は凄い」というイメージを持っていたんですが、実際にサントリーに入ってトップリーグのチームと試合をしてみたら、そこまでの差は感じませんでした。
—— それはなぜだと思いますか?
サントリーに入って必死に取り組んでいく中で、「自分がどれだけ通用するか」という楽しみな部分もありましたし、実際に通用する部分を感じて、自信に繋がっていったと思います。
—— 大学生の時に社会人でもラグビーを続けるという選択をしたということは、自信を持ってサンゴリアスに入ってきたと思いますが、その時はどこに自信を持っていましたか?
東海大学で1年生の時からずっと公式戦に出させてもらっていたのである程度の自信は持っていました。それに、僕の1つ上に崩さん(光瑠/東芝)がいて、その人とずっとポジション争いをしてきて、3年の時に追い越すことが出来ました。崩さんがトップリーグでも通用していて、目指すべきところがはっきりとしていたので、自信を持つことが出来たんだと思います。
—— 高校時代はどうでしたか?
高校時代は自信を持ってプレーしていたわけではありませんが、代表の候補などに呼ばれるようになって、少しずつ自信を持つようになりました。
—— 自己分析してみて、自分のどこを認められたと思いますか?
僕の強みはワークレートとラインアウトのスローの精度、そしてディフェンスだと思っているので、そこを認めてもらったんだと思います。
—— その強みは昔から自信を持っていたんですか?
ずっとボールを動かすチームでプレーしてきたので、セットプレーだけじゃなく、フィールドプレーの部分も意識して取り組んできました。
—— 自分のことをタフだと思いますか?
サントリーでやってきたことで、タフになりつつあると思います。最初の頃は怒られることが多々ありましたが、そこから少しずつ変わることが出来てきていると思います。僕が劣っている部分を的確に指摘して頂いているので、僕にとってプラスになっていると思います。
◆フォワードで勝って試合に勝つ
—— ラグビーをずっと続けていこうと思ったのはいつ頃ですか?
高校に入った時には決めていました。中学の時にラグビーを頑張っていけば、高校や大学の推薦をもらえる可能性があることに気づいて、そこからラグビーを頑張っていこうと考えるようになりました。もちろんラグビーが面白いから頑張れたということがあると思います。
—— どこが面白かったんですか?
高校は東海大仰星高校に行ったんですが、土井先生(崇司/監督)の考えで、"ノーラック・ラグビー"を掲げて、倒れずにボールをどんどん繋いでいくラグビーを目指していました。フォワードもパスをしますし、そのラグビーが凄く楽しかったですね。
もっと細かいところを言うと、僕はバックスやフォワードに固執したスタイルが好きではなくて、15人でラグビーをしていくスタイルが好きなんです。その文化が仰星高校にはあって、そこから更にラグビーが好きになっていきました。
—— 大学ではどうでしたか?
大学では最初に厳しさを知らされました。コンタクトの部分は高校とは全く違いました。ただ、週5回はウエイトトレーニングをしていたので、自然と対応出来るようになっていきました。
—— 大学の時は、ラグビーのどこが面白かったんですか?
大学では少し考え方が変わって、一番に「勝つ喜び」を感じました。ラグビーを楽しむことも大事なんですが、東海大学では「まずはフォワードが勝たなければ、ラグビーで勝てない」という考え方があったので、フォワードの練習はとにかく厳しかったですね。
厳しい練習をしていても、試合でフォワードがトライを取ったり、スクラムからトライを取ったりすると喜びを感じるようになっていきました。高校の時は15人で楽しむ感じでしたが、大学では「フォワードで勝って試合に勝つ」ということが一番嬉しかったですね。
◆物を回転させてしまう
—— ラインアウトのスローはいつ頃から得意と感じるようになりましたか?
中学からスロワーをやるようになりました。僕は3歳でラグビーを始めて、常にボールに触れる環境にあったので、ボールに慣れていて、手先の器用さはあったと思います。あと中学の時には家の中で、暇さえあれば寝転びながらボールを投げていて、兄に「うるさい」と言われなければずっと投げていました。
—— それは何が面白かったんですか?
"ラグビーあるある"だと思うんですが、スクリューパスを投げる感じで物を回転させてしまうんですよ。筆箱とかも回転させて遊んでたりしていて、綺麗に回っているのが楽しかったですね。
—— スローを上手く投げるコツは何だと思いますか?
