2015年11月18日
#456 畠山 健介 『ラグビーの本質である激しさが伝わるラグビー』
ワールドカップで日本代表をリーダーの1人として引っ張ってきた畠山健介選手。この4年間、そしてワールドカップの3勝で得たものは何なのか?さらにトップリーグを始めとする今後のラグビーにどう繋げていくのか?熱さ冷めやらぬタイミングで、その心境を訊きました。(取材日:2015年10月29日)
◆本当に悔しい
—— 今回のラグビーワールドカップでの成果は?
ベスト8を目標に4年間かけて取り組んできたので、その目標を達成することが出来ませんでしたし、個人的には、ワールドカップという舞台で、トゥイッケナム・スタジアム(開幕戦および準々決勝、準決勝、決勝などが行われた、ラグビーの聖地と言われるスタジアム)でプレーしたかったという思いがあったので、とても残念でした。3勝することが出来たことは素晴らしいことだったと思いますし、喜んでくれたファンの方がたくさんいましたが、個人的には残念な気持ちです。
—— これまでの日本の歴史を変えたということについてはどうですか?
それに関してはとても良い結果だったとは思いますが、チームの目標は3勝することではなく、ベスト8に進むということだったので、その目標を達成出来なかったことは本当に悔しいです。 —— 良かったと思うところはどこですか? 日本人の可能性を見せられたということと、ワールドカップをきっかけに「ラグビーを好きになった」とか「ラグビーをもっと知りたい」と言ってくれるファンの方が増えたことは、ひとつの成果だと思います。 「ワールドカップを見たよ」とか「凄かったね」と言ってくださる方もいらっしゃいますし、メディアにも多く取り上げて頂いていて、環境の変化を感じています。ただ、その中でも、最初に話した思いが先に出てきて、今回のチャンスを逃したことは、正直大きかったと思っています。 本当の意味での歴史を変えるということは、ベスト8に進むことだったと思っているので、今回のワールドカップでチャンスを逃したことが本当に残念です。 —— 南アフリカに勝ったという点は? 誰が良かったとか、個人のお陰ということではなく、選手やスタッフ、そしてワールドカップスコッドに入れなかったメンバーも含め、チームとしてあの試合に向けて努力をした結果だと思います。それに加え、運や色々なめぐり合わせもあったと思います。自分たちが大きなことをやり遂げたことは良かったと思います。 ◆やってきたことがフラッシュバックのように —— 南アフリカ戦では後半13分にベンチに下がりましたが、その時には勝てると思っていましたか? 勝てるというよりは、良い流れで引き継いだと思っていました。最後のスクラムの場面では、カーン(ヘスケス/宗像)の逆転トライまでどうなるか分からない状況だったので、仲間を信頼しつつ祈るような気持ちでしたし、「このまま行くんじゃないか」という期待など、色々な感情が湧いていました。 —— 最後のスクラムを選択した場面は、ベンチで見ていてもスクラムだと思いましたか? 相手にシンビンが出て数的優位でしたし、一番強いパックのメンバーが出ていたので、選択肢としては有りかなと思っていました。スクラムの時に相手はプロップにシンビンが出ていたので、1人変えてプロップを入れる理屈は分かるんですが、あの時にムタワリラ(テンダイ)とデュプレッシー(ヤニー)の2人が同時に入ってきたんですよ。出血もなかったと思いますし、1人しか交替が出来なかったと思うので、なぜ2人が交替で入ってきたのかが、未だに分からないんです。あの交替で南アフリカも強いパックに戻ったので、それでプレッシャーを受けていましたね。 —— 南アフリカに勝った瞬間が一番嬉しかったですか? 嬉しいという気持ちと、目の前で起きている現実が夢のような感覚と、これまでやってきたことがフラッシュバックのように思い浮かび、色々な思いが交錯して一言では言い表せないような感情になり、自然と涙が溢れ出ました。その時にノンメンバーだった選手もベンチまで降りてきて、一緒に喜びを分かち合えたことが大きかったと思います。 「初戦の入りがとても大事だ」とエディー(ジョーンズ/前日本代表ヘッドコーチ)も言っていましたし、過去にワールドカップを経験したメンバーが、口を酸っぱくして言い続けてきていたので、あのような結果を出せたことが、そのまま良い流れを引き継いでいけたんだと思います。 —— ワールドカップ前にはキャプテン代行を務め、いつにも増して責任感を感じていましたか? スーパーラグビーメンバーがやるべきことをやって、残ったメンバーもやるべきことをしっかりとやっている中で、リーダーズグループもあったので、僕が気を張って何かを発言する必要もなかったですし、他のメンバーがいくらでもサポートしてくれていました。 