SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2015年9月23日

#448 ピーター ヒューワット 『自分が信じられるかどうか』

サンゴリアスの現役選手として3年プレーし、コーチに転向してから3年目のシーズンを迎えたピーター・ヒューワットコーチ。バックスコーチとして目指しているものは何でしょうか。今シーズンのサンゴリアスについて訊きました。(取材日:2015年8月18日)

◆タフな仕事

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—— 選手時代からコーチが合っているのではと感じていましたが、2013-2014シーズンから実際にコーチになってみてどうですか?

大好きです。自分でもコーチは合っていると思います。ほぼ毎日選手と接していて、その選手がどんどん成長していく姿を見られるところが一番嬉しいことです。若い選手がチームの中にたくさんいるので、大きい成長じゃなく小さい成長でも嬉しいことです。

—— 選手よりもコーチの方が大変ですか?

選手の時は、自分の準備に対してしっかりと取り組むことに集中していましたが、コーチとしては全ての選手をしっかりと見ていかなければいけませんし、彼らのプログラムを常に考えていなければいけません。そして、それぞれの選手のどこを成長させていかなければいけないのかを理解していなければいけません。タフな仕事であると同時に、とてもやりがいのある仕事だと思っています。

—— チームには外国人コーチが3人いて、その中でヒューワットコーチは選手時代からチームにいるので、在籍期間は一番長いことになります。そういう部分で他の外国人コーチに伝えていることなどはありますか?

誰もが今までやってきたシステムとサントリーのシステムが違うということを感じると思います。サントリーには独特のスタイルがありますし、他のチームでサントリーと同じことをやっているチームは無いと思います。

そこで大事なことは、全員がサントリーのスタイルや文化なども含め、サントリーとはどういうチームなのかを理解することです。そこを伝えていくことも、自分の役割だと思っています。

彼らも多くの経験を積んできていて、彼らの考えもあると思います。そこに自分の知識や日本人コーチである山岡さん(FWアシスタントコーチ)の知識をプラスしていき、彼らのスタイルと混ぜ合わせながらやっていければ良いと思っています。

◆準備が出来ている選手は分かる

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—— コーチの難しいところはどこですか?

最初の頃は、全てが上手くいくと思っていましたが、多くの我慢が必要だと感じました。今年でコーチは3年目となりますが、すぐに結果は出ないので時間を掛けてやらなければいけないということは理解しているつもりです。

特に若い選手を育てていくということに関しては、多くの情報を一気に渡しても上手くいかないので、少しずつ情報を与えていくことを考えています。そこが難しいところでもありました。最初は一回で結果が出るような量の情報を与えてしまっていたと思います。

もし僕が選手の立場であれば、自分なりに直せるところは直して取り組んでいたと思いますが、コーチとしては全員が理解した上で取り組んでいけるようにしなければいけないので、そこが難しいですね。

—— 選手が成長する時とはどういう時ですか?

昨シーズンで言えば、亮土(中村)は1stステージでは試合メンバーには入れませんでしたが、早めの段階から試合メンバーに入れることで良い結果に繋がりました。ヅル(中靍)もそうでしたし、一昨年のシーズンでは塚本がそうでした。練習の時から目を光らせて見ていると、準備が出来ている選手は分かります。

今シーズンに関しては、江見や圭輔(阪本)は成長してきていて、良い準備が出来ていると思います。成長するきっかけを掴むまでに時間がかかる選手もいますし、18歳や19歳くらいで一気に成長する選手もいます。僕も26歳くらいまではスーパーラグビーに出られず、凄く時間がかかりました。

選手にとっては、成長していく過程で自分の中に信じられるものをしっかりと持つことが重要だと思います。自分がトップリーグでプレー出来る選手なのかということを信じられるかどうかだと思います。そこがはっきりと見えた時に、大きく成長出来ると思います。

—— 選手にもそういう話はするんですか?

もちろん話しています。ただ、毎日伝えることは出来るんですが、選手が自分で気づいて、練習から自信を持ってプレーしていくことが大事なんです。「やれるんだ」ということを自分で気づいていかなければいけません。

今は代表選手が10人くらいチームから離れているので、そこで多くの若い選手が試合に出られるということは良い成長に繋がっていくと思います。

◆ファイティングスピリッツと文化

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—— 昨シーズンはなかなかサンゴリアスのアタッキング・ラグビーが出来なかったと思いますが、その原因は何だと思いますか?

一番大きな原因は、全員が同じ絵を見られていなかったということです。それと同時に、新しいことを取り入れようとしていて、それを早い段階でやり過ぎてしまったかもしれません。チームにとっては良い経験になったと思いますし、良い影響を与えた部分もあったと思います。

今までのサントリーのスタイルに新しいものを加えようとした時に、何をどのタイミングで、どれだけ入れるのかが重要で、バランスを取りながらやらなければいけないんです。それだけが原因ではありませんが、今シーズンは良い方向に進んでいると思います。全員が同じゴールに向かって取り組んでいますし、それをどうやって成し遂げるかというという部分でも、全員が同じ絵を見ることが出来ていると思います。

—— 今シーズンのコーチングのポイントは?

