SPIRITS of SUNGOLIATH

スピリッツオブサンゴリアス

ロングインタビュー

2015年9月16日

#447 宮本 啓希 『そのジンクスを僕が破ります』

サントリーサンゴリアス選手会、第8代会長。今年からその重責を担う宮本啓希選手は、どんな形のリーダーシップを発揮して、どんな成果に繋げていこうとしているのでしょうか。熱い思いを聞きました。(取材日:2015年8月28日)

◆アプローチを増やしていきたい

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—— 今シーズンは選手会長となりましたが、予感はしていましたか?

昨シーズンは太一さん(田原)がやられていましたが、僕はロッカーリーダーなどをやらせてもらっていましたし、若い選手も増えてきているので、僕よりも少し若いメンバーの誰かが次の選手会長になるのかなと思っていました。

これまでずっとベテランの方がやられてきていたので、その流れで考えると、そろそろ僕たちの年代の選手が任されてもおかしくはないんですが、もう少し若いメンバーに任せて、ロッカーリーダーをやってきた僕などが、そのサポートで入ってもいいのかなとは思っていましたね。

—— 実際に選手会長になってみてどうですか?

昨シーズンは選手会の中で『考動』をテーマに活動しようということで、これまで選手会長が決めたことをみんなで行っていたのを、みんなで考えて行動する形にガラッと変えてみたんです。そして昨シーズンが終わって反省会をした時に、新しい形で動こうとしていた割にはアプローチが少なかったと思いました。

その反省を踏まえ、アプローチを増やしていきたいという思いで選手会長になりましたが、色々な考えを持った選手がいますし、僕も少し気を遣いすぎていた部分もあり、最初は面食らった感じになりました(笑)。

—— アプローチとは具体的にどういうことですか?

昨シーズンは、リーダーが話し合ったことを他の選手たちにフィードバックする場が少なかったと思いますし、目的がはっきりしないまま行動することが多かったと思います。そのため、その辺りをクリアにしてから選手たちには伝えたいという思いがありました。

今シーズンからは全体ミーティングの前に5分間だけ選手会で時間を取らせてもらい、選手ミーティングをするようにしています。最初は毎週やっていたんですが、ただミーティングをやるだけになってしまう場合もあるので、その時に選手全員に伝えたいことがある時のみに行うようにして、みんなが納得して行えるような形にしていっています。

—— そのミーティングは、今はどのくらいのペースで行っているんですか?

基本的には月2回~3回のペースです。リーダーで話し合った内容は全てそのミーティングで話すようにしています。

◆何のためにやっているか

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—— 選手会の行動もラグビーに繋がっていなければいけませんよね

全てがラグビーに繋がっていかなければいけないと思います。例えば、ディフェンスをする時に、空いているスペースを埋めなければいけないのに、自分のことだけ考えて動いていたのでは、そのスペースは埋められないと思います。そのためには周りを見て、自分がやらなければいけないことを考えて行動することが必要になると思います。それは私生活でも必要なことですし、普段の生活が直接グラウンドにリンクしていなければ、僕ら選手会の行動は意味のないことになってしまいます。

—— 今シーズンは具体的にどういう活動をしていますか?

まずは当たり前のことをしっかりとやろうという考えがあります。例えば、今年から始めたことではなく、ずっとやっていることなんですが、自分が飲んでいるペットボトルに名前を書くということも、そのひとつです。ウエイトルームで自分が飲んでいるペットボトルを置き忘れることは、トレーニングで自分を追い込んでいるので、どうしてもあると思います。けれど、そのペットボトルに自分の名前やロッカーナンバーを書いておけば、気づいた人がその人のロッカーに戻すことが出来ますよね。

ずっと何年も言ってきていて、言った直後はやるんですが、時間が経つと忘れてしまったり、停滞する時期があるんです。今年も最初から言い続けてきて、最近はその個人の部分の意識が上がってきていると感じるようになりました。

—— 選手会長をやっていて大変なことはどこですか?

伝えたいことがあって、その伝え方には気を付けています。こちらが一方的に言った場合、言いたいことは伝わると思いますが、その言い方で反発する人も出てくると思います。言われた側が納得しなければ意味がないので、そのバランスが難しいと感じています。

あと今年は、僕のサポートをしてくれるリーダーを立てるようにしました。シニアメンバーからのアドバイスで「1人でやろうとしても無理がある」と言われたので、最終的なポジションに僕がいるようにして、各パートでリーダーを立てて、選手をまとめていく方法を考えています。

選手のコンディションを保つために、スタッフは色々なアプローチをしてくれています。それに応える部分もないといけないですし、それを踏まえた上で選手の考えも伝えなければいけないと、お互いがギブアンドテイクの関係にはならないと思うので、それが出来るように各パートでリーダーを立てるようにしています。

—— 選手会の活動が上手く出来ていると、ラグビーの成績にも表れてきますか?

