2015年12月16日
#460 松島 幸太朗 『良いところを言う』
ワールドカップイングランド大会での日本代表の活躍で一躍注目を浴びる存在となった1人の松島幸太朗。トップリーグに戻ってもその人気は健在。毎試合、1つ1つのプレーに大きな注目が集まる中、そのプレッシャーを楽しみながらプレーしているようにさえ思えます。日々成長を続けるポイントはどこにあるのか?本人はそれをどう捉えているのか?リーグ戦を戦う中で松島幸太朗はどう考えているのか、心境を聞きました。 (取材日:2015年12月4日)
◆何をしてくるか予測してプレー
—— 松島選手にとって、今回のワールドカップはどういう大会でしたか?
もちろん成長も出来ましたし、周りをよく見る能力が上がったと思います。グラウンドでは他の部分で動いている選手もいるので、次のことを予測することなど、危機管理能力の部分が更に成長したと思います。
—— ワールドカップではピンチを救うようなタックルも見られましたね
事前の分析もありますが、相手のアタックを見て何をしてくるかを予測してプレーするようにしていました。
—— ワールドカップでの自身のプレーを振り返るとどうでしたか?
ディフェンスで言えば、止めようと思ったところでは止められていたので、マイナスの要素はなかったと思います。
—— 一番印象に残る試合やシーンは何ですか?
南アフリカ戦とサモア戦です。南アフリカ戦では、南アフリカがプレッシャーを受けていて、モールではなくてPGを狙いに来たところは印象に残っています。
—— 南アフリカ戦ではフル出場を果たしましたが、日本代表が逆転トライを決めたシーンはどういう思いでしたか?
とにかく逆転するチャンスが来るまではボールを死守するということを考えていました。トライを取れば勝てるという状況で、アタックで優位に立てていましたし、十分に勝てるチャンスはあると思っていました。
—— サモア戦についてはどうですか?
セットプレーで優位に立っていたので、どのセットプレーも印象に残っています。僕のプレーとしてもセットプレーがキーポイントになっていましたし、ディフェンスについても印象に残っています。
ほとんどのセットプレーでフォワードが力を発揮していて、バックスがしっかりとゲインラインを切れれば自分たちのアタックに持ち込めると思っていたので、そこに集中していました。
◆コースを上手く使うこと
—— 日本代表に選ばれワールドカップでも活躍され、順調に成長していると思いますが、自分自身ではどう思っていますか?
今のところ素晴らしい経験が出来る環境にいることが出来ているので、その環境にいる上で、全ての試合に出ることによって経験値が上がったと思います。
—— 目指している選手像と比較して、現在はどの辺りまで来ていると思いますか?
理想像というものをはっきりとイメージはしていませんが、現時点ではある程度の理想には近づいていると思います。
—— ワールドカップを経験して見えた課題はありますか?
課題としてはランニングやアタッキングのコースを上手く使うことだと思います。内に切ったり外に切ったりするバリエーションであったり、周りの選手をどう使うかという部分ですね。
—— どのポジションをメインに考えているんですか?
ボールをもらう回数が多い方が僕の力は発揮出来ると思っているので、個人としての希望は13番と15番です。ディフェンス面では上手く出来ていると思うので、相手のアタックの読むという部分は更に伸ばしていきたいと思います。
—— 今回のワールドカップで、グラウンド以外の部分で為になったことはありますか?
ラグビーでは分析も大事なんですが、試合に臨むにあたってはリラックスすることも重要です。遠征中は1人部屋ではなく、常に誰かと一緒にいることになるので、ストレスがかかることも当然あります。その中で、どうすればリラックス出来るかを考えて、1人で散歩に出かけたり、みんなで街に出かけて何かをしたりしてリラックスすることを心掛けていました。
—— 選手がひとつにまとまっていましたよね
ワールドカップに入る少し前から選手が自立をして、何をすればアタックが良くなるか、何をすればディフェンスが良くなるのかを考えて取り組めたと思いますし、プレーヤーズ・ミーティングの数も増えて、選手同士でも情報共有が出来ていたと思います。
—— 今回のワールドカップを経験して、2019年に日本で開催されるワールドカップにも出場したいという思いは強くなりましたか?