タイミングが一番重要だと思います。それはスロワーだけじゃなくて、リフターとジャンパーとのタイミングが合った時に初めてラインアウトが成功すると思います。あと相手もいるので、投げる前にジャンパーがどれくらい伸びてくるかということをイメージしながら、タイミングを合わせて投げるようにしています。
最近は、ラインアウト成功率は悪くはないと思いますが、プレッシャーを感じてリラックスして投げられない時はミスをしてしまいますね。極論を言えば、何も考えていない状態で投げることが出来れば上手くいくと思います。そこに達するためには経験が必要になるので、数を重ねるしかないと思います。
—— 試合ではどういうところに気をつけていますか?
試合でのラインアウトになれば「投げることを全うしよう」と考えているので、コーラーや味方を信頼して、「サインが出たところに投げるだけ」と考えています。試合に入れば雑念が消えて、プレーに集中出来るんですが、練習中はそこまで気持ちが入り込めていないので、練習から試合の時と同じ精神状態で取り組めるようにしていきたいと思います。
—— ラインアウトの魅力は?
僕はラインアウトが好きで、相手のジャンパーが飛んでボールを触れず、そのすぐ後ろの味方がキャッチする光景が一番好きです。もちろんラインアウトを成功させる事が一番大事です。
高校の時にやっていた練習で、僕の向かいに身長の高い人が両手を挙げて立って、その奥に身長の低い人を立たせて、身長の高い人を越えて身長の低い人に投げる練習をしていました。そして徐々に身長の高い人と低い人の間を縮めていって、スローを成功させるということをやっていました。その練習のお陰でスローが得意と感じているのかもしれません。
—— ディフェンスが得意な理由は?
昔はタックルが大嫌いで、中学まではあまりタックルに行かなかったんですが、高校くらいからディフェンスの楽しさを覚えたと思います。僕はハードタックラーではないんですが、抜かれることも少ないと思いますし、タックル成功率もそんなに悪くはないと思います。
ディフェンスでは組織が8割で、あとの2割は個人のメンタルになってくると思います。高校の時は、フルコンタクトの練習がなくて、タックルの練習をするのもタックルバッグを相手にしたものばかりでした。なので、組織としてディフェンスをして追いこんで、最後にどう倒すかという練習をしていました。組織が崩れると相手に抜かれてしまうので、味方と連携してディフェンス出来た時は楽しかったですね。
—— タックルの技術はどう身につけたんですか?
サントリーに入ってから指摘されるようになりました。社会人では相手も強くなるので、スキルが必要になってきて、その意識していることが試合中に出せると嬉しくなります。
◆ボールを持って走る
—— ラグビーを始めたきっかけは?
3歳の時なので全く記憶にはありませんが、親にラグビースクールに連れて行かれて始めました。気づいたらラグビーをやっていて、ラグビーが嫌いになる時期もありましたが、止めさせてもらえる環境ではなかったので、ずっと続けていました。
—— なぜ止めさせてもらえなかったんですか?
父親が高校、大学とラグビーをやっていたということもあって、今でもラグビーが好きですね。家の近くにラグビースクールがあって、今もそこでコーチをしているんです。僕は男4人兄弟の末っ子で、兄弟全員がそのスクールに入っていたので僕もラグビーをやることになって、「とりあえず小学6年までは続けろ」と言われていました。
ラグビーと並行して小学校の時にはサッカーもやっていて、中学になる時にサッカーかラグビーかのどちらかを選べたんですが、父親がラグビーを選んで欲しそうな感じを出していたので、中学のラグビー部に入りました(笑)。
—— 地元が京都ですが、両親は応援に来てくれていますか?
親は自営業で忙しくて、なかなかタイミングが合わないんですが、日曜日に試合をやる時には応援に来てくれます。たまに実家に帰った時には「スクールに顔出しに来て」と言われるので、行ったりしています。
—— サンゴリアスではどういうプレーを出していきたいですか?
ボールを持って走ることも好きで、そういうラグビーがやりたくてサントリーに入りました。そのためにはスクラムも重要になってくるので、先輩方にスキルの部分を教えてもらい、上達させていこうとしています。
—— 話を聞いていると、量よりも質を求めている感じがします
そうですね。ただ、大学の時は圧倒的に量でしたね(笑)。ただ、量も必要だと思います。
—— 社会人になってラグビーの面白さは変わりましたか?