他のチームでも選手会があると思いますが、サントリーに関しては、それまでも選手会はありましたが、僕が2年目(2010-2011シーズン)の時に、改めて力を入れて取り組んだんです。その時は全ての取り組みが新しくて、みんなも新鮮に受け取っていましたし、いま振り返ると、取り組めば取り組んだだけ色々なところに良い影響があったと思います。

選手会の活動を続けている中で、継続すべきことは続けていかなければいけないと思うんですが、それがマンネリ化してしまい、何のためにやっているのかが見えにくくなってしまうこともありました。

何のためにやっているかと言えば、ラグビーで勝つことに繋げるためにやっているんですよ。いつも隆道さん(佐々木)には、「そこはブレたらアカンで」と言ってもらっていて、言われる度にいつもそこを意識するようにしています。

◆指摘されたことで楽になった

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—— 選手へ伝える時に気を付けていることはありますか?

選手会長になってすぐに面食らった時に、「どうやったら伝わるのか」と悩みましたし、自分で自分にイライラしているのも感じていましたし、ミーティングの時もみんなの顔色を気にするようになっていたと思います。ミーティングなので、最終的には話をまとめなきゃいけないという思いが強くあり過ぎてしまい、自分で話をしながら途中で何を言っているのかが分からなくなる時もありました。

みんなが目を見てちゃんと話を聞いてくれているのを感じていたんですが、そこで自分が話している内容が「これで大丈夫か」と考えてしまうこともありましたし、気を遣いすぎて話すこともありました。

けれど、自分がそう感じていたということは、やはり周りにも伝わってしまうんですよね。剛さん(有賀)にも隆道さんにも、そしてキヨさん(田中澄憲チームディレクター)にも、そのことを指摘されました。ただ、指摘されたことで、逆に自分の中でフッと楽になったんですよ。

—— これまで選手会長をやると引退するというジンクスがありますが、意識していますか?

これまでそのことを考えて選手会長になった方はいないと思いますし、ここは「そのジンクスを僕が破ります」と言わなければいけないところですよね(笑)。選手会長という大役を任してもらうようになって、まだ悩むこともありますが、徐々に分かってきた部分もあります。もし来シーズンも選手として続けることが出来れば、もっと違うことも出来るんじゃないかなという思いがあります。それを考えると、そのジンクスは破らなければいけないと思いますね。

—— 選手会長をやっていることで、ラグビーに良い影響が出ている部分はありますか?

今年で7年目になるんですが、僕の一番の強みはコミュニケーションの部分だと思っています。それは目には見えない部分ですが、そこがサントリーのラグビーで大事な部分だと思うんです。その強みはこれからも出していかなければいけないと思いますし、選手会長をやっていると、更に色々なことが気になってくるんです。だから、グラウンドで色々な部分を見るようになっていると思います。

—— これまでも視野が狭かったわけではないと思いますが、更に視野が広がったということですか?

自分で自分のことを視野が広いとは言わないですけど、更に考えて動くようになったと思います。例えば、次はどこでボールをもらうべきとか、ここにフォワードが何人いるから、あそこには何人行かせた方がいいとか、そういうことを更に考えるようになりました。

◆手応えしかない

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—— サンゴリアスは若い選手が増えてきていて、若手選手のコミュニケーションについてはどう感じていますか?

バックスで言えば、若い選手で良いランナーがたくさんいて、ボールを持ったら凄く良いプレーをするんですよ。そこまでに行く過程をどう上手く作れるかだと思います。その部分を春から取り組んできていて、上手くいかないこともありましたが、最近は練習中から具体的なコールが出てきているので、凄くやりやすくなっています。

春からやってきたことが形になってきていると思いますし、実際にそういう時は良い形でゲインが出来たり、トライに繋がったりしているので、若い選手も「こういう声を出せばボールが回ってくるのか」とか「こういう形でもらえば、こんなに強いランが出来るのか」というのが分かってきていて、より具体的なコールが出せるようになってきているんだと思います。

—— ディフェンスについてはどうですか?

ディフェンスも良い時はチームでしっかりラインが揃って前に出られているんですが、まだ波があると思います。フォワードはボールの近いところを見て仕事をするわけなので、バックスはよりスペースを見て、どこを埋めなければいけないとか、誰を見なければいけないというところが重要になります。そこを外側の選手はフォワードや内側の選手にどう伝えるかを、より考えなければいけないと思います。

ディフェンスもアタックと一緒で、この場面でどういう声を出すかということが常に出来れば、次のレベルに行けると思います。そこも取り組んでいるところなので、形になってくると必然的にチーム力は上がると思います。

—— 手応えはありますか?