2019年のワールドカップの方がプレッシャーは大きくなると思いますが、自国で開催されるということは嬉しいことですし、もちろん出たいと思っています。
◆悪いところだけを言わない
—— 今回の日本代表では松島選手は若い方でしたが、リーダーシップを発揮する場面などはありましたか?
試合中は頻繁に声を出すことは出来ていたと思います。練習から声を出すようにしていましたし、それを試合でも出来たと思います。
—— 練習通りに試合でも力を発揮するための秘訣は?
練習の時から、個人やチームの悪いところだけを言わないようにしていました。その日のコンディションによってミスが起きてしまうことはあると思うので、1回だけでは言わないようにして、それが続くようだったら言うようにしていました。良いところを言った方が言われた選手は気持ちが良いと思うので、その選手の精神的な部分も考え伝えていました。
—— その方法はどうやって身につけたんですか?
海外のチームでは、練習や試合でプレーが終わった後に、「良かったよ」と声をかけるのが普通でしたが、日本代表では一時期ネガティブなことばかりを言うようになってしまっていて、それでイライラしてストレスが溜まってしまうことがありました。
—— 一緒に日本代表に選ばれていたサンゴリアスの選手はポジティブでしたか?
特にコスさん(小野晃征)は、良いところを引き出そうとしている印象を受けました。
—— メンタルコーチとは何か話をしましたか?
僕はあまり関わっていませんでした。自分で自己分析をしていましたし、どうすれば良いのか分からずメンタルコーチと話をするということはほとんどなかったですね。
—— 自己評価として、メンタルは安定している方だと思いますか?
僕は安定している方だと思います。良くない試合内容の時にはイライラすることもありますが、基本的に怒ることは少ないと思います。あと、南アフリカ戦の前でもナーバスになることもなく、いつもと変わらない精神状態でいられたと思います。
—— メンタルを安定させるために取り組んでいることはりますか?
次に自分がやるべきことを考えたりしていて、あまり先のことは考えないようにしています。子供の頃から、あまり周りを気にしないタイプだったと思います。
—— 慌てる時はありませんか?
今シーズンのトップリーグ開幕戦のパナソニック戦で、点差が広がりリードされている時でも、焦っても良いことはありませんし、それは現実として受け入れて、とにかく自分たちのラグビーをするということを考えていました。
◆コミュニケーションを取っていきたい
—— 今シーズンのサンゴリアスの状況はどうですか?
まだ迷いがある選手もいると思うので、迷いなくプレー出来る選手が、迷っている選手を思いきりプレー出来る環境にしてあげることが大切だと思います。その中でバックスは若い選手が多くて、特に江見ちゃん(江見翔太)は、プレシーズンリーグにも出場はしていましたが、トップリーグ開幕戦であれだけ多くのお客さんの前でプレーする経験は初めてだったと思うので、少し硬さが感じられました。経験値のある選手が開幕戦のような状況でも、若い選手の強さを引き出せるようにしていかなければいけないと思います。
—— これからチームの調子が上がっていく予感はありますか?
それが決まるのが、今週の試合(12月6日Honda HEAT戦)だと思います。ホンダ戦ではっきりと自分たちのラグビーをして勝てれば大丈夫だと思います。
—— 今シーズンのサンゴリアスでの松島選手の役目は何だと思いますか?
コミュニケーションで全てが変わるので、グラウンド内外で、どんどんコミュニケーションを取っていきたいと思います。
—— いま改めて感じる、ラグビーの面白さは何ですか?
これまでは上位チームが決まってしまっていましたが、今シーズンはトップリーグには海外のスター選手がたくさん所属していて、それぞれのチームが強くなっているので、どのチームも強くなっている中で試合をするのが面白いですね。あと、今シーズンは短いので、何が起こるか分からない面白さもあると思います。
相手が強い方がやりがいもありますし、僕らとしても更に頑張らなければ勝てないという意識になるので、そういう中でラグビーをすることが面白いですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]