トライを取ることです。そのためには、バックスの若手選手を育成していくことです。スキルを教えることも大切なことで、ベーシックなスキルをしっかりと身につけさせることが重要です。

ラグビーは本当にシンプルです。どのチームも基本的なスキルは持っていると思うので、若い選手にはファイティングスピリッツと文化をしっかりと教えて、やること全てがファイティングスピリッツをもとに取り組み、そこにスキルをプラスすることが出来れば、良い環境が出来上がってくると思います。

スキルがあればいくつかの試合には勝つことが出来るかもしれませんが、ファイティングスピリッツが無ければ大きな試合では勝つことが出来ません。相手から激しいプレッシャーを受けている時にこそファイトして、戦っていかなければいけません。チームのために自分がどこまで出来るのか、どういう状況でも戦っていくという気持ちが大切なんです。

—— ベテラン選手に比べて、若手選手は少し大人しい印象を受けます

今の若い選手の世代は、サントリーの選手問わず、少し大人しいかもしれませんが、そこは変えようとしていて、少しずつですが変わってきています。自分のパフォーマンスに自信を持てるようになれば、そこは変わっていくと信じています。

アウトサイドバックスの選手に大人しい選手が多かったんですが、塚本やヅル、江見もたくさん声が出るようになっていますし、重要なポジションでプレーする圭輔もコミュニケーションスキルが上がっています。アシ(芦田)はこれまで経験を積んできていますが、今年は更にリーダーシップを発揮していて、試合でのパフォーマンスもどんどん良くなっています。

◆選手たち自身で出来るように

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—— 日本でコーチ人生をスタートさせ今に至るわけですが、日本でコーチをすることは合っていると思いますか?

合っていると思います。それは日本の文化を知っていますし、日本人の勤勉さを尊重しています。その部分は、僕が選手時代に勉強させてもらった部分でもあります。

—— 日本以外でもコーチをしていきたいという思いはありますか?

いつかは分かりませんが、将来的にはやってみたいと思っています。日本人選手は、高校時代や大学時代からある程度のスキルは身につけていると思いますが、ゲームの理解力やゲームセンスの部分がなかなか身についていないと感じています。

その部分は日本人選手の伸びしろの部分だと思いますが、教えることが難しくて、身につくまでに時間がかかる部分でもあります。僕自身、日本人選手に足りない部分を理解してきたので、その部分を成長させるために伝えられることは全て伝えて、選手たち自身で出来るようになることを望んでいます。

—— 家族は日本にいるんですか?

奥さんと子供2人の4人で暮らしています。子供は2人とも男の子で、3歳と10ヶ月になりました。3歳の子供は日本語を話すようになってきましたよ。子供が話している日本語を、僕と奥さんが分からなかったりすることもあります(笑)。

—— 子供にラグビーをやらせたいですか?

このまま成長していけばラグビーをやると思いますが、どうなるかは分かりません。彼が幸せであれば、どんなスポーツをやろうが良いと思います。

◆速いラグビーでトライを取る

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—— コーチとしての今シーズンの目標は?

もちろんアグレッシブ・アタッキング・ラグビーが根底になければいけません。マーク(ベークウェル・FWコーチ)がフォワードのセットピースに対してプラスしている部分もありますし、それはスクラムやラインアウトに良い影響を与えていると思います。それがバックスにとっても助かっていますし、僕としてはスキルのある速いチームを作っていきたいと思っています。

速いアタッキング・チームは作っていけると思っていますが、そこにファイティングスピリッツがないといけませんし、ファイトする気持ちをしっかりと出せるチームが良いチームだと思います。

容赦せずにアタックし続けて、自分たちのスタイルを貫ければ、たくさんトライを取れると思います。サントリーには足の速い選手がたくさんいますし、フィジカルが強い選手がたくさんいるので、良いイメージとしては、フォワードがパックになって仕事をしてくれて、バックスがグラウンド内を走り回って、速いラグビーでトライを取ることです。

それが、僕が教わったサントリーのラグビーです。そして自分たちのラグビーを成長させていくために、新しいエッセンスをプラスしていくことも必要です。

世界で成功しているどのチームも、一度下がる時期があるんですが、そこからベースをキープしたまま新しいものをプラスしていき、良いチームを作っているんです。それはサントリーも同じで、アグレッシブ・アタッキング・ラグビーは変えてはいけないもので、そこに新しいエッセンスをプラスしていくんです。

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(通訳:吉水奈翁/インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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