6月には一時期チームを離れて、キャプテンとしての責任を全う出来なかったところがあったんですが、あれだけ優れたメンバーがいる中で、代行とは言え、キャプテンをやらせて頂いたことは、とても良い経験をさせて頂いたと思っています。 ◆8人で組む意識を強化 —— 日本代表メンバー全員がポジティブだったと思いますが、ポジティブになれた要因は何だと思いますか? ゲームを進めていく中で、みんなが「この場面は経験したことある」ということを感じて、それに対して「やれている」と感じることを繰り返していたと思います。スコアはされましたが、そこでいつもであれば、引きずってズルズルといってしまうところで、「次に何をしなければいけない」と切り替えられたことと、そこで常に達成出来たこと、そして会場のジャパン・コールも相まって、かなり良い状態で波に乗って行けたことが大きかったと思います。 —— それはこれまでも目指していたと思いますが、今回のワールドカップでそれが出来たのはなぜだと思いますか? やっぱり準備でしょうね。しっかり時間をかけて準備をした成果が出たんだと思います。キツいトレーニングを積んできたこともありますし、ただキツいトレーニングをするだけじゃなくて、「なぜこのトレーニングをするのか」という理由までしっかりと理解した上でトレーニングを積むことが出来たので、プレッシャーがある中、試合で十二分に動くことが出来たんだと思います。 —— スクラムが強くなったことがチームの自信にも繋がっていたと思いますが、それはどこが強化されたんですか? スクラムのルール変更が行われて、今のルールは日本にとってもポジティブなルールになったので、そこが大きかったと思います。あと、ダルマゾ(マルク/前日本代表スクラムコーチ)が来て、しっかりと8人でスクラムを組む意識の部分を強化してくれたので、そこが今までのスクラムとは違うと思います。もちろん技術面やポジショニング、バインドの位置などの細かい部分も含めて、その意識が格段に上がっていると思います。 —— 8人で組む意識の中で、どこが一番大きく違うんですか? 僕のこれまでのラグビー人生では、スクラム練習では8人対8人で、実際にスクラムを組んで、どちらが押したか押していないかというトレーニングが多かったんですが、日本代表ではそういう練習は少なくて、どちらかと言えば、8人がどう動くかという練習をしてきました。 8人が同じ方向に動くという練習をずっとやってきて、8人が横に動いたり、縦に動いたり、たまに回ってみたりして、それはかなり負荷が掛かることなんですが、8人が同じ動きをして、お互いを感じ合う意識のところを高めてくれました。8人で組むということに直結したトレーニングをしていたと思います。 ◆日本代表の繋げていける文化 —— フランス出身のダルマゾコーチが素晴らしいのか、フランスのスクラムが素晴らしいのか、どちらだと思いますか? 両方だと思います。フランスの記者に話を聞いても、「ダルマゾみたいに変わった人はいないよ(笑)」と言っていたので、彼独自の凄さもあると思いますし、フランス流はもちろんのこと、日本人のことを考えたトレーニングをしてくれていたと思います。 フランス代表でやっていた頃とは遥かに体格で劣る日本人に対して、どうスクラム強化するかということを、考えて考え抜いたトレーニングを組んでくれていたと思います。それはスティーブ(ボーズウィック/前日本代表FWコーチ)も同じで、彼もイングランド代表でやっていた頃とは比べ物にならないくらい背の低い、フィジカルの弱い日本人を、あれだけラインアウトの獲得率の高いチームに育て上げたので、この2人のフォワードコーチの功績はかなり大きいと思います。 —— 日本人のスクラムは低いんですか? 低いですし、その低さは自信を持って良いと思います。低いスクラムは相手のパワーをいなすことを考えて、まともに受け止めなくて良いので、今後の日本代表のひとつの文化として繋げていければ良いと思います。 —— ラインアウトはどこが良くなったんですか? 「なぜこのラインアウトをするか」ということを全て落とし込めたことと、あとはテンポと勢いを常にキーワードにして取り組んでいました。ワールドカップでは自分たちよりも背の大きい相手と同じプールに入ったので、高さでは勝てないんです。 セットしてから「よーい、どん」でボールを入れると高さでは対抗出来ませんし、動いて相手をずらしても、相手の方が10cmも20cmも大きければ、指が引っ掛かって相手ボールになってしまうプレッシャーがあります。だから、相手がディフェンスをセットする前に飛んで、速い球出しを心掛けていました。「勢いをそのままバックスに繋げられるのがラインアウトだ」と、ずっとスティーブが言っていたので、その練習を繰り返しやっていました。 —— そのためには速くセットしなければいけませんね そのためにフィットネスも鍛えましたし、疲れた状態でも精度の高いラインアウトをするために、疲れた状態を作ってラインアウトをやる練習もしました。