1つ1つのプレーが大事で、一瞬でも気が抜けない試合ばかりなので、そういう中で試合をする楽しさがあります。あと、相手が強いと燃えるタイプで、凄い人たちの中でプレーすることに楽しさを感じています。
—— 怪我には強い方ですか?
社会人になってからは全く怪我をしていません。体をケアする環境が充実しているので、怪我を未然に防げていると思います。
◆アタックとラインアウト
—— 昨年行われたラグビーワールドカップを見て、感じるものはありましたか?
ラグビーをしている者として、凄く感動しました。他の国のフッカーと比べても、堀江さん(翔太/パナソニック)は凄い選手だと思っていて、堀江さんのプレーは注意して見ていました。
—— 堀江選手のどこが凄いと思いますか?
まずは欠点がなくて、出来ないことがないと思います。何かの記事を読んだんですが、その記事では「2011年大会の時にはスクラムのことを全く理解していなくて、日本のスクラムを引っ張れなかった。そこが自分の弱点」というような内容でした。今はスクラムも強いですし、ラインアウトも上手いと思います。
ワールドクラスの選手のプレーを見ていると、フッカーとしてはセットプレーの安定が絶対に必要で、そこにスキルやフィールドプレーをプラスしていかなければいけないと思います。堀江さんはタックルしてから起き上がるまでが速くて何回も繰り返し行っていましたし、アタックでもあのような舞台でキックを蹴ったりすることが出来ることが凄いと思ってしまいますね。常にリラックスした状態で試合に臨んでいると思います。
—— リラックスが大切だと意識するようになったのはいつ頃ですか?
基本的には緊張するタイプではないんですが、舞い上がった状態で試合に入ってしまうとミスしてしまうという経験を高校の時からしてきました。高校や大学の時には試合前に感極まって泣いてしまう選手がいて、僕もそういうタイプだったんですが、グラウンドに入る前にはしっかりと切り替えて、練習に入る時と同じような感覚になるようにすることを心掛けるようにしていました。
—— 社会人で1年間やってきた中で見えた課題は?
スクラムをリードする部分ですね。練習中にハタケさん(畠山健介)から指摘をして頂いているので、そこを改善していきたいです。ただ、スクラムはすぐに改善出来るものではないので、経験を重ねて、常にレベルアップしていくしかないと思います。
—— 逆に通用している部分は?
アタックとラインアウトだと思います。アタックでは、基本的にタイトファイブはスクラムハーフからボールをもらう形が多いんですが、ボールをもらう位置やコースは自信を持ってプレー出来ています。
◆ラグビーだけやっていたのでは分からない経験
—— 今シーズンが始まる前に立てた目標は?
試合に出ることを目標にしていましたが、開幕戦では青木さんがスタメンだったので、まだ青木さんに追いつけていないと思います。試合のメンバーに選ばれるような位置に立ち続け、勝利に貢献できるようなプレーをしていきたいと思います。
—— 長期的な目標はありますか?
やっぱり2019年に日本で開催されるワールドカップに出場することが大きな目標ではあります。ただし、サントリーで結果を出し試合に出続けられる選手にならなければ、日本代表も見えてこないと思っているので、まずはサントリーで欠かせない選手になりたいと思います。
—— 仕事をやりながらラグビーをやるという環境には慣れましたか?
サントリーに入る前に、いち社会人として仕事もやらせてもらえる環境でラグビーをやりたいと考えていました。サントリーに入って凄く良い経験を積ませていただいていますし、ラグビーだけやっていたのでは分からないことも経験させていただいているので充実しています。
—— 仕事は何を担当しているんですか?
横浜支店で仕事をさせてもらっていて、横浜や川崎エリアなどのスーパーを回って、お酒の担当の方に営業をしています。仕事をしていて大変と感じることもありますが、そこは良い経験と捉えて取り組んでいます。
—— 今ラグビーをしている上で、気をつけていることは何ですか?
常に向上心を持って取り組んでいますし、それが無ければ選手としての成長は無いと思います。「上手くなりたい」とか「強くなりたい」という気持ちを持って、練習に入るように心掛けています。ラグビーが好きで続けているので、そういう気持ちを持つことは当たり前のことだと思うんですが、そういう気持ちを忘れてしまうと成長がなくなってしまうと思います。
今は試合に出させていただいていますが、試合に出ているからといってそこで満足するのではなくて、常に向上心を持って上を目指していきたいと思います。あるひとつのプレーが凄いという選手では無くて、何でもレベル高く出来る選手になっていきたいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]