みんな手応えしかないと思っています。若い選手はどんどん成長していますし、それを自分自身でも感じていると思います。

—— グラウンド以外でそういう話をしたりするんですか?

ご飯を食べながら話したりもします。あと、例えば、一緒に話している選手がその日の練習でミスをしたとしたら、やっぱりその選手は悔しい思いを持っていますし、表情にも出ているので分かるんですよ。その時に、その選手のメンタル的なことを言っても、その選手もそのことは分かっているんですよ。だから、「あの時はあぁした方が良かったんじゃない?」とか具体的なプレーの話をしたりします。

サントリーは勝たなければいけないチームなので、これからまだまだ成長していかなければいけないところはたくさんあると思います。僕が若手だった頃と比べても、今の若手選手はまじめで真剣に考えていると思うので、これからが楽しみですよ。

◆一番は試合に出ること

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—— 今シーズンの個人的な目標は?

まずはファーストジャージを着てプレーすることです。試合に出てプレーしなければいけないと思います。昨シーズンは、1stステージは出ましたが、2ndステージでは1試合くらいしか出場できなかったので、今シーズンは最初からアクセルを踏んで、グラウンドに立っていなければいけないと思っています。

毎年そういう考えはありますが、思い方はそのシーズン毎で違うと思います。アンディー(フレンド・ヘッドコーチ)にも「選手会長をやっていることも大事だけど、一番は試合に出ることだ」と言われていて、僕も同じ考えでいます。選手会長をやっているから試合に出られなくなるというのは言い訳だと思いますし、それは僕自身も嫌なので、試合に出なければいけないと思います。

—— 個人的に良くなっているところはどこですか?

調子も良いですし、スピードトレーニングをやっているので、ボールを持って相手のディフェンスラインの裏に抜けるまでの動きがよりスムーズになったと思います。あとは、自分の強みだと思っているコミュニケーションと、相手のディフェンスを見てどこにボールを運ぶかという判断をより早くすることで、その良くなっている部分が活きてくると思います。

—— プレシーズン、レギュラーシーズン、日本選手権と続いていく中で、シーズンが終わった時にどうなっていれば嬉しいと思いますか?

やっぱり最初から最後まで試合に出ていたら嬉しいですね。そして、最後に勝ってシーズンを終えることです。

—— それを果たす感触はありますか?

網走合宿での神戸製鋼戦の出来が物凄く悪くて、得点も0点でしたが、考えてプレーするという部分でも0点でした。サントリーはアタッキングチームですが、あの試合は攻めてもターンオーバーされてトライを取られたりしていて、その状況を打開しようとして僕も焦って無理なプレーをして、更にターンオーバーされてしまっていたので、考えてラグビーすることが出来ていなかったと思います。

その点は試合後のミーティングでも言われましたし、考えてラグビーをするということを欠かしてはいけないと再認識した試合でした。その後の練習でも試合でも、そこをより考えてプレーするようになりましたし、そのスタンダードが下振れせずに高い位置をキープし続けられるようになっていかなければいけないと思います。

—— 過去のチームと比べて、チームの仕上がり状況はどうですか?

今までやってきたことに加えて新しいことにも取り組んでいますが、それが実際に形になっていたり、結果としても現れてきていて、選手としても手応えを感じているので、チームとしては上向きだと思います。

—— 選手会長をやることで、新たな喜びはありますか?

若い選手をリーダーにしているんですが、話していく毎に口数が増えていったり、「凄いな」と感じることをポンっと言ってくれたりした時に、それがずっとやろうと話していることに繋がっていたりすることだったりすると嬉しいですね。

—— 選手会長は合っていると思いますか?

いやー、まだ必死にやっている感じなので、考えたことがないですね(笑)。必死にやっている中で結果を出せたら、次のシーズンに向けてプラスしかないと思います。 選手会長として取り組んでいることは、全ては勝つためにやっていることなので、勝たなければ意味がないんですよ。シーズンが終わった時に、あの試合のディフェンスが良かったとか、あのトライが良かったという話はしても、クラブハウスを綺麗にしていたから良かったという話にはならないじゃないですか(笑)。

シーズンの最後に勝って終わって、「良かったなー」って話になった時に、その話に繋がって選手会の活動の話が出てくるものだと思います。選手会の活動は勝つためにやっていることなので、勝たなければ全然意味がないんですよ。

—— 負けず嫌いですか?

負けず嫌いですね。勝っていた時も知っているので、いま勝てていないのは、余計に悔しいですね。選手みんながその思いを持っていると思います。

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(インタビュー&構成:針谷和昌/編集:五十嵐祐太郎)
[写真:長尾亜紀]

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