トレーニングが全てリンクしていて、本番で疲れてきても精度を保つことが出来ましたし、実際に4試合通して93%という高い獲得率を残すことが出来ました。平均身長が190cmにも満たない日本代表が、ラインアウト獲得率93%という数字を残したことは、可能性を見せたと思います。ラインアウトも繋げていける文化だと思います。 ◆外に出ろ —— 4年間で一番辛かったことは何ですか? ワールドカップに入ってもキツい練習はしていましたが、今年の4月から7月くらいまでが辛くて、その中でも6月はメンタル的にも体力的にもキツくて、逃げ出す選手がいなかったのが不思議なくらいキツいことをやっていました。 —— 逃げ出す選手がいなかったのはなぜだと思いますか? やっぱり桜のジャージを着てワールドカップに出たいという思いがあったからだと思います。逃げ出す勇気が無かったということもあったかもしれませんが、仲間が一緒にキツいことをやっているということも大きかったと思います。 —— これまでのトレーニングの中でも6月が一番のピークだったんですか? そこからもキツさは上がっていきましたね。6月の宮崎合宿では2週間単位でプログラムが組まれていて、基本的にはグラウンドとホテルの食事会場とリカバリーのプール、お風呂の行き来しかありませんでした。体もそうですが、メンタル的にもどんどん疲れていきましたね。 家族にも会えませんでしたし、周りにリフレッシュしにちょっとお茶飲みに行くような場所も無かったので、どんどんメンタルがキツくなっていきました。その中で、どう自分たちでリフレッシュする方法を見つけて乗り切るかが重要になりましたし、リーダーたちが率先して体を張って、チームの雰囲気を良くすることが出来るかを考えていました。 ワールドカップ期間中もチームの状況が悪くなった時に、リーダーが率先してどう打開するかが試されていて、それも準備かなと考えたら、納得出来ることもありました。 —— お互いに励まし合ったりしていたんですか? 全員で「よし、頑張ろう!」というのはありませんでしたが、基本的には2人1部屋でしたし、仲が良いメンバーで集まったり、外国人メンバーは集まってトランプなどをして気分転換をしていたので、他のメンバーもそれぞれで気分転換していたと思います。 —— 自分たちで考えたリフレッシュ方法は? エディーはよく「外に出ろ」と言っていましたね。お茶をしに行くにも、何をしに行くにも、「キツくて部屋に閉じこもってしまうと、メンタル的にもキツくなる」と言っていて、「キツくても外に出て、コーヒーを1杯飲んで世間話をするだけでも全然違う」と言っていました。 若い選手や僕らでも、この後にキツい練習があると考えたら、なかなか外に出ようとは思えないですよね。けど、そこで出るということも必要だと感じました。 —— ワールドカップ期間中も外に出ていましたか? 出ていました。リーチ(マイケル/東芝)もそう言ってくれましたし、マネージャーもバスの手配などをしてくれて、みんながどうすればホテルに閉じこもらずにいられるかを考えてくれたり、ホテルのWi-Fi環境を整えてくれたり、日本のテレビを見られる機械やテレビゲームを用意してくれたので、メンタルリフレッシュが出来る環境を整えてもらいました。 ◆やらなきゃいけない —— この4年間で、その部分が劇的に変わったんですか? ワールドカップに入って劇的に変わったと思いますが、その前は準備段階だったと思います。PNC(パシフィック・ネーションズカップ)でアメリカやカナダに行った方が、外に買い物やお茶を飲みに行く場所があってリフレッシュ出来ていたんですが、6月の宮崎はメンタル的にキツかったですね。 —— ワールドカップに向けて一番良かったことは、準備ですか? やっぱり準備だと思います。結果が出るかどうかは、その時の運もありますし、どうなるかという部分が大きいので何とも言えませんが、運やチャンスが来た時に、物に出来る準備をしてきたと思います。 —— 信じなければ難しいことだと思いますが、信じられた元は何ですか? それも準備だと思います。「あれだけキツいことをやってきたんだから、俺たちなら絶対に出来る」という思いがありましたし、それだけの量をやってきた自信がありました。 —— いま振り返って、4年間で代表チームとしてピンチという状況はありましたか? エディーが病気になった時もそうですし、エディーが自分でも「プレッシャーを掛けていた」と言っていましたが、4月~6月の時には「なんでそんなに言われなければいけないんだ」というくらいプレッシャーを掛けられていました。 エディーが「それだけプレッシャーを掛けた中で、選手がどうやっていくかを見たかった」と何かの記事で見ましたが、選手としてはあの時はかなり限界を感じていましたし、よく耐えられたと思いますよ。 —— チームが1つにまとまったという感触を、どこで感じましたか? 僕はワールドカップのスコッドメンバーが発表された時ですかね。外される選手も含めて選手全員の前で発表されて、外れた選手が泣いている姿を見た時に、やらなきゃいけないと思いました。 ワールドカップに行ってからも、試合メンバーに入ろうと必死で取り組んで中で、トシさん(廣瀬俊朗/東芝)や湯原さん(祐希/東芝)とか、メンバーに入れなかった選手が裏方業に徹してくれた時も、「そういう人たちのために」という思いになりました。 1つにまとまったターニングポイントは分かりませんが、所々でチームが1つになるきっかけが、いくつかあったと思います。 ◆意味を持って考えて準備をする —— 南アフリカ戦では全てが良い方向に進んでいったと思いますが、試合中にどんどん乗っていく感覚がありましたか? 試合で確実に乗っていきますね。堀江(翔太/パナソニック)が「試合前までは不安があったけど、やっていくうちに行ける、行ける、絶対に行けると確信していった」と言っていましたが、みんなが「行ける、行ける、絶対に取り返せる」と思っていたと思います。 —— 正直なところ、あの試合に関しては、どこが良かったと思いますか? よく我慢したと思いますよ。全てが上手くいったので、どれか1つとは言えませんが、再三攻められてもゴール前でブロードハースト(マイケル/リコー)がターンオーバーしたところとか、あの試合ではピンチの場面で相手がミスをしたり、ターンオーバーしたりしていたので、スコアチャンスをかなり削ることが出来たことが大きかったと思います。継続されていればトライを取られていたかもしれないというシチュエーションが何度もあったと思います。 —— 多くの経験を積んだと思いますが、今後にも活かせますよね 今回のワールドカップでの成果がスタンダードになるので、日本のラグビーにとってはかなりハードルが上がることになるとは思いますが、「代表になること、ジャージを着ることのプライドを取り戻せた」とエディーも言っていて、そこが一番のポイントだと思うので、これから日本代表を背負う選手にはハードワークをしてもらい、強い日本代表を継続していってもらえると嬉しいですね。 —— 2019年の日本開催のワールドカップで、今回のような成績を残せる保証はありませんし、他の国の日本代表を見る目も変わったと思います。周りからのプレッシャーが更に厳しくなっていく中で、今回の経験を踏まえ、何を大切にしていけば良いと思いますか? まずは3年間で良い準備をするということだと思います。色々なところで話をしているんですが、ワールドカップで勝つことが全てであって、PNCで優勝したりテストマッチでどこかの強豪国に勝つことが目標ではなく、ワールドカップで結果を出す、ワールドカップで目標を達成することが大目標になるんです。その目標を達成するために、それ以外にとらわれないようにすることが大切だと思います。 極論を言えば、ワールドカップで全勝するために、その他の試合で全敗しても良いと思っています。アジアで負けても良いと思いますし、全敗しても良いから、自分たちが何をすべきで、何を準備していくべきかをしっかりと把握をして、取り組んでいかなければいけないと思います。ただやみくもにハードワークをすれば良いわけではありませんし、前のエディー・ジャパンがたくさん走っていたから今度も走るということではなくて、全てに意味を持って、考えて準備をすることがとても大事だと思います。 —— それは大変ですよね 大変だと思いますよ。そのためには、プログラムして選手に落とし込めるコーチが求められると思うので、次のコーチが誰になるかは分かりませんが、そういうコーチが必要になると思います。 —— 選手から選手に伝えることは何かありますか? 言葉でも色々あると思いますが、やっぱり選手にはプレーでしょうね。エディーも「リーダーは体を張れ」と言っていましたが、選手に対しては、体を張ったりプレーで見せることが一番のメッセージになると思います。代表選手がどれくらいのものなのかということを、トップリーグからでも示せると思うので、そういうところでメッセージとして伝えていければと思っています。 ◆良いラグビーをする —— 日本に帰国した時には、羽田空港には500人、府中では4000人の人が集まりました。トップリーグのチケット販売も好調で、トップリーグに向けた気合いのほどはどうですか? もちろん良い試合をしたいという気持ちもありますし、ファンの方に喜んでもらいたいという気持ちもありますが、やっぱり良いラグビーをするということがファンを増やすひとつの要因だと思います。あとどれだけ普及活動をやっても、結局はワールドカップで南アフリカに勝つというインパクトには勝てないわけなので、結果を出すということもとても大事だと思います。そのためには、まずは各選手、各チームがトップリーグで良いラグビーをして、「ラグビーって面白いな」と思う人をどんどん広げていければと思っています。 —— 良いラグビーとは、どういうラグビーだと思いますか? ラグビーの本質である激しさの部分が分かりやすく伝わるようなラグビーですね。チームでそれぞれのスタイルがあるので一概には言えませんが、つまらない反則で試合のテンポが崩れてしまうよりは、ボールを素早く展開したり、体と体が衝突する音であったり、そういう部分がラグビーの醍醐味だと思うので、フィジカルの部分で切磋琢磨していければ、良いラグビーを見せられるんじゃないかと思っています。 —— 日本代表選手が各所属チームに戻り、そういう意気込みで取り組めば、トップリーグが面白くなりますね 相当面白くなると思いますし、日本代表が凄いわけではなくて、エディーがやりたいラグビーに当てはめて選手を選んでいただけなので、個人的な能力だけで見ればもっともっと凄い選手がいますし、若くて勢いのある選手やベテランで技巧派の選手もいて、魅力的な選手がたくさんいるので、そういう選手を知るきっかけにもなると思っています。そういう部分の入り口としては成功しているんじゃないかと思います —— 日本代表キャップが72となりましたが、今後さらにキャップ数を増やして、2019年のワールドカップを目指す気持ちはありますか? プレーヤーである以上、トップカテゴリーを目指すということは自然な感情だと思うので、現役を続ける限りはトップカテゴリーに絡める選手でありたいと思っていますし、キャップ数についてはそこまで気にしていませんが、ワールドカップという素晴らしい大会にもう一度出場したいという気持ちがあります。
ただ、若くて良い選手がたくさんいますし、どういう形になるかは分かりませんが、4年後も携われたら良いなと思っています。 —— ベスト8に進む可能性についてはどう思いますか? グループリーグ次第だと思います。今回のイングランド大会のように、日本代表が南アフリカ戦でラグビーの素晴らしさや面白さ、感動を伝えられたんだとすれば、イングランドの1次リーグ敗退というのもラグビーの現実であり、厳しさを表していると思います。開催国でホームアドバンテージがあったとしても、1次リーグを突破できる保証がないというのが、ラグビーの残酷さのひとつでもあると思います。 その残酷さを日本のファンはまだ知らないので、そうならないように選手だけではなく、ラグビー協会やラグビー関係者全員が考えて取り組んでいかなければいけない問題だと思います。みんなで取り組めば、決して達成できない目標ではないと思っています。 ◆楽しいラグビー —— 昨シーズンのトップリーグでは、初めてベストフィフティーンに選ばれませんでしたね 悔しかったんですが、チームの調子があまり良くありませんでしたし、個人としてもあまり良いパフォーマンスを出せていなかったと思うので、仕方ないと思っています。 —— 今シーズン目指すところは? 楽しくラグビー出来れば(笑)。僕の中での楽しさというのは、勝利でしかもたらされないですし、敗北して楽しいラグビーなんてありえません。だから、楽しいラグビーが出来れば嬉しいですね。 —— MVPは目指しますか? MVPについては、もらうべく人がもらう賞だと思っていますし、選手はMVPを取ろうとしてやっているわけではないですからね。MVPは周りが認めて初めて取れる賞であって、取ろうとしてやっている人ほど取れない賞だと思います。優勝することが第一条件だと思いますし、楽しいラグビーを目指してやっていきたいと思います。 —— サンゴリアスに戻ってきてまだ日が浅いですが、楽しいラグビーは出来そうですか? 楽しい思いをするためには、もうちょっと苦しい思いをしなければいけないと思います。ワールドカップという1ヶ月弱の短い期間であれだけ素晴らしい経験が出来たというのは、そのためにノイローゼになるような苦しい練習をしてきた結果が集約されていたと思っています。 —— 今後はどんなプレーヤーになりたいですか? 高い水準で安定したプレーヤーでいたいですね。今年で30歳ですが、年齢が上がっていっても、良い時のパフォーマンスを波がなく発揮できるような選手になりたいと思っています。 —— 現時点では、まだ波があると思っていますか? 波があるとは思っていませんが、年齢とともに落ちてくる部分もあると思うので、そうなった時にどう維持するかという術を学ばなければいけないと思います。あとは、しっかりとトップカテゴリーに絡める選手でいたいですね。 —— ボールを持って走るプレーも目立ちますが、そういうプレーも引き続き安定してやっていきたいですか? ボールを持ってプレーしている時が一番好きなので、そういうプレーをもっと増やしていきたいですね。
(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]